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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第311話:風の扱い方


「ディスパド。君の予想通り、遅くなったよ」



 ランセは懐かしみながら、執事のクーヌから受け取った好物である酒を墓石にかけた。彼の墓は、ディークが居る城から少し離れた場所にあった。


 決して寂しいような場所ではなく、その墓石の周りには花々が咲いている。ドラゴンにもなれる彼は、あの姿からは想像がつかない程だが自然を愛している人物だった。優しくも自身を律し、だかといって何にでも厳しいという訳でもない。

 柔軟な思考を持ち、来る者を拒ままない大らかさもある。その柔軟な思考は、息子のディークにも受け継がれておりますます親子だと思わされる。


 ディスパドの墓石の前に、ランセは向かい合わせのように座る。体も大きい彼は、同じように座っていても座高が高い。とはいえ、自然と威圧しているような感じでもなかった。

 麗奈と同様に慕われやすいのかも知れない。


 竜魔族の王にして同じ魔王の中では交流する機会が多かったと思い出す。



「人間への理解もあった君だ。麗奈さんやユリウスと会えば、また違った交流の仕方も出来ただろう」



 そんな未来はないが、ついそう思わずにはいられない。

 息子のディークはディスパドと同じように、人間への理解もあるし私怨では動かないのも確認済みだ。


 ふと、サスティスから言われた言葉を思い出す。

 行動を起こすのが遅い、と。



「分かってるんだけどね。サスティスが死んで、国もなくなったと聞いて私は動揺したんだろう。だから……臆病になってしまった」



 ティーラの前では言えない言葉をポツリと言う。

 それはランセ自身にも気付かない程の本心だったのかも知れない。ディスパドが恐れたのは、目的を達成してからのランセの今後もあったのかも知れない。


 だからこそ、彼は手伝えない事への悔しさと魔王としての役割の板挟みになった可能性もある。もう、その本人は居ないから確かめようもないが。



「今度ここに来る時には、私が探していた2人を連れてこよう。約束する……。そうする事で、復讐を終えた私にも目標が出来る。君が心配するような事にはならないと約束しよう」



 あまりしんみりして、長く居るのも申し訳ない。そう思ったランセは、立ち上がり城へと戻ろうとした時だった。遠くから何やら雄たけびにも似た声が発せられた。



「お止めください、坊ちゃん!!」 

「うるさいな。親父は大人しく寝てるより、暴れてる方が性に合ってる」

「そういう問題ではないです!!」

「良いの。僕が決めたから」

「ぼ、暴君⁉ 親子揃って、私を困らせるのが好きですか!!!」

「はいはい。そうだねー」



 ガリガリと引きずられるような音がするのは、執事のクーヌが全体重をかけてディークを止めているからだ。しかし、彼はそれに介せずに突き進んでいる。今は、腰の辺りを掴みながらも引きずられているのでいずれば力負けしてしまう。


 クーヌだってただ全体重をかけている訳でもない。

 自身に身体強化の魔法を施しながらの全力での拒絶。だと言うのに、ディークは無視して進んできている。

 ただ真っすぐに、こちらに向かっている。



「一気に騒がしくなったね……」



 呆れにも似た声色で発し、どうしたんだろうとディークに聞いてみる。

 ディークの後ろにはリーグとディルベルトが付いてきている。2人して微妙な顔をしているのは、恐らく執事の行動を最初から見ているからだろう。

 


「後から来るとは思っていたけど、一体どうしたの?」

「ランセ様!! 坊ちゃんを止めてください。旦那様のお墓の前で稽古しようなどと言うんですっ」



 必死で止めている様子から察するに、ディークの突拍子もない事を考えたのだろうと思う。

 こういう所は、ディスパドにも少しあったなと今更ながらに思い出す。



「稽古……。何で急にそんな事を?」

「僕も親父も風の適性が強かったからね。同じような人が居たら見付けて、試したくもなるでしょ?」



 同じ属性同士だからこその力比べといった所だろうか。

 そう思ったランセは口を出すのは違うようなと思い始める。だが、クーヌは逃さない。自分の言う事が聞かないのであれば、魔王として先輩であるランセに止めてもらおう。


 目がそう訴えているのが丸わかりだ。



「私は元だよ」

「力は健在のまま。むしろ旦那様と居る時よりも更に力が強くなっているのは分かっております!!」



 だから止めて!! と涙ながらに言われるが、ディークはその間にリーグに墓石へと案内している。こういう自由な行動をするのも、親子だなと思いつつもランセは要望を断り続けてる。



「ディスパドさん……。強い人だった?」

「親父は強かったよ。幼い僕が何度も向っても勝てない位にね。ついでに加減もしないよ」

「今も勝てないと……?」

「んー。ちょっとは傷は付けられると思うけど、まだまだだよ。親父の勢いに皆が付いていきたいと思わせる位には、迫力のある人で今も憧れで目標の人さ」



 その時のディークは、嬉しそうに語る。

 そこに悲しみを宿している訳でもなく、ただ純粋に自分の父親について話してくれた。頑丈な体がドラゴン譲りなのもあるし、魔族としての力も備わっていたからか闇の魔法の適性はかなり強かった。単純な力比べならギリムにも負けない程に。


 そんな誇れる親父で、そしてその息子である自分は生まれてよかったと語られる。

 ディークの言葉にチクリと胸が痛くなる。



(僕の父さんは……お母さんと僕の事を守らなかった酷い人だ)



 冒険者なのは聞いていた。

 しかし、リーグが生まれてから父親と過ごした記憶はかなり薄い。もう面影すら完全に思い出すのは無理だ。

 


「さて、と。親父の事を語るのはこれくらいにして……。君等の魔法、見せて貰おうか」



 さっきまでの嬉しそうな声色はどこへ行ったのか。発したプレッシャーに思わずディルベルトは自身の武器を握る。リーグは静かにディークへと向き合う。



「ランセさんと居て良かった。じゃなきゃ、こんなプレッシャーを受けても冷静じゃいられなくなる」

「僕は魔王の中では一番の弱者だよ。そんなひよっこに警戒しなくてもいいって」



 そう言いながらも、ディークは腰に下げている2本の剣へと手を伸ばす。

 真っ青になりながらもクーヌは2人の間に入る。ディークが「どいて」と言うが退かない。



「クーヌごと切るよ」

「旦那様のお墓の前ではお止めください」

「寝て退屈してるであろう親父に、僕からの贈り物だよ。今、僕は人間と交流していて特訓もしてるってね!!」



 ディークの姿が消え、クーヌの背後で風が叩きつけられる音が聞こえた。

 墓を荒らされると青ざめるも、ランセが既にその周りに結界を張り被害を抑えている。ディークは自身に風を纏わせ、リーグとディルベルトへと突進をしている。


 だが、ディークの全身から剣から暴風ともとれる勢いにより、同じように風を纏っていた2人は簡単に吹き飛ばされる。



「どうしたの。少しは耐えてよ」

「無茶を言いますね」

「く、上に行くしか」



 進路を空へと定めるも、予想されているとばかりにディークが陣取りつつリーグへと風の刃を叩きつける。ディークと同じように剣に風を纏わせ、自身にも身体強化をかけ続けている。そして、キールから教わった防御でいくらかは軽減された。


 その筈なのに、威力が強すぎるのか放たれた風ごとリーグは地面にめり込んだ。

 どうにか気絶はしないで済んだが、すぐに次の攻撃が来る。そう思っていても、体が痺れた様に動けない。



「くぅ……。威力、強すぎ……」

「リーグ君!!」



 上を陣取るディークは、動けないリーグに狙いを定めて斬撃を飛ばす。受け止める為にディルベルトがリーグの前に立ち、刃を受け止める。受け止めてはいるが、無数の小さな風の刃が2人の体を傷付けていく。

 それをディルベルトが纏めて吹き飛ばす。自身を台風の目のごとく、周りの風をも巻き込みつつディークへと斬撃を飛ばした。



「やっぱシルフの影響か。思った通り」



 ディークはその斬撃を1本の剣で受け止めつつ、簡単に受け流す。ディルベルトもリーグも風の魔法を扱って日が浅い訳ではない。幾度となく魔物と戦い、時には魔族にも対応して見せた。その筈なのに、ディークという更なる強者の前では赤子同然。



「懐かしいな。シルフが大精霊になる前に、僕は彼に育てられてたんだ」

「へっ」

「はい……?」



 思わず呆気にとられ、どうにか反応を返す。

 今、サラリととんでもない事を口にしたのでは? そう思わずにはいられず、クーヌを見るも彼は無言で首を振った。


 どうやら彼にとっても新事実だったようで、かなり驚いている様子だ。



「やべっ。これは内緒だった……。ごめんごめん。シルフが人間と契約した名残りがあるから、すぐに分かったんだ。同じ風を操る者同士、楽しい交流をしようじゃん♪」

「すみません、意味が分かりません」



 もしや自分達が選ばれたのはシルフ絡みでもあるが、同じ風を扱うからか。そう思いつつもディルベルトは素直に返す。

 ギリムも突然の爆弾発言に驚いたが、ディークにもあるとは思わなかった。

 その中でも、ランセは自分達に色々と合わせてくれているのだと思わずにはいられない。


 大精霊シルフと魔王ディーク。

 接点がない筈の2人に共通しているのは同じ属性を操るという事。ディークは懐かしむように、リーグとディルベルトに幼い自分のある出来事を語ってくれた。



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