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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第309話:変えていける事


 結果として魔王ディークはちゃっかり参加した。

 武彦にどら焼きを貰いつつ、各国の報告を聞きながら魔王ギリムから伝えるべき事もやらねばと思っていた。


 だが、どら焼きの見た目にもその甘さにも感激し味わう。

 自分がここに来た目的すらなんだったか、と既に忘れかけている状態だ。



(あぁ、恐ろしい食べ物だな……)

「そんなに気に入ったのでしたら、作り方を書いたレシピを渡しますよ。アレンジは色々と出来ますし」

「え、良いの⁉」



 ついさっきまで恐ろしいと言ってたのに、アレンジが出来る上に作り方まで教えてくれるとは思わなかったのだろう。秒で目を輝かせ、貰えるものなら何でも貰う気でいるディーク。


 対して周りの要人達は、武彦の話術も含めてディークの反応を観察する。

 魔王ランセという前例が居るが、それでも彼以外の魔王の存在はサスクールが倒されてからはギリムが初めてだ。何の発言がディークの機嫌を損ねてしまうのか分からない。


 見た目は青年のディークはどら焼きを食べてご満悦。

 何かしら目的があったと記憶していたが、それを聞いても良いのかと迷いが出る。



「あ、ヤバいヤバい。ギリムさんに言われた事やらないと、ずっと食べてるだけになっちゃう」

 


 ハッとしたディークはやるべき事を思い出し、急いでどら焼きを食べていく。

 その間、周りは緑茶を飲んだり水を飲んだりしてディークからの言葉を待った。



「えーっと、ここ1週間で分かったのは創造主は独自の空間を持っている事。こっちから干渉するには、準備が必要か鍵を探す事」

「鍵……」



 イーナスは直接、この世界の創造主に会った事はない。

 だがキールから話を聞こうにも向こうは「ムカつく奴」としか教えてくれず、思わずランセにも聞くが彼も同様の事を言っていた。

 

 ランセがそこまで言う事に驚いたが、彼がそんな評価を下す事にも驚いたからだ。


 しかし干渉する事が出来ると聞き、手段さえ知っていれば2人の現状を知る事が出来るのかもしれない。思わずそう期待してしまう。



「あ、流石に鍵の在り処なんて僕も知らないよ。ギリムさんならなんか知ってるかもだけどー」

「魔王ギリムさんは、貴方にとってどんな存在なの」



 ふと零したのはイーナスの本心ともいえる。

 ランセもギリムに対して、かなりの深い恩があると伺える。彼がギリムと話している時、楽しそうにしていたのをイーナスは知っている。


 それは、自分達と居る時よりもだ。

 


「どんな……」



 そう質問されすぐには答えられない。

 ディークにとってギリムは、よくしてくれる人物であり恩人でもある。同時に、こんな若い自分を同じ魔王として面倒を見続けている彼に対しては――親にも近いような心情さえ抱いている。


 改めてそう聞かれると、自分にとってギリムという存在がどんなものなのか。そして、影響を与えられて思うことはと考え込む。

 やがてディークがポツリと言った。



「……ギリムさんが創造主から創られた存在だって言うのは、知っていると思うけど。僕にとって彼は父親にも近い存在であり目標の人でもある、が答えかな」



 満足そうに、自分の答えに対してディークはこれで良いと思う。

 そう思ったが、周りの反応を見てみるとなんだか違う。頭を抱えたり、難しそうな顔をしたりと様々だ。

 何か違ったのか、と思わず武彦を見ると彼は言った。情報過多だと。



「え、何でそんな反応なの?」

「魔王ギリムさんが、創造主によって作られた存在という事実に周りは驚いているんだ」

「あれ、知らなかったの?」

「すまないね、今初めて知ったんだ」

「でもランセさんと行動を共にしてたんでしょ? それでも知らなかったの」

「知っていても、彼の場合は時期を見て話す気でいたんだと思うよ。いきなり言うと……ほら、こんな感じに皆が頭を抱えてしまうからね」



 武彦に言われてディークはもう1度周りを見渡す。

 頭を抱えていたり驚いているのは、本当にそれらの情報を知らなかったのだと思い知らされる。そう言えばと執事にもさんざん言われている。


 あまり考えなしに発言してはいけないよ、と。

 少し人の気持ちに疎いのか、感覚的に感じれないのかとディークは反省する。知っていると思う前提で話してはいけなかったなと知れるだけでも違う。



「ん。なんかごめんなさい」

「私も驚いたよ。でも、見付けてそうして反省できるんだ。ディーク君は偉いよ」



 そう言われるとは思わず、ディークはポカポカと温かい気持ちになる。しかし、すぐに武彦はハッとなり気まずそうに質問した。



「ごめんね。君付けはだめだったね……」

「気にしてないから良いよ。そう言われるのは新鮮だし嬉しい」

「そうかい?」

「うん。貴方から学べるのは良いなって思うから、全然気にしないよ」

「清と同じで年上なのは知っているんだが、どうにも私は見た目の年齢で話してしまうんだ。悪いね」

「……清って誰?」



 コテンと首を傾げるディークに武彦は自分の契約した霊獣であると告げる。

 種類的には精霊に似た存在かと思い、少しだけくすぐったい気持ちにもなる。300歳を超えるであろう自分の事を君付けで呼ぶ者はまず居ない。


 そう思っていたからだろうか。

 ディークは少し童心に帰ったような、不思議な感覚になる。そんな感覚になったからか、武彦の事を異世界人だと紹介されてもさして驚きもしない。むしろ型に嵌らない感じがディークをそう思わせた。



「じゃあ、僕が提供できる情報はここまでかなー」

「戻るまでにゆきちゃんたちにお土産を作るよ。リクエストがあれば、気に入った味を渡すよ」

「お言葉に甘えまーす♪ そしたらあの子達、すっごく喜ぶし僕もまた食べられるしで嬉しい!!」



 ギリムさんにも渡せると興奮気味に言われ、武彦はどら焼き作りをする事をイーナスに告げる。ディークは自分の仕事が終わったとばかりに、気楽になるがすぐに作る現場を見ようと颯爽と出ていく。


 その行動力の高さと嵐が去ったような静けさに、ようやくイーナス達は緊張の糸から解放された。



「……毎度思いますが、異世界人があの方方で良かったと本当に思います」

「それは同感ですね。生きた心地が全然しない」



 セレーネの言葉に賛成するように言ったギルスナント王。

 周りも小さく息を吐きながら、ディークが告げた情報を再確認。創造主の所に行くには条件がある事。

 準備が必要な事と鍵がある、という2点。

 準備にしろ何の準備なのか。条件では誰が当てはまるのかというのも分からない。鍵という存在も聞けば、扉などで通じているのだろうかと思ってしまう。


 その後、遺跡の発掘や解析を専門とするイルの報告から創造主は断片的に自分の手掛かりになるようなものはこちらにはあまり残されていない見解を述べる。

 各国の成り立ちなどはあれど、その前の歴史などは記せる手段がない。

 あるとすれば、それは人間以外の種族だという事になる。

 しかし、ドワーフは元々散り散りに生活していた事もありそういう手記はあってももう誰に渡っているのか分からなくなっている事。

 

 人間との和解もしないだろう事から、彼等はあまり創造主についての記録や過去の事柄を記すような習慣もしなかったという。

 ハーフエルフの方もドワーフと同じように、創造主についての手記やそれ以前の歴史などに関してはあまり記されていない。生き残る事に全力を尽くしている彼等は、手記などを残した結果として居場所を知られるのを恐れた。


 だからこそ、今の今までひっそりと暮らしていけた。



「しかし、今にして思えば後悔しています。後の者達の為に、自分達のしてきた事や記録を残してないとなると後の世代には伝え辛いでしょうし風化してしまうからね」

「同胞を探しながら、その辺のことをもう少し探るとしよう。鍵がある、というのが分かっただけでも収穫ではないか」



 村長のレブント、ドワーフ戦士ネストの言葉にイーナスは報告を終了する目途を付けて解散とした。

 あとは各々のしたいようにするとなり、早速とばかりにセレーネはネストへと話を聞こうと動く。ニチリの王ベルスナントは、誠一を探しに城内から探索を開始。


 冒険者イルは、どっと疲れたように椅子に深くもたれ掛かる。

 そこに労わる様にして話しかけたのは、ダリューセクの宰相であるファルディールだ。



「ご苦労様。突然の依頼で悪かったと思うよ」

「話が壮大すぎていて、もう色々と追い付けないですよ……。その、何で創造主――神様について調べようなんて思ったんです?」

「探している人物は、セレーネ様の命の恩人なんだ。咲嬢もその為に動いているよ」

「へぇ、咲様とセレーネ様のね」



 まだ他にもありそうだが、それ以上聞くのは危ない気がしてきた。

 そう思っても口には出さずにどら焼きへと手を伸ばす。丁度いい甘さが体の中に染み渡り、ほっこりとした気持ちになる。



 武彦からどら焼きだけでなく、緑茶を渡されたディークは大喜びで戻っていく。

 その姿を見た武彦は、魔界でもゆき達で元気でやっているのだと分かり微笑む。執務をしているギリムの元へディークが扉をけ破りながら入ってきた。



「ただいまーっと!! ギリムさん聞いてっ」

「ダメですよディーク様。人の邪魔しないで下さい」



 報告したい事があるからかディークが興奮気味に伝えてくる。が、リームがそれを阻止しギリムの仕事を邪魔するなと抗議する。



「あ、異世界人の武彦さんって人からお土産があるのっ。どら焼きっていうおやつだよー。ギリムさんにプレゼント」

「あぁ、様子を見てきて貰えて嬉しいよ」

「あと緑茶っていうお茶も追加。一緒にして食べると絶品だからー。それじゃあね!!!」



 置かれたどら焼きの味はスタンダードなあんこ味。

 チラリとそれを手に取り、丁寧に包装されたどら焼きを見つつギリムはディークに変化が生まれている事に気付く。



(……ただ頼まれた事をしてきただけではないようだな)



 それが分かると、彼は良い変化でも与えられたのだろうと思う。

 今回現れた異世界人は、種族に関係なく周りを魅了してしまうのかも知れない。ディークの変化からそう読み取れたギリムはデューオの思い通りに出来ないだろうと、彼が居るであろう空を睨んだ。


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