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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第316話:煮え切らない思い


 誠一の行動にただただ驚いた。

 ハルヒとゆきは、いつも彼の事を冷静で場を見極める大人だと思っていた。


 だが、武彦と裕二にとっては違う印象を抱いていた。

 誠一は家族を誰よりも思い、大事にしてきた。だからこそ、妻の由香里を守れなかった後悔が重くのしかかる。同時に、娘の麗奈には辛い思いはさせたくないと思ってしまう。



「貴方は……。貴方は見ていて何も……何もしなかったのか!!」

「怒るのは勝手ですが、妻であろうと娘であろうと朝霧家の人間なら誰でも当たる」

「何っ!!」

「先祖の優菜が術式をそう作り替えた。死後、自分と関わりのある女性のみという限定付きでね」

「先祖様の……。だが、私達の名は世界を滅ぼしたと一族として伝わっているのではないのか!?」



 刀をはじき返されながら、次の一手を組む。

 デューオはギリムの事を見るが、彼は無言を貫いている。手は出さない、という意思表示に小さく舌打ちをした。



「そう伝わらせたのは私じゃない。……魔王ギリム、君じゃないか」

「なっ」

「え」

「ギリム、さん……?」



 誠一だけでなくハルヒ達も驚いてギリムを見る。

 ドワーフのシグルドから聞いた朝霧と言う名は、世界を滅ぼしかけた一族の名だと。そう言われ、誠一は手酷い歓迎を受けた記憶がある。


 確かに魔王ギリムは、デューオによって作り出された存在。

 他の誰よりも長生きをし、デューオと同じくこの世界の全てを見てきた。



「ギリムさん、どういう事です!?」



 デューオへの攻撃の手を緩めないまま、誠一はギリムへと疑問を投げかける。

 全ての視線がギリムに向けられる。疑問、疑心、信頼、裏切り、ハルヒ達の心の声を聞き当然の反応だと思ったギリムは覚悟を決めた。


  

「……優菜は最後の最後で、自分の死を予知した」

「まさか。いや、しかし……」



 最初は否定しようとした武彦だったが、朝霧家の代々の当主が書いてきた手記の中でそういった力もあるのだと思い出す。

 初代の優菜は青龍との交流により、史上初の神との契約を結んだとされている。その彼女の子供、そのまた子から子へと流れ7代にわたって麗奈へとその強い霊力は受け継がれていった。しかし、受け継がれた霊力を優菜の子供だから使えるという訳でもない。


 先祖返りとされる麗奈だからなのか。

 その時にふと思った。武彦の娘であり、麗奈の母親である由香里も勘が鋭かったと思い出す。もし、もしも彼女が自分の死をその瞬間に予知として知ってしまったのなら――。



「ヘルス君に治療を止めるように言ったのは、自分が死ぬと分かったから……か」

「っ!?」



 絞り出すように、呟かれた言葉は誠一の動きを止まらせた。

 あと少しでデューオを傷付ける事が出来る距離にありながら、その刀はカタカタと震えている。武彦の出した答えに、誠一も同様に思ったからだろう。



「……くそっ」



 デューオを睨んだ後で、誠一は作り出した刀を消失。ゆきと咲が、神を傷付ける気でいる誠一の行動が止まり安堵の息を吐く。ハルヒは別に傷付けても構わないだろうと軽く睨むも、それを読んでいたデューオからは「思い通りにいかないよ」と煽られる。



「……」

「待って、待って!!」

「ハルヒ、ストップ。ストーーップ!! アウラ様に言うよ!?」

「……ちっ」



 咲の制止も聞かず、ハルヒは攻撃を加えようとした。が、ゆきに言われて押し止まり最後は吐き捨てるように舌打ちをした。



「つまり貴方が止めようとしてもしなくても……結果は変わらない、と」

「先に言っておくけど、干渉出来るのはあくまで自分が作った世界だけ。別世界の方は、基本的には手出しが出来ない」

「……ヘルス君の時は基本的じゃないって事ですか」

「そうとも言う」



 納得はしていないが、作った神からの言葉に一応は従おう。

 そう思う誠一の心は目の前の神には筒抜け。ギリムの心を読む力は、間違いなく彼から来ている。



「それで……ギリムさん。先祖様の事、詳しく聞かせて下さい」

「余も今より力を上手く使いこなせていない時、ラーグルング国とディルバーレル国を作り互いの不可侵条約と交流との約束をした後だった。サスクールが、人間を襲い始めた」



 土地を移したのは、ラーグルング国の初代である王の呪いを解く為。その為の装置を作るのに、力を分散しまた結界を作り出す為にと柱を作った。

 四方に分かれ、それぞれの気と力の配置を設置して指示を出したのは優菜達。気の流れを読める彼女達は、魔力とは違う力が既に世界に満ちている事に気付き霊力に近いものだと判明した。だからこそ柱を設置する前に自分達の力を確認したり、魔物との戦いに慣れておく必要があった。


 2年もの間、土地を変え開拓を進めていく中で優菜達も自分達の力が馴染むかと実験を繰り返してきた。だからこそギリム達とで作り出した柱には、どうしても欠点としてその気を扱える者が必要になる。

 それぞれの方向と扱える気を定めたのは、優菜達でありそうする中で彼女達は人柱として組み込んでいる。むしろそうなるように、作っていたのかも知れない。



「今と違い、その時の世界にはまだ彼女達が扱う気は理解出来ていなかった。貴方方が扱う術の色が青く見えるのも、余とソイツが理解したからこそそう見えるようにしたまで」

「知らないものを作るのって大変だからね。体験なり、見せてくれないと理解出来ないんだ」

「……まぁ、昔の方が風習的にそういう人柱はあったと歴史に記されているしね。呪いを根源から絶とうとしたならアリ……なのかな」



 複雑そうに答えを述べるハルヒに、ゆきと咲は互いの顔を見合わせながらも答えが出ない。

 彼女達は、麗奈達の扱う術の系統を知らない。ゆきが、初めて呪いと言う存在にあったのは大蛇が初めての事。


 その時の事を思い出す。

 対峙した時、全身から嫌な汗が吹き出し視線を合わせるのも嫌になった。それは、そう頭に思い込ませたかったからなのか。視線を合わせるだけで、悪寒を走らせる怖さがあった。あの得体の知れないものに、ずっと麗奈達は触れてきた。


 ハルヒも詳しい事は言わないだけで、それだけの事を続けてきた。

 ゆきは改めて思う。知っている気でいて、自分は麗奈の事を何も知らなかったのではないか、と。



「そうなるとサスクールが人間を襲ったのは、その柱が完成してすぐの事?」

「あぁ、そうなるな。抵抗は続けたが、被害が大きくなる前にと優菜が自身へと誘導し奴を招いた。呪いの塊だと分かった以上で、彼女の体に留めて浄化しようとしたのだ」

「……。じゃあ、それが不完全な形で終わってれいちゃんの精霊が、止めを刺したって事だよね」

「精霊は人を傷付けてはいけないからな。善であろうとしたが、優菜から止めを刺すように言われアシュプも最後まで迷った。……彼女の決断を鈍らせない為、覚悟を決めて討った」



 だからこそアシュプは、他の精霊達に人を傷付けてはいないと強く言った。

 傷付けるのは後にも先にも自分だけ。

 当時、サスクールが暴れた時に力を貸していた4大精霊達はその事を記憶に残るようにした。転生しても、後の新しい4大精霊が生まれても戒めとして記憶だけは残し続けた。


 そしてギリムは続けた。

 優菜は自身の体ごと浄化が間に合わない時に、もしもの為にと自身の血族のみに作用するようにした。彼女達のように、別の世界から来る人間はいても優菜と同じ血縁者が呼ばれたとしても数百年後。自分の死と同時に、サスクールが討たれる未来を予知出来ていたのなら、優菜がそう術を組み込んだとしても不思議ではない。


 ギリムの心の声を聞いてた。

 優菜自身は、これで良いと。未来は繋げられるのだと……。



「だからって、だからってそんなの……!!」

「なら他に方法はあったのかい。土御門ハルヒ」



 怒りを覚えるハルヒに、デューオは質問をした。

 麗奈を犠牲にせずにサスクールを倒せた方法は他にはあるのか。そう言われ、言い返したくても出来なかった。

 歯を食いしばり、殴りたい気持ちもあった。だが出来ない。

 ハルヒが出来ないように、一番近くにいたゆきでさえも。祖父の武彦も、兄のように育った裕二も父親である誠一も皆が口を閉ざす。


 咲も答えられない。全員が思ってしまった。麗奈が偶然にしろ優菜と同じ事をしようとしていた。違う点をあげるなら最後の止めは死神にお願いしたと言う点だけ。そこでハルヒも、誠一も気付いた。死神に接触を図るようにしたのは誰であり、導ける存在が目の前にいる。



「まさか……死神にれいちゃんと接触させたのってそうさせる為なの!!」

「接触させたのは事実だけど、あれはザジへの意地悪だよ。記憶を見たなら分かるでしょ? 彼が私にどんな頼みをしたのかって」

「それは確かにそうだが……」

「私達が予知まで出来たら、世界を作った意味がない。変化を見たいが為にしていると言うのに、ね」

「貴方は……。本当に何がしたいんですか」



 呆れたように言う誠一にギリムは「こういう性格だ」と睨む。

 ザジへの意地悪の為に、接触を図るようにワザと言い思惑通りに麗奈と再会。何度かの交流で、ザジは自身の失くした記憶を思い出してしまい、同時に守らなければいけないと強く思い起こさせた。誠一が攻撃を仕掛けたのも、それをあえて受けようとした行動もあり、困惑しかない。



「け、結局……神様であり貴方は、私達の味方……なんですか?」



 咲の疑問は、誠一達にとっても同じ事。

 デューオはあっさりと答えた。半分味方であり半分はそうではないただの監視者だと。



「深入りし過ぎて情が移る訳にもいかないから、丁度いい距離感ってやつだよ。でも、彼女が精霊から好かれるのは元からで私からは何もしてないよ」

「ホント、れいちゃんには何から何まで敵わないな……」



 グシャと自分の髪を乱暴に乱し吐き捨てるハルヒに、誠一も武彦も何も言えない。

 母親である由香里も、娘である麗奈も根本的には変わらない。それしか方法がないのなら、2人は迷わずにそれを実行する。

 時にはそうさせる職業なのだ、陰陽師は。

 先祖の優菜も、根本から絶つ気でいたのならそれしか方法がないのならと実行に移しただけ。先祖の性格を、思いも違う形で叶えようとした妻と娘に、どうしようもない悔しさが渦巻く武彦と誠一。



「そうさせる決断も、俺達に力がないからか……。相談したくとも、自分だけの犠牲で済むならと実行する。どうしようもない職業だな、俺達も麗奈も」



 誠一の本音に、全員が納得した。

 自分達に頼れるだけの力がない。頼りたくとも、犠牲が最小で済むのならと彼女の性格を考えれば分かる事だったのかも知れない。

 そんな中、ゆきだけは違った。

 そうさせた自分達も悪いけど、やっぱり実行に移そうとした麗奈も悪いのだとはっきりと言った。

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