第293話:一緒に謝ろう!!
「げほっ……ごほっ、ごほっ」
「うぅ、失敗したぁ」
「な、何が……起きて」
ゆきはベッドに体を丸めていた。
何もする気が起きないのは、お腹が減っているのもあるし何よりも申し訳ない気持ちが一杯なのもあった。
その部屋が、何かに突撃される。
思わず起き上がった彼女は、苦し気に息を吐くリーグとアリサを見て固まった。
「え。リーグ君? アリサ……ちゃん?」
「あ、お姉ちゃん!!」
「お姉さん、元気ない。ご飯、食べてないの?」
「ど、どうして……」
疑問を口にするゆきに対して、リーグとアリサはおにぎりを持ってきた。
食事を口にしていないのは、彼等も知っておりヤクルが部屋の前に食事を置いているのも分かっていた。
リーグがこのままゆきが、部屋に閉じこもるのはダメだと思いどうしようかと考えている。アリサが軽食にと作ったおにぎりを作っているのが見えた。
彼女は、麗奈とユリウスの記憶を思い出し何か出来る事はないかと考えて食堂へと向かった。
魔物の脅威は幾分か減ったとはいえ、今も騎士達は魔物の相手をしている。
そんな彼等にと、彼女は不器用ながらも小さなおにぎりを作っていた。これは、ゆきが麗奈達にと作っていたのを見ていたのもある。
見ている時には簡単に作っていると思っていた。
しかし、小さなおにぎりを作ろうにも意外に上手くいかない。そんな彼女に、食堂の人達が優しく教えていく。
「ゆきちゃん、元気ないよね」
「そりゃあ……私達も含めて、2人の事を忘れていたんだ。ショックが大きいって」
自然と話題があがるのは、麗奈とユリウスの存在。
ゆきは麗奈の親友だ。
アリサは考える。自分も友達との思い出が消され、また思い出された時にどんな気持ちになってしまうのか。
「……お姉さん、悲しいよね?」
「それは」
「思い出が消されるのも、また思い出すのも……同じ位、悲しいよね」
そう聞くアリサは涙でボロボロだ。
ゆきはアリサの髪をよく結いてくれた。三つ編みにしたり、サイドに止めたりと工夫もしてくれて懐くのも早い。
何よりアリサはちゃんと見ていた。
麗奈と居る時、ゆきが今まで以上に楽しそうにしているのを。
「じゃあ、アリサちゃん。ゆきちゃんに届けてくれる?」
「えっ」
「あの子の笑顔に助けられたのは、私達も同じだもの。私達も恩返ししないとね」
そうして渡されたのは、一口サイズのおにぎりの数々。
不格好なおにぎりがあるのは、アリサの手作りもあるからだ。リーグはそれを見て、やっぱり行動に移そうと心に決めた。
「アリサちゃん!!」
「わわっ、リーグ騎士団長!?」
食堂の人達は、リーグの登場に驚いていると彼はアリサと共に「届けてくる!!」と言って出ていた。外から行った事に疑問を感じたが、その後に轟音が響いた事でサッと顔が青くなる。
まさか――。
互いに顔を見合わせた後で、音がした方へと向かえばそこにはイーナス達が居た。そして、ゆきを思うヤクルが部屋に入るのも目撃し自分達の所為ではないかと体を震わした。
「お姉さん、食べて? 元気でないよ」
「……でも」
「僕も!! 僕も忘れちゃってたんだ。麗奈お姉ちゃんの事、ユリウス様の事」
「っ……」
2人の名前を出されゆきは傷付いたような表情になる。
それにアリサも便乗し「私も!!」とリーグと共に訴える。ゆきがショックを受けたように、リーグもアリサも忘れていた事を後悔した。
そして、後悔したから次に起こす行動は謝る事だと告げた。
「忘れちゃってごめんなさいって、一緒に謝ろう? 許してくれないなら、許してくれるまで何度でも謝ろうよ」
「パパとママなら許してくると思うけど、ダメだったらアリサも一杯謝るから」
「リーグ君……アリサちゃん……」
「ね? 不安なら僕も行くから。2人を探そうよ!!」
「うんうん。アリサも探すの手伝う~」
年下の彼等が、自分よりもしっかりしている事。そして2人の言うように、閉じこもっていてはダメなのだと徐々に理解していく。
そうなるとお腹が空いてきたなと思い、おにぎりを掴んでパクリと食べる。
慌てずにゆっくりと噛んでいると、リーグが「お水!!」と5つほどのコップを渡していく。1つを受け取り、残りの4つは彼がコントロールして空中に浮かしている。
食堂に入った時、彼は風をコントロールして蓋もした。おにぎりにだって、ゴミが入らないように結界を1つ1つ作った。
これも厳しいキールの指導があって出来た事。ちょっとした自信に彼は嬉しそうにしている。だが、ガシリと自分の頭を鷲掴みにされた時にハッとした。
「誰が壊せと言った、リーグ!!!」
「いだだだっ」
「はい。アリサちゃんも悪いことしたからね? 痛い事するよ」
「え、あ……い、痛い、痛いっ、痛いよ!!!」
続けてアリサにはイーナスから、側頭部に対して拳骨をグリグリとされ痛さに大きく叫んだ。
その様子に、食堂の人達は慌てて入り全員が土下座をした。
おにぎりを食べ終えた時、リーグとアリサは涙を浮かべヤクルとイーナスからは睨まれている。
思わず状況を説明して欲しいとゆきは、ラウルに視線で訴え説明を始めたのだった。
「イーナス。ほらその辺にしなって」
「っ、けど……」
反省しているリーグとアリサに、思わずゆきが出る。
2人をそんな行動に走らせたのは自分にあるのだと言えば、ヘルスはポンポンとイーナスの肩を軽く叩いた。
もう怒らなくていいと視線で訴えられ、言葉に詰まりつつもイーナスは話を続けた。
「じゃあリーグ。君の給料は半年をカットするよ。税で直すより、自分の給料から引かれる方が響くよね?」
「うぅ……はい。ごめんなさい」
「連帯責任で、ゆきちゃんのもカット。良かれと思ってだろうけど、2人は怪我をさせたらとか思わなかったの?」
「「「ごめんなさい」」」
3人が謝った後で後片づけをする。
ゆきも手伝おうとしたが、ヤクルに止められて別室で待機するようにとイーナスに言われてしまう。詳しい経緯を知る為に、ヘルスは土下座をした食堂の人達を見る。
「貴方達も、ね? 怪我しちゃうと2人が心配するからさ」
「も、申し訳ないです」
「少しでもゆきちゃんに元気になって欲しくて、それで……」
「大丈夫。分かってるから」
全員を立たせた後、ヘルスの光の魔法で擦り傷などを治していく。
見ていたフリーゲが念の為に検査をすると言い、無理矢理に連行していく。見ていた誠一は何か手伝うことはあるだろうかと聞くも彼は「大丈夫です」と答え、リーグとアリサの作業を見守る。
「つ、疲れた……」
「はあ、はあ、はあ……」
机にベタっと突っ伏すリーグとアリサ。
ベールの妹であるフィルが、2人にと甘い飲み物を用意した。すぐに飲み干せば、目を輝かせて美味しいと何度も言う。
「もう可愛い。撫でたい」
「母様、我慢です」
「うぅ……」
ソワソワした様にエレスが訴えるも、すぐに娘から却下と言われて肩を落とす。その隙に、フィナントが無理矢理に仕事をさせようと魔道隊の居る塔へと連行。
仕事を終えた2人に、ヘルスが頭を撫でながら「お疲れ様」と労いホッとしたように顔を緩ませる。
「あの、ゆきお姉ちゃんは? もう平気?」
「元気になれた?」
「うん。ヤクルが運んだ食事も、完全に食べてない訳じゃなかったしフリーゲさんがちゃんと診てる」
「今はリーファーさんに睨まれてるのでは?」
「あぁ……だろうね」
ベールの指摘にヘルスは頷き、怒るリーファーに引きずられていくゆきを思い出した。
すると、リーグとアリサは互いの顔を見合した後で「ダメ~!!」と言って出ていく。怒られてるであろうゆきを助けるのだろうなと分かったヘルス達は、微笑ましく見守る事に決めた。
「ゆきちゃん人気だね」
「それはまぁ……。誰と一緒に居たと思います?」
「そうだね。麗奈ちゃんも人気だったしユリィもだ」
「えぇそうでしょ? だからヘルス、貴方も麗奈さんの事を妹にするという許可を」
「する訳ないだろ、バカ」
「ちっ……。意地悪」
ベールとの言い合いに、呆れる妹とセクト。心の中でまだ諦めないでいるベールに、さっさと諦めろと願うしかない。
まだ食い下がるベールにヘルスは無視して、リーグとアリサの後を追う。2人が行った場所は、フリーゲ達の居る薬師室だと予想はしていたからだ。
「もう平気か?」
「はい」
「よしっ、顔を見れるだけでもいい。俺等の代わりに2人をちゃんと連れ戻してこいよ!!」
「わわっリーファーさん!? さっきフリーゲさんにも、頭を撫でられて――」
「ちっ、気持ち悪い事をすんなよ」
「アンタもだろうがっ!!!」
リーグとアリサが駆けつければ、そこにはゆきが乱暴に頭を撫でられている場面に。咄嗟に間に入り2人でゆきを守るように抱きしめた。
「めっ!!」
「リーファーさん、ゆきお姉ちゃんの髪が乱れるからもうしないで」
「待て。何で俺が悪者にされてる……?」
周りに聞こうにも、フリーゲ以外の人達は一斉に視線を逸らした。
そこにヘルスが入り「貴方達の顔が怖いからですよ」と言うと自覚があったのか、2人して王族であるヘルスを思いきり叩いた。
「ってて。そういう加減のなさも、本当にそっくりですね」
「ふん。……そっちももう良いのかよ」
「え、えぇ。イーナスには散々、睨まれましたし書類も早めにやったし。ハルヒ君の居るニチリに合流しようかと考えてます」
「あ、あの……ヘルスお兄ちゃん」
「僕も!!」
「私も!!」
「「「行きたいです!!!」」」
3人の訴えにヘルスは笑顔で了承。
イーナスの説得に行くと言えば、リーグとアリサは怖いと言いつつ付いて行く。
「イーナスの奴、恐れられてるな」
「よーし、これから説得に行くよ。頑張って行こうね?」
「駄目だヘルス様が悪ノリしてる……。と、なると」
キールの奴が合流するなぁと遠い目をしたフリーゲの予想通り、執務室から怒声と雷が落ちる音が聞こえた。




