第288話:珍しがられるエルフ
「感じ取れる数はこれで全部だ。ここに魔物が来る事はもうない」
「……ん、それは良かった。しかしなぁ」
難しい顔してそう答えるのはドワーフだ。
小競り合いが続いているとは聞いていたが、まさか魔物の群れにまで襲われているとは思わなかったようだ。そして、この国には騎士が居たと記憶している。
「はい。これで傷は癒えましたよ」
「ホントだ。ありがとう!! えっと、お姉さん?」
「ごめんねぇ。これでもお兄さんなんだ」
「……美人だぁ」
エルフの見た目は綺麗で整った者達が多い。
だからなのか、こうして男性とも女性とも見えてしまう時がある。治療を受けていた子供達は、お礼を言いつつ綺麗な男性も居るんだとキラキラした目で見ていた。
珍しいからか、彼はすぐに子供達に囲まれてしまう。
「おっと、そんなに珍しい?」
「うんっ!!」
「なんだろう。お花のにおいがする」
「太陽のにおいもする~」
優菜達が止める間もなく、彼は大勢の子供達に囲まれて身動きが取れていない。だというのに、子供に慣れているのか特に嫌な顔もせずにのんびりと相手をしている。
「お酒で酔ったなんて思えないよね」
「こら、そこは黙るのが筋よ」
「えへへ、よく言われます~」
(あ、自覚はあるんだ)
朝霧 由利と朝霧 玲。
彼女達は、後の朱雀と玄武になる女性。朝霧家の分家であり、司と同じく日菜に自ら協力を申し出た。
彼女達はそれぞれ、得意とする術が違うが妙に馬が合った。
玲はのんびりとした性格で、そこを由利が正しながらも世話をするといったポジションに収まっている。
だが、彼女達は昔から霊力が弱くお互いに補う形で今までの怨霊にも対処してきた。が、子孫を残したいとする考えがある朝霧家の中では弱い霊力ではダメだった。
それが子供にも受け継いでしまうのではないかという危惧。
特に本家の中で、優菜は霊力の量だけで決めて良いわけではないと訴えてきた。しかし、青龍と交流をしたのをきっかけにして周りの反応は変わった。
彼女は幸彦と同じく、陰陽師達の組織を少しでも変えたいと願っている。
彼の目指そうとしている所に自分も行けるのなら。
そんな思いがやがて自分で支えたいと思うのは、そう時間がかからない。幼い頃から幸彦と交流していたからだろうし、彼は何かと優菜を守ってきた。
だから、冷遇されそうになっていた彼女達を優菜は自分の補佐役として推薦した。
そうした経緯もあり、2人は優菜に感謝している。だからこそ、日菜から聞かされた優菜の状況を聞き怒りを覚えた。
自分達が守りたいとされている人が苦しんでいる。
例え裏切り者と罵られようとも、彼女の優しさに救われた2人に迷いはなかった。逃げる場所があるなら、何処へだって付いていく。
もう1度、優菜の笑顔を見る為にならと日菜と共に行動を起こした。
(成程な。そういう経緯で、彼女達はこちらに来たのか……)
彼女達の心の内を読んだギリムは納得した。
何故、1度だけしか来ていないのにこの世界に来れたのか。身を隠せる場所を探し逃げ続けてきた彼等を、デューオは慈悲で行ったのかは分からない。が、彼の何がそうさせたのかをギリムは読める筈もない。
(奴が親切心でここに……? 何を考えてるんだ一体)
「そーれ!!」
「ぐっ……」
そんなギリムの思考を邪魔するように、腹に重い一撃が加わる。
「きゃー」と高い声が聞こえ、それが1人ではなく2人分居るのだと分かったのは倒れてから。見れば幼い子供がきゃっきゃっと楽しそうにしている。
「おい……」
「呼んでるのに黙ってる君が悪いんでしょ?」
「だからと言って子供を投げるな」
「すみませんっ、すみませんっ!!」
実行したエルフを睨むギリムに、ドワーフは呆れ顔で「アホ」と言った。そして、日菜は子供達に怪我はないことと危ないことはしないと保護者達に説明し事態を収めようと努める。
しかし、彼等は笑顔で「あんなに笑ったのは久しぶりなんです」と止めるどころか嬉しそうにしていた。
「な、何でですか? どう見てもこちらが危険なことをしたと言うのに。平気です、彼にはきっちりと反省させて置きますから」
「ちょっと日菜君? どんな風に私の事を見てるんだい?」
「予想外な行動を起こすバカだと言ってるんだ」
「いだだっ。痛い、痛いよギリム」
顔面を掴み、持ち上げるギリムの表情は怒りに満ちている。
このままでは頭から潰しかねない。そんなハラハラした気持ちで優菜と司は、止めれるであろうドワーフに助けを求める。
「痛い目をみても反省しないアイツが悪い」
「それはそうですが……」
「苦労してるんですね……彼の所為で」
「ちょっ!? ホント助けて。ギリムの奴、本気で力を緩めないんだけど!!」
「止めるのも疲れた。以上」
「薄情者。ぐうっ、ギリム。ホント……痛い」
「まず黙れ」
そう言って思いきり地面へと叩きつけられ、今度こそ気絶させられた。
ぐったりしている彼の周りには、子供達が集まり「お兄ちゃん?」と頬をつつき合っている。
「これは……。もう魔物が倒されている?」
息を切らしながらも駆けつけてきたのは騎士が2人。
被害を受けたであろう村人達の無事を見て安心し、彼等の介抱をしている優菜達へと視線を向ける。
一瞬、優菜達は警戒されるのかと思ったが反応が違った。
助けてくれた事への感謝と、自分達の不甲斐なさだと反省しずっと謝り続けていた。
「本当に、感謝してもしきれないです……」
「我々も駆けつけるのが遅れてしまい申し訳ないです」
「騎士様、貴方達も大変なのに……。意地を張った我々が悪いのです。お願いします。今からでも受け入れてくれますか?」
「はい。では今から馬車を」
「それには及ばん。余が全員を送る」
「……え」
言われた事が分からず思わず騎士2名はポカンとしてしまう。
ギリムが実行したのは、ラーグルング国へと転移した事。光に包まれたかと思った時には、既に目的地である国に来ているのだ。
ビックリしたように周囲を見る優菜達と助けられた村人達。
騎士2人は驚いたように、ギリムを見た後で意を決したようにお願いをした。
王と会ってくれないか、と。




