第335話:似た者同士の一族
麗奈のように精霊に好かれやすい人は一定数いる。だが、彼女のように今回の戦いで多くの大精霊達に協力をしてくれるような事はかなり稀。デューオは4大精霊が全て揃うのも、その契約者が同時に現れるのも偉業なのだとか。
「あぁ、確かに聞いた事はあったけど4大精霊が揃うのってほぼないのか」
「イフリートの炎がかなり強力だからね。だから弟のサラマンダーと引き離したんだ。近くに居ると、互いに力を高め合って被害が広がるからね」
(だからあんなに感謝してたのか)
ユリウスは、兄ヘルスだけでなくキールからも4大精霊の事は聞いていた。
魔法国家であるラーグルング国の王族しか入れない書庫にも、そのような事が書いてあったと思い出していく。
そして、麗奈はイフリートとサラマンダーからお礼を言われたのを思い出しそういう事情があったのだと理解していく。確かにイフリートの炎はかなり強力で、コントロールも難しいと本人から聞いていた。だが、ユリウスと再会する前まで麗奈はイフリートとサラマンダーに力の調整の仕方を教えていた。
サポートするようにノームが補足を付けつつ、麗奈自身の体験談も交えて力の調整をこなす。確かに最初はかなり苦労していたが、今ではコントロールする術を身に着けている。ヤクルとフーリエに戻しても、もう苦労する事はないと涙ながらに感謝された。
「サラマンダーはその強すぎる力を、術者の命を使ってコントロールしていたからね。精霊達の中で忌み嫌われていた部分もある。まぁ、それをちゃんとコントロールしようって行動を起こすのも凄いけど」
「ま、また余計な事をしましたか……?」
「いやいや、逆に感謝しているよ。お礼を言われたのに、それ余計だとは思わないって」
「それが麗奈だしな」
「確かに」
デューオからの感謝で、余計な事をしていないとホッとしつつユリウスとザジの言葉に少しだけモヤモヤとした気持ちになる。その様子を由香里は嬉しそうに見ており、自分も同じような事があったと言えば麗奈は「うっ」と唸るしかない。
「まぁ、それが親子だしね」
デューオにそう言われてしまい、自身の家系はそういうものなのだろうかとふと思った。そして気付く、母親である由香里が居るのなら麗奈はもう1人来ているのでは――と。
「あのっ、デューオ様」
「うん、分かってるよ。元々、この場を用意して欲しいというのも彼女からのお願いだったから」
麗奈の言いたい事は既に予想がついているのかデューオは落ち着いている。
そして、ふと気配を感じ隣を見れば「久しぶり」と声を掛けてくる優菜。再会出来た喜びで、麗奈は思わず優菜を抱きしめた。
「優菜さんっ、もう会えないのかと思って……。心配していたんです!!」
優菜と会うのは麗奈が魔王サスクールに捕まって以来。それも、自分と違い麗奈には多くの味方が居るのだと告げて以降は夢にも会えなくなった。だからこうしてまた会う事が出来て本当に嬉しい。一方でユリウスとザジは、優菜の容姿を見て驚いていた。
2人は麗奈からそれなりに聞いていた存在である優菜という人物。
朝霧家の開祖にして、初代当主でもある。そして、最初にこの異世界へとデューオにより呼ばれた人物でありこの世界の破滅まで追い込んだとされる。
その実態は、サスクールを優菜自身に封じ込めた時の余波によるもの。
死神であるサスクールが、実体をもって世界を壊そうとする際に止めようとした封印術式。巫女であり陰陽師としては封印の術に特化していた朝霧家は一時的な封印をする為に実行。
優菜はその時に、自身に起こる事を理解してしまった。
正しくは起こる未来を――見えてしまった、という方が正しい。
「私も由香里と同様に、全部見えちゃったの。……サスクールが倒れる場面は見た未来と同じだった。麗奈、そしてユリウス君にザジ君。本当にありがとう」
「……別に。家族を、守りたかっただけだし」
「話には聞いていたんだけど、麗奈と本当にそっくりなんだな」
「えへへ、どっちか分かるかな?」
(あ、テンションが全然違う)
優菜が麗奈との場所を入れ替わったりしているが、キョトンとしながら流れに任せる麗奈と違い優菜は終始楽しそうにしている。そのテンションの差で、ユリウスには一発で麗奈がどっちなのかがすぐに分かる。
ザジに至っては、ずっと麗奈しか見ていないので優菜の事は全くの無視だ。
とても分かりやすいと思い、クスリと笑ってしまった。
「もう~。麗奈、少しは合わせてよ」
「え、でも……」
チラッとザジの方を見る。
見られた方のザジは黙っていたが、空気的に嬉しそうにしているのが分かる。誰の目から見てもそれが分かるだけに、何をどうしても無理なのが分かる。
デューオにいたってはニヤニヤと楽し気にしているのが分かり、優菜はずっとむくれている。
「諦めろ。ザジは麗奈ちゃんの事が好きなんだから、何をどうしたって無理。原動力が目の前に居て、我慢しろってのがまず無理だから」
「それはそうだけど……少し位合わせてくれたって良いじゃない」
「無理」
「意地悪っ!!」
「無理なもんは無理」
即座に否定するザジに優菜は不機嫌になる。
ふと麗奈は優菜と自身の母親を見る。2人は自身が死ぬその直前に、未来を垣間見たという。自分が優菜と同じくもしくは、それ以上の力を持って生まれた先祖返りだと理解している。
もし――と思わずにはいられない。
「麗奈。謝るのは私の方。未来で倒されるのが分かっていても、後を任された貴方が辛い思いをさせてしまった。それに貴方にも、結局は選択を迫った結果になった。ごめんなさい」
麗奈の不安そうな表情から優菜はそう説明する。そして、由香里にも死を選ぶような真似をしてしまった事を謝る。
そっと麗奈は優菜の手を取る。
「サスクールを止める事が出来た。これはかなり大きい事だと思うんです。優菜さんが最初に行動を起こさなかったら、きっと犠牲者は多かっただろうし。まだ少ししかこの世界に居ないですけど、素敵な所だって分かってますから」
「そうね。魔法なんて私達の世界じゃ絶対にお目にかかれないし。未来が見えたとはいうけど、それをどうするかは結局は自分自身で決める事だもの。麗奈に寂しい思いをさせちゃった後悔もある。でも、その分ちゃんと大事な物は見極められてると思う。そうよね?」
そう言ってユリウスとザジへと視線を移す。
ハッとした2人は同時に麗奈の事を抱きしめ、大事にすると目で訴えている。恨まれていると思っていただけに、この反応は優菜を驚かせた。
だけど同時に思っていた。やはり自分の選択は間違っていなかった、と。自分の後を任せた幼馴染である2人に竜神の子供である青龍。そして、優菜を守りたいと思って行動を起こしてくれた分家の3人。
(あぁ、そうか。私もちゃんと仲間が……頼って良い彼等が居たんだもの。だから、怖くなかったんだ。例えここで私が死んでも、後を任せられるって思ってたから)
「優菜さん、破軍さん達を呼びます。さっきから呼び出せって言っているので……。あと、私も結構怒られてる事が多いんですけど多分、優菜さんも怒られるかと」
「……そうね。相談もなしに勝手にサスクールを自分の中に閉じ込めて、アシュプに止めを刺して貰って。別れの言葉なんて言えなかったし……。うん、良いよ。怒られる覚悟は出来た」
一瞬、優菜の顔が引きつった。
それは自分が思っていた後悔。自分だけで決めてしまった事、せめて青龍に相談していれば少しは違ったかも知れない。
日菜は止めるだろうけど、優菜がやると決めた事にはサポートしてくれた。もし、他にも手段があったのなら少しは違う未来が見えていたのかも知れない。
色んな事が出てくるが、やっぱり最後には仲間にきちんとしたお別れを言えないままだったのが何よりも後悔だった。
だから、麗奈と同じく自分も怒られる覚悟を持とう。そう思い、麗奈の式神達を呼び出す事をお願いした。
『優菜……』
『優菜、様……』
『ホント君って奴は』
日菜であり黄龍は呆れにも似た呟きに、白虎は嬉し涙を浮かべ青龍は黙ったまま。
そして、破軍である幸彦はいまにも泣きそうになっていた。朱雀、玄武も涙を浮かべていたが一瞬の内に全員の雰囲気が変わる。
『相談くらい、しろよ……。大馬鹿者っ!!』
「ふふっ、あはは……。あははっ」
涙を浮かべつつも、皆が思っていたもしくは考えていた最初に声を掛ける言葉。
怒られる覚悟をしていた優菜は、予想していたとばかりに大笑い。生前よりも皆の仲が良くなったのは、最終的な契約者が麗奈のお陰なのだろう。
1度は失い、次は必ず守ると決めていた黄龍達。
優菜を守る事が出来なかった自分達は、契約者になってくれた麗奈に感謝しながらも今度こそ失ってはいけないと常々思っていた。
しかしそれとこれは別の話。まずは相談もなしに実行に移した優菜を思い切り叱った。
それこそ生前ではいくらか壁や遠慮があったが、今の自分達は全員が死んでいる状態だ。それこそ本音のぶつかり合いにまで発展し、久々に大盛り上がりをした。
「皆、生前よりも遠慮がなくて……なんだか嬉しい」
『何が嬉しいだ。そうだ主。君はこうはならないでよ、そうなった元凶は今しっかりと怒っておくから』
『無茶するのはあんまり変わらないけど、れいちゃんにまでこうなって欲しくないなぁ』
黄龍は怒る方に熱が入り、破軍はしみじみと言いつつも麗奈とハルヒにはこうならないで欲しいと切に願った。
そこから、彼女達は久しぶりに多くの事が話した。
これまでの事。優菜はデューオに保護して貰った諸々も含めてそれは楽しい時間を過ごすのだった。




