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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第279話:元に戻す


 ヘルスの言葉に、そう言えばとランセはある事を思い出した。




「言ってたね、君。創造主に会った事があるって」

「……あー、そう言えば」

「いつだ」

「……父が亡くなった時に」

「そう」




 返事をしつつ、溜め息を吐くランセ。

 ヘルスは思わずビクリと体を震わし「ご、ごめんって」とランセに謝った。本当なら、もう少し問い詰めたい所だがキールに言っても信じて貰えないと言った。恐らくヘルスがランセやキールに言わなかったのもそれが理由だろう。


 ランセはそのまま黙るが、代わりにキールがヘルスに問い詰める。




「っ、それって……。じゃあ、君はその時からずっとその存在を知ってたって事!?」

「うっ。ごめん……。死神の存在を下手に言えないと思ったし」

「今の今までずっとな訳!? 弟のユリウスにも言わずに!!」

「い、言える訳ないよ。ずっと言わない気でいたけど、ユリィと麗奈ちゃんは会った事ある上に話したって聞いたし」

「予想通りかあの2人は!?」




 仮説だったが、やはりと言うべきはユリウスだけでなく麗奈も会っていた事実にキールは驚愕。ヘルスは創造主から、力も回復して貰ったと付け加えた。


 その創造主に無理に呼ばれたヘルスとドーネル。

 ドーネルがどういう状況なのかと、ハルヒと咲、アウラに聞いている間にデューオはヘルスと小声で話し出す。




「悪いが言うぞ」

「何をです」

「2重に掛けられてる、と。君と私のが合わさって余計な状況になったとね」

「っ!?」

「私が解除すれば、全部戻るよ。君が隠してきた事、全てが」




 そう言われて最初に思い出すのは、弟のユリウスの事。

 彼が麗奈の母親にしてしまった事。

 

 魔王サスクールに操られたとはいえ、彼は傷付けたのだ。好きな人の母親を。




「……っ」

「ヘルス? 顔が真っ青だぞ」 




 ランセはただならぬ様子のヘルスに声をかける。

 反応はない。だが、何かと葛藤しているのは分かった。態度が変わったのは、創造主と話してからだ。




「何を吹き込んだ」

「事実しか言ってない。そう悪者みたく言わないで欲しいなぁ」




 そうしている間にも、ヘルスは覚悟を決めていく。

 朝霧家に行った時に覚悟して来た事を、ここで改めてやるだけの事だと。




(……こうしている間に、2人の記憶が本当に無くなるかも知れない。それに)




 ユリウスは覚悟を決めたと言っていた。

 麗奈もその時の状況を知りながら、それでも自分を助ける為にここまで命を懸けた。2人に生かされたのなら、今度は自分が探して見付ける番だ。


 自分はまだ2人に感謝の言葉も言えていない。

 特に麗奈とは幼い頃に無理矢理に別れた。その時の事も含め、彼女に改めて謝らないといけない。




「お願いします。元に……全部、戻して下さい」

「ん。それが1番だよね」




 デューオの手から黒と白の球体が現れる。

 魔力の塊だと感じ、警戒するランセとキールに魔王ギリムは何もするなと言った。




「聞こえた範囲だと、全てを元に戻すそうだ」

「元に……。それってヘルスがラーグルング国に掛けてた忘却の魔法の事?」

「そうそう。ただ、私のと合わせると消えた部分が復活するのも含めて君達にもちょっとばかり体験する事になるよ」

「体験とは一体、何です」




 デューオの言葉にランセは更に警戒を強める。

 しかし、彼は何も言わずにその球体を破壊。パキン、とヒビが入り――この空間を強い光で埋め尽くしていった。




======



 それは唐突だった。




「っ!?」




 ラーグルング国に居たゆきは、ある出来事を思い出していく。

 ヘルスが彼女達の世界に来て、共に過ごした短くとも楽しい時間。そして、幼い麗奈を狙って魔王サスクールが現れた事。


 幼い自分がやった小さな抵抗が、サスクールの機嫌を損ね――庇った裕二と共に攻撃を受けた事。

 自分はあの時に死を直感した。

 ヘルスが魔法を使わなければ、あの時に自分と裕二は死んでいた。同時に気付かされた。麗奈と自分とで、面倒を見ていた黒い子猫の事。


 ザジと名付けられたあの子猫の姿がない。

 あの子は、麗奈の傍にずっといた。学校に登校している間、大人しく家の中で待っており帰って来たら九尾と清よりも先に麗奈へとじゃれる。


 ゆきと何度も、麗奈の事で取り合った事がある。その黒猫が居ない。

 でも違った。黒猫は、死んで死神になり――創造主と約束を交わした。サスクールを討つ代わりに、記憶を消して欲しいと。




(ザジ……。そっか。あの時、城で話してた死神って彼の事だったんだ)



 正体が分かれば、次々に思い出されていく記憶。


 大事な親友を。

 自分が助けたいと思っていた人の事を。

 契約した大精霊達を、誰の元に送ったのかを。




「……ははっ。私、私……」




 ストンとその場に座り込む。

 今までハルヒが必死で伝えて来た麗奈と言う人物の事。彼が必死になるのは当然だった。

 彼は自分が来るよりも前に、同じように朝霧家で過ごしてきた。


 ドワーフのアルベルトも必死で説明していた。

 同じ異世界人の麗奈について。




「っ、私……失格だよ。親友を名乗る資格なんて……私には……」




 ハルヒとアルベルトが必死で説明し、探している人物の事が鮮明に思い出されていく。

 幼い自分に勇気をくれた。そんな彼女の助けになりたいと思い、必死で料理を覚えサポートして来たというのに――。

 



「麗奈ちゃん……。何処? 何処に居るの……」




 会って話がしたい。

 麗奈とユリウスの事を忘れてしまった。ハルヒとアルベルトにも謝らないといけない。彼等は間違っていない。

 間違っていたのは、記憶を失った自分達の方だ。


 ゆきが自分を責める中、そんな彼女の様子を見て最初に肩を抱き寄せたのはヤクルだ。

 彼は何も言わず、静かに涙を流すゆきの背中を優しく擦り続けた。




=====



「これって……。いや、こんな事って……!!」




 一方でニチリに居るハルヒ達も、同様の記憶を見せられていた。

 朝霧 由佳里の死は、サスクールに操られたユリウスによって起こされたもの。治療しようとしたヘルスを無理に止め、そのまま亡くなった場面も含め全てを見た。


 死神の1人であるザジが、何故サスクールに対してただならぬ憎悪を持っていたのか。

 何故、彼は麗奈に対しては素直に言う事を聞くようになるのか。




「そう、だ。ザジ……まさかあの黒猫が死神になってるなんて……。何で、僕はこれを今まで忘れて」

「向こうで彼が、彼女達に忘却の魔法をかけたからだよ」




 創造主デューオは話す。

 自分がしたのはあくまでユリウスと麗奈の記憶を一時的に失くすだけ。その作用が、ヘルスの忘却の魔法と合わさりラーグルング国以外の同盟国にまで影響を及ぼした。





「ま、今頃はここの王も含めた関わった人達も記憶が戻るよ。ただ、ヘルスが消していた分のも合わせると余計な情報にはなったかもだけど」




 急な情報の詰め込みで、倒れている人が居るかも知れない。

 現に咲はあまりの情報の多さに、フラフラになりアウラもハルヒの寄りかかっている。2人の状態を診るギリムはチラリと横目でデューオを見ている。




「じゃ。これで元に戻したからね」

「ちょっと待って。結局、2人は何処に居るの」

「この世界には居ないよ。私達が居る領域に居るってだけだし」

「……手段はないの?」




 一応、そう聞くハルヒ。

 デューオは笑顔で「来るな」と言い放つ。




「力をギリギリまで使った影響で、今はその暴走を抑えてる。それが終われば、無事に2人を帰すよ」

「いつ位になるの?」

「さぁ? それは2人次第としか言えないな」

「……こっちから会う分には良いよね」

「私の領域、探せれば良いけど……。そう簡単に入って来られても困るし」




 それじゃあ、と姿を消していくデューオ。

 姿が消えるギリギリまで、ハルヒは逃がさないように結界を張っていたがあっさりと破られ痕跡も消していく。


 それと同時、空中に張り出されていたアルベルトとフィフィルは解放される。

 上手く着地した2人は悔し気に唸るばかり。




(さて、そろそろ魔界に帰るとしよう)




 居場所を突き止めたギリムは、そう思い右腕の男に連絡を入れる。

 魔界には戻るが、もう少しだけ自由にすると言うために。



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