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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第28話:忍び寄る闇

「おのれあの魔女!!ラーグルングになんか頼んできてこっちの計画が台無しだ!!!それにあの国は滅んだのではないのか!!!!」



 怒鳴りながら自室に入ったのはディル・バンナスと言う元貴族だった人間。水の都ダリューセクから来たのだが、そこでの不正や度重なる家の格を落とす行為をディルの代で繰り返しえした結果、聖騎士からは追放と言う貴族としてもっとも恥ずかしく不名誉な事を言い渡された。



 ダリューセクは騎士国家と名前はつくが、実際は貴族が多くその殆どは騎士の資格を得る。しかし、魔物、魔族の相手となると全員が騎士になりたい訳でもない。ディルは自分の命可愛さの為、金で手駒になる者を黙らせ代わりに戦わせてここまで生き延びて来た者だった。



 そこを助けたのはセルティルの前に勤めていたアークネスと言う女性。魔法協会は出来てまだ10年程と言う歴史の浅い場所。10年と言う短い時間の中で魔法師と言う言葉を確立し広めた実績と、各国に派遣する事で発言力を強め信頼を得て来た証拠もある為に各国会議にも主席出来るまでに力を得ていた。


 本来なら命の恩人である彼女に対して敬意を払うべきなのだが、彼は貴族と言う気質が抜けず救ったアークネスに対しても魔法師に対しても下に見る傾向がある。



(ふん、秘密裏に魔法師共を売りさばきその金で協会の実権を握って乗っ取り我が物顔で行く予定が……あんの女!!!魔女になんかに理事を任せるなど!!!あの女より長くいた俺を推薦すべきだろうが)



 アークネスは流行り病で死んだ時、セルティルにここを任すように言った。そう、長く居た彼を差し置いて……。アークネスは彼の性格を知っており、少しでも変わってくれればと思った温情がさらに彼を苛立てせた。



「さっきから何を慌ててるんですかね、ディル元子爵殿?」



 第三者の声にビクリとなり出入り口に立っている人物に目を向ける。銀髪の髪に金の瞳。その目がギロリ、と敵意を含む視線にビクリとなるも咳ばらいをし「誰かね。君は」と威張って見せる。



「どうも、貴方の言ったやっかいなラーグルング国の宰相を務めて頂いてます、イーナス・フェルグです」

「さ、宰相!?そ、そんな方が一体何の用で………」

「貴方には魔法師達を売りさばいた疑いでセルティル理事長から解任を言い渡されています。ダリューセクには通達してすぐにでも貴方を処刑しに来ますよ」

「ご苦労だねイーナス!!!」



 突風が発生し、ディルの居る部屋にある煌びやかに豪華にしていた部屋が次々と破壊されていく。現れたのはディルが嫌うセルティル本人、彼女はイーナスに目配りをし「ヤクル~」と声を上げる。


 それを不思議そうに見ていると、轟音と共に何かが焼ける匂いがした。その後、自分の居る場所も含め温度が急激に上がる。冷や汗と汗をかく体質もありこの異常事態に付いていけないでいる。



「な、な、なんだ!!!お前、一体何をしたんだ!!!」

「宰相、貴方の言うように地下から衰弱した魔法師達が居ました」

「それとこちらに向かっていた裏商人なら全員叩きのめしてダリューセクに引き渡しましたよ。それらを証拠に彼を完全に排除出来る証拠が出来ますよね」



 物騒な事を言いながら入って来たのはヤクルともう1人。ヤクルよりも少しだけ身長が低いが彼の纏う雰囲気がそれを圧倒するだけの見た目をしていた。少し長めの紅い髪を1つに結んだ凛々しい顔付の男性。

 その目はヤクルと同じ紅い瞳。黒色の騎士服には所々血で汚れハルバートを手にしその刃にはポタリ、ポタリ、と血が垂れて床を汚していた。



「ごめんね、フーリエ。戻ってろくな休憩もさせないで」

(っ、まさか裏商人達を処分してきたのか!!)



 笑顔で言うイーナスにフリーエは「いえ……」と言い、逃がさないようい出入り口に立ち逃げ場を失う。フリーエは地下室に居た魔法師達を開放するまでに見張り番、裏商人達が雇ったとされる傭兵達の相手をしていた。


 全員、気絶させて余罪を含めて洗いざらい吐き出させる為に腕や足を斬っておいた。その後で何事もなく怪我を治したが、武器に付いた血を落とすのをしなかった。脅しに使えるかも知れない、と思ったフリーエはそのままの状態でイーナスの所に向かったのだ。



「仕事なのですから仕方がないです。陛下も元気しておられるのなら良かったです。どうぞ弟のヤクルをコキ使うなり何なりしてください」

「頑張ります!!!」

(……お兄さんが戻ってきてテンション上がってるねぇ。君、真面目キャラどうした?)



 笑顔でそう訴えるもヤクルはキョトンと首を傾げ「衰弱した魔法師達はすぐにラーグルングで保護しました」と報告をした。心の中でそうじゃないんだけど、と頭を抱えるもそんなイーナスの葛藤は知らないので褒めて欲しいとばかりに目で訴えるヤクル。



「あとでね」

「はい!!!!!」



 多分、会話が成り立ってない……とガクリとなるイーナス。

 セルティルはそれを無視して1つの紙をディルに見せつける。そこに書かれたのは不法に売られた魔法師達の名前だ。殆どが成人したばかりの子供達が多く、それを狙って売ったのだと思うもその全ての名前にはバツマークが付いている。



「これはアンタが売った魔法師達の卵達だ。売って金を受け取ったアンタはそれで終わり、だが……この子達は奴隷として売られてそのまま死んだ。魔力登録をしたから名前も載るしな………お前、これだけの命を奪ったんだ。

元貴族だがなんだか知らないが、命を奪ったからにはそれ相応に覚悟出来てるって事だよね?」

「な、何だ!!金か、金が――」



 あとの言葉は続かない。すぐ真横でハルバートが振り下ろされ机が叩き割られる。逆サイドではヤクルが剣を抜き、ディルの横顔をギリギリの所で止めている。2人の目には怒りに燃え、イーナスが命令を下せば殺すことも厭わない気迫さえある。



「お金ね。私が言うのもなんだけど、奪った者も奪われる者の命は1つだ。若い子達の命が奪われるのは我慢ならない」

「なんせ追放したのにその貴族が好き勝手にしたからね。国内の保護下にある場所で行ったのが悪かったね、追放されても犯罪起きれば国の恥としてすぐに処刑だ。良かったね、すぐにお迎えが来るだろうよ」

「な、な、な、な…………」

「お前のような奴が同じ貴族なんだと思うと胸糞悪い……失せろ」

「ヤクル。言葉悪いぞ」



 ヘタリ、と座り込むディル。まだ納得がいかないヤクルは渋々剣を収めて離れる。フーリエはポンと頭に手を置き「奴のようにならなければ良いんだし」と悪い手本がここに居る、だから自分達はこうなるなと言う思いで言えば頷く。



「お前は終わりだディル。良い思いしたんだから、最後はそのまま死ね」



 ダリューセクから来た騎士達が燃え盛る屋敷に驚きつつ、ボヤ騒ぎと嘘を言いディルをそのまま引き渡す。お礼を言うセルティルにイーナスは「もっと早く出来なかったの?」と聞けばやりたくても証拠がないしな、と悲しそうにする。



「ここ最近の裏商人達のアジトを潰してたのはアンタだろイーナス」

「何のこと?国から出るのだって苦労するのに」

「ウチのバカ息子に頼めば破壊工作なんて簡単だろうし、証拠も掴むのだって簡単だろうしね。裏商人達のアジトやルートの抑え方は暗殺者でもあるアンタが予想立てて、捕まえさせたんだろ。お陰でギルド連中も不味いと思って依頼を取り消してきたさ」



 裏商人達と繋がっていたのはなにもディルだけではない。冒険者達を束ねるギルドの面々もその一部だ。裏商人達が捕まりそこから自分達にまで被害が来るのを懸念し、依頼として出されていた【魔法師を狙った魔物の退治】は取り消さたではなく【依頼破棄扱い】となった。


 破棄扱いなら頼んだ側の都合として冒険者達にも納得して貰い、代わりの任務を進めれば良いだけ。今回のこの依頼、セルティル自身が出していないのを見るとディルが密かに出しそのまま協会を乗っ取ろうとでも思ったのかも知れない。



「お役に立てて良かったです。………じゃ、ユリウスから貰ったあの紙、受理してくれますね?」

「はいはい。あれで貸し借り無しって言うんだろ?しつこい男は嫌われるぞ」

「ふふっありがとうございます」



 ニコニコ、と無邪気に笑うイーナス。国は良いのかと言えば、誠一さん達に結界を張って貰ってますし♪と上機嫌なのに不思議に思う。彼がこんなにも機嫌が良い部分は久々に見たな、と思えば通信が繋がる。



〈セルティル!!不味い、協会が魔物達の……しゅ……げ………!!…………〉



 所々で声が途切れ最後まで消えなかったが今の声は、イーディルの声だ。しかもかなり緊迫した様子の声。それにヤクルと兄であるフーリエは「自分達が

行きます!!」と進言しすぐに転送するようにお願いする。



「私も行く。貴方はダリューセクでの事情聴取もあるだろうからね。安心して必ず守るから」

「……すまない」



 それだけ言い3人を本部へと転送する。降り立てば周りは火の海に飲み込まれ、子供の泣く声と慌てふためく大人や消火活動をする魔法師達でごった返していた。 



(火の勢いが凄い……)



 熱風と焦げた匂いが広がりヤクルは状況を確認する。本部では身寄りのない家族や子供が多い事から、慌てふためいているのは子供とその親。ここで副団長のラウルが居れば一発で火を消せるのに……と悔しがる。



「アクア・ウェルテックス!!」



 勢いの凄い火が小さくなりその部分にだけ水が覆った。そのまま鎮火しその焦げた所の近くには、足を怪我したのか子供はその場から動かずいた。それに気付いた人物は、急いで駆け寄り淡い光が包み瞬時に治す。治された子供は暫く目をパチ、パチ、と何回か瞬きをくり返し治ったのを見ると喜んで「ありがとうお姉ちゃん!!!」とお礼を兼ねてなのか抱き着く。



「こ、こら!!ここも危ないんだから、早く本部に向かって。君のお母さんもきっとそこに居るよ」

「うん!!!」

「ゆき!!!」


 急いでその場を離れる子供に、ほっとした。白いローブを身に付けたゆき。本部には彼女も連れて行かれたのを思い出したヤクルは、慌てて駆け寄り怪我な無いかと上から下まで見る。



「え、ヤクル……?」

「無事で良かった。レーグさん達はどうした」

「それなら――」



 すると忽然とゆきの姿が居なくなり驚く。すると「探してるのは彼女?」と楽し気に言う金髪の少年。その横では影に捕まり苦しそうにするゆきに剣を抜き「誰だ!!」と睨み付ける。



「うーん、ラークが言ってた子じゃないね。魔法使ってたし……ま、なんか使えるか」

「うっ、くぅ………」

「今は苦しいけど我慢しててね?平気平気、あの人達殺したら次は君だから」



 少年の後ろに次々と集まる巨体の魔物。そのどれも人間の足や手が出てきて目がない、不気味さに気分が悪くなる。フーリエはその相手に見覚えがあるのか「あの時の……!!」と怒りを露わにする。



「あぁ……何だ、あの時の。そうだよ、これぜーんぶ、君の部下だった連中だ。人間は餌なんだからこうなる運命だろ?」




=======




「この気配……」



 鎧の相手を終わり感じた気配に思わず呟く。すぐに黒騎士が飛び出し≪協会……襲撃、されてる≫と報告をしこっちが陽動かと考える。このドス黒くプレッシャーのある気配は上級クラスの魔族であり、今屋敷に居るのは中級クラスの魔族だ。



「ここにはキールがまだ残ってるからね。彼が居れば多分乗り切れる。彼女達の事頼む」

≪承知≫

≪ガウ!!!≫



 転送ですぐに協会に向かうランセ。黒騎士は屋敷に入りすぐにユリウス

達を見付ける。バチバチ!!!と電撃が流れるもそれに構う事無く入った黒騎士にユリウスは驚きつつも「悪い!!!」とお礼を言う。

 


「あれー。またお客様?ふふっ、今日はお客様が一杯で良いな。沢山、血を見せて!!」



 瞬く間に部屋中に糸が張り巡らされていく。糸を斬ろうとしたユリウスは、一瞬グラリと体が前に倒れるのをなんとか踏み止まる。それだけでなく急に体に力が入らない状態になり、持っていた筈の剣がカシャンと落ちていく。



「お兄ちゃん、どうしたの?」

「!!」



 声にはっと我に返るのと、隣の部屋まで吹き飛んだのは同時。壁に叩き付けられ意識が落ちそうになるのをギリギリの所で踏み止まる。普通なら吹き飛ばされ壁に叩きつけられたのなら、意識が飛びそうだけではすまない。


 ランセやキールが言うには魔力を扱う人間は自然と見えない鎧を纏っていると言う。それがあるかないかでは、魔族の攻撃を直接受けて死ぬか生きるかの瀬戸際とも言える。精霊の加護が多いラーグルングはその力も凄まじく、生き残る率が上がる。



(ぐっそ……何だって急に、動かなくなる、このポンコツ!!!)



 自分の足を叩きなんとか立ち上がろうと必死になる。ピタッと何かが張り付いた感覚に自分の腕を見る。細い糸だ。それが自分の腕、足、首にピタリとくっついていく。嫌な予感を感じたユリウスは振り解こうとするも更に糸は張り付き完全に体の言う事が効かなくなった。



「動かないならアリサが手伝ってあげるよ!!」

「ユリィ!!」

「来るな、麗奈!!!」



 吹き飛ばされたユリウスの元に麗奈が掛けるのと落ちた双剣を拾い、そのまま麗奈目掛けて斬り掛かる。札を取り出し霊力を練って結界を作り、剣に纏った魔力とがぶつかり合う。

 バチッ、バチッ、バチッと凄まじい衝撃とぶつかった時に発生した雷なのか互いに立っている所も含め周りがその余波を受けて壊れていく。 


 気付けば床が抜け落ち「「えっ……」」となり、



「うわああああぁぁぁ!!!」

「きゃああああぁぁぁ!!!」


 絶叫。黒騎士は一瞬、ラウルと2人のどちらにするかを迷えば「2人の方に行ってくれ」と頼み込まれた。振り向けば糸を斬りながら距離を詰めていくラウル。



「ここは、なんとかする。俺より2人を優先してくれ!!」

≪……承知≫



 すぐにいなくなり、それと同時に部屋の気温をどんどん下げてていく。それにピクリ、とアリサが警戒を示し張り巡らされた糸が氷付き崩される。



「悪いが君はここで俺の相手をして貰う」

「………して………何で、下に降りたの。あそこは、あそこだけはダメなの!!!」

「!!!」



 糸で作り出した大きな腕。それがロケットパンチのようにラウル目掛けて襲い掛かる。避けた先でガクン、とバランスが崩れる。細い糸が足に絡みつきそのまま上に吊り上げられる。



「人間、遊びは終わり。殺してあげる!!」

「2人が落ちた先に何かあるんだな」



 それが分かれば十分だ、と糸を凍らせ部屋全体を完全に氷の世界へと早変わり。一瞬の事に驚いたアリサにラウルは地面に着地し「俺の役目だ」と、剣に魔力を纏わせ一気に距離を詰める。



「!!」



 その気迫に思わず後ずされば、目の前には刃が飛んできた。それを紙一重で避ければ頬にツゥ、と流れる赤い血。それにキッと睨み「女を傷付けるなんて最低」と紫の瞳がさらに色を濃くする。



「悪いが女子供相手でも、魔族なら俺は容赦しない。生憎、そんな加減が出来る相手でもないってのは一度味わってるんでね」



 

 

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