第27話:魔法師の登録
「はい。これでゆきさんも魔法師の仲間入りです。お疲れ様です」
「ありがとうございます!!」
翌朝。本部の受付を担当する方から魔法師として登録を済ませたゆきはニコニコと出て行く。本部から渡された水晶に自分の魔力を収めるようにイメージし、中に閉じ込めるようにすればその魔力の色が浮かび上がる。
ゆきの魔力の色は白。雲のように動く自分の魔力に(キールさんやレーグさんの色ってどんなのかな?)とワクワクした気分で見ていた。すると、別の受付の方が慌てた様子でゆきの手を掴み別室に案内される。なんでも白色の魔力は今まで見た事無く、既にその部屋に居たレーグの説明を受け聖属性の魔力を秘めている事が分かりもう一度その雲の動きを見て見る。
(あ、少し……キラキラ光ってる)
雲の中にキラキラと光るものが見えそれが聖属性の証と告げるレーグに受付をしていた人も含め、その場に居た魔法師達は口を閉ざすのを忘れる位に呆然とした。そして、ゆきの扱える属性は魔法師初の聖属性と言うのが分かり自身の研究の為に彼女を引き抜こうとするもレーグの「ラーグルングで管理するので大丈夫です」で全員引き下がった。
(………あの時のレーグさん、凄く怖かった)
水晶に魔力を帯びた事で魔法師としての登録は終わっているとの事でレーグからリーナが待っているから外に行っていいと言う言葉に甘えた。急いで外に出て待っているであろうリーナを見付け走る。
「あ」
ピリッとリーナの纏う空気が違うのが分かり声を掛けるのに躊躇してしまった。静かに気配を知られないようにゆっくり近付けば、肩が上下に動き寝息が聞こえている。
(……仕事、疲れかな?)
麗奈も仕事が上手くいかなかった時にはよくピリピリしており、話かけてもその話題は避ける傾向にある。温厚で自分によくしてくれているリーナにも、こういうピリピリした雰囲気があって当然だ。だからそんな時、ゆきはいつも麗奈にしている事を実行する。
(静かに、ただ傍に居るってだけでも安心だもんね……)
そろり、と静かに歩き彼を起こさないように横に立つ。そよ風が気持ちよく立って寝るより横になった方が良いだろうなと思っていると「ゆき……?」とリーナから声を掛けられる。
「ごめんね、寝てたのに………。レーグさんから待っているの聞いてたからさ」
「そう、ですか……すみません。待っていたのに寝てしまって」
「ううん、気にしないで。仕事ご苦労様、ラーグルングから離れても大変だね」
「……えぇ、まだ仕事してますから。夜中の襲撃も備えてランセさん、ラウルさんが見ていたので」
「襲撃。やっぱり、それが目的なのかな」
魔法師のみを狙い被害を出してきた魔物。襲撃に合うのが決まって夜か本部に戻る連絡をした魔法師達が襲われているという。既に死亡者も出ており、ギルドに頼むのは危険と考えていたセルティルだったがいつの間にか依頼として出されており頭を抱えたと言う。
「確か、ギルドは協会を乗っ取る目的でこの依頼を達しようとしているんでしたよね?」
「師団長もそれを警戒していますからね。子供が多いのは身寄りがないのも含めたり、協会に引き取って欲しいと頼まれる人達が多いからなんです。魔力のコントロールを覚えて、一人前の魔法師として旅を行かせたりここで研究したり家族と静かに暮らせるようにラーグルングにお願いしたりするからね」
「じゃあ、私達が居る国って元々住んでいる人達も居るけど、協会から来た人達も多いんですね」
ラーグルングに魔法師が多い理由として協会からこの国に行きたいと言う人達が多いからだと言う。セルティルが理事を務める前の理事は元々ラーグルング国と友好的だった上、ユリウスの父のヘクターからは「困ったらお互い様だ。協力出来る範囲で良いならなんでもしよう」と互いに補っていたと言う話だ。
「陛下のお父さん器が大きいんですね」
「その分、仕えていた人達が大変だったと聞いてますけどね」
「でも、魔法師として働くのには強制しては無いんだよね?」
「えぇ。自分のように街を破壊してしまった人達を増やしたくない、と思う人達がラーグルングで高い技術を学び各地を旅して困っている人達が居ないかなど献身的な思いで居ますからね。
それらも含めて、国に在籍する扱いでは不味いだろうから客員として一時的に預かりそのまま、国民として在籍して下さっている人達が居るのも事実です。だから騎士団の中に剣を扱っていながら魔法を扱える者は多く居ますし魔法師として貢献して頂いて貰ってる訳です」
「結果的に、国として大きくなったし知名度も互いに上がったんだね」
「まぁここ8年は国の名前は落ちてるけどね~」
いつから居たのかキールは2人の話に割って入って来た。思わず剣を抜きそうになったリーナは自分の心を落ち着かせ「いつから居ましたか?」と少し怒ったような口調で聞いてくる。
「リーナの説明の時にね。知っての通り、2つの魔王軍で絶望的になったしね。周りの国々は滅んだ国としてありもしない噂を流されてるけどね」
「な、何でです?」
「外との繋がりが海路しかないからね。商人達が来るけど、彼等も穴場としてのこの国を知られたくはないんだろうしね。滅んだとされる国の名産物を高値で売り、こっちでは安く仕入れるみたいな事もしてるしね。
あとは神霊の国のニチリがよく連絡寄越してくれるから……まぁ完全に孤立って訳でもないんだよ」
「ニチリって国は………どんな感じなんです?こっちに支援したりしないんですか?」
「ここと同じ森が多くて良い場所だよ。支援したくても向こうの事情もあるしね、まだ無理を通す訳にはいかないって話だよ。母がここで理事をしてるのも前の理事から頼まれたからだって言う事らしいよ」
(らしい………?)
「協会としてのこの場所は母の魔法の力でもあるんだ。他所から来るには魔法師として登録した魔力しか通せないから襲撃してる魔物はこの場所を知りたいみたいだしね」
魔女の力の1つとされている異空間。場所を切り分け外部との遮断を行うことから魔女達が世間的に知られていない理由にもなっている。これはセルティルが理事として就いた時にすぐに実行された。
登録していない者が無理にここに辿り着こうとしようものなら現実と異空間との狭間で死ぬとされている。「死」と言う言葉に強張らせるゆきをリーナは感じ取るもキールはそのまま話を進める。
「……実際、そこまで対策しないといけないんですね」
「そうだよ、ゆきちゃん。ここの人達がラーグルングに憧れるのは前の人達の約束を守っているものだし、陛下もそれを分かってるからね。私達みたいな貴族は汚い事でもやる輩も居るから、ゆきちゃんや主ちゃんの言うようにカッコいいばかりじゃないしね」
「そう、ですね。私達……本当に運が良かったって事ですね」
「じゃ、これから魔法師達が襲われたって言う場所に向かうね。ゆきちゃん、リーナはここで襲撃された場合も含めてここに残ってて。すぐに戻るから心配しないでね♪」
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「………ここを左です」
ヒラヒラと札が動き左の方向へとクシャクシャと曲がる。麗奈がランセに言えば彼は頷き「じゃ、そのまま案内よろしく」と促し彼女もそれを了承したように動く。
2人が来ているのは一昨日魔法師が襲われたとされる村・バーナント。この村で異常を感知した魔法師が様子を見に協会から出て行ってから既に1週間。一昨日、登録していた魔力が忽然と消えたと言う。調査の為にその日の内に戦闘にも慣れている魔法師達にも出向いて貰ったが、その魔法師達も既に魔力の反応が無い事からセルティルは事態を重く見て息子のキールを呼び出した。
そのおまけとして昨日、麗奈達が一気に来たので良しとした彼女は息子のキールと魔王であるランセに伝えていた。恐らく魔族が関わっている、と。まずは消えた魔法師達の場所を探ろうと魔力探知を開始したが、同じ闇の力が充満している事から探すのが難しいとなり困り果てた。
「それにしても驚いたなぁ。麗奈さん、それは探知の札か何か?」
「探知と不思議な力を感知するように込めた札です。式神みたいに人型になると知らない人から見たら怖いからこの紙のままで移動してますけど」
彼女は陰陽師の扱う札に霊力を込めて念じた。’霊力とは違う力を探して’と命令を下せば紙の先端が青く光り、自分を引っ張るようにピンと張り詰めたように伸びる。
「この状態ならまっすぐ。右に曲がれば右方向に、左なら同じく左方向に。後ろなら逆になりますし、下とか上でも反応してくれますよ。上は風魔が見張ってるから異変があったらすぐに教えてくれます」
「ほうほう。………属性が違えば一発なんだけど、こうも濃いと色々と混ざるからね。私も万能じゃないよ」
「いえ。役に立てたなら嬉しいです」
「麗奈、ランセさん!!お待たせしました」
ユリウスとキール、ラウルが困ったように付いてきた。ユリウスが来た事に驚いていると「呪いの影響で他の町や村に行ったら危ない可能性がある」とキールから聞き麗奈は思わず無事かどうか確認をした。
「き、気分悪くない?」
「平気」
「ホント?ねえ、ホントにホント?」
「へ、平気だ。大丈夫だから」
「キールさん……ユリィを実験に使わないで下さい」
ランセが呪いを解いたとはいえほんの一部。それで心配になる麗奈にクスクスと笑うキールに思わず睨み付ける。ランセが「若者使って遊ばない」とペシリと叩かれるもキールは「ごめんごめん」と反省の色がない。
「麗奈。何か見つかったか?」
「今、この式神で感知して貰ってる。もうすぐ辿り着くと思うよ」
「………に、しても。人が居ないな」
バーナントに入ってからの違和感。朝ここに来てからと言うものの、誰一人として家から出てこないのだ。ドアを叩き事情を聞こうとするも、誰も外に出ようとせず時々自分達を見ているような視線があるがよそ者だからと言う理由で気にしないでいた。
「………人の気配はするけどね」
バン!!とキールが言うと同時に複数の男達が麗奈達を囲み逃げ道を塞いでいく。ラウルとユリウスは麗奈の前に控えいつでも剣を抜ける準備をし、ランセは退屈そうに目を細めキールはニコニコと「獲物来た♪」とテンションが上がっている。
見れば男達にはそれぞれ武器を手に持っている。剣、槍、斧、双剣、弓矢。そのどれも自分達に向けられており何でなのかと麗奈が疑問に思う。
「おいおい、お嬢ちゃん達。こんな村に一体何の用だい?」
「わ、私達は――」
「良いよ主ちゃん。話しても無駄だから」
「キ、キール……さん?」
すると、キールと言う言葉に反応した男達が段々と思い出したかのように「お、お前あの時の!!!」、「男女!!!」と騒ぎだし不思議そうに見ればキールはキョトンとしておりよく分からないと言う表情をしている。
「………誰?」
「お、お前!!!あの狩場での事を忘れたと言うのか!!!!」
「はぁ………狩場?何の話?」
「お、お前に体を痺れさせた恨み忘れられたとは言わせねぇよ!!!!」
「ごめんね。邪魔者は退場して貰ってるからいちいち覚えてないよ」
ヒートアップしたように恨み言を言う男達にキールは涼しい顔で言い放つ。ランセは溜息を吐きユリウス達は(何したんだ!!!)と回答を求めるも、キールは面倒だなと言い正面に立っていた男達を吹き飛ばしていく。
「キ、キールさん!?」
「っ、この!!!」
止めに入ろうとした麗奈に斬りかかる1人の男。それはラウルが剣で受け止めユリウスが蹴り上げて気絶させる。それに驚いていると、ユリウスは麗奈を抱えて吹き飛ばされた男達の方へと走り抜けていく。
「ちょっ、ちょっと!!!」
「面倒後はキールの所為だから。俺達は関係ない!!!」
「先行ってますキールさん」
「じゃあね~」
ラウルとランセが後を追うようにして走り抜け、気付けばキールを囲うようにして男達が殺気立ったように武器を構える。嫌な顔をせず「はいはい。私の所為ですね」と当然とばかりに1人に押し付ける。
「うーん、知り合いなのかも知れないけどごめんね。君等に時間かける気はないからとっとと退場して貰うね」
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「ここ!!!ユリィ、この場所!!!」
「っ、うおっと」
咄嗟に止まり落ちかけるのを何とか踏み止まる。ランセも「ここで間違いないよ」と言い現場を見る。そこは村には似合わない大きな屋敷が建っていた。村にある家は木造建ての家がバラバラになって建てられている中で、ひと際目立つ屋敷があるだけでも異様な光景。
白塗りの建物に、赤い屋根の豪邸に麗奈は厳しい目を向ける。ランセは正面玄関と思われる両サイドには剣と盾を掲げた鎧の騎士があり物々しい置物と思われるものがある。その門構えに立ちガロウを呼び出す。
出てきたのは黒騎士ではなく狼の方であり麗奈の姿を見てすぐに飛びつこうとするのを、抑えつけ何かを頼んでいる。その間、耳は主人であるランセに向けているが視線はずっと麗奈の方を見ており尻尾がフリフリと嬉しそうに振っている。既に後ろに来ていた風魔はずっと威嚇するように睨んでいる。
「ちょっと聞いてる?」
≪ガウ♪≫
「じゃあ頼むよ。っておい!!!」
「きゃあっ」
≪クウ~ン♪≫
『来るなって言うのに!!!』
「へぇ。狼なんて触った事ないけど、結構フサフサだな。触るかラウル」
「いえ、大丈夫です」
ガロウに飛び付かれ倒れそうになるのを風魔に支えるも怒りを露わにする。その間にユリウスはガロウを触りラウルに促すが彼は静かに拒否しランセが困ったように溜息を吐く。
「………君、本当に彼女の事好きだな」
≪ガウガウ!!≫
「あ、あのガロウ。ランセさんに頼まれた事しないと彼怒るよ?」
「良いよ別に。ここの見張り頼んだだけだし」
「見張り、ですか……」
疑問に思い聞き返すラウルにランセは「念の為ね」と言い門を潜ろうとして自分を呼ぶ麗奈の声に気付きその場に離れる。その瞬間、ドカアアン!!と自分を襲った際に起きた時に生じた土煙と襲った相手を見る。門の両サイドに置かれていた鎧の置物がギシッ、ギシッ、と軋む音とその騎士に集まるように魔物達が現れる。
「………邪魔」
魔物の影を利用して、雪崩のように飲み込みそのまま消滅。残ったのはあの鎧のみで手足が異様に伸びている。腕の繋ぎ目からは細い糸が束になって幾つも折り重なって白い腕にも見える。兜の部分には赤い光を灯し麗奈達を敵とみなしておりガシャン、ガシャン、と歩く音が不気味さを煽っている。
「アレの相手はやる。君達は屋敷の中に入って魔法師達を探した方が良い。理事長からは生きてる可能性もあるから出来れば連れて戻して欲しい、と言われてる」
「は、はい!!」
「了解ですランセさん」
「アイシクル!!」
氷で鎧の動きを鈍らせ足元から胴体に向けて貫かれる。その隙に麗奈を抱えたユリウスは屋敷の中に入った同時に冷たい空気が流れる。ラウルが屋敷に入ったと同時にバタン!!と勝手に閉まる扉。警戒を強めるラウルを嘲笑うように少女の笑い声が響く。
「ふふふっ、お姉さん達おはよう。……最近、のんびり過ごしたいのになかなか出来ないの。一昨日も変な人達が来たし」
フワリ、と彼等の前に音もなく現れたのは10歳前後の少女だ。煌めく金髪の髪を赤いリボンのツインテールに結び、黒のドレスに紫色の瞳。一瞬、人形が生きているようなそんな錯覚さえ覚える。
「君……一昨日って言ったけど、ここにどんな人が来たのか覚えてる?」
麗奈が恐る恐る聞く。協会から来た魔法師達は皆、青いローブを身に付け銀のブレスレットを付けているのが特徴だと聞いている。その質問に少女はまた笑い「知ってるよ」と嬉しそうに言った。
「驚いて加減が分からなくて殺しちゃったけど♪でも、グルー様には1人生きてるのを渡したから」
(あんな女の子が……そんな事を)
驚く麗奈にユリウスは双剣を構え、ラウルも既に剣を抜き倒す態勢。風魔も警戒を強めている様子にその少女の周りには次々と魔物達が集まってくる。
「私はアリサって言うんだよろしくね。友達が居ないから欲しいんだぁ♪一昨日の人達はすぐにダメになったけど、お姉さん達、一昨日の人達よりも頑丈そうだから良かった。……すぐに死なないでね?」




