第325話:どうしても被ってしまう
「あぁ~。今日もダメだった!!」
《ウキュ……》
《死神が相手だし、ランセと同じ魔王だしなぁ。無理無理》
結局、ユリウスはサスティスに攻撃を当てられずに終わった。
何度も挑戦したが、ユリウスが気絶して終わり今は大浴場に揃っている。
白い子供のドラゴンであるヴェルは気持ち良さそうにしており、ガロウも人型から狼へと変化しお風呂を堪能している。悔し気にしているユリウスを慰める事もなく、ゆったりとしていた。
「順調に回復しているね」
「うわっ、嫌なのが来た」
《ウゥ~》
「……敵対するの早いって」
そこに創造主であるデューオが入る。いやな視線を浴びつつ、デューオは遠慮なく入ってくる。揃って嫌な顔をするユリウスとヴェル。ガロウは見て見ぬ振りし軽く泳ぐようにして離れていく。
体はきちんと洗っている事、こうして広いお風呂に入るのも気持ちが良いものだと言うがユリウスは答えない。
ヴェルも同じくプイッと顔を逸らしている。
「ねぇ、機嫌治してよ」
「何の目的だよ」
「目的も何も、君等を治す事以外にどんな理由があるって?」
「……本当にそうなのか?」
「疑り深いなぁ」
「それだけの事をしたのに? 俺もヴェルも、かなり振り回されたと記憶しているが」
《キュウ!!》
お返しとばかりにヴェルは、デューオに向けてお湯をぶっかけた。
勢いが凄く軽く流された。離れていたガロウにもその余波がぶつかり、驚きのあまり人型になった程。
《こっちまで巻き込むな!!》
「ヴェル。謝る」
《キュウゥゥ~》
すぐにしょんぼりとなるヴェルは、そのままガロウへと謝りに行く。
デューオはその変化を目にして嬉しそうだ。思えばあのドラゴンを創った時から、態度が悪かった。
最初からデューオの事を敵視しており、近付くとすぐに吠える。その後にすぐに炎を吐き出したり、風で切り裂いたりと散々な目に合う。
その事を懐かしく思い、嬉しそうにしているとそれを見たユリウスからは冷めた目で見られた。
「……何だよ、気持ち悪い顔して」
「言ってくれて助かるね。黙ってても意味ないってようやく分かった?」
「余計な事言わなければ、神様だって信じられるんだけどなぁ」
「ふふっ、減らず口を言える位になって嬉しいよ」
「ちっ……」
口では勝てないのを理解しているのか、不機嫌になったユリウスはそのまま視線を外す。しかし、創造主デューオはその変化を嬉しく思うのかずっとニコニコとしておりその視線すら感じる。
「なんか、前と違うよな?」
「ん? 違うって?」
「前は敵視って訳ではないけど、厳しかったから」
「あぁ……あの時の事、まだ怒ってるんだ」
ユリウスの中で、デューオが邪魔をしてきた事は今でも許せないでいる。
例え自身の力があの時の魔王サスクールに及ばなくても、麗奈を守れたかも知れない微かな希望を持っていた。
あの時のサスクールは、ユリウスの兄であるヘルスになっていた。
デューオから見せられた映像に驚き、あのランセも油断して致命傷を負った。それを考えれば、創造主である彼があの場に行かせない理由も分かる。
しかし、そうは分かっていてもユリウスの中では未だに消化出来ていない。
「それでも、理解しようとはしてくれてるんだ。……それは彼女の、麗奈ちゃんのお陰かい?」
「っ、何でそうなる!?」
驚くユリウスにガロウは背中からひょこりと顔を覗かせる。その後ろにはちゃっかりヴェルもおり、頑張って聞こうとしている。
《あれで隠しているつもりなのか? 周りにバレバレだろ》
「なっ……。も、もしかしてヴェルにも分かるのか」
《キュウ♪》
やっとの事でガロウの頭に到達し、登り終えたヴェルだったがユリウスから言われた質問はしっかりと聞いていた。嬉しそうに頷くと、まただ短い付き合いのヴェルにまで分かったのが何だか悔しいのか無言になる。
デューオだけでなくガロウからも、微笑ましい視線を浴びせられユリウスは無言のまま出て行ってしまう。
《ありゃりゃ、拗ねたか?》
「ま、余計だったかもね。思い出さないようにしてたのに、下手に刺激したから」
《……なぁ、神様》
人型から狼へと変化したガロウはデューオに近付く。その急激な変化にヴェルは驚き、そのままお湯へとダイブし大慌て。しかし、そんなヴェルを余所にガロウはデューオへと迫る。
《正直に言って、お父様は戻れるのか?》
「戻れるよ。……ただ、ブルームはアシュプ同様に頑固だからね。ユリウスの呼びかけに素直に応じるのはまだまだ時間が掛かるだろう」
《そうかい。それが分かれば何でもいいや》
そう言ってヴェルの助けに潜り救い出す。慌てていたヴェルからは、泣いて怒られてしまいガロウは適当に受け流していく。
一方でお風呂から出たユリウスは、用意されていた寝間着に着替えて廊下を歩いていた。
「あ……」
歩いていたユリウスは、そこで外を眺めているサスティスの姿が見えた。
声を掛けようか迷ったが、死神である彼はデューオの力を持っている。迷った事は既にサスティスにも分かっているのだろう。
結局、サスティスの方から声を掛けられてしまった。
「お風呂はどうだった?」
「えと、気持ち良かったです。途中でデューオが入って来た以外は」
「あぁ、それは災難だったね。アイツの行動、私も気に入らないから気が合うよ」
話している内、ユリウスの中でどうしてもサスティスとランセの姿とが被る。
2人は同じ魔王であり、ランセとは切磋琢磨していた仲だと聞いた。だからだろうか。ちょっとした仕草や話し方が、ランセを相手しているように思えて妙に心地良かった。
「……そんなに彼と私は似ているの?」
「え、あ……」
ハッとし思わず視線を逸らした。
じっと見られユリウスは本当の事を告げる。すると、サスティスの表情は何だか嬉しそうにしており不思議に見つめ返す。
「私が教えた事を、彼が実行しているのが分かるから別にいいよ。……彼女は、彼の事を優しい魔王だと言った事があったからね。その時の事はよく覚えてるよ」
その時の彼女は麗奈である事も、彼の事がランセを指していると分かりやはり死神が直接名前を言うのは危険なのだと改めて思わせる。
死神から名前を呼ばれれば、無条件でその人物は死んでしまう。逆に生きている側の自分達は、気兼ねなく相手の名前を口にしている。
知らず知らずの内に、死神に情報が流れていくが、意識していも直せるものではない。本来、死神とは死んだ者がデューオから力を受け取った者の総称。
麗奈が例外なだけであり、ユリウスもその存在を知ってはいてもただの噂か想像上の事だと今の今まで思っていたのだから。
「その時の彼女ね。凄く嬉しそうにしてたんだ。……ま、優しい魔王だなんて言うんだもの。きっかけがなんであれ良い影響を受けたんだろうし」
「俺も、色々と助けられてきました。サスクールとの戦いの時も、かなり頼ってしまって」
「別にいいでしょ。彼には何でも押し付けちゃいなよ」
ギョッとしたユリウスは流石にそれは……と思ってしまう。が、サスティスは本気でそう言っているのがきっぱりと言った。
そして、ポンポンとユリウスの頭を撫で始めた。
「え、えっと……これは」
「あ、ごめんね。彼にもしてたんだけど、褒める時にこうしてしまう癖があって」
「へ、へぇ……」
思わずランセがサスティスに撫でられる姿を思い浮かべるも、上手く想像が出来ない。
ユリウスから見てランセは完璧とも言える人物であり、戦闘面でも頼れる。だからこそ今のように、素直に撫でられる姿が上手く結びつかない。
だが、こうして褒められるのはなんだか嬉しい。
そう思い、嬉しさを噛み締めていると更にサスティスから優しく撫でられた。
「彼女の時にも思ったけど、そうやって素直に顔に出ていると、こっちはやる気が出るんだよね。今日はもう遅いし、焦る気持ちもあるけど一歩ずつ進んでいこう」
「はい!!」
用意された部屋へと戻るユリウスの姿を見ているサスティスは、さっきまで嬉しそうにしていた表情を思い出す。麗奈も同じような反応をしていた。どうも、自身は教える側の癖が抜けていないようだと思っているとデューオに声を掛けられた。
「凄い嬉しそうだね。そんな表情もするんだぁ」
「消えろ」
嫌いな相手にはかなりの塩対応。
即座に表情を消したサスティスは、ダメージがないとはいえデューオの事を思い切り殴り飛ばしたのだった。




