第301話:そして怒られる
ラウルの攻撃を受け、ランセは肩から血を流し傷を受けているのが分かる。
多数ではあるが、どうにかギリムの課題は達成している。その証拠にギリムが「合格だ」と言われゆき達はすぐに実感。
だが、そんな喜ぶ彼女達に向けてランセが発した。
「今すぐ全員座れ」
静かな怒りの声にギクリとゆき達は体を強張らす。
既に切られた筈の傷は再生されており、何事もなかったようになる。そして、ランセの紫色の瞳から青と赤のオッドアイへと変化。
睨みの迫力もあってか、ゆき達は黙ってその場に座る形になった。
「正直に言って。誰がこの作戦を考えたの?」
「俺が――」
「ヤクル。下手に庇うな」
「うっ」
すぐに止められ、全員がゆきへと視線を集中する。
既に彼女は体を震わしており、恐ろしさのあまりランセへと視線を合わせないでいた。
「ゆきさんの案だったか。ハルヒ君だと思ったよ」
「一応、訂正しますがランセさん。れいちゃんの無茶が目立つけどゆきだって無茶してますよ?」
「それを分かっていて君は止めないんだ」
「2人共、頑固なの知ってるんで」
ヘラッと笑うハルヒにランセは呆れたように溜息を吐く。
そして、視界の端に逃げようとしているラーゼを見て「そう言えば」とワザとらしく声を上げた。
「摸擬戦の間、ずっと私に妨害を働いてたよね。ラーゼ、アリサ」
「え」
「アリサちゃんが……?」
ゆき達は気付いていなかったのか、思わず2人を見る。
ラーゼの事はギリムから軽く紹介をされていたが、いつの間にアリサと行動を開始していたのか。あっという間に輪を広げる所は、麗奈と似たような部分だなと改めて思う。
一方でラーゼは逃れられないと分かり、アリサと共に黙って向かいそのまま正座をした。
「うぅ、ごめんなさい……。でも、どうしてもお姉さん達に勝ってほしくて」
「いやぁ、バレちゃったね。ごめんごめん」
驚くゆき達とは違いキールは落ち着いていた。
彼はランセとの魔法のぶつかり合いをしていた時、ランセにだけに別の負荷が掛かっているのを感知していた。
自身の目がそれに反応しているのだが、それが誰なのか分からないでいた。
瞬時に周りを見るも、誰も行使した様子がないので不思議に思っていたがこれで謎は解けた。
「別にそれには怒ってないよ。私が気付いてるならギリムだって気付いているんだ。彼が止めないなら私に止める権利はないよ」
「え、でも」
「君が逃げるから、反射的に逃がさないようにしただけ」
笑顔で言いきられ、ラーゼは「ごめん」を繰り返した。
そんな彼等の元へギリムが笑いながら入ってくる。
「その辺にしたらどうだ。一応、一撃は与えたんだし」
「知っている仲とはいえ、あんな無茶はごめんだよ」
「ふむ。しかし、ラーゼの協力があったとはいえランセに向けて妨害を続けたこの娘も十分に凄いぞ。自慢して良い」
「そ、そう……?」
ラーゼを壁にしてアリサはチラチラとギリムを見る。
本人としては無我夢中でやった結果だ。クツクツと笑うギリムは色々と驚かせて貰ったと言い、ラウルに視線を向けた。
「ランセも余も久々に見たぞ。その魔剣、ドワーフに作ってもらったのか」
「えっと、本当は粉々になったのを修理して貰おうとしたのですが……。ジグルドさん達のご厚意で、この魔剣を使う事にしました」
「ほぅ、専用の武器をね」
「こっちも驚いたよ。魔剣の事もだけど、まさか4大精霊の契約者達が彼等の技を扱えるとはね」
「ん? 名残はあると言った筈だが聞いてないのか」
「名残があっても使えるかはまた別でしょうに……」
その証拠に、アルベルトがランセへと仕掛けた蔦や魔力と体力を奪う魔法はノームの力によるもの。他に、ヤクルとフーリエの兄弟が使った炎の魔力にはそれぞれの大精霊達の魔力が込められている。
ギリムはこれで、契約者と大精霊達に繋がりがあるのを各々が確認出来ただろうとし満足げにしている。キールもこの摸擬戦で、周りが扱う魔法の中に大精霊の魔力が少なからず影響を受けていると思っていた。
やはり、麗奈と共に居る事の可能性が高いと思い自分の認識は間違っていない。それが分かったからか、心の底からホッとした。一緒に居るなら、麗奈と共に取り戻せばいい。再契約が必要なら、それに従うまでだ。
「では約束通り。余が治める魔界に行くか」
ギリムの言われた課題はクリアした。
ハルヒ達は、装備を整え彼の案内により魔界へと進む事になる。ニチリの王であるベルスナントは、魔界に行く前にアウラへお守りを渡しギリムに娘をよろしく頼むとお願いをする。
彼はそれを快く受け、危険ならすぐにニチリに送り届けると約束をつけた。
そのやり取りに、彼女は恥ずかしく思いながらも帰りを待っていて来る事に感謝をした。
今まで、国の外に出る事をしてなかったのは自身の呪いがあった。そして、国を治めるベルスナントは母親を亡くし娘のアウラも長くはないと分かると周りが呆れるほどの溺愛ぶりがあった。
「では行ってきます。絶対に麗奈様、ユリウス様を迎えてまた戻ります!!」
「うむ。だがあまり無理はするな……。ハルヒ、ディルベルト。娘の行動には気を付けてくれ」
「分かってますよ、ベルスナント王」
「私はハルヒとアウラをまとめて見れば良い訳ですし」
「あれ、僕も対象なの……?」
不思議そうに首を傾げるハルヒに、ディルベルトは気にするなと言う。
ギリムの転移により、彼が治める魔界へと場所を移す。
同時に、彼の右腕がギリムの帰還に合わせてハルヒ達を迎え入れる準備を始めた。




