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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第291話:次の目標


「その後はディルバーレル国の守護に天空の大精霊を。ラーグルング国には、原初の大精霊であるアシュプを配置して同盟を結び、当時の獣人の王とも契りを交わしたな」

「待って。また爆弾発言してる」




 ギリムが最初の異世界人である、優菜達との旅の一部を聞いていたランセ達。

 聞いている中で、ハルヒは沸々とある怒りが湧いていた。じっと我慢している中で、ランセがギリムに待ったをかけた。




「ん? どこがだ?」

「言ってて気付かないのって怖い……」

「もうこんなもんだと思って受け止めた方が早いですよ、主」

「それをすると、この人の場合は際限がなくなる。気付かない内にどんどん爆弾発言しかしなくなるぞ」

「……諦めも肝心です」

「お前が諦めてどうする」




 サッと目を逸らすティーラにランセは小さく溜息を零す。

 そして、ギリムの方を見ればどこがおかしいのかと、思案しているので大きな溜息をするしかない。




「まさか自国の歴史を聞けるとは思いませんでしたね。そっか……。そこからの縁で今も繋がれているのは良いことです」




 ディルバーレル国の王であるドーネルは、ギリムの経験談を聞き自分の事のように嬉しく思う。そして同時に思った。自分達を繋げていたのは、陰陽師である彼女達のお陰でもあるのだと。




(あの時に麗奈ちゃんに会えたのは偶然だとしても、やっぱり支えたいって思うのは私の本心なんだよねぇ)




 麗奈がディルバーレル国の近くに転移されてきたのは、大精霊ブルームの力によるもの。

 魔法の源とされている彼が、消滅の危機になりその力を壊せるのは彼女しかいないと判断された。


 運命の悪戯か、その力を封じていたのは麗奈と同じ陰陽師である事。

 その術者は、この世界に来た優菜と関りを持っていた事。ドーネルは知らなくとも、聞いていたハルヒにはなんとなしの察しはついていた。




「すみません。僕はこれで席を外します」

「え」

「ハルヒ君……?」




 ブルトが驚いたように声をあげ、ドーネルはハルヒの様子がおかしいと気付く。

 心配そうに見上げるも、彼は視線を合わせないでいる。




「え、ちょっ……!!」




 パシッ、とブルトは勢いのままハルヒの腕を掴んだ。

 思わず振り向いたハルヒに、ブルトはなんて言おうとしたか言葉に詰まる。




「な、何でイライラしてるんス?」

「関係ない」

「で、でも……」

「少なくとも、君達にイラついている訳じゃない。……理由はこれで十分でしょ」




 ハルヒの睨みで、一瞬だけ怯んだ。

 その隙に彼は腕を振り切り足早に離れていく。しかし、魔族のブルト達には聞こえてきた。去り際に小さく舌打ちをしていた事に。




「……」

「安心しろブルト。あれはお前にイラついてるって訳じゃねぇ」

「ティーラの言う通りだよ。彼が怒ってるのは……。まぁ、自分の問題みたいな部分だと思うし」




 ねっ? と優し気に見られ、ブルトは消えていくハルヒの方を心配そうに見つめる。もう1度様子を見に行こうと決め、ティーラの横に再び座る。

 その一方で、ギリムは不思議そうにランセに聞く。




「彼は幸彦の子孫だろ? 何か問題があるのか?」

「その彼は、今はハルヒ君の式神として行動を共にしていますよ。名前は破軍って変えてますけども」

「……そうか」

「ちなみに、麗奈さんの式神には今は話した優菜さんと行動を共にしていた人達も居ます」

「そうだったのか。だったら、彼女達を連れ戻さないとな。彼等と再会出来るかも知れんし」




 一方でハルヒはずっと怒った調子で足を早めた。

 頭を占めるのは、今までの破軍の発言だった。




「くそっ。何が後悔しないように、だ!! アイツが、アイツが一番……!!!」




 思わず壁を殴りつけた。その時に「きゃっ!?」と悲鳴が上がるもハルヒは気付かないまま。

 



「アイツ、すました顔して自分は何でも知ってるみたいな態度とって。その本人が、一番後悔している事してんじゃんかよ、嘘つき……!!!」




 ギリム側の話を聞いても、優菜と幸彦の仲の良さは分かると言っていた。

 それは周囲にそう見られる位に、2人の距離の近さにあったのだろう。だから同時に思う。彼が早い段階で亡くなったのは自分の死期を悟っていたからなのか。




(結局、僕もアイツも踊らされたって事か。組織内容を内部から変えようとしたアイツを、快く思わない奴が殺したのか、そう仕向けられたか。多分、それを分かった上で……陰陽師の繁栄を選んだんだ)




 繁栄を願うのは未来に繋げる為。

 そして、幸彦が開発した術が今のハルヒ達にとって大きな助けになっているのも事実。それでも、とハルヒは思ってしまう。

 そこに幸彦の意志はあったのか?  

 そうすることで、彼は自分の感情を押し殺し続けてきたのではないか?




(くそっ、これじゃ使役してるなんて言えないな……)

「も、もしかして……ハルヒ様ですか?」

「え?」




 思考が止まる。

 声が発せられた方を見ると、湯気が見え柑橘系の香りがした。場所を把握しハルヒは慌てて答える。




「ご、ごめんっ!! でも誤解しないで欲しいんだけど」

「何かお悩みがあるのでは?」

「うっ……」




 言い当てられその場に座り込んだ。

 声の主はアウラだ。神の声を聞ける立場の彼女は、身を清め祈りを捧げた後はお風呂に入る。それが日に何度もあれば、それだけの祈りをアウラが捧げている事。それは心身と魔力を伴う行動。そう何度もして良い筈がないと分かりつつ、ハルヒは彼女の行動を止められない。


 自分に出来る精一杯の事だから、笑顔で言われてしまったから。

 最近になり、頑固な女性に弱いと気付く。麗奈の前では見せなかった弱音をアウラに見せるようになったのは、自身の気持ちを自覚したからかも知れない。




「聞きますよ。私は何度もハルヒ様に助けられていますし」

「……それなら聞いてもらおう、かな」

「はいっ。少し待っていて下さいね♪」




 嬉しそうな声に思わずハルヒはクスリと笑った。

 その数分後、アウラは嬉しそうに駆け寄りそのままダイブ。慌てて用意したであろう事は、アウラの髪がまだ乾ききっていない事。そして彼女を探すウィルの声が聞こえているのも大きい。




「だからって、そんなに慌てなくてもちゃんと待つのに」

「すみません。ハルヒ様に会いたくてつい……」




 仕方ないとハルヒは心の中で呟き、札を取り出して霊力を込める。

 アウラの周囲に集まり、火のイメージを抱きつつ火力を小さくする。彼女の長い髪を乾かしながら、別の札で(くし)を作る。


 髪を乾かしながら、ハルヒはギリムから聞いた話をアウラに伝えていく。

 自分達より前に来た異世界人が、麗奈の祖先である事。土御門家の祖先も、同じようにこの世界に来ていた事を伝えていく中で、彼は自分のイライラの正体をぶちまける。




「アウラ。破軍の事、覚えてる?」

「はい。私の呪いを解いた時、ハルヒ様と共に対処してくれた式神の事ですよね?」

「そう。アイツは自分の事は言わない癖に、僕には選択を間違うなと何度も言ってきた。何でそんな事を言ってくるのかって不思議に思ってて……さっき気付いた」

「……」




 ハルヒの言葉を待つアウラは、破軍という式神を思い出す。

 彼が使役する式神の中で、最強の力を持つ人型。おちゃらけた性格であり、主であるハルヒをからかう癖がある。

 だが、アウラは彼の性格の明るさに救われている。

 呪いで自分の命が残り少ないと分かった時、何もせずに受け入れようとした彼女を『いけない』と注意をしてくれた。




『諦めたらいけないよ。人は後悔する生き物だ。受け入れたとしても、君の中では確実に何かが違うと分かる筈だ。本当は……生きたいと願う筈だろ?』




 その時に言われた事を思い出す。

 誰も指摘してこなかった。本当はそう指摘したいのに、アウラが全てを受け入れる意思が強かったからこそ言いたくとも言えなかった。


 自分は逃げていた。その事実を気付かせてくれた破軍の言葉は、なんだか自身の体験も含んだような言い方が多かった。




「ギリムさんの話を聞いて驚いたよ。アイツ……朝霧家の当主と政略結婚する予定だったんだよ。ま、それは上層部の思惑で潰されたけどね」




 乾ききったアウラの髪を撫でると、ハルヒの動きが止まる。

 言葉に詰まったような、少し言いづらそうにしていた空気を感じた。そして、アウラの背中越しにトンとハルヒが寄りかかるのが分かった。




「僕に口うるさく言ってたよ。選択を間違うな、後悔するなって。……アイツが一番、自分の気持ちに対して後悔してたっていうのに。自分の気持ちに蓋をした。死んで後悔してるから、主である僕に訴えてきた。同じ間違いをして欲しくないからなのか……」




 死んでから破軍はどんな気持ちだったのだろう。

 自身は追わずに、陰陽師の繁栄と未来を願った。例え自分が殺されようとも、死んだとしても彼が作った術式は今のハルヒ達の助けになっている。


 多くの術を作り、若くして亡くなったとされている幸彦。

 その裏で、彼の努力と引き換えに何を犠牲にしてきたのかはハルヒには分からない。自分の事を話さないでいるのは、その思いを知られたくないのか背負わせたくないからか。




「認めるよ。僕は破軍の事を何も知らず、ただのお調子者と思ってた。れいちゃんみたいに、アイツに歩み寄るべきだったのかも。だとしても、悟らせない為にお調子者を演じてたのならぶっ飛ばす事には変わらない」

「そこはブレずにいるんですね」

「当たり前だよ。離れてからアイツの思いを理解しようと思ったなんて口が裂けても言えない」

「ふふ、私には言って良いんですか?」

「相談に乗ってくれるって言ったのはアウラでしょ? 悪いけど、こんなのれいちゃんとゆきの前で言えないってば」

「それは良かったです。ハルヒ様は何でも抱え込んでしまうから、私の前では弱音を吐いてくれていいですからね」

「ありがとう」



 

 ハルヒは感謝している意味も込めてアウラの事をギュっと抱きしめる。

 そうしたらすぐにやることを決める。自分にこんなモヤモヤとした気持ちを抱かせた破軍には、説教をしてやらないと不公平だと思う。


 アウラに創造主からの答えはあったのかと聞くも、無言で首を振ったことからあれ以来の接触は出来ないと諦めるしかない。気まぐれな神の態度に腹が立ってくる。破軍と同様に殴る気でいるハルヒは、魔王ランセにどう一撃を喰らわそうかと必死で考える。



 そんな彼の元に1つの連絡が入った。

 ラーグルング国からゆき達が合流するという知らせ。早速、アウラと共に迎えに行けば彼女は覚悟を決めた表情で告げたのだ。


 自分も、麗奈とユリウスを探すのを諦めたくない――と。


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