第334話:与える加護
過去の優菜の件からデューオは、異世界人に加護を与えようと考えた。
優菜達が例外に近かっただけで、本来ならなんの力も持たない者が多い。彼女達のような異能を扱う者達も居るだろうが、デューオの作り出した世界同様に数は少ない。
近い将来として彼は、誰にでも魔力の適性を持てるようにしようとしていた。
ラーグルング国という名と、そこに自身が創造した大精霊アシュプが守護してからの変化が起きた。
「あの国の周辺の土地や自然が多く溢れるようになったんだ。ま、アシュプが最初に生まれた精霊ってのもあるだろうけど」
(そう言えば、ウォームさん自然も好きだから気を緩むと緑にしちゃうって前に言ってたな)
創造主から与えられた加護だからか、アシュプとブルームは大精霊であり力も強力だ。その力を見たデューオはしばらくの間、観察を続けた。土地周辺の魔力濃度が濃くなり、住む人々にもそれ相応の魔力に適した環境へと整えていく。
そして、何年が経てば強力な魔法を扱えるのに体が苦にならない。数人で発動するような魔法も、1人で行える位の力もつき魔法国家と周知される。その力の流れを見たからこそ、デューオは大国に大精霊を守護とした方法で周辺諸国にも影響を与えようと考えた。
その方法として考えたのが精剣。
大精霊の力を宿した武器であり、同時にその力を宿した大精霊はその国の守護に就く。その例が騎士国家のダリューセク、神霊の国ニチリ。大国にその守護を任せる事で、自然と周辺諸国へと影響を広げていく。大精霊になるのも、精剣として宿すように促すのもデューオの役目なので、精霊達には理解されにくい。
フェンリルから精剣は人間の犠牲になっている、などと他の精霊達に言われた事があると聞いた事があった麗奈は任命が創造主からされたのなら、確かになぁと納得。
「その……デューオ様からの指名で、大精霊になって精剣にって頼まれるのもかなり稀なのでしょうけど、他の精霊達にそう説明をしないのは混乱を生まない為ですか?」
「そうなんだけどね。まぁ、精霊達からすれば私は神様だから存在はしたとしても実際に会ってないから信用しろっていうのも難しいからさ」
「そう、ですよね」
麗奈も未だに実感はない。が、事実として創造主デューオは彼女達と言葉を交わしている上に治療もしていた。その事実にひしひしと神様と話をしているのだと実感がわいてくる。
「それじゃあ、大国に異世界人を送るように設定したりしてるのも生き延びやすくする為……か」
「こちらの都合で呼んでいる訳だから、最低限の事はしないと。呼ばれた者が、元の世界へと帰りたいと願うのなら私はちゃんと帰したさ」
「えっ、帰せるの⁉ キールがやった異界送りじゃなくても良いのかっ」
そう返したのはユリウスだ。
彼はヘルスがキールを使って異世界人を呼んだのを知っている。だからこそ、ヘルスは由香里をこの世界に呼んだ時に必ず帰すと約束をした。
その手段を持っているのは、ラーグルング国だけかと思ったがデューオがその手段を持っていないのもおかしな話になる。冷静になれば分かる事だが、驚いて思わずそう返してしまった。
「言っておくけど、この世界に呼ぶのだって色々と条件を付けてるんだよ?」
「条件、ですか」
「まさか無差別に呼んでいると思われた?」
「え、あ……はい。すみません」
麗奈は思わず謝ったが、ユリウスも条件があるとは思わず同じく無差別に呼んでいるものだと思っていた。そんな2人の反応を見て、デューオはユリウスの両親へと目を向けた。2人共、条件付きだとは知らずにいたと告げる。
そうした記録があったとしても、詳細までは書かれていないか、既に読めなくなっていると言われれば仕方ないかとなり説明を続けた。
「まずは1つ目の条件として、住んでいる世界を嫌っている者。元の世界で充実している人を呼ぶのは後の処理を考えて面倒だしね。それとただ嫌っているだけじゃ足りない。ザジみたいに強い感情を持ってないと」
もう1つの条件として呼べる人数は最初から設定しているとの事。
その人数は、ランセの予想していた通りの7人。そこで麗奈は自分を含めたハルヒ達の状況を思い返す。
麗奈とゆきは、大蛇の討伐したその瞬間にアシュプがラーグルング国へと送った。
ハルヒは遠征終わりの時にニチリに着いたと聞く。そして、誠一達は九尾と清を助け出したその足で再び大蛇を討伐した場所へと行き――キールの近くへと呼んだ。
そして、咲は麗奈達よりも4年ほど早くこの世界に呼ばれ騎士国家ダリューセクで保護されていた。
咲のその時の事を聞くと、見えない何かに襲われるかもしれないとした時にデューオの声によって導かれた。
「……確かに7人居る、ね。お父さんの事は誰が呼んだんだろう」
「あ、それは私」
「「えっ」」
由香里の発言に思わず麗奈とユリウスは発言が被った。
デューオは思わず視線を逸らすも、ザジが睨み付けており「あー、それね」と軽く冷や汗をかいている。
「え、待って……。確かにお父さんから、お母さんに頼まれたって聞いてたけど、それもデューオ様が手伝ったと?」
「あ、うん。その時の状況も知ってたし、彼等も命の危機だったし……」
「サスクールの事も含めて、意外に現代って所も見れてたのか?」
「仕方ないでしょ。彼女がいつこっちに来るかは分からないし、見張る意味では必要な事だったんだから」
「賭けに勝ったから、誠一さん達を呼ぶように頼んだの」
「神様と賭けって……何をしたの一体」
「え、トランプだったかな」
ババ抜きをしてデューオは負けたのだと言い、それは賭けになるのかとユリウスは疑問に思った。麗奈は同時に、デューオは運があんまり良くないのだろうかと思い始めザジは憐れむように見る。
「はは、私ってそういう賭けに弱いんだよねぇ。代わりに異世界人には加護を授けてるから見逃してほしいね」
少し自虐が入った感じに拗ねるデューオに、麗奈は思わず謝った。異世界人が魔法の才に目覚めるのが早いのも、特殊な魔法が身に着くのも全てデューオのお陰なのだ。今思えば、ツヴァイやフェンリル達に出会えたのもその加護のお陰だろう。
納得している麗奈にデューオが「それは違うからね」と言われ、精霊に好かれやすいのは麗奈だからこそだと言われユリウスとザジは静かに納得した。




