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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第317話:覚悟しなければいけない事


 ゆきはそう強く断言した。

 ずっと麗奈の役に立ちたい気持ちを持っていた。現代では、自分が怨霊に関われないのも分かり出来る事は手助け位だった。しかし、この世界では自分も力になれる。その為の力を、魔力を持っている分かる事が出来た。

 だからこそ危険を承知で、ゆきは魔物退治の術を学んだ。もう力がないからと諦めなくて良いからとそう思った。



「多分、麗奈ちゃんの中では私はずっと戦わなくて良いって思ってる。私に戦って欲しくないんだって分かるから」



 大蛇に会った感覚で、底知れない怖さを知り体が震えそうになった。

 でも、それでもゆきは逃げずに麗奈を追った。それは、自分に優しくしてくれたからこその行動であり、麗奈の為にと思ったからこそ無茶をしてきた。

 ゆきの言い分に、ハルヒも思う所がある。今まで怨霊と関わらなかったゆきが、いきなり魔物と対峙するだなんて聞いたときはかなり驚いた。

 

 しかし、同時に思った事もある。

 ゆきも麗奈も頑固な所はそっくり。ゆきは芯を通すからこそ、強くあろうとする。戦いに対する怖さももちろんあるけれど、自分よりも何倍も怖い思いをして戦いに出ている親友を思えばこそ立ち止まれない。



「自分を犠牲にして、最小に留める。それは……確かに被害を考えれば当たり前の事で、私が口を出す事じゃないのも分かります。でも、残された人達の事を思えば絶対に生き残る必要があったと思うんです」



 そう言われギリムはハッとなる。

 残された側の自分達、優菜を犠牲にする事しか出来なかった嘆きと悔しさ。自分達が、朝霧家を悪くするように広めたのもそうするようにとお願いをされたから。

 失った悲しみもあるが、残された人達には悲しみを受け止める何かが必要だった。

 それこそ、憎しみも悲しみもぶつけられる為の受け皿が必要だった。


 怨霊と対峙している彼女達だからこそ、その受け皿が別世界から来た自分達であるべきだと考えた。例え再びこの世界に来るのが、数百年と時が経とうとも長生きをする種族にとっては憎しみに変わろうとも。


 自分の力の無さを痛感したギリムはせめてもと、優菜の願いを叶えようとした。

 その結果、エルフとドワーフ、獣人達には朝霧とは畏むべき名だと世界を滅ぼしかけた一族だと伝わった。

 旅をしていたウィルトも複雑そうにしていたが、受け皿が必要なのも理解していた為に里に戻る時にそう報告した。ドワーフのリゼルトも、最後には納得してくれていたと思った。しかし、2人からは悔しさと無力感が伝わり、ギリムもこれで良かったのかと長い間、疑問に感じていた。



(……ウィルトは、彼女達と仲が良かったな)



 エルフという珍しい種族であり、異世界人である優菜達とは初めての関りを持った。

 そんな彼も、受け皿とはいえ彼女達に全てを押し付けるような真似はしたくないとしていた。だが、その時に受けた世界の傷はかなり深い。


 気長に旅をしていたウィルトも、エルフの里へと戻り復興をしないといけない程の被害。ただ1人関わったからこそ、違うと言えるも証明が難しい。異世界人である彼女達は、その時には既に全員が居ない状態。

 膨れ上がる悲しみと憎しみ。

 近くに居たとされ、その瞬間を見ていたとされるウィルトは問われたに違いない。

 本当は身代わりにしたくないのに、彼は決断せざる負えなかった。異世界人である彼女が、襲ってきた魔王と対峙し封印する為に自身の体内へと導いたこと。


 その被害を抑える為に、大精霊アシュプが止めを刺した事。

 異世界人への認識が変わるきっかけにもなり、繁栄と滅びの危うさを持った存在。それでもデューオは、異世界人を選定しこの世界へと送り続けた。


 全てはサスクールを倒す為。その始末をつける為に。



「神様である貴方の考えは分かりません。でも、どうしても麗奈ちゃんでないといけない理由ってなんです」

「……彼女が優菜と同じだからだよ」

「確かに孫の麗奈は先祖とほぼ同じ力を持った霊力で、私達もそれを本人に言わずに隠してきた。……同じ末路を迎えさせる気だったのか」



 普段では聞かない武彦の低い声。

 思わずハルヒとゆきはビクリと体を震わし、誠一は再びデューオを睨む。裕二もそれに怒りを覚えたからか纏う雰囲気を変えた。

 咲、ハルヒ、ゆきの3人は突然の事に戸惑いながら固まる。3人がここまで感情を表に出すことはなかった。

 そんな怒りを向けられてもデューオは涼し気な顔をしている。そして彼は聞く。では、逆にどんな方法であればサスクールを倒せたのか、と。



「っ、それは……!?」



 この異世界に来て触れた魔法の数々と魔物、魔族を思い浮かべる。

 現代でも奇跡だった魔法でもすらも倒すのが難しい存在である魔王。その対処がすぐには浮かばない。誠一はその魔王の1人に腕を実際に取られ、今は4大精霊の1つであるノームの力によって元に戻っている。

 彼の力がなければ、誠一は片腕での生活を余儀なくされる。

 だからこそ気付く。それだけの強大な相手と力に対して、自分達が取れる行動。


 死神の協力がなければ、ユリウスが虹の大精霊と契約出来ていなければ――。

 異世界人が召喚士という精霊との契約を出来る力がなければ、と様々な考えが浮かぶ。だがそれでも、誠一はある一点だけを認める訳にはいかない。



「だから……だからザジが犠牲になったのは仕方ない事だと言うのか。神である貴方は」

「逆に彼の犠牲失くして、倒せたのかな?」

「っ!?」

「彼の働きは凄かったね。ただ1点、ある事のみを執着した結果が今に繋がっている。これは私としても予想外だったよ。まぁ、彼が神を嫌うのは最初に会った時から変わらないんだけど」



 最初の出会いを思い出す。

 サスクールに殺されたザジは、その恨みを晴らす為に何よりも大事にしていた麗奈を泣かせた罰を与える為に多大な影響を与えてきた。

 創造主デューオと魔王サスクールが同じという点。

 それを感覚的に認識し、姿形が違えても敵と判断。神であるデューオはザジのその執念に掛けた。


 誠一も武彦も、そして裕二もその感情を利用されたのではとデューオの事を疑う。

 未来を予知する事はデューオ達にも難しいとされる。自分達はあくまで観察者であり管理者だからこそ、今回の結果は予想外が多い。


 飼い猫ザジの死神。パートナーのサスティスが、麗奈に興味を抱いた事で女神をも召喚させた奇跡。サスクールが憑依し助ける事が不可能とされていたヘルスの救出、人間では作り出せないとされていた精剣。


 優菜と同じ霊力かそれ以上の力を持って生まれた麗奈は、デューオの予想を超えた行動や奇跡が多かった。その結果が今に繋がり、魔王ギリムを協力させる事態にまで生んだ。



「しかも5人いる内の魔王で、既に1人は君等に好意的だし。いや2人だったかな……。ホント、彼女は優菜と違った道を辿っている。私も彼女はサスクールと共に消えると思っていた1人だからね」



 その道に導くつもりはなかったが、このままいけば麗奈は優菜と同じく自身を犠牲にする事もいとわない。そうならずに済んだのは、彼女が関わってきた人達やその縁があるからか。それともそうさせないと動いたユリウスの思いが強かったか。


 いずれにしろ犠牲にならずに済んだのだ。

 そうなれば、デューオの出来る事は1つ。2人を無事に送り届ける事。それを行う為の準備は進めているが、まだハルヒ達と再会させるには早い。

 素直にそう説明したと言うのに、ハルヒ達からは不安が拭えないと言った表情をされ信用されていないのだと分かる。



「はぁ、酷いね。ちゃんと2人は元に戻すし送り届けると言っているのに」

「お前の今までの行動を思えば、この反応は当然だと思うが?」



 ギリムの返しに皆が納得したように頷き、デューオもすぐには言い返せない。

 じゃあと思い、デューオは2人の状況を詳しく話していく。

 ユリウスと麗奈は、命の危機から脱していない。その理由として、2人は精剣を作り出した時に自身の限界以上の力を注いだ事が上げられる。

 麗奈はサスティスから授けて貰った死神の力をフルに使い、ユリウスも女神の加護を付け加えた。サスクールを確実に倒す為にと、2人は人間が扱える範疇の力を超えた。


 本当なら体も魂も保てない。

 それをザジが繋ぎ止め、デューオが作り出した白いドラゴンの子供の力も含めて2人を守ってきた。デューオが見つけるのが遅ければ、既に2人はこの世には居ない上に魂すらも残されない。それ程の力を使ったのだから、反動があるのは当然。


 絶対安静にしているのは、2人の体と魂を完全に定着させる時間が必要とされた。

 魂の確保は冥界の主であり女神でもエレキが管理。体の崩壊もひとまずは収まったが、普通に生活をする分には回復は済んでいる。


 問題なのは、2人が再び力を使う時にすぐに異変が起きる事。

 それが魔力であろうと霊力であろうと、力を練る作業の段階で2人の体が簡単に崩壊する。そんな状態で2人と再会するのは本望ではないだろうと言われ、ゆき達は互いに顔を見合わす。



「あの2人の性格を考えれば、大人しくしている方が難しい、か。その状態の2人を完全に治せるのは、貴方方だけという事ですね」

「そうさ。あと2人は一緒の場所には居ない。反発されて崩壊が進まれても困るからね」

「……僕達が会うのもダメなんですか」

「ダメだね。むしろ君達が来ていると分かれば、2人の事だ。不完全な状態であろうと、心配させない為に無理に来る。……そんな事、私よりも分かっていると思うけど?」

「納得するにはまだ難しい、ですけど。でも……今、無理に会うよりは確かにそっとしておいた方が良いね。怒るのは全部が終わってからにしよう」



 本当ならば今すぐにでも会いたい。

 でも、自分達も不完全な状態で2人と再会するのもいけない。そう無理に納得させながら、デューオに治療を改めてお願いしギリムの城へと戻る事にした。


 戻った瞬間、ゆきと咲、ハルヒに抱き着ていたのはヤクルとナタール、それにアウラだ。驚く彼女達をよそに、更に驚くべき事を聞かされる。


 デューオとは数分話した感覚だったが、ラウル達からすればゆき達が消えてから既に3日が経過していた事。ギリムが居るとはいえ、連絡もない状態が続き、待っている事しか出来ないラウル達は非常に生きた心地がしなかったのだと言われる。


 時間を操作されたと痛感し、同時にハルヒ達は覚悟しなければいけないと思った。

 2人が戻って来た時に自分達が生きているかどうか。時間という新たな壁がハルヒ達を阻んでいる事に、どうしようもない悔しさが出てきた。


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