第314話:鍵の在り処
「はー。怖かった」
「ラバレルさん、久々に会ったけど迫力ある人なのは変わらないね」
ディークには覇気がなく、ランセは久々に冷や汗をかいたと話す。
リーグが起きた後、案内されたのはディーク達の居る部屋だ。お腹が空いていたなと思えば、ディルベルトが既にリーグにと果物や肉料理を用意していた。
「何があったの?」
「ディークさんの母親に叱られていたんです。お墓の前でなんてことしてるんだって」
「ごめんなさい……」
思わずリーグが謝ると、ディークは「気にしないでー」と返す。
「僕が連れて来たし、その場で行ったのも僕。全面的に悪いから良いの。君等が謝る必要はないよ」
「う、でも」
「良いったら。次言うと怒るよ」
「……ありがとう、ございます」
またごめんと言いそうになって、リーグは慌ててお礼を言った。
前にゆきと麗奈に言われた事を思い出す。謝るよりもお礼を言われる方が良いのだと。チラッとディークの方を見れば、笑顔で頷かれた。
なので、今の対応は良いのだとホッとする。
「あぁ、起きられましたか。ご気分はどうです?」
そこに凛とした声が聞こえ、リーグは振り向いた。
藍色のドレスを身に纏い、肌が出ている所には龍の鱗が見える。そして顔立ちがディークに似ている所から自然と母親なのだと理解する。
「ふぁ、ふぁ……」
大丈夫ですと言いかけて、自分が食事をしている途中だと気付く。頷きながら、急いで食べるとそんなリーグの姿がクスクスと笑われる。
「ふふっ。そんなに慌てなくても平気ですよ。お口に合ってたようで何よりです」
せめてもの返事をしようと、大きく頷く。
その反応に、何故だか彼女は嬉しそうにし頭も撫でられる。見ていると幼いディークと被るようで、母性本能と言うべきか、庇護欲と言うべきか守りたくなるそうだ。
ディークもあの頃は可愛かったと懐かしまれ、本人前によく言えたなと呆れた声が漏れている。
(騎士ですって言い辛いなぁ)
目を少し泳がせつつ、食事に集中する事にした。
チラッとディークの方を見ると彼は無言で首を振った。リーグが騎士なのは知っているが、恐らく言っても説得力ないという事だろう。
「ディーク。貴方に言われて書庫を調べましたが、それらしい資料はなかったわ」
「そっかぁ……。親父の隠し部屋的なのない?」
「知っているならクーヌじゃないの?」
「あー、そう言えば」
2人に見られ、クーヌは分かりやすくビクリと体を震わした。
無言で首を横に振り自分でも知らないのだと告げる。しばらくじーっと見ているも、彼の反応は変わらない。
「……隠してるって訳じゃないね」
「嘘を言う訳がないでしょう!?」
もう涙目になっているクーヌが少し可哀そうに見えた。
その間、ディークの母であるラバレルはランセに続きを話していく。
竜魔族の国の成り立ちはありつつも、この世界自体の創造となると話が違ってくる。
どこかしらに神の力があるのだろうが、今までそれを感知した事はないのだと言う。
「ちなみに創造主様はどんな姿だったんですか?」
「見た目は成人男性です。目の色が虹色でしたよ」
「……虹。始まりの魔法と同じ、と」
「性格はムカつくんですけどね」
「貴方にそんな事を言わせるんですか……。それは酷い神様ですね」
ディルベルトは思わずそれ良いのかと言いかけて飲み込んだ。
ディークは未だにクーヌの事を尋問しており、リーグは食事がひと段落して落ち着いてる。特に止めるでもなくそのまま見守っている状態。
ラバレルは少し考えた後、別の方法を取ると言いその場を後にしていった。
意外に協力的だなと思っているとディークは「僕が話した時もすんなりと納得してたー」と言っている。
「いや、確かに僕の考えとかを言ったけど……。結構、協力的でこっちもビックリしてるんだよ」
「今まで坊ちゃんがダラダラしていましたからねっ。やる気があるのは良い事だと思ったのでは?」
「へぇ、じゃあクーヌ。……その生意気な口、今から塞ごうか」
「ぎゃあっ、ま、待ってください、坊ちゃーーん!!」
ディークの攻撃から逃れる為、窓から脱走してそのまま叫びながら爆走していく。
ランセは特に止める理由もないのでそのまま放置。リーグの様子を見て、回復しているのを確認しディークと戦ってみてどうだったのかと聞く。
「同じ属性使っているのに反則って感じ」
「ま、そこは経験だからね。この魔界も、強い魔物は多くいるし。全部を奪う必要もないしね」
「そう、なんですね。そう言う被害を食い止めるのも、魔王の仕事なのですか?」
「そうとも。あと一番は、強い魔物が居ると防衛の時に良いんだよ。強いって事は、自分の縄張りにさえ入らなければ手は出してこない。逆に入ってきた敵を排除するのは容赦ないんだけど」
「……その防衛方法は、異世界人の勇者対策と言う事で?」
「うん。その間、国民を避難させたり防衛に力を入れるから持ちつ持たれつの関係だね」
思わず全ての魔物を狩るのだと思っていた。
しかし、それはあくまで強いもの同士だから成り立つ関係性だ。人間の場合、放置すれば問答無用で攻撃されるだろう。
土地を広げようとしたり、新たに国を作ろうとしたりすれば目の敵にされる。この広大過ぎる魔界だからこそ出来るやり方だと思いこれを採用させる訳にはいかないなと思う。だが、近い事は出来るだろうと思案するディルベルトにランセはヒントになればいいよと言って出ていく。
歩きながら考えるのは、神へと通じる為の扉。
扉を見付けるにしろ、鍵を見付けるにしろ物がないと証明すら出来ない。今までの事を考えていく。
麗奈達がこの世界に来て、やってきた事。関わってきた国の数々と触れ合った人々。そうしていく内に、ランセはピタリと歩みを止めた。
「麗奈さんと合わせれば7人、か……。今までにこんな人数は来てた事があったか?」
過去に異世界人が来た記録はあれば、それは数百年に何度かだったはず。逆に言えば、今のこの時代にそれだけの異世界人が同時に現れたという例はない。
「……そう言えば、虹は7色から来ているって前に麗奈さんとゆきさんに聞いた気が」
他愛のない話。
しかし、彼女達が不意に言った事を思い出す。虹の色は、見える国によってその見える種類と数が違うらしい。
麗奈やゆき達の居る日本と呼ばれる国は、虹の色は7色位に見えるらしい。他の国がどんな見え方をするのかまでは分からない。虹の色の数と今来ている異世界人の人数を思い出していく内、ある事を思いつく。
「予想だろうと何でもいい。とにかく、ギリムに確認だっ」
そう言って彼は、ギリムの治める国に行き執務室へと駆け込んだ。リームが制止しているが、それ無視して飛び込む。
「ディークに続いて今度はランセか。何でそう落ち着きが」
「鍵は異世界人が持っているんじゃないの?」
「……何の話だ」
「麗奈さんとゆきさんから聞いてたんだ。自分達の国から見える虹は7色から成り立つって。創造主の瞳の色が同じ虹だ……。創造主が異世界人を選んでいるのなら、その選ばれた異世界人は共通して鍵を持っているんじゃないの?」
「だが彼女達にそんな異物が入ったなどと言った報告はないぞ」
「今思えば不思議だったけど。同じ場所に、1か所に固まった事はないんだよね……彼女達」
完全に揃った事はない。
麗奈とハルヒが行動を共にしている時は、大体はゆきはお留守番をしている。そして、あの大戦では捕らわれた2人を取り戻す行動を起こしているが、全員がちゃんと揃った事がないのだと言い切る。
「呼ばれた人数が同じ場所で居る事。それが、鍵の出現になるんじゃないかって思うんだけど」
「……なら1人欠けてるな。探している人物と合わせての人数だろ」
「でも麗奈さんが居る所は、創造主の所だ。カウントされるのかな」
無言になるギリムに、ランセは自分の考えが正しいのかも知れないと考える。今にして思えば、麗奈達は交流はしていても全員が揃う事はなかった。
武彦や誠一は、同年代の方が良いと考えて集まろうとはしなかったし裕二もそういう考えはあった。呼ばれた異世界人が揃った時、何が起きるかを知らない。
だから試すのだと引かないランセに、ギリムはリームへと視線を合わせる。
それだけで何をすべきかを理解したリームは、ハルヒ達を集める為にとギリムの執務室へ来るようにと連絡をしていく。
「バラバラに動いている者達をここに集める。ランセの予想が当たっているのか、検証しようじゃないか」
不敵な笑みをするギリムに、ランセは自分の予想が当たっているようにと祈る。そうしている内、ハルヒ達が執務室へと集まってくる。
彼等が集まったのを確認したギリムは、すぐにラーグルング国へと報告。少ししたら武彦と誠一も魔界に来るという事で、ディークが「武彦さん来る⁉」と興奮気味にしかし嬉しそうな声色で聞いてきた。




