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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第294話:長年の信頼


 ラーグルング国にある大きな城。

 その中で、宰相のイーナスが使っている執務室がある。裕二は変わらず彼のサポートをしており、最近では書類整理に加えて報告書の手直しなどをしている。




(ヤクル君の騎士団は、報告書も丁寧だからお手本になるね。それとリーグ君の騎士団の報告書はっと)

「裕二様、こちらは魔道隊の報告書になります」

「ありがとうございます、レーグ君。あ……ごめん」

「いえ。私も名前呼びすると言ったのに、つい癖で……」




 互いにへにゃりと締まらない顔をしながら、整理を続けた。向かい合わせに座る男性は、キョトンとしながらもレーグに聞いた。




「あれは止めなくていいのか?」

「止めた所で被害が広がるだけです。慣れて下さい、リラーク様」

「えっと、そっちも同じ理由?」

「環境に慣れる、という点に置いての順応さはありますよ。向こうではもっと厳しかったし」




 ハハッ、と悟るような笑いに2人は深く聞くのは危険だと判断して話題をそらす事にした。

   



「よく壊れないよな……」

「壊れるような力の使い方はしないですよ。師団長は加減だけは上手いですから」

「ワザと言ってるよね、レーグ」

「もちろんです。むしろそうでない理由はないのでは?」




 その間にも、キールの魔法が炸裂しイーナスは防御しながら接近。

 ピンポイントでの防御は、今まで苦手にあった。

 どうして自分の周囲を覆うようにして行う方に慣れてしまっていたからだ。そして、考え方が変わるきっかけを与えたのは異世界人である麗奈達が来てからだった。


 怨霊を相手にする彼女達は、どうしても多勢を相手にする。人の恨みを乗せ、憎しみで動く怨霊に攻撃パターンなど存在しない。

 邪魔をする者をどう排除するか。

 自身の周りだけを守っていれば良いわけではない。多角的に攻撃を繰り返される中で、陰陽師達は常にスタイルを変えてきた。


 その戦う姿勢をイーナスは観察し続けた。

 試験を行った麗奈に。霊獣である九尾と行動を共にする誠一、サポートを行う武彦や裕二の行動を見ていると分かる。


 彼女達の防御の仕方は、常に何が来ても良いように構えている。

 それこそ攻撃をピンポイントで防ぎ、掻いくぐる中で術を放つタイミングを探す。だからこそ、イーナスは苦手としている事を克服しないといけないと思った。


 敵が常に同じパターンで攻撃して来るわけがない。

 そう思えば、キールの放つ魔法のタイミングも冷静に見極められる。その変化をキールは感じ取り、魔法での攻撃を止めて接近しナイフでイーナスの剣とぶつかり合う。




「で? こっちは散々待った訳だけど。いい加減、ニチリに行きたいんだ。ハルヒ君が行ってる課題、クリアしないとだし」

「言いたいことは分かるけど、リーグと同じような行動に走らないでくれない!?」




 裕二とレーグ、そして向かい合わせて座っているリラークの周りに結界を張った。それを行ったのは、陰陽師のサポートをしてきた裕二だ。

 彼は結界を2重に行っている。宰相室の内装を壊さない為、そしてさっきのリーグとアリサが起こしたことを防ぐ為でもある。彼等に注意しといて大人であるイーナス達も同じ事をしている訳だが、部屋を壊さないように加減しているので許して欲しいと言うのはキールの意見。




「何やってんの!!」

「いっ……!?」

「うぐっ」




 2人を止めたのは、説得する為に訪ねたヘルスだ。

 拳骨を喰らった2人はその場でうずくまり、痛みが引くのを待っている。付いてきたリーグとアリサは、その喧嘩を止められるヘルスを凄い凄いと興奮気味に言っている。




「キール、イーナスの事を茶化すな。準備に駆け回っているのにそういう事言わない」

「えっ?」

「なっ!?」




 キョトンとするキールと違い、イーナスの顔は赤く染まる。

 その反応を見てヘルスは「やっぱり」と納得した様に呟き、座っているリラークへと挨拶をした。




「久しぶりだね」

「……本当に19歳の時で止まってる」

「理由はイーナスから聞いてるでしょ?」

「正直、この目で見るまでは信じられなかったね。……でも、ま。見た以上は協力しないとだな。そうなると、君が噂の異世界人?」

「え、あ……そうです」




 リーグとアリサの後を追うように入るゆきにリラークはじっと観察する。

 しかし、そんな2人の間に割って入るのはヤクルとラウルの2人だ。これにはリラークも目を見張り「怖いなぁ」とニヤニヤとし始める。




「何だよ。別にとって食おうって訳じゃないんだし」

「そんな事したら俺は貴方を軽蔑します」

「いえ、軽蔑だけでは足りませんよ団長。氷漬けして辺境に返しましょうか」




 リラーク・ヘルド、25歳。

 ラーグルング国の辺境拍の長男。妹のレバールは、ユリウスと同じ18歳で辺境の聖女と呼ばれる程の治癒の使い手だ。

 



「こえーよ、ラウル。本気な顔すんなって」

「茶化したリラーク様が言っても意味ないですよ」

「だからレーグ。お前も対応が冷たい」




 国境の守りを担う辺境伯。

 そのうちの1つであるヘルド家。彼は残り4つの辺境伯にも説得の為にと今まで駆け回っていた。ゆきがヤクルにどういう事かと説明を促す。


 そこで彼は、ラーグルング国の結界の仕組みを話し出す。

 内側にある5つの柱とは別に辺境に5つの魔力石(まりょくせき)があるのだといった。結界を起動するのに必要とした特殊なもの。だからこそ、王族の魔力で柱の力は保たれると同時に彼等が倒れれば国の崩壊を意味する。




「つまり、ヤクル達4騎士と辺境伯の5つとでこの国を守ってきたって事?」

「そういう事になる。内側と外側との連携でこの国の守りは固められているんだ」

「だからこそ困ったぜ。前に魔族が襲撃してきた時、柱から魔物が出て来たって言うじゃんか。なんの不具合だよと思ったし、このまま守ってて良いのかって疑いたくなったし」

「それには柱自体が呪いに侵されていた、とちゃんと説明したろ」

「いや、だから怖いってば」




 その事についてもリラークはちゃんと把握している。

 麗奈達がラーグルング国に来てからの事は、イーナスにより報告がなされていたからだ。ラウルの軽い睨みに、リラークは参ると言った感じで出された紅茶を飲む。

 



「それでリラーク。誠一さん達とは会ったんだろ? 魔石の調子はどうだった」




 出される答えが分かっているからか、ヘルスはニコニコとしている。

 してやられたと思いつつ彼は説明をした。

 ここ数日、自分の所を含めた辺境伯に陰陽師である誠一と武彦が訪ねてきた、と。彼等の説明はイーナスからの報告とエルフのフィナントが補足する形だったので揉め事はない。


 魔力で反応する筈の魔石に、陰陽師である誠一達が扱う霊力にも反応を示した。

 これは、柱を起動するのに麗奈の霊力が使われた事から可能性の1つとして知られている。内側に位置するヤクル達の防衛ラインである柱には、霊獣の九尾、清、風魔が居る事で正常に機能している。


 そして――。




「そちらの示した通りだった。外側に位置する俺達の辺境には、異世界人である彼等の力もちゃんと通った。今まで通りに彼等が定期的に、魔力石に力を注げば柱が機能するしちゃんと結界も張られる。いつもよりも強力に、な」

「誠一さん達はここに残ると言ってくれました。帰れる場所を守る為だと」

「それって……」




 会話の流れからして、誠一と武彦は引き続きラーグルング国に残る選択をした。

 本当なら娘の麗奈を探したいのに、2人は居場所をしっかりと守る方を選んだ。イーナスがゆきに向けて穏やかに告げる。




「2人からの伝言だよ、ゆきちゃん。麗奈とユリウスの事、ちゃんと連れ戻すまでは帰ってくるな……だってさ」

「っ!?」




 その言葉を理解したゆきは思わず泣いてしまった。

 今までお世話になり、面倒を見てきた朝霧家。麗奈とユリウスを探すという大役をゆきに託した。塞ぎ込んでいた彼女に少しでも役目を与えようとしたのかも知れない。

 自分の行動が読まれ、こうして譲ってくれると言う事実にどこまで優しい家族であり自分がその一員として認めれくれたようで、涙が溢れてくる。


 そんな彼女に、書類整理を終えた裕二が歩み寄る。




「その大役、実は私も言われててね。九尾さんと風魔に、お前も行けって怒られちゃってて」

「え、じゃあ……」

「うん。2人を迎えに行くっていう役目。私も一緒に行うよ。だから今まで書類を整理していた訳だし」

「寂しくなりますね。仕事が早くて助かっている部分も多いのに」




 少しだけ困ったように言うレーグ。しかし「師団長の代わりに」と言えば、裕二も「善処します」と返して互いの拳をコツンと軽くぶつけ合う。

 



「悪いけど勝手に付いてくよ。主ちゃんとユリウスを探すのに連れて行かない理由がないでしょ」

「どこから来るんですか、その自信は……」




 呆れるラウルにキールはある説明をした。

 大精霊と契約している人達は、強制的に連れ出すべきだと。麗奈に協力してきた精霊達は、キール達が本来、契約している存在。こうして長い間、契約者から離れる事は歴史的に見ても初めてだと言う。




「主ちゃんに協力して、今は状況的に離れるのが難しいとかね。彼等の状況が分からないのは怖いけど、戻ってきた時に一緒に居た方が調整もしやすいと思うんだ。あんまり離れてると魔力暴走を引き起こして大変な事になるし」

「恐らく数日じゃあ終わらないだろうからね。イーナスはそれを見越して、説得に駆け回ってくれたんだもん。協力してくれて助かるよリラーク」

「王の命令ですからね。それに結界の機能が正しくなってるのはこちらとしても助かるし。ちなみに……宰相からの報告にあったんだけど、ディルバーレル国のドネール王と義兄弟の契りを交わしたってマジ?」




 その問いに、ヘルスとキール、イーナスは嫌な顔をしながらも「そうだ」と告げる。

 リラークの表情が一気に青ざめる。




「彼が勝手な行動ばかりするから困ってる。何で止めないのさキール」

「止めようとしたのに、あっちが勝手に話を進めてきてんの!?」

「自由に行動しているのはヘルスも同じだよ。どうせ君も付いてくる気だろ?」

「え、そのつもりだよ。だからリーグとアリサの2人も説得しようと、ここまで来てるんだ。良かったね、2人共。一緒に行っていいってさ」

「はぁ、許可はしてないが言っても無駄だしな」

「そこは諦めないでくれると助かるんですが……」




 リーラクのお願いをイーナスはあっさりと拒否。

 1度決めたら行動に移すのは早い。その点で言えばドーネルと同じタイプだと理解している。そこは、彼がここ10年程ラーグルング国に居るからこそ見えてきたもの。


 こうしてゆき達も、麗奈とユリウスを探す為に行動を起こせる。

 そうと決まれば魔王ギリムの課題に苦労しているハルヒの元へと向かおう。連絡をしに行くゆきの足取りは、さっきまで塞ぎ込んでいたのが噓のように軽かった。


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