第336話:それぞれの時間
怒られながらも、多くの事を話した破軍達。
麗奈との契約や破軍の契約者であるハルヒとの出会いも含め、この世界での起きた様々な思い出。自分達が来た時よりも色鮮やかであり、嬉しそうに話す破軍達を見て優菜は聞き手に徹した。
彼女達の楽しそうな雰囲気を壊すのは申し訳ない、と麗奈達は少し距離を離れる。
すると由香里はザジに小声である事を話す。
「良いの。彼に話す気だったんでしょ?」
「アイツの前では言えない。それに、これは俺だけの問題じゃないしサスティスの奴にも言っておきたいし」
由香里もザジが死ぬ場面を見た。
最後の最後まで麗奈を思い、非力な猫はあっけなく散った。だが、それよりもザジは麗奈を泣かせたであろうサスクールへの恨みが凄まじかった。
自身よりも麗奈を優先し、何を犠牲にしてもサスクールは必ず殺す。
その強い信念と行動で実際にそれを成したザジ。そんな彼に相棒とも呼べる存在が居るのだと分かり、自分の事のように嬉しく思う。
「あ、やっと見付けた!!」
「なんだここに来れるのか、サスティス」
「ラフィに手伝って貰って来たんだ。けど、彼はそれで力を使い果たしたからって私だけをここに送り込んだって訳」
場所は分かっても、そこに辿り着くのにかなりの力を有した。
ラフィは1人を送るのが限界だと悟り、すぐにサスティスをここに転送した。創造主が作った特別な空間は、許した者以外の侵入を拒む。
そういう作りなのだと説明され、本当に特別な空間だったのかとザジは改めて思った。いつもは飄々としているが、こういう部分を聞かされると神様なのだと少し位は見直した。
「待って今更なの?」
「らしい事なんてしてなかったろ? 邪魔しかしてないし」
「うぐっ、それはそうだけど……」
何やらブツブツと文句を言うデューオを無視し、ザジはサスティスにある事を話す。最初に交わした約束とそれに伴ってザジのある願いも告げた。
麗奈に聞かせられないからと耳打ちすれば、段々と目を見開くサスティス。驚きで数秒止まり、ポンと頭を撫でた。
「良いよ、それで。君が悩んで考え抜いて、それで出した結論なら……。嬉しいな。最初はこっちの話を聞かなかったのに、信頼を寄せてくれて」
「付き合いは長いから、な」
目を逸らしつつも、耳が赤くなっているのが分かる。手を払いのけると思ったが、そうせずにザジは受け入れている。
そんな彼の成長に、由香里は嬉しそうに微笑む。
しかし段々と気恥ずかしくなっているのが分かり、払いのけようとする。だが、サスティスが嬉しそうにしているのを見てそれは止めておこうと考えされるままになった。
「あれ……払いのけると思ったんだけど。良いのこのままで」
「嫌ならとっくにやってる。もういい、好きにしろ」
「ふーん。性格変わったね、本当に」
ふん、とそっぽを向くザジにサスティスは黙って撫で続ける。
そのやりとりを見ていた由香里は、ふとサスティスに聞いてみたのだ。ランセ君と知り合いなのか、と。
「あー、えっと。何と言いますか、私も彼も同じでして」
「えっ!? じゃあ、ランセ君と同じ魔王なの」
「ま、まぁ……そうですね。と言っても、私もアイツも彼にその一部を返しているので”元魔王”って感じになりますが」
魔王としての力をギリムへと返している。
ランセの呪いを解除する力は、彼の能力の覚醒による特殊性ともいえる。魔王としての力の一部とは、意思の持たない異世界人である勇者を元の世界に返す力の事だ。
これはギリムから授かったとされ、彼の正体が創造主デューオの力によるものだとされている。そうだと知ったサスティスからすれば、反則的なあの強さはそれによるものだと分かる。
「わあ、そうなんだ。何だかランセ君と雰囲気が似ているから、もしかしたらって思ってたの」
「あはは。まぁ、アイツもなんだかんだと言いながら人間の事が好きですしね」
「えへへ、そういう君もでしょ?」
「えぇ、そうですね」
そう言いながら麗奈の事をチラリと見る。
彼女の方は、ユリウスを交えて彼の両親と交えて話しており、遠目から見て良好な関係を築けていると見える。
(人に懐かれるのは早かったし、人以外の種族とも仲良くなるのも早かったもんね。彼女)
恐らくそれは目の前に居る母親の雰囲気とも被るからだろうなぁと思っていると、笑顔で手を振ってくる。こういう所も、親子だなと思っているとそれを見ていたであろう麗奈からは微笑ましそうに見られてしまった。
ザジが麗奈や由香里に抗えない部分が、こういう所にあるのだと分かった瞬間だ。
「娘の事……頼んでも平気?」
「はい。ザジもそのつもりで動く気なのは、薄々気付いていました。だから私も、私なりに勝手に動きます」
娘の元気な姿を見れて、嬉しそうにした由香里はサスティスに問う。
ザジの覚悟は前々からだったのだろう。それが分かるのは今までの付き合いからも大きい。だからこそサスティスも覚悟を決める。
デューオに取り付ける約束と条件。
ザジの覚悟を自分も協力出来る部分も考える。そうなるとランセとの話は避けて通れない。今まで逃げて来たツケだと思い、サスティスは由香里に告げる。
「大事にしてきた娘さんの事は、私とザジで確実に守ります。これは魔王としてではなく、ただの一個人である私の誓いです」
「……。ホント、あの子いつの間にモテてるんだか」
「あ、結構人気者なのは知ってますよ?」
「ユリウス君にはこれから苦労かけるのね。何だか悪い気がしてきた」
「彼はその部分については諦めてると思いますから、こっちからフォローしていくつもりです」
笑顔でそう言い切るサスティスに、由香里は「本当にごめんね」と謝りながらも娘を託すのに相応しいと改めて思う。
一方で麗奈は、ユリウスの母親から貴族としての嗜みだけでなくしっかりと息子を管理して欲しいのだと説明されてしまう。困惑しつつも、ユリウスには助けて貰っている部分が大きいので口は挟まない。
それを楽し気に見ているデューオ。少し離れた所では、優菜が未だに黄龍達から怒られていたのだった。




