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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第305話:人間と魔族の歩み寄り


 右腕であるリームは、魔王ディークにとデザートを持って行く。

 料理を振る舞うのが好きなギリムと同じく彼も料理をするのが趣味だ。ギリムが料理に力を入れているのなら、右腕であるリームはデザートに力を入れている。


 作る物もだが、その味はギリムを唸らせる程。

 甘いものが好きなディークは特に喜ぶだろうとこの時のリームは思っていた。



(ギリムが連れて来た異世界人、か……)



 ギリムが突拍子もない事をやるのは日常茶飯事。

 注意してもキリがない。せめて、それをセーブは出来なくとも反省させよう。リームの思考は常にそう働くようになっている。


 そして、ギリムの客人として招かれた異世界人を含めた面々にも驚いた。

 ギリムに力を返したランセに、大賢者が2名。ラーグルング国から来た騎士と同盟を結んで来たニチリ、ディルバーレル、ダリューセクの数名。


 しかも、ディルバーレル国とラーグルング国からは王が来ている。

 こういう大事な事を言わないのも、ギリムにとってはいつもの通り。自分がしっかりしないといけないな、と思いつつディークの居る貴賓室へと入る。



「聖属性の魔法の練習もしないと」



 そして、裕二の発した単語に即座に反応し攻撃を仕掛けてきた魔族の間へと入る。

 ギリムが連れて来た異世界人だからこそ事情があるとすぐに見抜いた。詳しい話はまだされていないが、まずは彼等の望む事を提供しよう。


 そう思った矢先の出来事であり、リームが発したのはただの確認だ。

 しかし、静かな怒りが込められているのは誰しもが分かった事。



「前から説明をしていたでしょ? 彼等は異世界人ですが、貴方が憎いと思う方々と違う、と」

「っ……。しかしっ!!」

「ギリムの命に反した。これが何を意味しているのか分かっているのでしょう?」

「ま、待ってください!!」



 腕を折る気でいたリームに待ったを掛けたのは他ならぬ裕二だ。

 これには驚き、思わずキョトンとなる。



「どういうつもりです? 今、狙われたのに庇われるのですか?」



 だがすぐに質問を返す。そうしながらも、腕を捻り上げたままいつでも折れるような態勢にしている。



「わ、私がいけないんだというのは分かるんです。ここに来た時から感じていた視線には気付いているんです。アウラ様やディルベルトよりも、私の方に戸惑いや恐怖心のような視線を送られているって」 



 裕二の見解に咲はハッとした。

 図書館に入った時に感じていた視線。珍しい者を見ているような感じではなく、もっとドロドロとした感情が入り混じったような視線なのだと。


 だから、キールは早めに確認をしていた。

 結界で見えなくするか否か。裕二が狙われたのはたまたまかも知れない。本当なら自分になっていたのかも知れないと思い、勇気を振り絞って裕二の元へと行きリームの方を向く。



「あ、あのっ。処罰はしないで、欲しい……です。私達が気を付ければいいだけで!! だ、だから、教えてください。貴方方の事情も含めて、裕二さんも私も仲良くしたいので」

「……」

「そういう事です。ですからリームさん。私からもお願いします。なんとなく私が発した単語がいけないのだというのは分かりました、から……」



 咲と裕二の交互を見たリームは小さく溜息を零し、拘束していた魔族を離す。

 そして貴賓室も出入り口に居るギリムへと向け「どうします?」と改めて確認を促した。



「ふむ、2人がそういうのなら仕方ないだろ。自分の発言の非は認めているからな」

「え、うえっ!?」

「ギ、ギギギ、ギリム、ギリムさんっ!?」

「そこまで驚かんでも良いだろうに……」



 2人だけでなくハルヒ達も驚いた。だが、自分達よりも2人があたふたしているのを見て冷静に保っただけだ。

 一方で庇われたと思われる魔族は驚きに目を見開いている。

 何故そんな事をしてくるのか分からないと言った表情だ。



「レフ。君には罰ととして、彼等の世話を頼もう。自分の目で見て改めて判断をしろ」

「っ、しかし」

「レフ」

「……分かり、ました。ギリム様」



 有無を言わせないギリムに、任命をされたレフは渋々といった感じだ。

 一旦、リームはレフを連れて出ていく。無言ではあったが、ギリムの代わりに説教をすると言うの分かっているのでそのままにする。


 2人が出て行った後で、裕二と咲は同時にペタンと座り込む。



「2人共……平気?」

「な、なんとか」

「アハハ、怖かった」



 ゆきにどうにか答えた2人は心なしかくたびれている様子。

 リームとギリムの気迫をまともに浴びたのも原因であり、一気に疲れが出たのだろうとハルヒ達は思った。



「済まなかった。こういった可能性もあって、事前に説明はしていたんだが……。やはり難しい部分だな」



 そんな2人をギリムは労わるようにして頭を撫でる。

 ほっとした実感もあり、2人の表情も癒されるように無言で撫でられた。



「えへへ、ナタールにもよく撫でられるんだけど……やっぱり年上にされるのは安心しますね」

「分かります。やっぱり貫禄だからかな」

「そういって貰えるのは光栄だ。こういう感覚はなかなか巡り合わないからな」

「貴方がそれをやると卒倒する者がいるんで、なるべくやらないでくれると助かります」



 ランセにそう注意されたからか、ギリムは無言で2人を撫で続けた。

 ハルヒはナタールに視線を送り「そんな事してんだ」と言うと、本人は恥ずかしそうにして顔を逸らした。



「ディークも悪かったな。咄嗟とはいえ守ろうと動いただろう?」

「え、あ……」



 今更、自分の剣に手を掛けていたのを思い出し気恥ずかしくなる。

 急に顔を背けるも、ポンと彼の頭に手を置き「助かった」とお礼を言うギリム。自分の考えなんてお見通しだろうにも思いつつ、咲と裕二の言葉を思い出す。


 年上に撫でられると安心する。

 ディークにも似たような経験があるからこそ分かる。どうしても思い出すのは、父親がよく褒め良く頭を撫でてくれた事。



「ま、まぁ、僕はたまたまだよ。体が勝手に動いただけ」

「そうか。……そういう事にしておくさ」

「じゃあ、僕等はまだ居るからなんか用があるなら呼んでくれていいよ」

「え、用って」



 ゆきは疑問を口にすると、ディークは彼女達の手伝いをすると言い出した。ギョッとしたクーヌだが、彼が口を挟む前に目的を告げる。



「僕も異世界人である君達を見定めるって言ってるの。親父が死んだのは、意志を封じられた異世界人だった。同じに見る気はないけど、さっきみたいにどうしようもない奴も居る。見定めるって言ってるんだから、協力して観察しないと判断材料にならないでしょ?」

「坊ちゃん!? そうなるとここに滞在する事になりますがっ!!」

「んーー? それもそうだね。ギリムさんも今更1人2人増えた所で困らないでしょ」



 ケロリとそう言い切るディークだが、ギリムも迷う素振りなく答えた。



「あぁ、確かにな」

「ギリム様!! 貴方がそうおっしゃるのは分かっております。止めないであろう事は、旦那様との付き合いを見て来たからよく知っておりますが――」

「なら良いだろ。こちらは迷惑などとは思ってない」

「そちらは良くでも、こっちは良くないですっ!!!」

「あっ。なんなら、僕の国にも来る? ギリムさんと僕のとを交互でも良いし、なんなら半分預かっても――もがっ」

「坊ちゃん!!!」



 ディークの口を塞がなければ、とんでもない事を口走る。そう判断したクーヌは、例え仕える主人であろうとも必死で止める。

 止められても尚も話そうとするディークを容赦なく寝技で抑え込もうとしたり、気絶させようとしたりと過激な行動になっていく。



「……えっと、どうする?」

「協力が出来るなら、それに越したことはないよ。私達も、今まで魔界については知らなかったんだ。これを知る機会にするのも良いかもね」



 ハルヒが周りにそう促すと、いつから居たのかヘルスとドーネルが揃っている。

 彼等の横にはリーグは資料を持っており、中の様子を見ようとして暴れているディークを不思議そうに見ている。



「でも確認は必要だし、そちらの都合もあるでしょ。本格的に決まったら、そちらにお邪魔するという事にします」

「えー。別に僕の所は」

「いいえっ!! そうさせて貰いましょう。坊ちゃん、まずは皆の確認を取る方が先ですっ」

「えーアイツ等、そんなの気にしないと思うんだけど」

「だとしても、確認はしないと!!!」



 ではっ!! とクーヌは魔王ディークを引きずりながら退散。

 ハルヒ達が、魔王相手に良いのかと思うも2人の関係上としては良いのだろう。ディークが協力的になったのを少なからず驚いたギリムだが、これもいい機会だろうと思い改めて方針を定めた。



「まずはディークからの連絡待ちになるな。こちらは協力を惜しまないと言ったし、2人を見付けるまでの協力はする。それに余が戻ったとなれば、残り2人の魔王も少なからずこっちに来るしな」

「っ、まだ居るんですか!?」

「前にも言ったけど、私を抜いた状態なら全部で5人だよ。1人は数百年に1回の確立でしか表に出てこないから当分は無理だけど」



 魔界という広大な土地を5人の魔王がそれぞれの領地として治めている。

 改めてあの大戦で、ランセがこちらに付いてくれている事の有難さを実感していく。魔界という未知の場所を知りながら、2人の手がかりが少しでもないかと行動に移す。


 一方、イーナスや王であるセレーネ達を含めた報告が行われる。

 提供される場所はラーグルング国。その国に、同盟国の主要人物達が集まるのであった。



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