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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第310話:リーグの決めた事


 魔王ディークがラーグルング国へと行っていた。そうとは知らないハルヒ達だったが、彼から集まっている面々を聞き元気でやっていると分かると安堵する。すると、そんな彼からハルヒ達にプレゼントとばかりにどら焼きが渡された。



「武彦さんがね、いろんな味を用意してくれたんだ。アレンジが出来るって言ってたし、代用できる材料もあるから今度作ってみようかと思う」



 ずっとニコニコのディークに、ハルヒ達は武彦の行動を察する。

 麗奈の祖父なのだ、彼も誠一と同様にいつの間にか魅力に落とされる。それは種族を問わないのだろうと誰しもが思った事。



「やっぱお前等、こえーよ色々と」



 どら焼きを食べながらティーラがぼやくようにそう言った。



「悪いけど、僕達全員がそうって訳じゃないからね? れいちゃん達くらいなもんだよ、そんな事をするの」

「いや、麗奈だけじゃなくてお前等全員にそう言えるって俺は言ってんの」

「朝霧家だけだよ、あんなすぐに仲良くなれるの!!」



 反論するハルヒだが、ティーラからすればお前もだろうと言わんばかりに睨まれる。

 一方でディークは風の魔法が扱えるディルベルトとリーグの2人を連れて自分の国へと帰る。それに同行したランセは、ゆき達に2日程で戻る事も告げた。


 部下のティーラも一緒かと思ったが、そうではない。思わず全員がティーラへと視線を向ける。一方で、向けられた側のティーラにはその理由が思い当たる。



「先代魔王に挨拶するんだろう。ディーク様の先代は父親だからな。……あの人とも仲良かったよ」



 キールがランセから時々聞いていた親友の魔王の事を思い出す。名前は知らないが、懐かしむような彼の声色から大事にしてきたのは明白。

 そして、その親友の国が最初にサスクールによって壊され自分の国さえも失くした。

 復讐したいと思ったのは、自分の為でもあるが親友の為なのかも知れないとキールは思った。



「アルベルトさん、フィフィルさん。どら焼きは美味しいですか? 多分、初めて食べたかと思うんだけど」

「フポポ~」

「ポポポ」



 ゆきが夢中で食べているであろうドワーフに聞く。

 2人共、嬉しそうに答えている辺り好評なのが分かる。顔の周りにあんこがついており、咲とゆきはそれぞれ顔を拭いていく。


 2人でどら焼きを1つとして渡しているが、このままいけばすぐに終わってしまう。

 見かねてため息を吐いたシグルドが自分のを半分にして渡す。するとすぐに嬉しそうに声をあげて爆速で食べていった。



(清さんからどら焼きの作り方は教わってるから、時々作ってみようかな……)



 久々に食べた清の手作りどら焼きに、ゆきはそう思った。

 魔王ディークが代用できる食材を探すと言っていたので、時間を作って彼の国に尋ねてみるもの良いかもしれない。

 そんなゆきに、咲が小声で話しかけてきた。



「ゆきちゃん達は、向こうでよく食べてたの?」

「うん。武彦さんが契約している清さんが居るんだけど、彼女は狐の妖怪でよく人に化けてたって聞くよ」

「へぇ、妖怪……。本当に居るんだ」



 この異世界に来てから驚く事が多い咲は、自分達の現代に妖怪が実在している事に更に驚く。

 なんせ陰陽師も、想像上のものかと思っていた位。風水などでは出てくるが、そこまで意識を向いていなかったのもある。


 一方でゆきは清が元気にしているのだと分かり、こうしてはいられないとどら焼きを頬張る。慌てたような風に見え、ヤクルが水を用意。それを一気に飲み干してから気合を入れるように彼女は資料室へと再び籠る。


 もう一度、いや――親友との再会を果たす為に彼女は行動を起こす。

 そんなゆきの行動に触発されたように、キール達は各々で出来る事とやれる事を探してそれぞれに動いた。



====


 一方、魔王ディークに案内されたディルベルトとリーグは呼ばれた目的が分からないでいた。

 しかしディークが武彦からお土産として預かったどら焼きを渡せば、すぐに食いついたのはリーグだ。



「武彦さんから預かってきたよ。好きなの選んで」

「わーい‼ 武彦さんからのお土産なら味は保証付きだね。じゃあ……僕はずんだにしようっと♪」



 思わずディルベルトは「え」と声に出していた。

 目的も分からず、自分達が選ばれた理由さえも分からない。だと言うのにリーグは嬉しそうにどら焼きを食し笑顔だ。

 自分も食べるべきだろうかと思ったディルベルトは、リーグとは違う腕がどら焼きへと伸ばされているのを見て更にギョッとした。一緒に付いてきたのは魔王ランセであり、彼は自分が好きな味だというあんこを手に取っている。



「……」

「どうしたの? 早くしないと、ディークとリーグの2人に全部食べられるよ」

「え、あ……はい」



 良いのかと聞こうとして、その言葉を飲み込んだ。

 とりあえずランセと同じあんこを手に取ろう。丁寧に包装されたどら焼きには、しっかりと何味なのかと書かれているので間違う筈もない。


 良いのだろうか、これはと思うが見ればリーグもディークも嬉しそうに頬張るのを見てしまえば自分が気を張りすぎなのだと分かる。下手に緊張しすぎるのも止そうと考え、もう考えるのを放棄した。



「クーヌ。ランセさんに親父の墓を案内しといてー。あとで僕も行くから」

「かしこまりました。ランセ様、何か準備をなさいますか?」

「平気。食べ終わったら案内して欲しい位だし」

「では……旦那様が好きな物を用意してまいります」



 いつの間にいたのか、執事は気配なく現れている。

 そうした準備をクーヌが終え、ランセは案内されるようにディークの父親の墓へと向かう。それをリーグが見てディークに質問した。



「お墓……。勇者との戦いで死んだって言ってたけど、体はあるんだ」

「まあね。戦いで全てが消える訳じゃないし、命を代償にしても体は残るんだ。多分、証みたいなのを残したんじゃないかな」

「証……」



 ピタリとどら焼きを食べる手が止まる。

 ふと思い出すのは、自身の母親の事。母親は自分を庇った所為で亡くなり、その死をきっかけにリーグは魔法を発現させた。

 怒りだったのか悲しみからだったかは、今でも分からない。あるいは自分が守れなかった悔しさから来たのかも知れない。


 家を燃やされ、帰れないと悟った彼はせめてもと母を湖の近くに埋めた。

 精霊が居るとされている聖なる木の付近に。



「……」

「何か心配事かな?」

「いや……。お墓って、やっぱり近くにある方が良いのかなって」

「僕の感覚的に言わせれば、近くあった方が傍に居るって感じがするかな。実際には居ないんだろうけどさ。でも、そう思っておいた方が自分的にもプラスに働くと思わない?」

「プラス……」

「そう。僕は親父の墓に報告もしてるんだ。ギリムさんに頼まれた事、ランセさんと会えた事。君達に会った事とかをね」



 ディークの嬉しそうな声色に、とうとうリーグはどら焼きをパクリと口したまま動かなくなった。

 パクッとしているが、咀嚼しながらでも考える事は出来る。だが、彼はそうしない。それ程までにディークの言葉に影響を受けたのか。


 言葉を発したディークも、黙って食べていたディルベルトも思わず心配そうに見る。



「リーグ君。どうしたんですか」

「……。僕の力不足でお母さんは死んだんだ」



 突然の告白に驚くが、2人は黙ってリーグの言葉を聞く。

 ポツリと自分の過去を言いながら、母を涙ながらに埋めた事を思い出す。あの時は、母を静かに寝させたいという気持ちが強かった。


 今でもそれは変わらない。

 しかし、近くに居るような気がする。そう発言したディークの言葉に、リーグは迷いを見せた。母親を今、自分が世話になっているラーグルング国に置いても良いのだろうか。



「静かに寝させたいって言う君の気持ちは分かるよ。僕も、本当なら親父が戦った場所を墓として建てようかと思ったよ。でもね。その時にクーヌに言われたんだよ。そうするなら、育った場所に埋めたらどうかってね」

「育った場所」

「うん。でも君の場合、それが出来ない事情があるのなら……今、君が居る場所を近くで置ける場所を作れば良いんじゃないかな」

「僕が……居る、場所に?」

「親って言うのは、何年経っても子供が心配なんだよ。きっと親父だって、死ぬ直前まで僕の事を心配していただろうさ。だったら見守れる場所が近くにある方が、向こうには安心じゃないかって思う」

「ディークさんって、不思議な人ですね。ランセさんと同じだ」

「んー。僕はランセさんより年下だからなー。一緒で良いのか?」



 ランセと同じだと言うリーグにディークは困ったように笑う。

 リーグは密かに思った。母が見守ってくれているなら、あの湖でも良かっただろう。しかし、きちんとお墓を建て供養するという行動をしなければと思った。


 今、自分の居る場所を。

 従兄弟が居ると言う報告をしないといけないとずっと思っていた。タイミングは逃す続けてしまったが、麗奈とユリウスと再会してから改めて母親の事を相談しようと思った。


 そう思ったら自然と、リーグもディークの父親が眠る墓へと行っても言いかと聞いてきた。



「いいよ、別に。ふふ、親父に報告する事がまた増えて嬉しいな」



 心からの言葉を聞き、嫌がっているような様子ではない。

 何か視線を感じるなと思い、振り向くとクーヌが中を覗いていた。ピクニックバスケットを手に持ち、リーグ達の会話を聞いていたのだろう。


 その視線には「行く? 行かない?」と訴えているようにも見えディークは笑うしかない。



「声かけてくれればいいのにー」

「すみません。戻った時に会話が聞こえてしまいまして」



 パクンっとリーグは残りのどら焼きを食べきる。

 既に出されていた水を一気に飲み干した。ランセはディークの父親とは仲良しだったようなので、今頃は自分のしてきた事を報告でもしているのかも知れないと思った。



「ディークさん。僕も行きます」

「そうしようか。そしたら、2人には僕の相手して貰うからねー。よろしく」



 ついでなら、親父の墓の前で良いかと言い出すディークに執事のクーヌが真っ青になりながら「ダメです!!」と言う。その返答は無言なので、実行する気でいるディークに「お止めください!!!」と再度叫んだ。


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