第278話∶2人の状態
目の前にいる人物が、この世界の創造主。
白い髪に7色の瞳を持つ男性。彼がこの場所に来てすぐに、空間の色が変わっていく。背景が黒へと変わる。
一瞬で場を変える力、そして与える存在感が改めて全員に緊張感が覆う。
その中で、魔王ランセと大賢者キールは彼の発する魔力に心当たりがあった。自分達が探している2人――ユリウスと麗奈の扱っている魔力と同じだ。
2人が契約した大精霊は、今いる創造主により創り出された。大地を司り、自然に恵みをもたらす原初と呼ばれるアシュプ。
天空の覇者と呼ばれし存在のエンシェント・ドラゴンであるブルーム。彼の体は、強固にして最強。だからこそ、彼の眷族として存在しているドラゴン達も強い。
今までその大精霊の存在と力を見て来たからこそ、ランセとキールは確信出来た。
今居る存在は、偽物ではなく本物なのだと――。
「そっちから来てくれるとはね。聞く手間が省けた……。2人を返せ」
「土御門の君……。ホント、何で覚えてるんだか」
そんな中、ハルヒとデューオが話をしている。
ブルトだけでなく、周りも思わずギョッとなる。探している人物がこうして自分から来る事も驚きだが、相手が神だというのに臆せずに話すハルヒの度胸も驚かされた。
「それは、記憶と存在を消した……。自分でそう告白しているって事で良いの?」
「私がやったと分かっててそう聞いているのなら、ね」
一気にピリつく空気。
出て来たら1発殴る気でいたハルヒはぐっと堪えた。まだ、彼には聞きたい事がある。
「まずはこれだけ聞いておきたい。2人は……無事、なんだよね?」
そう聞きながらも、自分の声が震えているのか分かる。
情けないと言われても、こればかりはどうしようもない。震える手を、必死で堪え神の前でも強気でいるしか見せれない。
「一応はね」
帰って来た答えに、皆がハッとなる。
聞きたい事は山ほどあるが、嘘を言っている可能性もある。そう思う中、ギリムへと視線を向けた創造主は「やってくれたよねー」と恨めしそうに言った。
「どうしたの。いきなりこっちの味方になっちゃって」
「別に。ただこれだけは言える。余はお前が嫌いだ」
「それは知ってる。あ、君も勝手に攻撃しないでね?」
「クポ!?」
密かに近付いていたアルベルトは、空中へと投げ出されそのまま固定。
フィフィルもアルベルトに協力していたのか、一緒になって固定されてしまう。青ざめるジグルドだが、下手に言って彼等を危険に晒す訳にもいかない。
そう思うからこそ、じっと我慢する。
「固定しなくてもいいだろう。どうせお前には攻撃なんて通じないのに」
「それはそうだけど……。でもさ、君はそれ知ってるのにワザワザ攻撃したよね?」
「ムカつくからしただけだ」
「じゃあ解放もしないよ。……君等、ずっと私の事を叩くでしょ?」
「クポ!!」
「ポーー!!」
元気よく返事をしたアルベルトとフィフィルに、創造主であるデューオは笑顔で拒否。
ムカつくからと言う理由で、魔王ギリムは攻撃をしそれに追随するようにしてランセとキールも加わった。
デューオはそう言う理由でされて、困ると言い、話が進まないだろうにと溜め息を吐く。
「知ってたけどね。……君達の行動は、全て見て来ているから」
「見て来て……。そう言えば、僕の事も知っているようだけど。僕や咲を呼んだのは貴方なの?」
「そうだよ。声を交わしたのは彼女だけ。君の場合、あのまま向こうに居ても意味ないでしょ?」
「……」
咲は今居る創造主の声を聞き、あの時に交わした声だと再確認し驚きで固まる。一方で、ハルヒは自分の状況を言い当てられて何も言い返せない。そんな2人の構わずに、デューオは話を続けた。
「もしあのまま残っていたら、ハルヒ君は土御門家を潰すでしょ? それか、その行動を危惧した同じ陰陽師に殺されるか。どっちにしろ良い事なんてない」
「まぁ、確かにね。ゆきを利用して、街に被害を人為的に引き起こし全部を朝霧家の所為にしようとした協会や同じ土御門。そんな連中の思惑に、2人が利用される位なら――壊すに決まってる」
「そうなれば、君は向こうで犯罪者だ。君等の世界では人殺しは罪に問われるだろ?」
「裏で消されるなら、僕の事は行方不明者届けでも出して警察の目を欺くよ。それ位の事、アイツ等は平気で出来る」
恨みが深いね、と分かっていたように言うデューオ。
話していく中で今度は咲が質問をした。
「あの時に声を掛けて下さった人? ですよね」
「ん? あぁ、君ね。あの時は危なかったよねー。危うく怨霊に殺されそうになるんだもん。ちょっと君の事を利用したけど、悪く思わないで」
「え、あ、はい……。でも、それがなかったら私はここに来れてないですし、それに……」
そこでナタールの事をチラッと見てから、今までの事を思い出す。
もしダリューセクではない国だったらどうしていたのか。この国だったからこそ、自分はここまで大事にされて来たのだろう。
王族であるセレーネに会えて嬉しかったのと、最初に言葉を交わしたのが彼女で助かった。
自分がここに居ても良いという実感が出て来たからこそ、傍で支えてくれるナタールを大事に思える気持ちも出て来た。
(お礼は良いよー。私が君を利用したのは事実だし、数合わせとは言え良かった部分も多い。彼の事、大事に思うなら気持ちはちゃんと伝えないといけないよ?)
「ひうっ!? へ、あ、はいっ!?」
「……咲?」
「あ、いえ!? な、なん、何でもないですっ!!」
彼女の頭の中で響いた声は、デューオのもの。まさか直接言われると思わず、そして自分の気持ちにも気付かれている咲は慌てふためく。
顔が赤くなり、どうにか隠そうとするが上手くいかない。ナタールが心配そうに見た後で、彼女をそうさせたであろうデューオを密かに睨む。
その隙に、彼女はハルヒの背に隠れるようにして行ってしまい――とても複雑な気持ちで、ナタールは見つめるしかない。
ふと、キールが疑問に思った事を聞いてみる。
「ちょっと待って。利用したとか、数合わせとか一体どういう意味なの? 創造主様」
「え、言う気ないけど」
「はあ?」
ケロリとそう言うデューオに、ギリム「コイツはそう言う奴だ」と言い放ちだからムカつくんだと付け加える。
納得したキールは無言で魔法を放つ準備をするが、デューオも分かっている様子。発動される前に、キールの周りに壁を出現。障害物が来た事で、自分にダメージが来る事を予期したキールは思わず舌打ちをする。
「ギリムから言われただろ? 心の中が読めるからタイミングも掴みやすい。まぁ、魔力の出量から見て判断できたとも言えるね」
「ふざけた言動だけど、力は本物だって分かったよ!!!」
空間魔法を操るキールはすぐに抜け出し、デューオの背後に現れる。
だがそれも分かっている。振り向かずに手を突き出したデューオは、見えない障壁に阻まれ魔法が分散。
攻撃の余波も生まない。
それはデューオが防ぎつつ、魔力の余波を生まないよう調整した。それも分かったからこそ、キールは睨むだけにした。
「んー、今代の大賢者は魔法の威力は申し分ないね。歴代の大賢者達と比べて、操る魔法の種類も応用も利く。興味がある事に突き進む性格も、功を奏したようだ」
「何でもお見通しっていう態度が余計に腹立つ……!!!」
まだ暴れ足りないキールをランセが抑える。
結局、彼がここに来た目的はなんなのか。不思議に思ったブルトの疑問に、心を読んだデューオはゲストを呼ぼうと言い指をパチンと鳴らす。
「うわっ!?」
「うえっ……!! 痛っ、な、何……?」
突如として2人の新たな声。
そこには、尻もちを突くヘルスとドーネルの姿があった。
状況が掴めないでいたが、ヘルスは呼び出したと思われる人物を見てギョッとなる。
「お前……」
「神を前にその言い方かぁ~。久しいね、ヘルス」
「そうだね。……元死神さん」
ヘルスの言った言葉に、ドーネルだけでなくランセ達も驚きを隠せないでいた。




