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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第284話:5年後の再会


「久しいな、君達は。いや、1人居ないな……。ユキヒコ、だったか? 彼はどうしたんだ」

「「っ!?」」



 5年経ったとはいえ、ギリムは初めに会った異世界人である優菜達を忘れた事はない。

 彼女達が言ったようにあんなに濃い1日を忘れろと言うのは無理がある。彼女達に言っておいて、情けないなと思った。


 そして彼は感じた違和感を読み取る。




(人数が増えている……? いや、優菜と日菜の様子がおかしい)




 優菜達3人が来たのだと思ったが、その人数が増えている。

 彼女と日菜の他に、4人の男女が居た。その内の1人は、薄い蒼い色の髪を持ち明らかに人でない雰囲気なのが分かる。




(む、余と近い……? いや、この感じは)

『何者だ、お前っ』

「あ」

「ま、待って!! 青龍」




 日菜はマズいとはっとなり、優菜の制止を聞かず青龍はギリムへと突撃。

 彼は青龍の心の声を聞きながら攻撃を受け流し、または青龍へと飛ばした。




『っ。何故、俺の雷が……』

「余は敵ではない。落ち着く事は出来るか? 君の言う家の縛りとはなんだ」

『なっ……。そうか、お前は心が読める奴なのか!?』




 雷が効かない上、自身の心の内を読まれ更に殺気立つ。

 その行動に、ギリムは失敗だなと反省しつつ手を突き出す。繰り出された手刀に、青龍も応戦しつつ懐へと攻撃する機会を伺う。




「ダメ、青龍!!!」

「構わん。抑える」




 ダンッ、とギリムは自身の影を強く踏みつける。

 その行動に疑問を感じた青龍だったが、一気に間合いを詰めて再び雷を食らわそうとする。が、ギリムの影から伸びた無数の鞭により拘束される。




『ぐっ、こんなのもの』

「止めておくんだな。余の命令でそちらに雷を流す事も可能だ」

「違うの青龍。この人は敵じゃない。大丈夫だから」




 動きが止められた瞬間、優菜が体を張って青龍を止める。

 心を読まれ興奮状態にあった青龍だったが、彼女の必死な姿に自身が過ちを犯した事を知ると戦意を失くしていく。




『……すまない。勘違いをした』

「分かってくれれば良い。余も、この力の事を言っていなかった。お互いに落ち度があったということで痛み分けだ」




 その後、ギリムは彼女達から事情を聞いた。

 5年の間に幸彦は、土御門家の当主となった事。優菜も朝霧家の当主として上に立ち、政略結婚をした上で子供を産んだ事。


 分家の日菜が、優菜を連れ出して出て行った。青龍達は、その護衛の為に共に行動をしていたと聞く。




「ギリム、さん。悪いけど、少し俺に付いてきてくれ」

「ん、そうしよう。アシュプ、余が作った料理を彼女達に食べさせておいてくれ」

《まずは座る所からだな》




 魔法で椅子や机を作り出しテキパキと動くアシュプ。

 ギリムはこの5年の間、アシュプと各地を回りつつ料理を身につけ自炊を楽しんでいる。


 彼女達から距離を離しつつも、話の内容が聞けない程度に離れた。

 そして周囲を確認し、森の奥深くにいるのが分かると日菜は大きく息を吐く。




「すまんな。余は言っていない事がある。心の中が読めるこの力は、自分では止められん」

「あ、あはは。1日の中でそれを言うのも大変ですよ……。あの時の俺等、新しいものが見れて興奮してたし」

「……。彼女の元気がないにも、子供の事があるからか?」

「それもある。でも、本当なら幸彦と優菜は結婚する筈だったんだ。なのに……アイツ等ときたら!!!」




 その時の自身の怒りを思い出し、日菜は自分の太ももを何度も殴る。

 ギリムが止めるように言うも、手を止めない彼を両手を持って制止させる。ハッとした日菜は、ギリムの事を見て落ち着きを取り戻しすぐに謝る。




「悪い……」

「気にするな。余が聞いて吐き出せるのであれば、何でも言うんだ。一体、向こうで何があった」




 そこから日菜はポツリと話し始める。

 土御門家の当主として忙しくする幸彦は、陰陽師家の繋がりも考えつつ意識改革をしようとしていた。




「なんて言うか、家の連中の中には伝統を重んじる頭の固い連中が多い。だから、外れ者の俺等と正当な土御門家となんて不釣り合いだとうるさくてね」

「……だが、彼はそうは思わなかった。だろ? あの2人を見ていて好ましくあるし、似た者同士というのだが」

「ギリムさんにまで見抜かれてるって……どんだけだよ、あの2人」




 格式を大事にする者が多いが、幸彦はそれを変えようとしていた。

 優菜と婚約を結ぶ事で、平等にしようと考えた。だが、婚約の話を進めていく中で同時に動いていた。

 優菜と幸彦では不釣り合いだからと、勝手に根回りをしたのだと日菜は言った。




「幸彦は……アイツは凄い陰陽師だよ。術の構成も、繰り出すスピードも早い。何よりその術を後世にも残そうと必死で書き残してた。俺は、そんなアイツだから任せられるって思って……なのに……」

「根回しをしたのは、同じ土御門家とやらか?」

「それもあるし、優菜と無理に婚約を結ばした家の都合もある。何より、俺達は1代で終わらせない為にって意向も朝霧家の中で思ってたんだろ」

「その事を幸彦は知っているのか?」

「知ってたら乗り込んでくるよ、アイツは」

「……そうか」




 秘密裏に行われた。

 日菜の口調からそう読み取れた。そして、優菜と日菜は無理矢理に引き剝がされ3年はお互いの行方が分からないまま。

 青龍と協力し、また同じように修行していた分家の者達の協力もあり、優菜の居場所を突き止める事が出来た。日菜が様子を見る為にと忍び込み、優菜の姿を見た時に怒りに身を任せそうになった。




「優菜はっ……。誰がどう見ても憔悴してた。手に見たこともない痣もあった。そんな状態なのに、男子を産めと強要して……。無意識に泣いてたのを見て、俺は……俺はっ!!!」

「もういい。無理に連れ出さなければ、彼女の心はとっくに死んでいた。日菜……お前はよくやった」

「っ……。うぐっ、俺が……俺がもっと早ければ……」




 ポン、とギリムは日菜の頭を撫で労わる。

 その手つきと優しさに、日菜は再び涙を流す。自分が早く探していれば、彼女を苦しめずに済んでのではないか。


 傷ついた心と体をどう癒せばいいのか分からず、日菜達は追っ手を逃れながらの逃亡を続けてきた。そうしている内、またこの世界へと再び呼ばれたのだと分かる。




「龍神の力が欲しいからって、周りの連中はこぞって優菜を狙いやがって。幸彦もそれを防ぎたくて、青龍がやっていた術を使えるように改良してきたのに……。なんで誰もそっとする事をしないんだよ。そんなに力が欲しいのかよ……。他を蹴落としてまで」

「だが見ろ。日菜」

「え」




 悔し気に語る日菜は、ギリムに促され優菜達の方を見る。

 そこにはアシュプから出された料理を食べて、久方ぶりに見る優菜の微笑み。ぎこちなさを残りつつあったが、その変化に周りは涙した。




「今度は帰れとは言わん。好きなだけ居ろ。なんなら、こっちに住むつもりでいい」

「……出来んの、そんな事」

「実はな。余も自分の家を持ちたくて各地を旅してる。色々と見て料理を覚えた位だ。まだまだ勉強が出来る事もあって楽しいぞ?」




 涙を拭きもう1度優菜を見る。

 温かいスープを飲み、ホッとし安心している表情を見て――彼は、今度はちゃんと守らないと強く強く自分に言い聞かせた。




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