表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
325/433

第281話:思わぬ収穫


「まず咲さんは、自分の魔力の巡りを良くしておく事。調整が出来ていないのも、自分の力をきちんと理解していないから。あとでヒントを渡すから、歩けるようになったら私の所に来てね」

「はい……」




 ハルヒの言う通り、咲はランセに攻撃を当てられずに終わった。

 しかも、魔法での攻撃を行おうとしたその瞬間――気付いた時には思い切り投げられたのだ。


 相手が魔法だけを使う訳ではないと分かっていたのに。

 それも込みで、動いたランセのスピードは早く隙を上手く突いた上で彼女を投げ飛ばし、続けてハルヒを雷で動きを封じた。


 一瞬の痺れに、マズいと思った。

 そう思った時には、ハルヒも咲と同じく思い切り投げ飛ばされて、この医務室のベッドの上で大人しくしている。




「次はハルヒ君ね。結界の強度の調整とか専門外だけど、魔法に関してはアドバイス出来るよ。まず、君は相手を見てから攻撃する癖を直す事。相手は自分よりもスピードに特化した場合、見てから準備するまでのロスで死んでる」

「……はい」

「術と同じく、魔法の発動時間をもっと短縮する事だね。動けるようになったら自分なりにやってみて。それでも答えが見付からないなら、咲さんと同じように相談しに来て良いから」

「ありがとうございます」



 2人にそう告げたランセは医務室から出て行く。

 気配がないのを感じ取り、咲とハルヒは同時に溜め息を吐いた。


 分かっていた。相手は魔王の1人だ。

 元とはいえ、これまで彼に助けられた回数は多い。最初から勝てないと分かっていたのに、思っていた以上にショックを受けていると分析できる。




「分かったでしょ? ランセさんに攻撃も当てられないのに、魔王ギリムに当てようだなんて無謀も良い所だって」

「いえ……十分にそれは理解出来たんですけど。でも、やっぱり悔しいです」

「人間が魔王に勝とうなんて、夢物語だよって言いたいけど……。実際、れいちゃん達はやったらかなぁ~」




 多くの大精霊と死神と言ういレギュラーが加わった状態だが、実際にそれを成した。

 だからこそ思う。その2人が居ないのはやっぱり寂しくて、早く迎えに行かないといけないと。




(焦るなって言いたいのかな……ランセさんは)




 ハルヒはこれまでのランセの様子を思い出す。

 ユリウスと麗奈の近くにおり、魔王サスクールとの戦いも参戦した。最後まで戦い抜いた同じ魔王。




(そう言えば、ランセさんってちゃんと寝てるのかな)




 自分達よりも悔しい気持ちはあるだろうに、ランセからはそれが滲み出ていない。

 人間よりも長寿であるからこそ、そう言う気持ちを隠すのが上手いのか。自分達の体調も気にしながらも、自分自身はどうなのだろうかと――ふとハルヒは思ってしまう。




「はわぁ~。アルベルトさん、フィフィルさん。そんなに押さなくても、ほっぺは無くならないですよ」

「……何してんの」




 思考を中断し、ジト目で咲を見る。

 そんな彼女は両サイドから、ドワーフのアルベルトとフィフィルにより頬を押されているという妙な光景。

 咲とハルヒに、果物を持って来たナタールがそれを見て固まる。

 痛がっている訳でもなく、咲はただされるまま。そして何故だか嬉しそうにしている。




「ポポ」

「フポ~」

「ふーん。僕達がランセさんにやれる所を見てたんだ。で、君達は……励ましに来たと?」

「ポポ!!」

「ポフポフ~」




 そう答えながら、咲にヨシヨシと頭を撫でたり頑張ったねと言ったりと忙しくしている。

 癒しを貰ったからか咲の気持ちの回復は早かった。

 その様子を何処から見ていたのか。アウラはハルヒにスライムを渡してきた。




「ハルヒ様。その……ウンディーネは今は居ませんが、眷族であるスライムは健在です。前に麗奈様がプニプニしていて可愛いと言ってたので、癒しをと思いまして」

「ん。あ……見た目の割にそんなに冷たくないんだ。あれ、もしかして僕の体温を測りながら調整しているの?」




 枕代わりに使ってみると、居心地が良い。むしろ良すぎていてマズい気がした。

 ハルヒの質問に、スライムはニョキリと水の腕を作り丸印を示した。


 答えが合っていると言う意思表示なのはすぐに伝わり、スライムに触れながら自分の契約したポセイドンの事を思い出す。




「あ、咲。僕達の精霊が戻って来たら、試しにポセイドンのマッサージを受けてみてよ。彼、腕が多いから的確にツボを突いてくれるし気持ち良いよ」

「本当ですか? それは楽しみです。セレーネ様も、激務が続いているので、私が試して良かったらお願いしたいです」




 気持ちの回復は思ったよりも早く済む。

 問題は自分達の攻撃をどうランセに当てられるか。アウラとナタールも、2人の応援をしつつ共に作戦を練る事になった。




======



「どうなんだ。あの2人は」

「ユリウスと麗奈さんと同じだったよ。負ける気はしないっていう気合が見られて、良い傾向だよ」




 一方で魔王ギリムとランセは話し合いと報告を続けていた。


 そのすぐ傍ではティーラが眠そうに欠伸をしているが、それを咎める気はない。そのティーラの横ではブルトは焦り出しちゃんとして欲しいと訴えるも――ティーラがそれに答える訳がない。




「で? 私をここに縛り付ける理由は何?」

「ミリーとリザークに会いたくはないだろ」

「……」



 

 ギリムの意図をランセが読むのにそう時間は掛からない。


 同じ魔王のミリーとリザーク。

 その名を聞いて、ランセは分かりやすく嫌な顔をした。




「あー、まぁね。あの2人とは、私の国が無くなった時以来に少しだけ会った位だし。その時は、復讐する事に囚われていて暴走してたから……今更会うのも、ね」




 自虐的な笑みをし、素直にそう答えた。

 その言われた内容にティーラはピクリと反応を示すも、黙ったままで割り込む気配はない。


 それを察したブルトはまた緊張の嵐に見舞われる。




「ん? 余は良いのか? 余の所にも、随分な態度で来た気がするが?」

「貴方がそれを気にする程の人でしたか?」

「ふっ。気にしないな。その時のランセの気持ちを思えば、誰かに当たりたくなるのも分かる。……余も、大事なものを失った事があるから分かる」

「……それは、麗奈さんに聞いたユウナと呼ばれる人物ですか?」

「なんだ、聞いていたのか」

「いえ……。彼女からは少しだけですが」




 麗奈から少しだけ聞いていた。

 ユリウスの呪いを解く時に、後押しをしてくれたのは自分と同じ容姿の人。そして、その人物が朝霧家の初代当主でもあり、この世界に呼ばれた人だと。




「もしかして、その人と何か繋がりが?」

「信じられないかも知れないがな。彼女とその仲間達、余を含んだエルフやドワーフと旅をしていたんだ。今のラーグルング国とディルバーレル国を作り、初代国王同士での条約を結んだ。その貢献者、みたいなものだ」

「……待って下さい。情報が多すぎです」




 既に目頭を抑えるランセに、ティーラは「いつもの事でしょう」と開き直る。

 隣で聞いていたブルトが「え……え?」と出された情報を整理しようとして、混乱に陥っている。




「そうか? 興味はあるだろう。なぁ、ドネール王」

「あはは……バレてますよね、流石に」




 外で話しているので、誰かに聞かれる可能性はあった。

 だが、それでもドーネルは思わず足を止められずにいた。魔王同士での話なら、聞くのは悪いと思っていたがまさか自国の事となると――聞かずにはいられない。




「ランセも分かっているなら咎めたりするのかって思ったけど……意外にしないんだ」

「しても良いけど、貴方はキールと同じですからね。ヘルスの方がまだ聞き訳が良い」

「……アイツ、それ聞いたら怒るぞ?」

「怒った所で、私に攻撃を当てるのが難しいのを知ってるからね。不意打ちでも、当たれば運が良い方な位には」

「成程。だからか、キールがよく言ってたんですよ。ランセには一撃以上は当てたいって」




 少し話した後で、ドーネルが場所を変えようかと聞く。

 しかし、ギリムは別に平気だと言う。ドーネルも話しに混ざるように、ランセと同じく地べたに座った。




「王族の記録がどこまであるか分からないが。少し聞かせよう。……余と優菜達との出会い、そして原初の大精霊アシュプとの約束を」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ