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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第328話:久々の甘い物


《キュウ~》



 麗奈が来た事を察知したヴェルはすぐにでも飛び立った。

 突然の事にユリウスが慌てて追いかける。サスティスは心当たりがあるのか一瞬だけ立ち止まるも、ユリウスと同じくヴェルを追う。



「恐らくだけど、彼女がこっちに来たんだ。良かったね、再会出来るよ」

「え、うわっ」



 聞かされた内容に驚きつつ、思わず足元がつまずきそうになる。転びはしなかったが、頭では理解が追い付かないでいる。

 ユリウスも麗奈を忘れた事などないし、再会出来るようにと今を過ごしていた。デューオからそう言った話はなかったので、またワザと言わなかったのだと分かる。



「……アイツ、驚かせるのが趣味なのか」

「ただの意地悪をしたいんでしょ。でも、そっか……。遂に会えるんだ。嬉しいね」

「ま、まぁ。それはそうですけど」



 視界を外しつつも素直に答えるユリウスに、サスティスも嬉しく思うのか終始笑顔だ。

 一方で麗奈の姿を確認し、無事な姿が見れて嬉しいヴェルは周りを飛び回っている。自分の名前が貰えた事、ユリウスと過ごす日々の事を嬉しそうに伝えてくる。



「そっか。名前貰えると嬉しいもんね。じゃあ私もヴェルって呼んでいいの?」

《キュウ♪》



 麗奈の肩に乗り平気だと答える。

 ノームが近付きじっとヴェルを見る。キョトンと見つめ返すヴェルに、ノームは感じ取った事を告げる。



《そっか。君……あの時に、ずっと姿が見えなかった何かだったね》

「あ、ノームさん。もしかして見えてます?」

《うん。名前を貰ったからかな……。精霊としての実体化が成功している》

「……そう言えば、風魔も見えてないって言ってた。黄龍達は見えてる?」

『え、うん。普通に見えてるよ』

『うんうん、見えてる。主の周りに嬉しそうに飛んでるのも、楽しい事を報告してるのも分かるよ』



 朱雀、白虎からそう言われ風魔との認識の違いに驚く。

 ノームだけでなく、フェンリル達にもヴェルが見えていると聞かれる。前にユリウスから相談されていたウンディーネ、シルフ、イフリートは覗き込むようにして見ており納得したように頷いていた。



《やっぱりお父様の魔力を纏ってるこの子は、精霊としては本当に子供であってる。ただ、私達にも認識が出来てなかったのはノームの言うように名前を貰った事の影響ね》

「そんなに影響が強いんですか」

《名があるって言うのは、私達からしたら存在を認知して貰えるって感じだもの。私達はこの子の名前を知って初めて認知したけれど、その前からこの子の事が見えてたのよね?》

「え、はい。契約した風魔には見えなかったので、黄龍達も分からないかと思って聞いたんです」

《……やっぱり親父殿と契約しているから、か》

《フキュウゥゥ……》



 ウンディーネやシルフ、ノームに見られてビックリしたのか威嚇する声色を出すヴェル。麗奈は抱き抱え「よしよし、落ち着いて」と頭を撫で背中をさする。ツヴァイはそんなヴェルの背中に乗っていいかと聞けば頷いてくれた。



《わあっ、ドラゴン乗るの初めてだから何だか新鮮》

「ツヴァイ……。ごめんね、嫌なら普通に断って良いんだから」

《キュキュ》



 誰かを乗せた事が無かったヴェルは、頑張ってツヴァイを運びたいと言いとりあえず自由にしてみる。が、少しヨロヨロと倒れそうになる。すぐにフェンリルが下から救い上げるように自身の頭を使う。



《ツヴァイが重いんだろう。さっき麗奈が作ったプリンを食べてたからな》

《なっ、重くないもんっ!!》

《ほら。君も頑張って飛んでみると良いだろう。危なくなったら俺がまた支える》

《ウ、キュ……!!》



 バサリ、と羽を広げツヴァイを乗せて飛んでみる。

 気合を入れると頑張るヴェルに、麗奈は少しだけハラハラしたが手を出すのは止めようと思った。フェンリルが見ているし世話を焼くのが好きな彼の事だ。それとなくフォローするのも上手い筈。



「麗奈!!」



 そこに息を切らしながら走って来たユリウスが到着した。

 目を見開きお互いの状態が無事なのかと視線を交わす。サスクールを倒す時の自分達の状態はかなり酷かったと自覚していた。

 体力も精神も、魔力も殆ど枯渇していた。死神のザジとサスティスの後押し、ヴェルとブルームの協力もあってどうにか倒せた相手だ。生きて帰る事は叶わない。そう、心のどこかで諦めにも近いものを抱いていた。



「ユリィ……。ホントにユリィだよね」

「あぁ。俺も、生きてるとは思わなかったけど……。生きてる。生きてるよ、俺達」

「っ!!」



 そう言われて、ようやく実感し気付けば駆け出していた。

 ユリウスは急いで来たのもあり、息を整えようと落ち着かせる。ふぅ、と少し落ち着いた途端に駆け寄る勢いに負けてそのまま押し倒された。



「うっ、悪い……。上手く受けきれなかった」

「ううん。良いよ……。ありがとう、生きていてくれて」

「お互いに、だろ」

「うん!!」



 抱きしめる力をまた強く込める。

 そこに飛び疲れたのか、ヨロヨロと飛ぶヴェルが麗奈の頭の上に乗る。背中に乗っていたツヴァイも目を回しているのかコテンと落ちる。



「うわっ、何でそんなに疲れてるんだ」

「ツヴァイが乗りたいからだって。それでヴェルは頑張って飛んでたの」

「何やってるんだよ……」

《ウ、キュキュ……》



 ツヴァイをキャッチしていたユリウスは呆れたように言う。ヴェルは疲れが溜まったのかツヴァイと同じく目を回している。フェンリルが休ませると言い、ヴェルとツヴァイを器用に頭に乗せ自身もゆっくりと腰を下ろした。

 その一連の流れを見て、2人はクスッと笑う。

 同じタイミングだった事に驚いたが、妙に居心地が良い感じになり再び笑顔になった。少しの沈黙の後で、ユリウスは麗奈に寄り掛かって良いかと聞く。


 平気だと答えるとすぐに、ポスンと寄り掛かった。麗奈の肩に寄り一瞬だけ目を閉じた。すると、ユリウスの頭が少しだけ重くなったと感じた。



「なんとなく……こうしたかった」

「……良いよ。多分、俺も同じような事してると思う」

「なんだか、やっと実感したって感じ。私はずっとラフィさんやザジと居たし、大精霊の皆も居たから寂しくはなかったよ。でも、会えないのは辛かったなぁ」

「俺もだ。俺も同じ事を思ってんだ……」



 お互いに顔を合わせていると、グンッとユリウスの方へと麗奈が倒れてくる。

 受け止めたまま、ゆっくりと寝転がった。ちょっと驚いたように目を見開く麗奈に、ユリウスは優しく頭を撫でた。



「仲睦まじいね」

「え、サスティスさん⁉」



 声を掛けて来たサスティスがユリウスの隣に座る。

 驚いて声を上げている麗奈と同時にサスティスは横から来た強烈なタックルにダメージを受ける。



「うぐっ……!!」

「この、野郎……!! 心配かけさせやがって。俺とアイツがどんだけ心配してたのか分かってんのか!!」



 予想していない事だったが、ザジから何かしら言われるだろうと身構えていたサスティスは倒れずに踏み止まった。逆にそうしなければ、横になっているユリウスと麗奈に当たる。それはダメだと意地を見せた。



「ご、ごめんって」

「ザジ、気持ちは分かるけどサスティスさんを責めちゃダメだよ」

「違う。文句言ってる」

(違いがない気がする)



 そう思ったユリウスだが言葉には出さない。が、ザジには分かったのは軽く睨まれてしまう。

 ザジの雰囲気が変わったように思うサスティスは、思わず彼に聞いた。向こうで何か良い事でもあったのか、と。



「別にそんなんじゃない。アイツには色々と世話になった。それだけだ」

「アイツ?」



 無言で視線を逸らした先に、大きな両翼を持つラフィの姿が見えた。

 彼はザジの視線に気付いた後で、サスティスの視線にも気付いたのか軽く頭を下げた。



「へぇ、良い経験をしたんだ」

「……後で言うんだから探るな」

「はいはい。教えてくれるのを楽しみにしてるよ」

「ふんっ」



 そっぽを向くザジだが、雰囲気的に何だか嬉しそうにも見え麗奈はクスッと笑う。 

 ちょっとした仕草や雰囲気をすぐに察せられるのは、ザジを飼っていたからこその経験かぁと納得したユリウス。ふと、甘い香りが鼻をくすぐり思わずスンと匂いを嗅いだ。



「っ、な、なに!?」

「ん、いや悪い。……ちょっと甘い香りがした気がするから気になって」



 首筋や髪の匂いが嗅がれ、ビックリする麗奈に謝る。そう言えば、とユリウスは麗奈と会った時の事を思い出す。

 クッキーを食べながら、何気ない話をしていた事を思い出しまた食べたいとポツリと言う。



「……作ろうか? クッキー以外でも作れるし、食べたい物があれば作るよ」

「じゃあ、パウンドケーキが良い。なんか甘いの食べたい」

「なら移動だね」



 パチン、とサスティスが指を鳴らすと風景が変わる。

 ふんわりとしたソファーに座る形でいたユリウスは驚いていると、サスティスとラフィに軽く抑えられる。



「あ、そっちも来たんだ」

「すみません。聞こえた会話が気になってしまって」

「よーし、ユリィのリクエストに応えるよ!!」

《キュウ?》

「ん。少しすれば美味いもんが来るから。大人しくな」



 気になって飛ぼうとするヴェルをザジがどうにかして抑える。

 移動された先は厨房だったようで、既に材料が用意されていた。不思議に思う麗奈だったが、今はそれを置いておいてユリウスの為に作ろうと張り切る。



「ザジも食べるでしょ?」

「貰っていいなら」

「もちろん。皆で食べて食べて」



 誰かに料理を振舞うのが楽しくなった麗奈は、ウキウキした気分で準備に取り掛かる。

 楽しそうにする麗奈を見て、ユリウスも嬉しくなり出来上がるまで飽きずに観察。そんな2人を微笑ましく見ているサスティスとラフィは小声で話しているのが分かる。


 出来上がるまで、ヴェルは目をキラキラさせたまま。出来上がったパウンドケーキを食べると、久々の甘い物というのもありじっくりと堪能。満足そうにしているユリウスに、麗奈もまた嬉しそうに顔を綻ばせた。





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