第318話:焦りは禁物
「ごめん。でも、僕達は……ホント、数分しか居ない感覚だったからアウラ達の心配ように驚いてて」
「うぅ、でもっ、でもっ……」
たった数分の体感でも、アウラ達にとっては3日も待ったのだ。
会えた喜びが嬉しいからかアウラは人目があっても涙が止まらない。抱き着いて愛しい人の体温を感触を感じ取る。
生きていると分かり、引っ込んでいた筈の涙がまたジワリと出てくる。
「ヤクル……ごめん」
「ナタール。ごめんなさい」
「いいんだ。無事だと分かっただけでも、俺は嬉しいんだから」
「ホント心配していた事が実際に起きたら、あの神を殴るだけじゃ収まらない所でした」
「……ナタール。それは絶対にダメ」
咲に真顔で止められ、ナタールは一瞬だけキョトンと返す。
怖い事を言い始める彼を止めたいが、そうなった原因は自分達だと思うとなかなか強く言い出せない。ハルヒ達を執務室から別室に移動する間、武彦はラウル達に起きた事の全てを話した。
思っていた以上に麗奈とユリウスの受けた傷は深く、下手に会おうとすれば無理をするのが分かってしまう。デューオが最初に言っていた通り、大人しく自分達は待つしかないのだと分かる。
「……。ま、全然状況が分からない時と比べたらまだマシなんだろうね」
ヘルスがそう言いつつ、皆の沈んだ顔は直らない。
今、起きた事を考えるなら2人の回復を待つべきなのも分かる。しかし同時に彼等は不安を覚えた。
ハルヒ達にとって数分での出来事でも、ラウル達が待った時間の長さを考えれば麗奈とユリウスに再び会う時に、どれだけの時間が経ってしまうのか。が、その考えをギリムが遮った。
「奴はいい加減な性格だが、自分が提示した約束は守る。今回の場合、奴の悪戯だ。出なければ余が奴を叩き潰す」
「待ってギリム。貴方が過激に出る方が向こうの思うツボだよ」
「分かっているが、奴はああいう性格だ。ムカつく上に、高見の見物……く、腹が立ってくる」
物が壊される前にとギリムを執務室から追い出すリーム。
そして、ラウル達に自由に過ごすようにと言って2人はここから離れていく。状況がはっきりと分かり嬉しい反面、悪い事も分かってしまう。
麗奈とユリウスに掛けられた負荷が相当なものだと言う事。
体が崩壊する寸前まで力を込めた結果であり、無理をしがちな2人ならやりかねないと思ったのはヘルスだけでなくラウル達でさえ思った。
2人の無事を完全に把握は出来ないまでも、状況は把握できた。なら、とヘルスは次にすべき事を提示していく。
「暗くなっても仕方ない。2人が起きてくるのをここで待つより、国に戻って復興の続きをすべきでしょ。必要ならギリムさんの国とも話を進めたいし」
「あ、それ僕の国もいいー?」
すぐにデュークが食いつき、意外だと思ったヘルスは「良いの?」と確認をする。
しかし聞くまでもないと言うように彼は大きく頷いた。
「リーグの事も気に入ったし、あとで義兄弟の契約でも交わそうかと思って」
「へぇ……え? 何だって?」
納得しかけて止まる。
理解が追いつく前に、デュークはリーグの事を連れ出してしまい居なくなっていく。キールは慌てる様子はないのか呑気に「主ちゃんの影響か」と納得している。
「え、ちょっ!? 良いの、君の従兄弟でしょ!!」
「実はリーグから軽く相談されてた」
「はあ? 聞いてないぞ」
「言ってないもん」
「このっ……!!」
ラウルが間に入り、ランセがヘルスを取り押さえる。
その後、キールを引っ張り出すラウルは別室へと連行。恐らく説教をする気だと分かるのは今までの流れからか。
そうしていく内、各々は自然と離れていく。
状況が分かった今、自分達はどうするべきか。復興をやりつつ、いつ戻るかも分からない2人の帰りを待つ。
早く2人が目を覚ますように――。
再会を果たしたい気持ちと、落ち着かないといけない複雑な気持ちがブルト達の考えを鈍らせていく。
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「お疲れさん」
「ホント、疲れたよ」
同じ創造主であるフィーにデューオは本音をぶつける。
自身の領域でもあり、部屋でもあるのにドサッと椅子に深く腰掛けて項垂れている。
「なんか飲むか?」
「いらない」
「にしても、勘が鋭いって言うか意外に早く見付けられたな。お前と会う方法」
「そりゃあ……。魔王が居るからね。いつかバレると思ってたよ」
だからこそギリムは言わないスタンスを取っていた。
いずれ気付かれるのは分かっていたが、ランセが思った以上にそのきっかけを掴んだ。麗奈とゆきとの何気ない会話をヒントに得た事だと分かり記憶力が良い者を改めて嫌う。
そうしながら、デューオは不意に近付く気配を感じ振り向く。
「噛みつくのは止めてよね。彼の傍に居なよ」
「キュ!!」
バサッと小さな翼を羽ばたかせ、デューオの事を睨むのは彼により作り出された存在の白いドラゴン。その子供が不満げに見ている。起きないユリウスはデューオの所為だとサスティスに嘘を吹き込まれたのか、もしくは八つ当たりか。
やがて飛び疲れたのか、大人しくデューオの元に降りてくる。
「初めて来たね。今までは嫌いだと言っていたのに」
「ウキュキュ」
「嫌いだけど、休憩代わりに使ってるだって? ははっ、神をそんな風に捉えるのは君だけなもんだ」
そう答えつつ、デューオは水晶に閉じ込められているユリウスを見る。
既に1か月が経つが麗奈と同じく様子は変わらない。唯一変化が起きたのは、ゆき達がデューオに会おうとした時だろう。
ギリムの言うように、デューオがやったのはほんの悪戯だ。
時間の感覚をワザと狂わせ、ハルヒ達に不安を与える為。そうでもしなければ、彼等は次に何をどうするのか考えるのが恐ろしい。
再会させる約束はするが、果たしてその時に自分達が生きているかという不安。
その不安があれば、滅多な事では彼等も無茶はしないだろう。一応、デューオから言うべきことが伝えた。
その時、ピシリと水晶にヒビが入る。
小さなヒビは段々と大きくなり、ついには水晶が割れた。
「っ……」
わずかに目を開けたユリウスは、ハッとして地面に突撃するのを回避した。咄嗟の反射で転がり、自分に痛覚があるのを自覚していく。
ジンジンとた痛み、生きていると言う自覚が段々と芽生えていく。
「……俺、は……」
未だにぼやける視界。自分の記憶は何処から途切れたのか。見覚えのない場所に居る事よりも、自分の事よりも彼は優先する事があった。
「麗奈……。麗奈はどこにっ」
「待って!!」
ユリウスの視界を塞ぐ第3者。知らない人物からの声なら彼は敵と判断しただろう。だが、声を掛けてきた人物には聞き覚えがあった。
麗奈が涙ながらに別れを告げ、ザジに後を託した人物。
「サス、ティス……さん?」
「うん。合ってるよ。……今は、ゆっくりで良いから呼吸をするんだ」
優しい声色に、ユリウスは自分の体が緊張状態から脱していないのだと分かる。言う通りに深呼吸を繰り返し、自分の心音を体の中を巡る感覚を感じ取る。
「どう? 落ち着いた」
「はい……すみません」
ユリウスの落ち着きが分かり、サスティスは彼の目から手をどかす。
ゆっくりと瞼を開け、目の前に広がる風景にユリウスは圧倒される。
自分が立っているのは虹の花畑。
その中心部に自分が立っている事、風が髪を撫でどこまでも青く澄み渡るような青空に言葉を失くす。
しばらく呆然としていたが、次に確認したのは自分の服装だ。
戦いでボロボロになっていたと思っていたが、今の服装はゆったりと全身を包んだローブ。かなりの薄着だと思うが不思議と寒さも温かさも感じない。
「俺……死んだですか」
「死んでない死んでない。私がザジに殴られるから止めて」
状況が把握出来ないユリウスにサスティスは説明をしていく。
自分の居る場所、麗奈とザジの居場所なども含めて彼を焦らせないように努めた。その最中、あの白いドラゴンが突撃してきた。
嬉しさもあっての喜びだが、ユリウスは反応出来ずにそのまままた気絶してしまった。




