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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第295話:出来る事、出来ない事

 

 ゆき達が来た経緯を聞いたハルヒは驚きながらも、彼女の両サイドに居るリーグとアリサを見る。

 この世界に飛ばされた時、最初に対応したのはリーグだったと2人から聞いている。そして、2人がリーグの事を甘やかすのも知っている。


 今もギュっとゆきの手を掴んでいるアリサの事を見て確認した。

 これから厳しい環境に身を置く事になるだろうからと説明しても、彼女は首を縦には振らずに「嫌だ」と拒否をした。





「私、もう待ちたくない……。探しに行けるなら行きたいの。足手まといになるなら置いて行って良いから!!」

「そんな事したら、僕がれいちゃんに怒鳴られるから嫌だよ」




 そっかと小さく呟いた後で、アリサの事を優しく撫でる。

 船でニチリに来たよりも体力があるのは、キールの転移魔法による所だとすぐに分かる。そんな彼は、魔王ギリムの課題について考え込む。





「よりにもよってランセが相手か」

「何か弱点はないんですか、キールさん」

「あったら私の方が知りたいよ。言っておくけど、彼は多人数でも平気で手加減出来るからね。隙を狙う方が難しいって」

「ですよねぇ」




 ヤクルとキールの顔が沈む。

 いつも助けて貰っている相手との戦闘。当然、向こうは自分達の癖を知っているし長く生きてきたからこその利点もある。

 

 現にニチリのディルベルトと、ヤクルの兄であるフーリエの2人がランセにより叩きのめされている。2人が息切れしているのにランセは変わらず読書を続けている。


 


「流石、防衛を担うだけはあるよ。上級魔族とのやり合いにも慣れてくるでしょ」 

「せ、説得力が、ない……‼」

「うぅー。ヤクルから聞いてたけど、ランセさんの手加減のなさと言ったら」

「ユリウスにも修行をつけたけど、1回も勝ててないから。ショック受けないで」

「……でしょうね」




 遠い目をするフーリエに、ディルベルトはアウラから水を貰い一気に飲み干す。

 彼女も先程まで、咲と共にランセと戦ったが見事に惨敗。ハルヒも加わったが3人仲良く倒された。




「それよりあの人は? えっと、れいちゃんの騎士をしてるって言ってた」

「ラウルさん? ヤクルが言うにはあとからだって聞いたよ」

「ふーん……」




 あまり納得しない表情で頷きながらふと思う。

 ラウルは麗奈から貰った魔道具も合わせ、代々で使ってきた剣も粉々だ。魔族のラークを完全に倒す為に自身の魔力ごと相手に喰わせ、自爆するという覚悟で。


 しかしそれは成されなかった。

 魔道具が砕かれてでも、彼は生き延びた。彼女の生き残るという願いの効果なのか、創造主であるデューオとの接触を果たしたからか。


 ラウル自身は覚えてないのだろう。気付いた時には魔王城の中に居た上、諦めた様子でいるハルヒを発見した。

 咄嗟に助けた彼は、ラウルがいつも腰に下げている剣がない事に気付いた。




(ゆきを守る時には、氷で作った剣で対応してた。新たに作るのも時間が無いはず)

「ポポー」




 アルベルトがアリサの肩に乗り、ペコリと頭を下げる。

 アリサは笑顔でよろしくと言い、邪魔にならないようにと2人で海辺に行くと言って離れていく。




「あ」

「どうしたの?」




 ゆきの疑問には答えず、ハルヒは気付いた。アルベルトの種族がドワーフで何が得意なのか。

 その時に、凄くお金がかかるだろうなぁとつい思ってしまった。



======



「少し構わないか?」

「え」

「クポポ?」




 一方、海を眺めていたアリサとアルベルトに声を掛けてくれた人物。魔王ギリムの姿に驚きつつ、アリサは無言で頷いた。




「ポポ!!」




 アルベルトが不安そうなアリサに向けて、自分の手を使い頭や頬を撫でる。それに驚きつつ、アルベルトの行動を受け入れる。ギリムはその時にアリサの心情を読み取った。




「あ、あの」

「すまない」

「え……?」




 ギリムがランセと同じ魔王だと言うのは話に聞いていた。

 アリサに闇の魔法の扱いを教えてくれたランセと今いるギリムとを見比べる。ギリムは王の風格があり、少しだけ近付きにくい。

 ランセの印象は、優しい雰囲気を纏ったお兄さん。その印象の違いに、アリサは戸惑っているとギリムは謝罪をした。


 自分は魔族をまとめる立場なのに、御しれない者達が居た事。その被害はアリサだけではないが、生き残った彼女にそう説明をする。




「サスクールを滅ぼすのが遅れた。これは余の判断ミスだ」

「……」




 じっと見た後、アリサはギリムの元へと向かいギュと足にしがみついた。次いでアルベルトが肩へと乗り、アリサにしたようにギリムの頬を撫でる。




「む?」

「えっと、ママも言ってたけど。出来る事と出来ない事があるって」




 それはまだアリサが両親の死を受けれていたと思っていた事。

 寂しいと思ったら、麗奈の傍に寝に行くのが彼女の癖だ。ゆきもアリサが寝た後で、自分も両親が亡くなった時はこうして誰かに居てくれたと言っていた。


 その日はなかなか寝れず、麗奈にしがみついていた。

 アリサの体が僅かに震えているのを知り、麗奈は優しく体を撫でる。少しでもアリサの不安が取れるように、少しでも安心して寝れるようにとしたものだ。




「……ママは怖くないの?」

「ん? それは魔物と戦う事?」

「それもだけど……」




 その先を口にするのにアリサは迷った。

 自分は魔族に体を乗っ取られた。それも両親を殺したであろう魔族に。

 麗奈とゆきが相手にしているのはそんな相手だ。幼いアリサでも分かる。あれは性格が悪い。生き残る為に、何をしても良いと考えるような悪意のような存在。


 実際、その魔族の所為でアリサの育った所は無くなった。何でもないような、酷く面倒な感じで行ったそれに恐怖を覚える。


 口にするのに迷ったが、麗奈とゆきがアリサの事を抱きしめて落ち着かせるようにして背中をポンポンと軽く叩く。




「今、アリサちゃんが感じてる事は私もゆきも感じてる事だよ」

「ママも? ゆきお姉ちゃんもなの?」

「そうだよ。麗奈ちゃんは戦ってきた経験があるのに怖いんだもん。私だって怖いよ。でも……ちょっとだけ嬉しいの。麗奈ちゃんの役に立ててるのが」

「いつもゆきにはお世話になりっぱなしなのに?」




 これ以上、何を役に立とうとするのか。麗奈の表情からそう読み取ったゆきは、小さく溜息をして「ほら、そういう所」とジト目で見る。




「今まで戦いで役に立とうとしても、出来なかったし。こっちの世界に来てから、それが少し叶ったのが嬉しいの。怖いんだけど、これは私の本心。それに自分に守れる力があるなら使いたいって思うから」

「……私も、出来るかな」




 自分の小さな手をじっと見る。

 アリサの扱う属性は闇。魔族が扱う魔法の属性であり、人間が扱うのには緻密なコントロールが有する。

 それに彼女は覚えている。自分が壊れろと思った時、闇の魔法がどれだけの力を放ったか。その力を人に向けて良いわけがない。それは分かるのに、同時に恐怖も覚える。強い力が自分を飲み込んで、自分が保てなくなるのでは、と。


 どこかで正気を失ってしまうのではと不安になる。




「大丈夫だよアリサちゃん。暴走しない為に、ランセさんから教わってるんだし」

「それにランセさんが言ってたでしょ? 出来る事を自分で見付けていくだけでも違うって。自分の力に向き合うってそれだけで成長してるようなものだよ」

「……ん。頑張る」




 ゆきと麗奈の言葉を聞き、自分の思う不安を聞いてもらった。それだけで、アリサは心が晴れていくような気分になった。不安そうにしていた表情も、今では落ち着いたのかすぐに眠りに入る。

 そんなアリサに、ゆきと麗奈は笑いながら「偉い、偉い」と言って頭を撫でる。その優しい手つきが好きで、それが亡くなったお母さんと被るからだろう。


 いつも夢で魔族に追い掛け回される酷い夢を見たが、この日を境にそれは消えた。

 温かい人達が居る。

 だからこそアリサは行動を起こした。待っているだけではダメなのだと。




「種族が違ってても、出来る事も出来ない事もあるって言いたくて……。そのぉ、えっと」

「ポポー」

「う、うん。元気出してって言いたいの!!」




 アルベルトの言葉は分からないが、アリサは勝手にそう判断する。

 自分を責めているようにも見えたギリムに、2人からは違うと言われてしまい反応に困る。


 すると、そんなギリムの様子がおかしいのかクスクスと笑い声が聞こえた。




「完璧に行おうとするのは悪い癖だと何度も言ったんですけどね。お嬢さんの方がよく見てる」




 何もない所から現れたのは、端整な顔立ちの男性だ。

 クリーム色の長髪を1つに結びニコニコとしている。キョトンとしたアリサは「え、え……?」と不思議そうに見た後で彼の手から小さな黒い影が浮かび上がる。

 

 流動していたそれは、やがて形をなして小さな黒い犬へと変化。

 アリサの目の前に恰好よく降り立つと「ワン!!」と元気よく吠え、尻尾をブンブンと振っている。




「触っても……良いの?」

「平気だよ。危害を加える訳じゃないし、遊びたがってるだけだよ」

「ポポゥ」

「ワフッ!!」




 アルベルトにのしかかる。アルベルトの方が身長はあるのに、力で負けたのか単に彼がワザと負けたのか分からない。恐る恐るアリサが子犬に触れる。すると、水のように流れたかと思えば彼女の肩に乗っている。


 それから何度も試すが、アリサとアルベルトは捕まえられない。

 水のように体を変化させ、自由に動き回る子犬は遊び足りないと言わんばかりに元気よく吠える。




「ふふ、困惑している所を見られるのは貴重ですね。息子の指摘より、あの子に指摘されたから驚いているとか?」

「……そうかも知れん。ミリーとリザークの様子はどうなんだ」

「どうもこうも、ミリー様は文句を言ってましたよ。どこで油を売っているんだと」

「こちらの都合もあるんだがな」

「リザーク様は……いつものように部下達と遊び、強化した結界を簡単に壊していきました。あとで修理代と迷惑料の請求をします」

「そうしといてくれ。……アイツがこっちに来ると面倒を起こす」




 疲れたような顔なのは、リザークの行動が分かるからでありランセとの接触をしないようにとしているからだ。

 サスクールに復讐すると決めたランセは、同じ魔王のミリーとリザークとの接触をしなくなった。

 目的の人物が居なくなったと分かれば、ランセに会おうとしてくるだろう。話がややこしくなるのが分かり、ギリムは思わず舌打ちをした。




「ホント、お父様の悔しそうな顔が出来るのって同じ魔王位なものですね」

「楽し気に言うな」

「ふふ、失礼しました」

「やった!! 出来たー」

「ポポ♪」




 会話が終わる頃、アリサとアルベルトが協力して子犬を確保。

 水になって移動する前に、結界で動きを封じた。水から子犬に変化する時の僅かな隙を狙ったのは無防備になっていると気付いたから。


 小さな檻の中に座り込む子犬は、悔しそうに鳴いており不機嫌そうに尻尾を振る。




「おや。意外に速い……」




 ギリムの息子であるラーゼは驚いた。しかし、アリサとアルベルトの協力で捕まえた事実に素直に拍手を送れば彼女は嬉しそうにしている。

 よく見ればアリサが作った結界は小さくとも強力なものだ。強度も強いからか、子犬が何度も抜けだろうとするも上手くいった試しがない。

 ランセから力の扱い方を学んだとギリムから聞いて納得した。


 サスティスから魔力の扱い方を学んだランセ。

 ギリムに次いで、緻密なコントロールが得意な魔王であり何が来ても対応して見せてしまう。そんな彼を相手に、ハルヒ達がどう一撃を与えるのかとちょっとだけワクワクした。


 そんなラーゼの様子に、ギリムは密かに心配になっている事など知らずに――。


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