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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第300話:皆で隙を作る


「ふむ。これが極楽というものか」

「無理矢理に誘っといて言うセリフなの?」



 ゆき達が思いついた案を、ハルヒ達が共有している頃。

 ギリムに無理矢理に温泉へと連れていかれたランセ。突拍子もない行動は、魔王リザークだけにしてくれと思うも彼の行動の理由に思い当たる節があるのか温泉を満喫する事にした。



「いやぁ、これが噂の温泉でしたか。はぁ~……気持ちが良い」

「息子の君もサラッと付いてきたね」



 だらしない顔をさらすラーゼは、温泉の魅力に取りつかれたのかランセの言葉を聞いていない。



「貴方が無理に誘わなくても、勝負が決まるまでは一定の距離から離れますよ。そんなに心配しなくても良いですよ」

「ま、そうであるだろうな。……ランセ。良い友達を築けたな」

「えぇ、私もそう思います」



 穏やかに自分の事のように嬉しく言うランセに、ギリムとラーゼは目を見張る。

 彼等はランセが行ってきた事の全てを知っている。

 ギリムの命で動いていた魔族達からの報告も含めて、ランセと異世界人、ラーグルング国の人達との交流も把握している。



「部下達から聞いていたが、ラーグルング国に居る間は随分と忙しくしていたな」

「全部キールの所為です」

「ははっ。あの大賢者、自分の知識欲を満たす為に何でもするからな。8年、ラーグルング国に入れない時の状況も聞いている。随分と刺激的な日々だったようだと聞くぞ」

「それなら麗奈さんの起こした奇跡の数々、貴方が知らない筈がない」



 ランセと一時契約していた光の大精霊サンクと闇の大精霊ガロウ。

 魔王との契約も例外だが、属性転換を行った事もまた異例だった。そして、本来ならその影響を受けている筈のサンクの記憶は少しずつすり減る。


 1日を過ぎる度、少しずつ自身の扱う属性とは違うものが入り込む。

 その苦痛は想像を絶する。サンクは自分が死んだものと錯覚させる為に、ランセの案を受け入れ記憶も何もかも失う事も了承した。


 仲間を葬った魔王バルディルと戦うその日まで――。

 記憶を失っても尚、サンクが行動を起こしたのは仲間を葬られた事への恨みと復讐心。それは形は違えど魔物、魔族も対象とし暴れるだけに留まる筈だった。


 

「まだアシュプとの契約がなされる前の事だな。確かに、あれは奇跡としか言えないものだ。あの無自覚がどうにもならないレベルだと言うのも理解した」

「だったら私が苦労するのも分かるでしょ?」

「奴の加護がなくてこれだからな。様々な者達に狙われても仕方ない……。他が構う訳だ。属性転換をした大精霊も異例だが、その精霊に対して正常に近い状態で戻す召喚士もまた異常だ」

(褒めてるのか、羨ましいと思うのか……どちらなのだろう?)



 ギリムの会話にふとそう思ったラーゼは口を挟まずに、2人の会話を聞いたまま。

 そんなラーゼの様子にランセはふとギリムへ質問をした。



「それで……結局、何でラーゼがここに居るのさ」

「課外授業的な感じ?」

「旅をしてみろと言ってみたんだ。そしたら余が行く方に行くと言い出してな」

「息子の君は、ギリムの事をどこまで知っているの?」

「生まれてから8年経った位かな」



 つまり、息子であるラーゼはギリムの存在をそれなりに知っているらしい。

 創造主との仲は微妙だが、彼も創造主が居なければ存在出来ないと言うのも一定の理解を示している。



「とはいえ、こちらはその創造主とは会った事がないので会ってみたい気はしますね。その可能性が高いのが、ランセ様と行動する事なら付いていくだけです」

「だそうだ。頼むぞ、ランセ」

「え、普通に放り投げないでよ」

「必要とあれば、捨ててくれて構わない」

「ギリム。自分の息子に対してのセリフじゃないっ」

「いやーこれでも、死にかけてますから平気ですよ」

「そこは笑顔で答える場面じゃないっ!!!」



 空気を読んでいるのかいないのか。

 漂う雰囲気が他と違い過ぎていて、軽く眩暈を覚えしまう。



「どうした、(のぼ)せたか?」

「え、湯あたり? それは大変だ」

「誰の所為ですか誰の……」



 睨むランセに2人は気にする様子もなく穏やかに会話が進む。

 温泉から出たランセをティーラが待っており、彼に水を差しだした。気が休まる筈なのに、ランセの表情はどこか晴れない。


 理由を聞こうとして、ランセの相手を誰がしていたのかを思い出し察した。



「お疲れ様です」

「うん、助かるよ……ティーラ」

 


 お前が居ると気が楽だと言うと、途端に嬉しそうに顔を綻ばせた。

 その様子を見ていたブルトが(犬……?)と思ったのも仕方ない。出てきたギリムに、ブルトは自分の決意を伝える。


 少し考えた後で、ランセに確認し返答を聞く。



「別に構いませんよ。何人増えようと、誰が相手でも一撃受けないように頑張りますよっと」



====


 そして迎えた翌日。

 朝練の後、ニチリの訓練兵が使う訓練場にランセと対峙するハルヒ達が居る。


 彼等の戦闘を近くで見ようとした兵士達だったが、リッケルからダメだと言われてしまう。近くに行けば確実に攻撃の余波を浴びてしまうからだ。

 しかし、魔王と戦うような事などこれから先あるかも分からない。少しでも自分の糧にしようとする熱意は凄まじいものであり、リッケルもそれはこれまでの摸擬戦から分かっていた。


 そうしたら、ギリムから魔法水晶による中継をすればいいと言われてしまい――彼が作り出した水晶で、ランセ達の摸擬戦を見る事が可能になった。

 攻撃の余波を浴びない為に、兵士達も含めた文官達も仕事を休め食い入るように見つめる。


 その中には、アウラの父親であり王でもあるベルスナントも居る。

 ただし彼は娘に危険がないようにと言う祈りも含めて、兵士達とは違ったハラハラした面持ちでいるが。



「随分な人数だね。ブルト、君が来るかも知れないって思ってたよ。少し遅い位だ」

「……やっぱりお見通しっスか」



 大精霊と契約したハルヒ達、ドワーフのジグルド、魔族のブルトもいた。ギリムに参加をしたいと告げ、ランセは別に構わないと言った。その時からブルトの行動を読んでいたからだろう。ランセは特に驚きもしていない。


 そんな彼等から少し離れているのはティーラとリーグとアリサ、裕二、ナタール。そしてギリムとその息子であるラーゼが居た。彼等の場合、例え余波を受けたとしても身を守る術がある。

 アリサの場合は、意地で動きたくないと言い条件としてラーゼが何をしてでも保護すると言うことになっている。


 すっかり懐いているのか、ラーゼに抱き上げられている。

 彼等の間にギリムが立ち双方に確認を行う。



「条件は降参か、ランセに一撃でも当てられた時点で止める。それで良いな?」

「私は降参って言わないから、意地でも攻撃を当てる事だね」



 ランセの言葉にそれぞれが納得しつつ、昨日の作戦内容を思い出していく。

 ハルヒから誠一から、武術の心得を習っているのなら自分の物にしているのは早い。ランセはその魔力量もさることながら、魔法にだけに集中しない。

 どちらかに慢心でもしてくれれば、隙を付けるのに相手はそんな事をしない。攻守のバランスが良いのがこうも厄介なのだ。



「では摸擬戦を開始する!!」



 ギリムの声を合図に両者は動く。

 ランセは自身の影から黒い狼を5匹作り出し突進させる。


 その狼の対処に動いたのはディルベルト、フーリエ、ブルトの3人。普通なら体を切られた時点で影は元に戻るが、ランセが作り出したものはそうはならない。その狼の機動力、攻撃力は魔物のそれを超えている。



「ふんっ!!」



 残り2匹の狼が機動力を生かしてかく乱するが、ジグルドがハンマーを地面へと叩きつける。その瞬間、割れた先から次々と砂が現れ狼を捕まえる。

 動きを封じられた矢先、ジグルドは背後に立つランセの気配に驚く。すぐにハルヒが刀で一閃するも、影が壁となり攻撃を防ぐ。


 それは予想されていたのか、受け止めている間にキールがゼロ距離での魔法を放つ。



「キールさんっ!?」



 ヤクルの危険を知らせるような声色とランセの姿が消えたのは同時。

 密集した3人をまとめるように、ランセの重力魔法が展開。キールもすぐに守りを展開し半減しているのだが、思う様に体が動かないでいる。



(気付いて防いでるのに、それでもこの差か……)



 空中に居るランセに向け、ディルベルトが風の魔法を放ち背後に回っていたブルトが武器を振るう。ディルベルトが相手をしていた狼は代わりにヤクルが対処しつつ、自身の魔力を上げていく。



「はっ!!」



 背後からの攻撃にランセは振り向かない代わりに空間が裂けられる。

 そのままブルトの攻撃が空間へと飲み込まれ、同時にキールがフーリエ達を転移させる。ブルトの攻撃は、フーリエ達が居た場所へと移動させられ当のブルトも一緒に移動されている。


 一瞬キョトンとするも、すぐに頭上を確認。ブルトの前に咲とアウラが辿り着き、2人合わせて防御魔法を展開。



「「アクア・ウォール!!」」



 ブルトごと3人が水の膜に包み込まれる。強い衝撃が伝わるも、膜は破れることなく耐える。1人では無理でも2人同時に発動すれば、どうにか防御は出来る。これは今までハルヒがギリムとの摸擬戦も含めての経験で得た事。


 同じ属性を使える者が居ればその分、威力も増す事が出来る。

 どうにか防ぎ切るも、その衝撃は凄いのか咲とアウラの2人はまだ体が痺れている。後衛2人をそのまま放る筈がなく、ランセは影の拘束を開始。


 傍に居たブルトがすぐに反応して、2人を抱えて空へと逃げる。

 全体への攻撃を開始しようとしたランセは、突然ガクリと傾く。見れば自分の足元に、蔦が伸びており引っ張られているのが分かる。



(アルベルトの仕業か)



 即座に切り捨てると、その頭上から2つの魔力を感知。フーリエとヤクルの炎を確認すると同時に視界に広がる霧に思わず疑問が浮かんだ。



(今、霧を……? ラウルとゆきさんだとしてもこれは)



 視界が悪くとも既に武器を振り下ろしている。炎の魔力が灯った攻撃を受けるのは危険と判断し、下に着地。その瞬間、足元だけが氷付き動きを鈍くさせた。



「ラウルだとしても今更……」



 すると、自分に近付いてくる気配を3人確認した。

 この濃い霧の所為で姿が分かりにくいが、3方向から来ているのが分かる。すぐに影で拘束しようとするが――。



「アウラ様、咲ちゃんっ!!」

「なっ……!?」



 ゆきの声に一瞬だけ体が強張る。

 まさかと思うと、アウラと咲、ゆきの3人がそのまま抱き着く。今まで後方に居たから攻撃には出てこないと思ったがその予想を超えてきた。

 しかし、驚きはしたが拘束すれば問題ない。

 すぐに魔法を発動しようとしたが「クポポ!!」と言う声と共に、自身の魔力と体力が奪われる感覚になった。



「うく、ここでドレインか……!!」



 しかし、自分に纏わりつくような重い魔力に疑問を感じる。

 そんなランセに向けて魔力を高めていたラウル。彼の接近から放たれる魔力を感じ目を見開く。



「すみません、ランセさんっ。こうでもしないと勝てないので!!」



 アルベルトがゆき達を引き離したのと、ランセに一撃を浴びせたのは同時。

 右肩を切られたランセからは血が流れる。霧が晴れた時には、傷を受けたランセが確認されハルヒ達が一撃を浴びせると言う条件を達成した瞬間だった。



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