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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第322話:心の傷


「皆さん、調子はどうですか?」



 自室に戻った麗奈はそう声を掛ける。

 ラーグルン国で使わせてもらっている部屋よりも、かなり大きな空間が広がっている。その理由として、麗奈の中から協力してくれた大精霊達の姿があるからだ。



《麗奈さん。こっちは平気だよ。皆、慌てるような年齢じゃないし》

《それ言ったら、俺等は全員ジジィになるよな》

《俺に振るな、シルフ》



 ノームがそう答えれば、シルフはフェンリルへと声を掛ける。しかし、シルフに遊ばれた経験を持つフェンリルにとっては苦い思い出しかない。


 構うな、と全身からそう伝える。しかしそれを無視して話しかけるのも、シルフの性格だ。



「あはは……。皆さん、仲が良かったり悪かったりするんですね」

《それで、契約者よ。弟の気配は感じ取れるか?》

「はい。イフリートさんの弟であるサラマンダーさんも、私の中で健在です。明日には呼び出せますよ」

《あ、いや……。それより、貴方の体調の方が平気か? いくら3日おきにしているとはいえ、無理は禁物だ》

「平気ですよ? それに、早く家族に会いたい気持ちは分かりますもん。ごめんなさい、私にもっと力があれば寂しい思いはしなくて済んだのに」



 麗奈が少ししょんぼりした様子で答えた瞬間、他の4大精霊から睨まれる。イフリートも、そうではないと慌てて弁明するも麗奈はキョトンとするばかり。


 仕方ないと乗り出したのはツヴァイだ。



《麗奈。私、草原に行きたい!!》

「え、今から?」

《そう。夜にしか見ない風景もあるでしょ? 私見たいなー》

「分かった。私も少し眠れなかったから、良かったかも」

《えへへ、行こう♪ 皆はお留守番。フェンリル、麗奈を乗せて移動よ》

《了解した。白虎、変わっても平気か?》



 白虎は平気だと答え、すぐに子猫に変化。ゴロンとして、思い切りくつろぐ。破軍達も、ここに居ると言われフェンリルに乗って移動した麗奈とツヴァイ。



《……別にサラマンダーに、会いたいからあぁ言ったのではない》

《わーってるよ、そんなの》

《麗奈さんは他人を思いやる優しい人です。だからこそ気付かない所で無理をする。本人にとっては無意識、でしょうが》



 シルフもそれを理解しているからこそ、イフリートを責めていない。ノームは、他の4大精霊と違い麗奈と交流していた事がある。


 自身がお願いしたドワーフとの架け橋に、と言った事から今では強く後悔している。彼女はやり遂げようとするだろう。

 自分自身を犠牲にしても。 

  


《責任感が強いのもあるけど、なんだか少し違う気がする……》



 そう発言したのはウンディーネだ。

 彼女はそう言いつつ、視線は式神達に向けている。自分達が感じる違和感を、彼等が気が付かない筈はない。先に言ったのは青龍だ。



『母親を失ったのもある。だが、サスクールが麗奈に干渉した。その時の被害も合わせて、未だに自身を責めずにはいられない。……ザジを失くしただけでは済まなかっただろう』



 ユリウスとザジがサスクールの支配から脱する時に、式神達も麗奈の失くした記憶を見た。

 死神のザジが、麗奈が幼い時に育てていた子猫であった事。その場面で、ザジが死んだのも知っており対抗出来たのはヘルスだけ。


 誠一も九尾達も、動きを封じるだけでも苦労した。

 ヘルスが反撃した際、自身に関する記憶を消しサスクールと共に元の世界へと帰った事。それらを話せば、精霊達は苦い顔をした。



《……責めたくもなるね。でも、それでも今の彼女は――》

『だからこそ、ツヴァイが率先したんだ』



 麗奈の契約者であり、彼女に救われた事があるツヴァイだからこそその役が必要なのだ。

 青龍の言葉に、黄龍達も精霊達も頷くしかない。


 無理を承知で動く麗奈を心配し、戻って来た時には思い切り甘えさせよう。

 そんな思惑があるとは知らず、麗奈は呑気に出かけていた。



======



《ん~。空気が綺麗ね》 



 一方でツヴァイは体を大きく広げて、空気を思い切り吸ったり吐いたりしている。伸び伸びとしているツヴァイを見て麗奈は微笑む。

 するとフェンリルから提案された。麗奈もしたらどうだ? と。



「え」

《俺達より先に来ているのは知っている。だが、麗奈の事だ。ゆっくりもしてないだろ》

「……そんなに休んでないって思われてます?」

《《思う》》



 肯定されてすぐに違うとも言えなかった。

 苦し紛れな笑顔を向けると、フェンリルが自身の前足を使い麗奈の顔を覆う。



「えうっ……?」

《ツヴァイから聞いている。悪いな、過去を聞いて迷っていた。今でも信じられないが、お父様が契約したのは……君を監視していた。そう思われても仕方ない。だが、俺から見て……あれが演技をしているとはどうしても思えない》



 フェンリルから見ても、アシュプが伸び伸びとしていた。契約者の麗奈とも良好な関係なのは見て分かっていただけに、それら全てが偽りであったとは信じたくなかった。

 それを聞きフェンリルが励ましてくれているのだと気付いた麗奈は大丈夫と告げる。



「ウォームさんは楽しかったと言ってました。嘘をついてごめんとも言ってたので」

《そうか……》

「それに、ウォームさんの行動は当たり前だと思いますよ。危険な存在が傍に居るのだから、監視するのは当然です」

《む……》



 難しい顔をして聞くフェンリルに、ツヴァイは小さく首を振った。

 そうではないと思うツヴァイは会話に割り込んだ。



《違うわよ麗奈!! お父様の目的がそうであったとしても、そうならない為に動いてたかも知れないじゃない!? それを監視するのが当たり前みたいに受け止めないで》

「ツヴァイ……?」



 フェンリルの前足をどかし、ツヴァイを見てみると彼女の瞳は涙をポロポロと流れ出ていた。空中に留まる彼女を下から支えるように器用に動く、フェンリルは麗奈の視線と合わせるようにして座る。

 なんとなく雰囲気からして、麗奈は正座をする。

 自分が何か地雷を踏んだと分かったからだ。そう考えたら、ハルヒとゆきの姿が自然と浮かんできた。



《お願いだからちゃんと私達を、今まで関わって来た人達を頼りなさい!!》

「え、でも」

《でも、じゃない!! 麗奈のそれは頼ってるレベルじゃないの!? しかも、頼る時には大体が危ない時だし。これからは相談して勝手に動かない。良い?》

「相談、は厳しいかも」

《麗奈?》

「は、はい……」



 ツヴァイの睨みにすぐに麗奈はピシっと背筋を正す。

 フェンリルが思わず笑いそうになって止める。そうなるとツヴァイは、怒るのでそのまま黙る事にしている。そして、静かに自分にも睨まれているのが分かるので何事もなかったようにするしかない。



《麗奈の無理は幼い時の事が大きいのは分かる……。でも、それを込みで考えても自分もろとも失くそうとするのはダメ》

「そんなつもりは……」

《絶対にないって言えないでしょ? 幼い時にあんな体験したら》



 それで思い出していく。

 幼い自分がサスクールと接触して何が起きたか。母親を亡くした原因だとも知らず、ザジを失いゆきと裕二にも危険が及んだ。


 それは母が死んでまだ日が浅い時。

 思ったよりも自身の傷が深い事に気付き、そしてそれが無意識の内に死んでもしょうがないと何処かで思ったのかも知れない。

 だってサスクールと共に死ぬのは仕方ないと思っていた。それが出来る自分の精一杯で、自分に出来る事ならと進んでやった。


 ザジが麗奈からのお願いを拒否し続け、何度も生きろと言って来た。

 知らぬ間に自分は死ぬのが当然と思っていた。ツヴァイの言葉に気付かされ、気付いたら涙が溢れていた。



「あ、れ……」

《麗奈》

「う、おかしいな。何で……急に……」

《良いんだ、それで。本当は死にたくない。麗奈は我慢のし過ぎだ》

「っ、そんな事……」

《ううん。麗奈は我慢が多いの。ザジに言われても、何でもないように言ってたけどね》

「お前等……」



 不機嫌そうな声が聞こえ、振り返るとザジがツヴァイとフェンリルを睨んでいる。

 自分が言おうとしてたのが出来なくて、悔しくているのが分かり思わずツヴァイはニンマリとする。



《ふふん、ザジよりも私の方が麗奈の事を分かってるわね♪》

「ふざけんな。そんな事は絶対にない!!」

《止せツヴァイ。挑発するな》

《なによー。良いじゃない少し位》

「ちっ……言いたい事全部言われて腹が立つ」



 ザジは着ていた上着を麗奈に被せて抱きしめた。

 自分がしてくれたように、あやすようにして背中を優しく叩く。そうすれば、麗奈は口にしたのは後悔だ。



「私……。ずっと生きてたら、ダメだって思ってた」

「アイツに注意していて、お前がそれじゃあ駄目だろうが」

「お兄ちゃんが居なくなったのも、ザジが居なくなったのも全部……私がいけないって、思ってて」

「でも、陰陽師になるのは幼い頃から夢だったろ。親が凄いからな」

「それでも……幸せになったらダメだって、どこかで思ってて」

「そう思わせたサスクールは俺等が倒したろ。ちゃんと戻ろうぜ、お前を肯定してくれる連中の場所に」

「うん……!!」

《あー、ズルい。それは私が言うのに》

「やり返しだ」

《うぬぬ、猫の癖に……!!》

《抑えろツヴァイ》



 それから喧嘩を始めるザジとツヴァイ。

 フェンリルは喧嘩を止めず麗奈の傍を離れずにおり、2人して終わるまで待つ事にした。ノームが様子を見に行くまでそれは続き、呆れる彼を見てちょっとだけこの感じが楽しいと思うようになった。


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