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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第296話:掛けられた願い


 一方でラウルは緊張した面持ちで居た。

 それは彼だけでなく、彼の両親や兄のセクト、姉のイールも同じだった。ラウルが仲良くするようにと言ったターニャ達だけでなく、屋敷で働いている使用人達も全員がソワソワとした感じでいる。



「一家総出とは聞いてないぞ」

「うっ、すみません……。俺だけの問題に出来なくて」

「ま、俺達ドワーフに頼むんだ。個人の問題に出来なくて当たり前だな」



 ラウルが住んでいる屋敷の一室。

 そこに招かれたのはアルベルトの父親であるジグルド。ラウルに頼まれていた件の報告も含め訪ねたら、出迎えの準備が済んでいる。

 内緒に出来ない事だから良いかと思い、長机の上に布で包まれた物を2つ置いた。



「1つは頼まれていた物。もう1つは俺達が勝手に作った物だ」

「へ?」

「最初の依頼である修理に関しては俺達であっても無理だ。核も何もかもが粉々だったからな」

「そう、ですよね……」



 分かっていた事とはいえ改めて言われると、ショックを受ける。

 彼の説明では、武器が粉々になるのは負荷をかけ過ぎたのが原因ではないか。それを言われ、ラウル自身で心当たりがあるのがあった。



(やっぱり最後のラークへの特攻……だよな)

「自覚があるならいい。散々言われているだろうが、改めて言うぞ。……自爆覚悟で行って良い事じゃない」

「え」



 それはラウル以外から出た言葉だ。

 ターニャ達も鮮血の月が出ていた時、急激に体力が奪われていく感覚があった。このままいけば死んでしまうのはと思う程、彼女達は焦っていた。


 その思考はあるのに体が思うように動かない。

 手足が重たいのに、意識がなかなか削がれない。その奇妙な感覚に、自分は死んでいるのではと錯覚を覚える程だった。


 ハルヒがその術者であるユウトを倒し、疑似的に行われていたものも解除された。フリーゲと父親のリーファーにより彼女達の意識も徐々に回復。

 あの戦いが終わってからは、安静と観察を繰り返し体を動かしても問題はないとして今も変わらずに働いている。


 魔力があるものは回復が早かったが、ターニャ達には魔力が備わっていない。

 ラーグルング国の中にも彼女達のように、魔力を全く持たない者がいるのは珍しくない。申し訳ないと思いつつ、ラウルの両親からもしっかりと休むようにと言われてしまっていた。


 そんな中、彼女達は全てではないにしろあの大戦で何が起きたのかを聞いている。

 ただラウルは死にかけていた状態だったと聞いていただけに、まさか自爆する気でいた事に驚きを隠せない。


 セクトとイールは、詳しく聞いていたからか呆れたような表情をしている。一方の両親は、落ち着いているように見えているがラウルには分かっていた。


 目が訴えているのだ。

 あとで全部、聞くからなと言う脅しに思わずラウルは視線を逸らしてしまう。



(絶対に嬢ちゃんには知られたくないだろうなぁ。とはいえ、連れてきたら言う気ではあるんだが)



 弟の心情が分かるのかセクトはそう思っている。

 ちょっとした沈黙ではあったが、ジグルドは話を続けた。



「普通なら核が壊れた時点で、武器としての機能は失う。そう……普通なら、な」

「それは初代から持つ、貴方方の技術ではないのですか?」

「確かに俺達ドワーフの初代達の技術、と言ってしまえばそれで終わりだが……。核にもダメージがある状態では無理だ」

「え、では……」

「武器の核とは別の核があった。……レイナ、と言う子が作った魔道具の核だ」

「「あ……!?」」



 ラウルとセクトが同時に声を発して思い出す。

 自分達の武器は、ラーグルング国が出来た時にドワーフとエルフ、獣人によって作られた特殊な武器。それが今のラウル達にも扱えるのは、長い年月に注がれた魔力もあるがこの国に生まれたという事も当てはまるのだと言う。


 それとは別の要因で、麗奈が作った魔道具が強力すぎた。

 彼女の「生き残って欲しい」と言う願いにより作り出された魔石。そして、お礼にと渡してくれた装飾品はそれだけで強力な魔道具の出来上がりだと言う。



「はぁ、聞けば聞くほどにその子に感謝するんだな。でなければ、普通に全滅だぞ」

「……やっぱ嬢ちゃんはとんでもないな」

「ま、まぁ、ユリウスの呪いを自力で解いた訳だし」



 セクトの呟きにラウルはそう無理に納得するしかない。

 そこにジグルドの追加があった。


 運が良かったのは、虹の契約者が2人も現れた所にあるのだと。



「原初の大精霊であるアシュプ様は、元から精霊達だけでなく我々ドワーフを含めた全ての種族に対して慈愛を持って接する方だ。良い悪いはあるが、それも種族としての特徴と捉えている。だから人間と契約したとしても不思議ではない。逆に天空の大精霊であるブルーム様は滅多な事では姿すら見せない方だ」

(確かユリウスから聞いてたのは、めんどくさがりな性格だって言ってたような……?)



 セクトはブルームの事をそうぼやくユリウスと話したことがある。

 態度は大きいし、麗奈とアシュプのような微笑ましいような雰囲気はない。初めて精霊との契約に成功したのに思っていたのと違っていた。


 そう落胆する彼に、セクトはどう励ましていいのか分からないでいた。

 とりあえず話を聞くだけでも違うだろう。そう思って聞いていたのが懐かしい位だ。



「だからこそ驚いた。ブルーム様が表に出てくる事もかなり稀なのに、眷属であるドラゴン達を率いてくるんだからな」

「……確かにあれには驚いたな」




 ラウルは知らない事だったが、ゆきとヤクルから聞いていた。

 生きている間に、ドラゴンと会うような事あるとは思わなかった。そう話すジグルドに、セクトとイールもあの時の事を思い出す。


 天空の大精霊であるブルームにより、この大戦でドラゴン達が参戦。

 ラーグルング国だけでなく、同盟を結んだニチリ、ディルバーレル国、ダリューセクにも彼等は助力してくれた。

 

 魔王サスクールが倒された今も、ドラゴン達は変わらずにこの国や同盟国に留まっている。

 理由を聞いてみると、ブルーム様に言われて自分達も再認識しなければならない。人間と言う自分達の事を、アシュプ様とブルーム様が心変わりした理由を知らなければならないのだと。



「虹の契約者。それ自体が極めて稀なのに、2人同時に現れるんだ。奇跡の1つや2つが起きても不思議ではないな」

「……俺達、そういうの何度も見てるんだけど」

「無論、慣れすぎなのも問題だがな」

「なんか、すみません」



 セクトがそう謝るとジグルドは、俺も何度か見せてもらったと言い本題へと移る。



「そんな奇跡を起こす固まりの人物が作った魔道具。製作者の願いとそれを叶える大精霊が居てこそ生まれてしまった物。通常の魔道具よりも効果が高いのはその願いによるものだ」

「願い、ですか」




 ラウルがそう言われて思い出すのは、麗奈が願った内容について。

 彼女は怨霊と戦い続けている陰陽師。魔法と違い怪我をすれば、完治するのに時間がかかる。しかも、彼女達の場合は自分達の力を隠してきている。

 

 それは目に見えない相手だから。

 一部しか見えていないのに、その他大勢に説明しろと言う方が難しい。

 証明するものがなのに。証明する力はあっても、それすらも見えている人ははほんの一部であり恐怖の対象だ。


 だからこそ、麗奈はこの世界に来て最初に思ったのだ。

 魔法であれなんであれ、生き残って欲しい。彼女にとってはささやかな願いであり、ラウル達にお礼にと渡してきたのはお守り代わりになればいい。


 作った麗奈ですら少し守る程度で、皆の力になればいい。

 実際にはラウル達に渡った魔道具は破格級のものであり、唯一無二の魔道具。通常であれば壊れないとされている筈の物を、ラウルは壊したのだ。


 急に罪悪感と申し訳なさが襲い、顔が真っ青になる。



「……お前、やっと自分が何しでかしたのか分かったのか?」

「分かっていた、つもりでした。麗奈が掛けた願いが、それだけの効果になるなんて……本人ですら思ってないんでしょう。俺は俺であの時の行動は良しとしていましたから」

「お前も嬢ちゃんも、後に残される俺等の事を少しでも頭に入れてくれてたらなぁ~ってのは冗談だ。次やったらっ叩くだけじゃ済まさないぞ」

「すみません、反省します……」



 兄セクトの本気の睨みに、ラウルは素直にそう述べた。

 年上に逆らう事をして来ないラウルなりの抵抗だったのかも知れないが、それでもやっていい事と悪い事の区別をつけろと言われてしまう。


 そんなラウルの様子を見たジグルドは安心した様に頷く。



「せっかく武器を持ってきたのに、また特攻されも困る。そんな奴に俺達が打った武器は渡せんしな」

「うっ。や、約束します。もうあんな無茶はしないって」

「当たり前だろうに。ま、俺達が渡すのはお前さん専用の武器だ。受け取れ、ラウル」



 布に包まれている剣の1つをラウルへと手渡す。

 最初に柄に触れてた時、ラウルは思わず目を見開いた。


 初めて触れる筈なのに、とても自分の手に馴染んでいた。しっくり来ている上、長年使いこんだかのような不思議な感じ。



「驚いただろう? お前さんの癖を誰が一番近くで見ていたのか。手の大きさ、振るう腕の角度やお前さんの役割を考えての剣だ。安心していい、いつもの戦闘スタイルでも問題ないように作った」

「……そうか。麗奈の傍には必ずと言って良いほどにアルベルトさんが居た。それに、ディルバーレル国では俺達の武器を綺麗にしてくれたから、その時に色々と記憶していたのか」



 最初にアルベルトが行った武器を綺麗にしたのは、誠一と麗奈に出会った記念として彼なりの恩返しのつもりなのだろう。

 アルベルトに腕輪を渡していた麗奈は、その場ですぐに自分用に打ち直した早業に驚いていた。その時の興奮した様に話す彼女を思い出し、ラウルはドワーフと言う種族と仲良く出来た彼女達に驚かされるばかり。



「魔力を通せばすぐに分かる。それは精剣と対になるようにして作れられた()()だ」



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