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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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幕間:2人の行方②


 ユリウスが治療を受ける中、フィーは自分が創造した世界へと麗奈とザジを連れて来た。

 彼がその場に現れると既に片膝をつき、頭を下げている人物が1人居る。その人物からは白い両翼が見え、同時に強い力を感じた。




(コイツ……強い)




 ザジは自分の勘から、その人物の実力をそう結論付けた。

 敵を作る気はないが、彼が優先しているのは麗奈の無事だ。それを害そうとするのなら、誰が相手でも負ける訳にはいかない。


 そんなザジの決意を、フィーは既に心の声として聞き「あー」と気まずそうに声をかける。




「言っとくけど、ラフィはかなり強いぞ? 俺が創った最初の天使で、まとめ役なんだから。ついでに言っておくと、俺もラフィも心の中は読めるから気を付けろ」

「そう言うのは早く言えっての!!」




 殴ろうとしたザジだったが、フィーとの間に羽が割り込んできた。

 ギョッとしつつ、瞬時にその場から離れる。ザジが立っていた場所には、鋭い風が通っていた。

 即座に誰がやったかのは分かるも、ザジの背後には既にその人物が立っている。




「フィー様。この者は何者ですか? 創造主である貴方に対しての無礼が過ぎますが」

「止めとけよ、ラフィ。俺と同じ創造主の部下だよ。彼女の事が気になってたんで、俺が無理矢理に連れて来たんだよ」

「またそのような勝手を……」




 溜め息交じりに答えつつも、ザジの首筋には剣先を付けたまま。命令があれば、いつでも処理出来ると言わんばかりの態度に反撃に出ようとした。しかし、すぐにそれを止め両手を上に上げた。




「悪かった。……争いに来たんじゃねぇ」

「次は気を付けて下さい」




 相手からの殺気が納まり、警戒を解いたザジは「拘束するか?」と聞くもラフィは首を振った。




「フィー様から、貴方方を客人として扱う様にと命を受けています。ここでの無礼は、私が見なかった事として受け取ります」

「……ありがとう? って言えば良いのか」

「意味が分からないのなら、無理に感謝しなくても良いです」

「そうか。でも、悪かったのは事実だからそれだけは謝る」

「フィー様を殴ろうとした部分は謝らないと言う事ですね。……分かりました。貴方の性格がどのような感じは読み取れました」

「……んん?」




 首をかしげ意味を読み解けないザジに、ラフィはそれ以上の事はツッコまない。そしてそんな2人の会話をフィーは笑いを堪えて聞いている。

 だが耐えきれなくなり、爆笑すれば困惑気味に見るザジとラフィ。そのシンクロに、変にツボに入り落ち着くまでに時間がかかった。




「ヒィ、ヒィ……やべぇ、笑った笑った。良かったなラフィ。仲良く出来そうで」

「自分はしなくて良いです」

「俺もこんな奴いらん」

「……」




 無言で睨むラフィに、ザジは気付かないまま。そのズレを楽しんでいたフィーだったが、真剣な表情で麗奈をラフィへと託す。




「力の循環が自然じゃないから、まずはここで力の循環を良くするんだ。良いな?」

「分かりました。丁重に扱います。気になるなら君も来なさい」

「え、あ……」




 流れるようにその場を出て行くラフィに慌ててついて行くザジ。

 既に麗奈を抱え、ラフィは迷うことなくある場所へと辿り着く。


 部屋へと通じる扉が、閉じられたその瞬間に扉は消え去り壁へと変わる。足早に行くラフィを追いながらザジは、廊下だと思われる場所に気配がない事に気付く。




(……デューオの所と随分、違うんだな)




 彼は仕事場の部屋として、水晶が多く浮かんでおり常に彼が見ている映像が流れる。

 ザジとサスティスはそこで仕事を頼まれる。狩る存在と場所を告げ、いつものように「行ってらっしゃい」を言われる。


 何気ない言葉にやりとりだったが、今にして思えばザジはそれに懐かしさを覚えていた。


 自分が子猫の時、麗奈が帰って来た時に「ただいま」と言われ嬉しかった事。出掛ける時や幼稚園に行く時には、玄関先で待ち彼女の気配がなくなるまでじっと待っている。


 ふと、前世での自分を思い出しすぐに雑念を振り払う。

 昔を懐かしむ前に、今を――現実に目を向けないといけない。




「ようこそ、と言うのもおかしな話ですが。ここは、フィー様が創られた天上界。我々、天使族が住む国になります」




 いつの間にか風が抜け、広がる光景にザジは呆然とした。


 広がる世界は、雲の上に立つ建物。白を基調とした建物が多くあり、見た目が似ている。だが、その中央には大きな城があった。


 その城も雲の上に建っており、その周りを囲うように淡い色の膜が張られている。力の流れから、麗奈が扱う結界のような力だと分かる。




「我々は今からあの城へと向かいます。2人はあそこで自由にして下さい」

「え、あ、あぁ……」




 するといつの間にか伸びていたのか、ザジ達の足元には白い地面があった。その伸びた先には、自由にしていいと言われたあの城まである。


 途方もない距離だと思ったら、気付いたときにはその城の前まで来ていた。あまりに一瞬な事に、思わず後ろを振り向く。


 広がっているのは、雲の上に立っている塔や大小の建物。距離感が掴めないでいるザジに構わず、ラフィは歩き出し慌てて付いて行く。




「まずは、体の中にある魔力の循環を良くします。そうなれば自然と目を覚まします」

「……」

「歯がゆいのは分かりますが、今は辛抱をして下さい」

「分かった」



 広いベッドに麗奈を横たわらせ、目を覚まさない彼女を心配そうに見るザジ。彼の目から見ても、力の循環がおかしな方向へと入り乱れているのは分かる。


 やはり陰陽師の力として扱う霊力と、魔力による反発なのかと思ったがそうではないらしい。




「力の流れは正常ですが、彼女の体がそれに耐えられていない様子。助けるのが遅ければ、体がバラバラになっていたでしょう」

「っ……」

「でも、貴方が側に居たからこそ、この程度で済んでいるとも言えます」

「それって……」

「貴方の行動は、間違っていない。そう言っています」

「そ、そうか……。大丈夫、だって事か」




 ザシはそこで、ようやく気が抜けた。

 ペタンと座り頭の中で繰り返す。自分の行動は間違えてなかった、と。

 何度も繰り返し、実感を得た所でポロッと涙が出た。


 麗奈の事を生かせるならなんだってやってきた。それ位の恩を、返しきれないものをザジは麗奈から貰った。彼に家族と言うものを教え、一緒に居ようねと約束をした。でも、自分はそれをきちんと返す事もなく終わった身。


 だらかこそ――だからだろう。今度は何が何でも、麗奈の事を助けると誓い彼女を狙うサスクールを必ず殺すと決めていた。




「……それだけ大事なら、創造主様にお願いしてみればどうですか? 生き返らせて貰えるかどうか」

「え」




 思わぬ所から、思わぬ言葉が出てザジはピタリと泣くのを止めた。

 今までは死者として、麗奈に接してきた。彼女は陰陽師の仕事をしてきたからこそ、死者が見え彼等の声と姿を認知出来る。


 覚悟はしていた。全てが終わったら、自分は麗奈と別れるだろう、と。




「そんな、事……出来る訳」

「少なくとも、創造主様の力が及ぶ所ならあの方のやる事はルールが定めたと言う事。そのルールを書き換えられるのも、またあの方々だけの特権でしょう」

「……」

「部外者が言う事ではないですね。すみません」




 部屋を出ようしたラフィの足がふと止まり、告げていく。




「貴方は一途過ぎる。彼女の為に身を粉にしてきたのが、私でも分かります。そこに貴方の意思が反映されているのも分かります。少しは……自分にワガママになってみるのはどうでしょうかね」

「……素直に」




 小さく呟き、ラフィに言われた事を頭の中で繰り返していく。

 噛みしめるように、1つ1つの意味を確かめる様に考え込むザジにラフィは出過ぎた真似をしたと自覚している。




(あそこまで純粋に、ただ1人を想う行動力とその力。……なんだか応援したくなってしまうんですよねぇ)




 それもこれも、ある人物の傍に居て見てきたからこそ。

 その経験もあるから、ラフィはついお節介をしてしまう。普段は仕事をこなし、敵には容赦ないと言われる天使達のまとめ役。

 

 彼の予感は当たる。 

 少しだけワクワクしてきたラフィは、久々に客人を持て成す為の準備を進めていった。


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