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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第29話:本部襲撃~禁忌の子供~①

ゆきサイド、麗奈サイドと分けて書かせていただきます。


 魔法協会は本部以外に、いくつか点在している支部がある。大体は国家のお膝元が多くギルドと扱いは同じになるが国から離れた国境や村、街などにも支部が多くある。最低限、人の出入りが出来る位の建て物があればいいのだ。



<………が……い……!!>

「?今、通信きてますよね」



 魔法師の受付をしていたコレットは不思議そうに同僚に話しかけた。受付とはいえ彼女も魔法師の1人であり、また身寄りのない女性だ。魔物に村を襲撃され、自分だけが生き残り自分も死ぬんだと思った時に助けてくれたある魔法師。


 彼は一瞬で魔物を倒した。たった1人で……。1人であれ程の属性を扱う人は見た事がない、命の危機に晒されているにも関わらず彼女は思わず(綺麗……)と思ってしまった。


 あんなに鮮やかに、しかし確実に魔物を葬っていくあの人。葵い髪に黒のローブ、金の鳥が施された刺繍。その人は……幻想的な雰囲気で魔法を扱う為に生まれてきたのではないかと、思わせる位に綺麗だった。



(名前、言わなかったなぁ……聞かなかった私も悪いんだけど)



 ふと、思う。あの時、助けられ魔力があるのが分かり彼はそのまま本部へと自分を案内した。家族を失い、住む場所もなく天涯孤独となった自分。

 すぐにお礼を言い名前を聞けば良かった。でもいきなり1人になり、どうすれば良いのか分からず悲しみに暮れるコレットはその言葉も出てこなかった。ただ、ただ、魔法を扱うあの人に憧れもあり自分が近付くにはなんとなく躊躇していたから。



 それから5年経ち、自分も23歳になった。同じ魔法師だから、すぐにでも再会する。と思ったのがいけなかった。その人はあれ以来。本部に来る事はなくお礼が言えずじまい。本部での仕事も一通り覚え、支部へと異動し受付嬢として働くようになって早1年。ギルドが建たない所ような、辺境の村であるこの場所では、魔法師の支部がギルド代わりにもなっている。




「……そうね。でも、こんなに切羽詰まったのは初めてよね」




 同僚のミレーユも不思議そうにしていた。本部と支部を繋ぐ通信の手段はラーグルング国の技術をそのまま使っている。理事になったセルティルが、確立させ国に貢献し許可なくそれを使っている。実際、セルティルがラーグルング国の人間であるのを知っているのは夫のイディールのみであり、前任者のアークネスはそれを含めて知っており周りに伝える事をする前に亡くなったのだ。


 本部と支部に特別な道を作り魔法師と言う限定で通れるようにした。それは魔力持ちの子供を私利私欲で捕らえようとする貴族達や商人達を未然に防ぐ為であり、それに協力し本部に乗り込もうとする連中から守る為もある。




<緊急!!!支部は直ちに『道』を塞げ!!!本部が襲撃を受けて……っ!!!!>




 ドカアアン!!!と何かが壊れる音と悲鳴と逃げろと言う叫び声。それ以降の通信はなくなり、シン……と静まり返り聞いていた魔法師達は顔を青ざめすぐに長が道を塞ぐようにと部下達を急かす。



「は、はい!!!」



 それにいち早く覚醒したコレットはすぐに本部との道を作っている黒い水晶を台座から外す。セルティルが作った特製の黒い水晶。それを本部、支部とを結ぶ為の点とし、線としての役割を台座が担う形になる。




「………っ、んな。そんなっ………!!!」




 ガクリ、と膝が落ちその場に泣き崩れる。長が言ったのは間違ってはいない。襲撃と言う事は道として成立している多くの支部にも、被害がこうむる事を意味し自分のような者達を増やす形になる。


 大国なら魔物が来ても防衛が出来る。だが、ここは……。辺境な村では満足な武器もない。ここの魔法師達は攻撃よりも補助や治癒での魔法が多く、攻められてしまえば後に回ってしまう。



(っ、私、みたいな人を増やしたくないのに………!!!)



 助けてくれたあの魔法師のような大きな力を、持っている訳でもない自分にはただ祈るしか出来ない。道を閉ざした今、本部に残っている人達の安否を心配する。



 その通信から復帰し、再び本部への道を確立させるまでにそこから12時間程掛かる。生きた心地がしない彼女は、ずっと神様に無事でいるように……と祈るように願いを込めた。



======



「……リーナさん、ここに居て」

「団長?」



 本部に魔物が襲撃されるほんの数分前。ピクリ、とリーグは嫌な気配を感じすぐに副団長であるリーナにお願いをする。その雰囲気だけでただ事ではないのを知り自分も、と申し出る彼にリーグは突っぱねた。



「僕だけで行く。気のせいかも知れないし、陽動だと困るしね。……ゆきお姉ちゃんの事お願い」

「…………」



 チラリ、とゆきが子供達と遊ぶのを見る。麗奈は朝からランセと共に魔法師達が消えた村に向かいそこにラウル、ユリウス、キールも向かってる。ここに戦力として居るのは自分を含めて団長とレーグのみだ。



「お姉ちゃんには………まだ、色々と早い気がする。麗奈お姉ちゃんみたいに戦い慣れてる訳でもないし、ショックを受けるとさ。あの笑顔見れないの、困るんだ」



 ぎこちなく答える。ゆきは魔物退治に慣れ始めたばかり。麗奈のように中級クラス、上級クラスの魔物を退治出来る程の立ち回りを出来ないし、魔法を習い始めたばかりの彼女には難しいのも分かっている。



「…………分かりました。団長、お気を付けて」



 その意図をすぐに理解出来たリーナ。それに頷き「行ってきます」と笑顔で本部から出て行く。向かう先は本部からかなり離れた場所。普通、魔法師がここに来るならすぐに本部の中へと繋がる仕組みだ。



 リーグが感じた微量の魔力の乱れ。感知はリーグとキールが高いのを、レーグから話を聞かされ魔力量も騎士団の中ではリーグが一番上であり、キールと似た程だとも。



(レーグさんに聞かれたけど、僕は……母親は殺されたし、父親の顔なんて覚えてない)



 素直にそう言った。聞いたレーグは目を見開き、すまないと謝った。気にしてない、と言いその話は終わったがリーグの中では引っかりがある。



(……なにか、理由……あるのかな)



 そう考えるもすぐに中断する。ピシピシと、何かが割れるような砕けるような音が聞こえ警戒を強める。



「………あれー、おかしいな。()()()()()()()?」




 嘲笑うと空間に亀裂が走る。そこから感じる魔力に背筋が凍るような感覚に陥るも現れる敵を見据えて睨む。巨体を誇った鬼のような顔の魔物が6体、それを引き連れるようにして現れたのはくせっ毛の金髪、青い瞳の子供。チェックのズボンにワイシャツを着た軽装で現れ場に相応しくないがそのワイシャツには所々、赤黒いものがついている。



(魔族……。レーグさんなら、必ず気付くし魔法師の人達もすぐに分かる)




 魔族の魔力は魔物と同じでドス黒い。


 ねっとりした気持ち悪い感覚を感じればそれは魔物だ。魔族はそこに嫌悪感を抱かせ人の感じ方では吐き気にも似た感じのプレッシャーになる。魔族自体、人間達の前には滅多に姿を現さない存在でありひとたび、姿を現せば国を滅ぼすだけの力を有し蹂躙する。

 その対策で各種族達が協力して作り上げた精剣。それが作られるきっかけにもなっている存在。




「……君、上級クラスの魔族なんだよね。ここに何の用?」

「え」



 言われた方はキョトンとし「あ~あ~知ってるの~」とガッカリしたようにうな垂れる。突然の事に一瞬でも警戒を緩めようとした自分を叱り、隣に横たわっている青いフードの人物を見る。


 フードが全体に被り顔の全容までは分からない。覗かせている髪の色が白と言うだけで男性なのか女性なのか分からない。死体を連れている訳ではないのはすぐに分かる。


 体が上下にゆっくりと、動いている事から息をしているのが分かるからだ。



「あー、君、もしかしてラーグルングの?」

「……だとしたらなんなの」

「じゃあ仕方ないね。僕等の事を知っても不思議じゃないし、君等以外で生き残ってるのはそんなにないし……目撃者は全員殺してるしね」

「何のためにここに来た」

「ん~~。気まぐれ?」



 は?と思わず言いかけた。気まぐれ……と言った彼はこちらの反応が不思議なのかキョトンとした。そして笑みを浮かべ「サスクール様からの命令じゃないから平気平気♪」と情報を伝えて来る。



(サスクール……?)

「ウチの魔王様ね、今は休眠中なんだよ~。だから命令は下せるけど体が全く動かないんだって。だから君等の所にもすぐに滅ぼしに行きたいのになかなか行けないんだ」



 だって、魔王である彼が動けないなら部下の自分達も動かないし!!と続けて言い剣を握る力をさらに込める。およそ8年もの間、魔族達の攻撃があまりなかったのはなんらかの事情で動けずにいた事、と見解していたイーナス。


 それは当たっていた。部下としている自分達が動けるのは、その魔王が動けるようになったから、自由に活動して良いのだと。




「暇つぶしだよ。ここは元々、僕等が感知出来ないように『異空間』を作り出して隠れてるんだもん。

魔法を扱う奴が減ればそれだけ抵抗出来なくなるよね!!!」

「っ!!」



 風の防御魔法と剣を使って右側をガードした。にも関わらず上空に吹き飛ばされたのと同時に、四方を別の魔物が囲い妖しく目が光る。




「こ、っの!!!」




 咄嗟に自分の周囲に風を巻き起こす。近くに寄っていた魔物は引き寄せられビームを放とうとする前に目を切られる。



「ギシャアアアアア!!」



 目を切られた事で、溜めていた力は消滅しすぐに自分に返ってきた。放たれようとした力はそのまま膨大な爆弾となり破裂と同時に血の雨が降りそそぐ。

 風を使って足場を作りそのまま目標に向う。このやり方は麗奈が空中に結界を張り、移動する手段としてよく使っている。空間を固定する感覚、との事で小さい立方体を作るイメージとして彼女はよくリーグに見せてくれた。ただ、見ていただけだが、こんなところで上手く行くとは思わなかったと心の中でそう思いながらも目の前の敵に集中する。



「おー凄い凄い。風を扱うんだ。やっぱり慣れてる奴は違うね」

「……っ、うぐ………」



 横にいた人物が目を覚ましたのか苦しそうにうめき声を上げ、フラフラとなる頭を無理矢理に覚醒する。自分は本部から言われた異常な魔力を示した村にが派遣されていた筈だ。


 その村に付いた途端、少年が「魔法師さん、寝てて?」と無邪気に言われ半殺しをされた。そこまで記憶が蘇り自分の状況を確認する。同時に村ではなく、魔法本部に来ている事に驚きを隠せなかった。



「っ、平気、ですか」

「………君、は………」



 見れば自分よりも幼い少年が大人の自分を抱えて走っていた。道としている支部からの魔力は無いのを感じ、この本部は閉じ込められたと言う考えに至る。魔物が次々と湧き出て来るこの状況、どうやら自分の所為で本部への道を開き魔物を招き寄せてしまったのだと分かり「すまない……」と小さく呟く。



「あー、君はもういいよ。ここまで道案内、ありがとうね」

「えっ……」



 ズドッ、と何かが自分を貫いている。子供の手だ。細身の白い手、それが魔法師の彼の心臓を貫きそのまま倒れ動かなくなった。リーグは急激に来たお重さに足がもつれて倒れる。それを滑稽そうに笑い「ざまぁないな」とクツクツと笑う魔族にリーグは構わずに駆け寄る。



(っ、嘘だ、嘘だ!!さっき、さっきまで……生きて、たのに……)



 血にまみれるのも構わず、抱き上げるも目は既に生気を失い体は冷たくなっている。目の前で、奪われるのを……防げなかった。あの魔族はワザと彼を狙った、自分ではなく。




「あれ~もしかして、人が死ぬのは……これが初めてとかそんな感じ?いやいや、君も少なからず殺してきてるだろ?」



 どんなに洗っても血の匂いは消えてない。と、そう目で訴えられビクリとなる。それで反応が遅くなり振り下ろされた魔物の攻撃を避けられず肩を傷付けられる。



「っ……」

「あ~、君のそれ見た事ある。………そう、君『禁忌の子供』か」



 肩から覗かせるのは三又の竜の印。肩から胸にまで続くその印、誰にも見られたくないから自然と避けていた。トースネ、フィルだけには見られてしまったが気にした様子もない2人にほっとなる。



「人を恨むのに何で守ろうとするのかね」




======



「リーグ君……お願いだから、止めて!!ヤクルが、ヤクルが死んじゃうよ!!!」

「………」




 ゆきの悲痛な叫び。炎と風がぶつかり合い風の刃がヤクルの体を傷付けていく。足を庇いながら戦っていたヤクルは再度同じ場所に傷を作り、動きが鈍くなった所に剣が振り下ろされる。




「団長!!」




 ピクリと一瞬だけ動きが止まるも、黒と風の刃が周囲を巻き込むように衝突する。踏ん張りがきかないヤクルはイーナスに支えられ熱気を感じた。フーリエは巨体の魔物を燃やし尽くす。苦痛に痛みに訴える魔物に、共に苦しそうにする同僚に先輩に、自分を厳しくしてくれた上司にを容赦なくふり下ろされ絶命する。




「…あーあー。せっかくの再会なのに、酷い事するね」

「黙れ。死んだ者を魔物と同化させたお前に言われたくない」




 寄って来た魔族を振り返りもせず炎が襲う。自分に当たる前に消滅させ、迫る刃に数歩下がる。ポタリ、と自分の頬に傷が付いたのか血が流れ落ち思わずニヤリ、となる。相手はそれを見てさらに怒りを滲ませ殺気を込める。




「ははっ……!!!悪い悪い。ラークの言ってた通り加護が強いから楽しめるなって。魔法師全員潰して抵抗させないまま殺したいけど、やっぱり刺激欲しいなーとか。

その点、君等合格点だよ。殺すのも楽しいけど、蹂躙するのも楽しいんだよ」

「彼はどういうつもりだ」

「彼?」




 離れた所では風と影がぶつかる音がする。目は怒りに燃え、肩から血を流しながらも魔力を開放し続けるリーグ。

 その肩に刻まれたと思われる印。二つ頭の竜が小さな輝きを放ちさらに力の増幅を感じさせる。魔族はそれを見て「あー、あれ」とクツクツと笑う。




「人間の事憎んでるのに、守ろうとするからね……。おかしな行動してるから真っ当にさせたよ。本来の、彼自身が奥底にしまってる憎悪。それを引きずり出したに過ぎないよ。

『禁忌の子供』なんだがら誰も悲しまないよね?」

「禁忌、の……子供?」

「魔女と人間の子供。あの印が無くなれば、彼はそのまま死ぬ。その暴走は凄まじいよ、ここなんて跡形とも無くなくなる」




 印が、また減る。ついに竜の頭は1つだけになり、それに合わせてリーグの魔力が反応する。全てを飲み込む、嵐となって周りを破壊させる。



 本部の、崩壊が始まった。同時にリーグの命も少しずつ、確実に消えていく。

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