第333話:サスクールの協力者
「はいはい。言いたい事はあらかた言い終えたんだ。こっちの話に戻しても良い?」
「すみません。つい熱が入りました」
「別に良いですよ。こちらが負担を強いたのも事実だから」
コホン、と息を整えお礼を言ったのはユリウスの母親だ。
一方で自身の恥ずかしい話や注意すべき事を散々に言われてしまったユリウスと父親は、すっかり疲れ果てる事になった。
「サスクールが死神だったのは知ってるよね。ザジが毛嫌いするように、彼を生み出したのは私だ。最初に殺気を向けてきたのは間違ってないよ」
「成程。ザジが理由もなしに嫌ったりしないから不思議に思ってたけど……そういう理由か」
「そうそう。初めて会ったのにいきなり殺気向けてきちゃってさ。驚いたけど、いきなり本質を見抜かれた感じ。本能的に察知されてたんだなぁって」
「その後も、デューオの事は嫌いだけどなっ」
態度が変わらないままだった、と言いながらも少し楽し気にしている。
そこで麗奈がある疑問を聞いてみた。何故、サスクールがでデューオに対して敵対するようになったのか、と。
「あぁ、それね。誰がどう吹き込んだのか、まだ調査中なんだけど……。これはいずれ君達にも引っかかってきそうだから先に言っておく。サスクールは、外部の協力者によって自分の顛末を知ったんだよ」
「……外部って一体」
「それはもちろん。私達と同じ創造主からだろう」
「へっ」
キョトンと返す麗奈に対しユリウスとザジの睨みが段々と鋭くなった。
デューオの話によれば、自分達と同じく創った世界を観察していたが突如として消え始めた世界が出て来た。
管理者である創造主が消えれば、創り出した世界も共に消える。
それは突然来た覆られない死。しかも、その世界に暮らしていた人達にすら感知されず、消滅していくのだと言う。
「前にユリウスに言った事は事実だよ。例え世界が滅ぼろうが、再生は出来るよ。私が生きていれば、ね」
「……。つまり他の創造主からの攻撃を受けている、って認識で良いのか」
ユリウスの質問にデューオは、無言で頷いた。
突然、自分の体が消えていく感覚は簡単には想像できない。しかし、いつもある日常が消えていくと言うのは嫌な気分になる。
しかも、何の抵抗も出来ないままだと聞かされれば尚更だ。
「たった1柱の行動とは限らないし、誰かと組んでいる可能性はある。それに、この状態は創造主同士の議題にもなっている」
「どの位の被害が出ているんですか」
「……創造主の数は多い。両手で数えられる位の数だけど、世界の規模や被害を考えるならかなりの数としか言えないね」
「そう、ですか……」
ショックを受ける麗奈に由香里は優しく頭を撫でる。
死者を労わる様にするように言ったのは母親である由香里自身。娘の麗奈が、自身が死んだ後でも言われた事を守り同時にその言葉に縛られていない事を確認した。
由香里が懸念していたのは、自分が死んだ事で麗奈が自分の言った事を守りながらもどこかで死のうと考えていないか、だった。
その傾向として、サスクールと共に道ずれにしようとした行動があげられた。
そうさせてしまった自身の行動に、今は少なからず後悔はある。だが、由香里はそれでも実行に移した。悲しませる結果になると分かりつつ、サスクールを討てる布石になる。
今、それを娘である麗奈が生きている事で実証している。
同時に麗奈の事を見守り続けてくれた夫の誠一、父親である武彦。そして、自分達を家族のように慕ってくれる裕二とゆき。彼等が居たのも大きいだろう。
「ふふっ」
「お母さん?」
「ううん。今、麗奈の周りにはいろんな人が居て楽しく過ごしているんだなぁっていうのが分かるから。ユリウス君も充実してるでしょ」
「充実っていうか……キールが居るから気が抜けられない、というか」
「キール君、変わらずに元気だもんね」
「元気過ぎてイーナスさんが疲れてる位には……かな」
想像が簡単に出来るからか由香里は終始ニコニコで聞いている。
前まではイーナスが1人で抑える形になっていたが、今は兄のヘルスも居るだろう。聞けばよく2人がキールを叱っているのが日常になっていたと聞き納得した。
「キールさんって……私と会う前とそんなに変わらない感じ?」
「変わってないと言うより、麗奈と会って前より酷くなったな」
「えっ、私の所為!?」
「別に麗奈の所為って訳じゃ……。俺も止めれる時には止めるし」
恐らく自分よりもイーナスと兄のヘルスの方がキールの扱いに慣れている。そこに魔王であるランセも加われば、そう簡単には問題を起こさない筈。と、思ったがそれでも問題を起こすのがキールだったなと思い直した。
「その話の流れからすると、サスクールに協力したのは同じ神って事だよな。しかも、何の目的で同じ神同士で戦争なんかするんだ」
「自分の方が力が上だと証明したいんじゃない? そういう欲求は人間だろうと神だろうと一定数は居るんだよ」
「その言い方だと、問題は解決してないんだよな。もしかして、俺等にその問題をどうにかしろって話じゃ」
「よく分かったね。もちろんその通りだよ、任せるしかないんだ」
「はあっ!?」
「サスクールとの戦いでも分かったと思うけど、創造主自体が作った世界に干渉するのにはかなりの時間と労力が必要なの。あれだって、こっちの準備があって奇跡が重なったんだ」
「……おいおい」
「その言い方だと、次はデューオ様が狙われてるって受け取りますけど」
「ん? 順番は関係ないよ。消せる所から消していくようだし。私達のグループは、他と違って連携がちゃんと出来てるから今は被害が他よりも少ないんだ」
「グループ?」
首を傾げる麗奈にデューオは話す。
デューオ、エレキを含めた創造主達の中には独断で動く者も居る。そして、今回の神殺しの感じから見て独断で動いた神の行動だろうと。エレキが嫌うのは、デューオが不真面目な態度でいる部分だけであり連携は取れているのだとか。
被害にあっているのは、同じく独断で動いた神達。一応、議題で上がってはいるが腹の探り合いで簡単に犯人が分かるようなものならここまで問題は大きくないという。
「神殺しを成すのって、難しいからね。議題に参加している神が、実は犯人だったとか疑心暗鬼になったらそれこそ向こうの思う壺でしょ。現状維持をするしかないから、こちらでの出だしも難しい。外での処理ならこちらも出来るが、自身が作った世界――内側ともなると、干渉するのにかなり力を使うし」
創造主自身が作った世界の観察をしつつ、実際に内側である世界の干渉には相当な労力を要する。
だからこそデューオは、依り代という役が必要だった。それが死神だ。
そしてデューオが作った依り代の死神といえど、干渉するのに時間もかかる。それが、死神が現れるのはその人が死ぬ直前という事になるらしい。
自身の手足として動ける部下が必要だからこそサスクールを作り出した。が、そのサスクールに接触し創造主デューオとぶつけるように誰かが仕組んでいる。それが分かるからこそ、デューオは今までサスクールを泳がせ誰が接触したのかと確かめようとした。
その結果、何も分からずに終わった。
守護者のギリムから聞いた「結局は変わらなかった」という言葉とサスクールの中に、異界の神の存在を感知出来た事。異界と言ったが、デューオが出だし出来なかった理由も納得がいった。その異界とは、自分達と同じ創造主なのだろう。
「ギリムから聞いた報告を聞いて不思議に思ってたけど、納得したよ。私だって何度もサスクールを消そうと動いたけど、奴は雲隠れするし反応がなかった時もあった。自分で作った世界なのに、そんな異常が起きたんだ。後手に回されていた……。恐らくサスクールを唆して、私と殺し合いをするように仕組んだ奴がいる」
ただそれが、神殺しの一団なのかデューオと同じ創造主なのかは不明。
調査は続けているが、それは向こうも分かっているだろうから逃げられるだろう。そして、こうしている間にも着々と世界を壊そうと動いているのも事実。
「それで、今度はその神殺しの方をどうにかしろって?」
「そうしてくれないと平和なんて来ないよ。私が消えたら、君等は抵抗出来ずに消えるんだし」
「……え、平和と考えてたのか?」
「あのね。世界を作ったのに、何でその世界を殺伐としたものにしないといけないの? 私だって観察するのなら平和の世の中の方が良いのに」
「うわっ、全然そう見えなかった」
「おい」
軽く睨むデューオにユリウスもすぐに睨み返す。
こういう言い合いを何度か見ている内、麗奈は確かにデューオの血はユリウスにも流れているのだと感じているとそれが表情から読み取れたのか睨まれてしまった。
「麗奈。今、何を思った?」
「え」
「まさか俺とコイツに、血の繋がりがあるって本気で思ったのか」
「……」
さっと視線を逸らす麗奈にユリウスは再度デューオを睨む。
誰がこんな奴と憤るが、密かに虹の魔法を使う時に感じた異変にも既に気付いている。使う度に、最初は体に負担がかかったがそれが少なくなっている事。そして、キールと同じく魔力を読めるようになっていたのもあり、事実をに止めるしかないのだろう。
理解はしているが、感情はそう簡単には割り切れない。
へらっとするデューオに心の底から殺意が沸く。
「サスクールじゃなくともぶっ飛ばしたいな」
「俺は思う度に、デューオの事を蹴ってたけどな」
「ザジは本気でやるから痛いんだけど」
「痛がってるようには見えなかったなぁ」
少しだけ微笑ましい3人の様子を見ながら、由香里は麗奈に寄り添っていたヴェルを見つめる。ドラゴンなんて触った事がないからだろう。麗奈に触れて良いか聞くと《キュウ♪》と嬉しそうにしている。
そう言えば、由香里は何故自分達や精霊であるヴェルに触れられるのだろうかと疑問に思っているとデューオが特別な空間だからねと話してくれた。
「最初に言ったでしょ? ここは私を含めた2柱の神も関わった空間。冥界の神であるエレキは、彼女達の魂を連れ来て空間を司るユーテルは維持と魂の定着。私は場の提供と、亡くなった彼等に対して依り代を提供したって訳」
ここまで協力してくれるのは凄い事なんだよと言われ、ほえーと感心するしかない。
どうしてここまで協力的なのか。そのふとした疑問に、デューオは一瞬だけ悲しそうな表情をしたがすぐに切り替える。
自身が犯した失敗も含めて、麗奈達に出来る事をしたかった。
それは最初に異世界から読んだ朝霧 優菜達の事を指している。デューオが選んだ最初の異世界人であり、サスクールを憑依させてアシュプに止めを刺して貰った苦い経験。
それをしたことで、デューオは異世界人を扱う事への慎重さを覚え、同時に酷な事を選んだ事への後悔を学んだ。
だからこそ、デューオが異世界人に対して強い加護を送っている。その1つに、転移をする場所には大国を選んでいる事が上げられた。




