第320話:これからの事
「……別の神様の世界、か」
創造主デューオと会って驚いたが、更に別の神様が居ると聞きポカンとしてしまった。フィーからの質問にはどうにか答えつつ動揺していた。しかし、彼等は心の内を読めるのだと気付き今更かと冷静にもなった。
「お城が浮いている……。本当に違う世界なんだ」
自身が異世界転移を体験し、別世界のラーグルング国にも驚いたが麗奈が居るこの世界も凄かった。
麗奈が居る城も浮いているのだが、見えるもの全てが空に浮いている。城内は不思議と浮遊感はなく、普通に歩けたり出来るので重力の概念がないという訳ではないのだろう。
「頼むからすぐに居なくなるな」
「ごめん……。なんか散歩してみたくて」
そう言って麗奈に抱き着くのは死神のザジ。
幼少の時、弱々しく鳴いていた子猫を育て朝霧家で過ごしてきた。その時から、名前を付けた麗奈には懐き飼えるかどうか家族会議をした位だ。
ザジは麗奈の笑顔が好きな為、彼女の為にならなんだってしてきた。彼女が叱れば悪戯だってせず、犬のように彼女の帰りを待つのだって苦ではない。彼女を害するものはなんであれ許せない。
彼がサスクールを執拗に狙うのはその一点だけ。
だからこそ彼はデューオに記憶を消すように頼んだ。
家族に任されたのに、その麗奈を守る事が出来ずに自分が死んだ。その事は、深く彼に突き刺さり会う資格さえないと断言した程。
それに麗奈も分かっている。ザジのこれは、依存にも似ている上に深く傷付けたのは何よりも自身であると。
「ザジ」
「言うな」
「でも」
「分かってる……。でも、これだけ言っておく。お前の所為じゃない。これは俺の意思で決めた事だ。デューオの奴に頼まれたが、最終的に決めたのは俺だ」
「……」
じっとザジを見つめる。
彼も麗奈の視線を逸らす事なく、ちゃんと向き合っている。真剣なのが伝わり、自分の考えが杞憂だったと分かれば自然と体の力が抜けていく。
「おいっ」
「……ごめん。これはホッとしただけだから」
寄り掛かりながら自分の状態に気付き、心配を掛けてしまったと思い気まずくなる。
しょうがないとしつつ、ザジはすぐに麗奈を抱えて移動を開始した。最初は驚いた風景も、ザジにとってはもう慣れたもの。
歩いていると見慣れた人物が手を振っているが見えた。
ザジ達の居る世界では見ない、白い両翼を持った男性。この世界の住人であり種族の1つとされている天使族、その長であるラフィだ。
「おはようございます」
「……いつも明るいだろうが」
「ですが、挨拶は大事ですよ? 我々だって寝る時には暗くしていますし」
「おはようございます、ラフィさん」
「はい、おはようございます。お客人」
麗奈の挨拶にラフィも返す。
自己紹介されたが、彼は麗奈の事を呼ばず「お客人」と呼んでいる。よその世界から来た麗奈とザジは、今回は特例としてこの世界に居る。
その為、必要以上に仲良くする訳にはいかないのだろう。説明をしたフィーは、デューオと同様に仲良くしている。
こうしている間にも、麗奈の体は崩壊から守られており少しずつだが力も戻っている。
今は焦らずにゆっくり過ごせと言われ、麗奈なりに過ごそうとしたがどうしてもユリウス達の事が頭にちらつき集中出来ない。
だから、彼女はこうして散歩をしている。
少しでも気を紛らわそうとしているからだった。
「ここでの生活も慣れましたか? 何か不便な事でもあれば、すぐに対応しますよ」
「いいえ。十分です……。広いお城の中を歩くのも結構楽しいです」
「全然力が入らなかった時よりはマシになったしな」
「……うん」
恥ずかしくなり顔が少し赤くなる。
そしてザジに自分の顔を押し付け、ラフィに見られないようにしていた。その行動に彼は暖かい眼差しを向けられてますます困った。
目を覚ました時、彼女はフィーから既に1ヵ月経っている事を受けて衝撃を受けた。それ程の長い間、自分は眠ったままでありサスクールを倒した後の皆の様子を知らない。
ザジがこうして麗奈を抱えて移動しているのも、動くのがままならない彼女をよく背負っていたからだ。そしてラフィは彼女の世話を頼まれていたからか、動けるまでの間は麗奈の傍におりお風呂やトイレなども力を貸している。
麗奈がラフィと顔を合わせずらいのもこういった経緯があり、恥ずかしい気持ちで一杯だ。そして、そんな彼女の心情をラフィは既に知っているのでこうして笑顔で返している。
「ご自分で歩く位に回復されたのなら、今度は力の扱い方を学びましょう。訓練場はこちらです」
そうして案内された場所は白い部屋だ。
その中心には水晶が鎮座しているが、それ以外は全面が真っ白で不思議な空間が広がっている。
「あの水晶まで行けばすぐに風景が変わります」
麗奈とザジの心の内を読んだのかラフィの説明が入る。
2人がその水晶に近付き、触れてみると一気に白から青空と森が現れる。驚く2人にラフィはこの空間は今の心の安定を意味していると言われる。
「心の、安定……」
「焦りもありますが、今の貴方の心は穏やかになっている証拠だと言う事です。貴方がもう1人よりも重症と見たのも、魔力以外の力が備わってるからです」
「陰陽師の……陰陽術、ですね」
ユリウスと共に精剣を作った麗奈は、死神の力だけでなく自身の内に秘めた青龍達の力も注いだ。本来、交わる事がない別々の力をザジが調整し麗奈が全体を整える。
その作業の後遺症こそ2人の体が崩壊へと繋がった原因。ユリウスよりも重症と見られたのも、魔力と陰陽術が合わさった状態。まずはこの2つを切り離す所から始めると言う。
「具体的にはどんな感じで」
「備わっている力、もしくは形を成しているならすぐにイメージして貰います。それを私が具現化させますので」
「……それなら、普段通りにっと」
イメージもなにも、青龍達は麗奈の式神。何よりも術を行使するのには確固たる強いイメージが必要とされているのは基本だ。
それを幼少の頃から学んできている麗奈にとっては朝飯前。気合を入れてすぐに青龍達とついでに破軍をイメージしていく、だが――。
「っ、待って下さい!!」
「え」
ラフィの制止と同時に水晶が6つに割れた。
その欠片がすぐに形を成し、四神と黄龍、破軍が現れる。6人共、ゆっくりと瞼を開け徐々に意識を取り戻せば倒れた麗奈に慌てて駆け寄った。
『主!!』
『あ、主!?』
『えーん、主ちゃんが倒れたぁ』
「なんてことを……。誰が一気にしていいなんて」
ラフィとしては切り離すのは1つずつ、丁寧に行う作業の筈だった。だが、麗奈は一気に青龍達を呼び起こした事で体がまた限界に達した。
気絶している麗奈にザジは呆れ顔で「最初に言っておかないと、こうなるぞ」と言われ次からは気を付けないとラフィは胸に刻んだ。
その後、久々に再会出来た青龍達は麗奈の事をぎゅっと抱きしめる。
おしくらまんじゅうのような状況に、麗奈は嬉しいと思いつつもラフィからの鋭い視線には逸らした。
その後、ラフィからは無理は禁物と言われ3日ごとに大精霊を呼び出すという作業に入った。
契約しているツヴァイにすべきかと思ったが、ギリギリまで傍に居たフェンリルにすべきかと迷ったが魔力の調整が得意とされるノームから呼び出す事にした。
2番目に呼び出されたツヴァイはその事にショックを受け、ノームの事を睨み続けた。
《麗奈は……私の友達だもん!!》
「ごめん、ツヴァイ」
項垂れるツヴァイに、謝り続ける麗奈。
それを微笑ましく見ているノームに、ツヴァイは悔し気に拳を握るしかなかった。




