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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第299話:弱点はあるのか


 一方でハルヒは夕方から夜空へと変わる様を見て、ふと綺麗だなと思った。

 そんな彼に向ってフィフィルが「シュポー」と言いながら温泉を発射。



「ぶっ……!?」



 盛大に顔面にかかると、無様なのが面白かったのかフィフィルはずっと笑っている様子。

 ヤクルが珍しくボーッとしているなと言うと、ハルヒはやり返しながら質問に答える。



「ボーッとしたくなるでしょ。ランセさんに攻撃が当たらなくなったんだから」

「……そうだな」



 不機嫌になるハルヒは、ヤクルやキールと組んだ時の事を思い出す。

 魔法の発動はキールの方が早く隙を作れていると思っていた。ランセも習う様にして魔法を放ち、2人の威力が同じなのか相殺。


 その時に苦い顔をしていたキールに不思議だと思いつつも、ヤクルとハルヒが前に出て同時に攻撃。ギリムと同じく薄い黒い壁を出現。ダッシュの勢いもあったというのに、ビクともせずに簡単に受け止められた。

 

 そして、その一瞬でランセはキールとまとめて投げ飛ばされて終わった。



「あの流れるような足さばき、相手の位置取りといい……。まさか、誠一さんから何か教わったのかな?」

「あー。そう言えば、前にランセさんがジュウドウ? とかアイキドウ? とは何かと聞いていたのを見たな」

「止めろよ!! これ以上、余計な知識とか戦闘技術とか学ばれると手に負えないから!?」



 納得した瞬間だ。

 ハルヒは自分が投げ飛ばされた時の浮遊感が、なんだか誰かと被るのを今更ながらに思い出した。

 麗奈の父親である誠一は、空手、合気道、剣道を含めた武術の達人級。こちらの世界では、接近戦での対処は格闘であるが使っている人はあまり見かけない。



「でもその達人って、そこまでに行くのにかなり長い道のりなんでしょ? 誠一さん、幾つも武術を習っててそんなに同時進行できるもの?」



 キールの質問に、ハルヒが「あ」と言いある事を思い出した。


 

「そう言えば、武彦さんから聞いた事がある。誠一さんの体つきとか剣術の筋が良かったから、色々と教え込んだって……霊から」

「「……え、死者から?」」



 誠一も麗奈と同じく霊の浄化をするのには、話を聞き満足した時に天へと送っている。

 2人の考えとしては遺恨や後悔を残さずに天へと帰る方が良いとしている。心残りがあったまま天へと送れば、その時に忘れたとしても不意の時に何かを思い出すかもしれない。


 それは、既に1度目の人生が終わり2度目の人生を歩もうとしている者の妨げにもなる。

 魂は輪廻する。

 等しく同じく命であり、1度目の悔しさを2度目にも引き継がせる訳にはいかないのだ。第2の人生には、その人生なりの道がある。



「まぁ、僕達も天へと帰った魂がどうなるのか実際には見てないし分からないんだけど。神様の信仰ってそれぞれだし。魂はないと考える人もいる。だから……あの2人の浄化方法は、陰陽師側から見てかなり非効率だよ」



 話好きの霊に当たってしまえば、満足したと思えるまで永遠と話し続けている。

 それを真摯に聞く2人のやり方に、親子だなぁと思いつつ少し羨ましくもある。



「中にはお節介な霊も居るし、色んなのが居るからね。誠一さんに武術を教えた人は、死者であり真剣に耳を傾けてくれた誠一さんに対するお礼みたいなもの……かな」



 だから誠一は達人級とは言え、その資格を持っていない。

 あくまで使うのは自衛の時にだけだそうだ。



「僕達の世界だと、そういう武術も達人とかになると資格……と言うよりも証明がある方が色々と拍が付くんだよ。門下生とか集まりやすいしね」

「資格ねぇ……。そっちの世界は、証明しないといけないのが多いんだ」

「まぁ……。それがあるかないかで世間からの見方も変わっちゃうので」



 そんな話をしていると、ティーラが「呑気だな」と呆れながら体を洗う。

 フーリエだけでなくディルベルトやナタールと言った同盟組も次々とやってきた。



「お前等、よくそれで主から一本取ろうなんて思うよな」

「逆に聞きますが、ランセさんに弱点なんてあるの?」

「んん? そんなの主が気に入っている奴が居れば動きは多少遅くなるぞ」



 気に入っている相手。

 そう考えた時、真っ先に浮かんだのはユリウスと麗奈の2人だ。



「……ダメすぎでしょ。僕等、2人を探しているのにその2人が気に入っている相手なら隙なんて生めないってば」

「お気の毒に。んじゃあ諦めろ」

「本当になにもない?」

「俺が教えた程度で、崩れるなら教えてやってもいいが」

「……。いや、いい。それも含めてやられるし」



 ハルヒは更にどんよりとした雰囲気になる。

 ディルベルトはじっと静かに見つめ、思い詰めている様子ではないのを確認してホッとした。


 麗奈の事になるとハルヒは無茶をしがちで、アウラからも注意深く見ているようにと言われている。

 幼馴染というのは聞いていたが、ハルヒはそれ以上に恩があるように見えた。その恩がどういったものかは分からないが、無粋に聞く気はない。


 自身もアウラに救われた時の事をベラベラと誰かに言う事もしないのだ。

 多分、ハルヒが麗奈に抱くのはそういったものだと理解出来る。



「そう言えば、そのランセさんは今は何処に?」

「さっき魔王のギリムさんと一緒に別の露天風呂に行ってるのを見ました」

「……それって」



 ナタールが無理に連れていかれているのを報告し、全員は悟った。

 魔王ギリムは心の中を見聞き出来る。

 自身でそれをコントロールしているかは分からないが、彼は察したのだろう。自分達がここで会議をするかも知れない、と。



「気を使ってくれるのは助かるんだけど、策が……ね」

「それなら1つだけ。隙を付けるかも知れないのがあって」



 その発言をしたラウルに全員の視線が向く。

 彼の方にはアルベルトとフィフィルが乗っており、腕を組み嬉しそうにしているのが見える。



「やっぱり、ドワーフに何かしてもらったんだ?」

「あぁ……。俺の最初の依頼もこなした上に、彼等は善意で武器を1つ新たに作ってくれた」

「礼だと言っただろ。そこは気にするなと言ったはずだ」



 アルベルトの父であるジグルドが呆れたように言い、ハルヒは自分の予想が当たっていたと呟く。

 そこにティーラが割り込んでくる。



「お前の剣だろ? まさかこの時代でそれを見れるとは思わなかった。運が良いぜ、ブルト。明日はもしかしたら出来るかも知れないし」



 少し興奮した様に言うティーラに、ブルトは「へぇ」と答えつつラウルが持っていた剣を思い出す。

 最初に見た時、ラウルの魔力の変化に気付いた。

 氷の魔法を扱うから涼し気な魔力を感じる。最初はそう思ったが、摸擬戦をしている中で魔法の発動が前よりも早い事に気付く。


 その秘密が、こうもティーラを喜ばせるようなものなのか。

 それを思うのと同時、ある事を考える。あとで、それをしても良いのかギリムに確認しないといけない。



「貴方が知っているとなると、ランセさんも知っていて当然ですね。やっぱり、出来ても1回が限界……次がないのが分かるから、あまり気が進まないけど」

「一瞬の隙をつく。魔王相手にそれが出来るのがどれだけ難しいか……。お前さん達は嫌でも分かるだろう」

「まあね……」



 知らない相手ならいざ知らず、相手は自分達のよく知るランセ。

 隙をつく相手としては、いつもより難易度が高い。全員がやりづらいのを理解しているが、その中でもハルヒは告げる。



「でもやらないといつまでも前に進めない。2人の無事が一応確認出来たけど、それは向こうの言葉だ。実際に目で見ない事には納得なんて出来ない。使える手は使うってだけ」



 当然だろうと言う態度にジグルドは付いていく選択が間違ってないと分かる。

 それを思うと同時、交流した異世界人はこうも無茶ばかりするのかと心配していようとは彼等は思わない。


 その中で、息子のアルベルトが負けじと案を出している。

 息子に負けられないなと思いつつ、魔王ランセへとどう攻撃を届かせるかと議論を繰り返した。



======



「はぁ……温まる」

「傷付いた体も癒される。まさか温泉に入れるとは思わなかった」



 一方でゆき達も、アウラが使っている露天風呂に入り休息を取っていた。

 アウラはここに友達を誘った事がなかったので、少しドキドキしていたがゆきと咲の反応を見て嬉しそうにしていた。



「ダリューセクでは温泉はないのですか?」

「確かに探せばあるかもだけど、それよりも冒険者ギルドとか防衛に力を入れてるからないかも知れない」

「それでしたら、あとでこの香りに近いのを渡しましょうか。気分的に違いますよね?」

「え、ホント!?」



 さっきまで浸かっていた咲が慌てたように立ち上がる。嬉しそうにしているのを見て、アウラは嬉しくなり可能だと告げると余程嬉しいのか涙を流していた。



「え、えぇ……。そんなに嬉しいとなると私も嬉しいです」

「良いよねえ。温泉の素みたいな感じ、なんだか懐かしい~」

「うんうん。麗奈ちゃんも絶対好き、だよね……」



 咲はそう言いながらテンションが下がり続け、ゆきとアウラも同意するように頷いた。

 3人はそれぞれ後衛での支援をしているが、ランセは構わずにその隙をついて彼女達にも攻撃を加えている。


 ヤクル達との違いは気絶で済ませている所。

 それに甘んじる訳にはいかないと思い、魔法の発動を早めようとするが上手くいかない。

 

 

「どうにかランセさんの隙を作らないとだね」

「……その事なんだけど、1つ案があって」

「ゆき様? 大丈夫ですか」



 案があると言ったゆきだが、その様子がおかしい事にアウラは心配になる。

 まだ内容も言っていないのに、ゆきは顔が真っ青なのだ。何を思いついたのか聞こうにも、彼女が落ち着いてからだと思い2人は待つ事にした。


 そして、意を決したゆきは内容を告げる。

 最初は「おっ」と思い、良い案だと思っていたが次第に彼女達もゆきと同じように顔を真っ青になる。



「それは、確かに隙をつくにはいいかも知れない、ね」

「え、えぇ……ですが」

「うぅ、終わったら絶対にランセさんから怒られる~」



 1度、ランセに怒られた事があるゆきは身震いをする。

 もう1度あれを体験しないといけないのだ。しかも、今回の場合はゆきだけでなく全員がその対象に入るだろう。



「穏やかそうに見えますが、やはり怖いんですか?」

「こ、怖いよ!! 普段が優しいのに、怒る時は的確で圧が凄いのっ」

「お、女は度胸です!! ゆきちゃんだけの所為じゃないし、私達だってそれ位の覚悟……覚悟を……」



 アウラの質問に、ゆきは早口で答え咲は鼓舞するように言うが徐々に自信をなくしていく。

 それから温泉に入ったと言うのに、出てきた彼女達の様子が明らかに違う。ハルヒとヤクル、ナタールが理由を聞くも落ち着くまで待って欲しいと言われ追及はしない。


 だが、3人が口々に「怒られる……う、でも」と葛藤しているのを見て全員が何をする気でいるのかとヒヤヒヤした。




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