第324話:向き合う意味
「ん……。はれ……?」
心地の良いだるさに、頭がまだぼんやりとしている。
どうしたかと麗奈が瞼を開け、周囲を見てギョッとした。ラフィの片翼を掴んだまま寝ていたからか、彼は傍を離れられずにいた。
自分の所為だと思い頭を抱える麗奈だったが、ラフィの事をじっと観察する。
器用に座ったまま寝ており、麗奈に捕まっている片翼とは逆の翼は日を遮るようにして包んでいる。彼の両翼は大きく器用に折りたたんだり小さくしているのは、彼の技術が成せるものだろう。
ラフィの視界を遮るように、寝ている麗奈にも日が当たらないようにして上手い具合に遮っている。
綺麗に整えられた顔、座ったまま寝ているのに美しく見えるのはラフィの雰囲気からそう思わせるのか。
「……ちょっとだけ……ちょっとだけ。これっきりで我慢すれば」
そう口にしつつ、ラフィの片翼を触れる。
フワフワとした心地のいい感触、太陽に当てられて輝くような白い翼。天然の布団は最強だと思う麗奈は、今の内にとばかりに堪能する。
「……ふふっ、そんなに嗅がれるとくすぐったいですよ」
「っ……!?」
堪えきれなくなったのかラフィがくつくつと笑う。
バレたと思ったのと、いつから起きていたのかと心臓がバクバクになった。
「ご、ごごご、ごめんなさっ……」
「おや、この翼はお客人のお気に召さなかった……ですか?」
「いいえ、とんでもないっ!! 思い切り堪能してました、ごめんなさいっ!!」
首を傾げて聞くラフィに対し麗奈は早口で褒めながらも謝罪をした。
そのスピードに彼は目を何度か瞬きをして、お腹を抱えて笑った。
「ふ、ははははっ!! 私がイジメているみたいで気分が良くないのに、不思議と心地が良いのはなんででしょう……。ふふ、お客人の反応が面白いからですね」
「う……うぅ」
むっと頬を膨らませ、怒る麗奈にラフィは変わらずの笑顔。
そこに2人を見付けて近付いてくる大精霊シルフ。不思議な光景に驚きつつも、麗奈が起こした事だろうと納得しつつ声を掛けた。
《おーい、親父殿の契約者。話しかけて良いか?》
「あ、シルフさん。はい、大丈夫です」
これ以上、この中に居るとまた寝てしまいそうだ。
そう思った麗奈はすぐに出て、シルフと話に行く。ラフィはその様子を見ていると、真上から来た蹴りに反応してすぐに下がった。
「ちっ、やっぱり読んでたか」
「休ませていたのに、怒るのかい?」
そこには不機嫌に顔をゆがませたザジがおり、ラフィを睨み付けている。
麗奈が離れた事で、ザジはすぐに彼を追っていった。青龍は麗奈との契約により、彼女が何処に居るのかが分かる。それを頼りにして正確に、確実に追えば実行したラフィを叩きのめそうと動いた。
しかし、心が読める以前にラフィにとってはザジは読みやすい相手だ。
攻撃は単調であり、絶対に殴ると言う気合がありありと読める。
「決めた。アイツが完全に治るまでに、お前は絶対に倒す」
「無理だと思うな」
「言ってろ!!」
どこか楽し気に、しかし軽やかにザジの攻撃を避けては受け流す。
片手間に遊ばれているのが分かり、思わずカッとなるザジだったがすぐに思い出したのはサスティスの言葉だった。
「すぐに熱くならない。落ち着いていれば、君はちゃんと強いんだ」
「……」
頭をクリアにしラフィを見据える。
睨まれた方の彼は、涼し気な顔をしており攻撃に備える。その頃には麗奈とシルフとの会話は終わり、ラフィにお礼を言おうとして何故かザジと対峙している場面を見て「え」と理解が及ばない。
《あー、これは気にしなくて良いなぁ。終わるまでは俺等は離れてようぜ》
「へ。でも……」
納得が出来ない麗奈をシルフは無理に連れて行く。
離れている間、ラフィとザジはそのまま戦闘へと移行。心配になる麗奈に付いてきたフェンリルからは心配はないと言われる。
《あの死神の事だ。簡単には負けないさ》
《いや、あれはただのじゃれ合いだろ》
そう言われ、もう1度麗奈は2人を見る。
ラフィの視覚を縫うようにして動き、常に悟られないようにして動くザジ。対してラフィは立ったまま向かってくるザジを受け流している。余裕のあるラフィと違い、攻撃が当たらないザジの方は焦りが見える。
この所のザジは何か悩んでいる様子なのは知っていた。
しかし、ザジの方から相談などもないので下手に踏み込まない方が良いと思い麗奈は聞けずにいた。
「ザジ……何に悩んでるんだろう」
《どうにもならなくなったら、向こうから言ってくると思う。とりあえず麗奈。俺達は下がった方が良い》
「う、うん。そうだね」
フェンリルに引っ張られ、シルフと共にその場を離れる。
しかし離れながらも麗奈はザジの事が心配だ。振り返りながら心配する麗奈に、シルフは《今度、散歩にでも誘っとけ》と言われ確かにと思った。
「そうしようかな。ありがとうございます、シルフさん」
《なーに。気にする必要なないっての。契約者のアンタもきっちり治さないとな》
「うん。その通りだね」
エミナスとインファルを呼び出し、ノーム達に魔石を作って見せた。
それだけの事なのに、麗奈の体力は酷く消耗している。だからこそラフィに無理矢理に寝かされたのだと思い、まだまだ先が長いと思ってしまう。
あと1ヵ月程すれば、回復出来るだろうという見立てはフィーによるもの。
その間、麗奈が無茶をしなければの話なので、彼女自身もっと気を付けないと自分の行動を見直す事にした。
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《キュウ!!》
「うえっ!? うわわっ」
一方でユリウスは白い子供のドラゴンとの衝突からどうにか逃れつつ、次の攻撃への手を緩めないでいる。
対するは死神のサスティスであり、彼から渡された木刀を持って観察を続けた。
「はあっ、はあっ……やっぱり難しい。前はこれで疲れるって事はなかったのに」
サスティスとの軽い打ち合いをしてから1時間後。
自身の体力の無さに愕然となりながらも、白い子供のドラゴンと協力してサスティスに攻撃を当てる。その課題は、ここまで難航するとは思ってもなかった。
《キュウ、キュ~》
「当然のように俺の頭で、休まないでくれ。ヴェル」
《キュウ♪》
名前を呼ばれ嬉しそうに鳴いたら、頭をグリグリとされてしまう。喜んでいるのだと分かるが、少し痛いんだよとポツリと呟く。
なんとなく言いたい事が分かるようになり、麗奈からも言われているように根気よく話してみるものだと思った。
衣食住を共にし、名前を考えつつどうにか絞り出して伝えれば嬉しそうに羽ばたいた。戻って来ないのかと思ったが、嬉しそうにしてそのままユリウスへと突撃して来た。今度は気絶せずに済んだのは、なんとなくそうなりそうだと予想していたからだ。
前もって分かれば受け止められる準備も心構えも出来る。
「仲が良くなったね」
「どうにか。名前を付けただけであんなに喜ばれると思わなかった……」
「精霊の名付けに近いんだよ。ブルームと契約している君は、この子からして見れば親にも等しいのさ」
《ウキュキュ♪》
頷いてコロンと転がる。前へと転がるので空中でキャッチして、引き寄せた後で頭を撫でる。嬉しそうにして目を細めるので、癖になっているのが分かる。
「どうかな。体を動かして違和感はまだある?」
「うーん。まだありますね……。これも慣れていけば違和感もなくなります。あとは……魔力を練るのに苦労しそうだ」
《だよなぁ。俺を呼び出すのにも苦労してんだ。お父様を呼ぶのはずっと先になるだろう》
ユリウスの影から飛び出してきたのは、土壇場で契約を結んだ闇の大精霊であるガロウ。
狼の姿と人型の2つになる事が出来、今は人型して表している。
麗奈と同じくユリウスの方も、魔力の暴走が体内で起きている為に大精霊を出す所から始まっている。ユリウスの中には、ガロウとブルームだけ。ガロウとは同じ属性を扱う点から、呼び出すのは出来た。
しかし、麗奈よりもかなり遅くなってしまい彼もガロウを呼んでからはダウンし回復に時間が掛かった。その時のダルさは今でも忘れられず、思わず言ってしまった。
「俺は数が少ないのに、麗奈は倍だもんな。……俺より重症なんだろ?」
《ま、全員を呼び出すのは確実に時間が掛かるだろ。でも、あの子の事だ。ユリウスよりはすんなり出来る予感はするぜ》
「うん、それは思った。なんだかんだ、彼女はすんなりとやってしまうだろうね」
「……想像は簡単に出来る。逆にブルームは何で出てこないんだろ」
「思うに彼の場合は、秘めた魔力量が君の体に追い付いてないんだろうね。あの戦いで、それなりに魔力を放出したんだろうけど全てじゃない。しかも、今の君は治療中の身だ。万一、呼び出したのが原因で体の崩壊が進んだから意味がない」
ブルームが呼び出しに応じないのは、ユリウスの体がまだブルームの魔力を受け取れる器でない。そう言われ、対応出来るようにする為にこうして体を動かしている。違和感なく体を動かし続け、戦いでの勘を取り戻さないとブルームは応じない。
恐らく彼がユリウスの呼び出しに答えれたその瞬間、完治したと思っていい。
そうなる為にも、体を動かし魔力を扱うのに慣れなければ。
麗奈との再会に向けて、また自分達を待っているであろう人達の為にとユリウスは再び木刀を握る。
「サスティスさん、もう1本お願いします」
「良いよ。私としても君は早く復帰して欲しいしね」
《頑張れ~》
少し休憩をした後で、サスティスへと向き合う。
焦りはあるが、今すぐに全てが出来る訳ではないのも理解している。ふぅ、と呼吸を整えたユリウスはサスティスへと攻撃を仕掛ける。
そうしながら、サスティスもランセと同じ魔王だったと気付き吹っ飛ばされる。
彼はランセと同じく優しくもあり、的確に何がダメなのかを教えてくれる。その注意を聞きつつ、少しでも魔力を練ろうとして失敗する。
まずは制御が大事。
サスティスにそう言われ、一撃を浴びせられないままユリウスはあえなく倒された。




