第277話:突然の接触
ハルヒが目を覚ますと、まず見えた人物と目が合う。
黒髪の日本人顔に近い、この国の姫であるアウラだ。
「ハルヒ様。気分は平気ですか? 気持ち悪くなったりとかしてないですか?」
「うん、大丈夫。ギリムさんは手加減してくれているし。……もしかして、見てた?」
「……はい」
一瞬、言葉に詰まったアウラだが訓練場に行くと言ったのは自分だ。
だから正直に伝えると、ハルヒは参ったなーと頬を掻いた。
「あはは。元気になって嬉しいのに、カッコ悪い所を見られちゃったね」
「いえ、そんな事はないです。その後で、ディルが指名されたのですが彼……また派手に吹き飛んだので」
「あ、凄く可哀想だね……」
今頃、派手にやられているんだな、と思いつつ仲間が出来た事を少しばかり嬉しく思う。ハルヒが模擬戦をしたのは、彼とギリムがやっている所を見たからだ。
アウラの容体が落ち着き、あとは本人の体力だと診断されて少しばかり自分の時間が出来た。彼女の体力が戻れば、自分達は麗奈とユリウスを探す。
その予定は変えない。
だからこそダリューセクから、咲も来たのだ。彼女の希望もあったが、王族のセレーネからのお願いもあった。
「こちらでも、何か記述がないかを調べてみます。と、言っても相手は創造主様であり神様です。……恐らく資料としてはかなり少ないかと」
申し訳無さそうにしていたが、ハルヒはそれでも探しておいて欲しいと言った。伝わる事が国ごとで違うのは、当たり前でその殆は同じ内容かも知れない。
例えそれでも良い。
ハルヒは、この世界に来てから忙しく立ち回っている。
最初に来た時は、アウラの呪いを解く作業から始まり次はラーグルング国の王族の呪いを解いた。
あとは、麗奈を追って今まで奔走し続けた。
(その流れで、大戦にまで発展した。今思えば、この世界の事を知らないんだよな)
凄い体験をしてきたと今更ながらに思う。
咲は自分よりも、4年早くこちらに来た。まだ確認していないが、異世界人がこれだけの期間の間で、立て続けに来るものだろうか。
そこにも、ふと疑問が湧いた。
「ハルヒ様。どうしましたか?」
「いや……。僕、この世界の事を全然知らないできたなって。アウラのサポートがなかったから今頃、どうしてたかと思うと怖くてね」
黙ったハルヒをアウラが心配そうに見る。
不安はあるが、今は彼女のお陰でもある。その事を強く認識した。
そう口にすれば、アウラは笑顔で「サポートが出来て嬉しいです」と答えた。
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その夕方、ニチリに魔王ランセと大賢者キール。そしてアルベルトの父親であるジグルド、同族のフィフィル。エルフのフィナント達。ランセの部下であるティーラと、ブルトも加わり今後の進路を話し合う形になった。
場所はアウラや代々の神子しか入れない書庫。
案内され、中に入ると目の前には真っ白な空間が広がっている。
地平線のどこまでも広がる白に距離感が掴めず、彼等は戸惑うばかり。
「こ、これ……目がチカチカするッス」
「見た目の入り口からは想像出来ない程の広さだな。……一体、どこまで広がっているんだ」
「ポポ!!」
「フィフィル。だからと言って転がろうとするな。追いかける方が大変だ」
「ポー」
この空間の眩しさに、魔族のブルトは思わず目をこする。そしてちょっとだけコロンと転がるフィフィルを、咲は慌ててすくい上げた。咲達は、彼等の少し前に来ておりハルヒも止めた方が良いと言った。
「フィフィルさん、転がるのはダメ。下手するとニチリより大きいから」
「……空間が歪んでいる? っていうか、この感じは精霊の領域に近い感じかな」
空間魔法が得意なキールが、何もない空間に手を触れて感想を述べる。
アウラによれば、本棚と思い浮かべれば目の前に本棚が現れるという。試しにキールは本棚と浮かべると、本当に目の前に出現した。
思わず目を輝かせ、早速とばかりに1冊の本を取り出しては中身をパラパラと見始めた。
「ここなら父達も入って来れません。何日か閉じこもりましたが、目ぼしい資料はなくて……。声は聞けますが、一方的でタイミングは計れないのでお役に立てず申し訳ないです」
「しょうがないさ。あれのタイミングに合わせる方が無理だ」
魔王ギリムがそう言うので、ランセは気になっていた事を聞いた。
君は創造主の事をよく知っているね、と。
「あぁ。あれは余を作った生みの親との言える。奴は余にとっては自分の力を分けた半神だ」
「あ、だからか。妙に強すぎだとは思ってた」
「待って、待って!?」
ギリムの強さに納得するランセに、ハルヒは話をぶつ切りにした。
本を読んでいたキールも作業を止め、ランセの肩に手を置いた。
「君、気付いてたのなら先に言ってくれないかな?」
「言っても信じないと思って、言わなかった。だったら本人からバラした方が説得力あるだろ?」
「っ、それは……」
「余もそれを分かって今まで、何も言わなかった。勘の良さと観察力の良さが良いのは知っているしな」
「だからって言うタイミング考えてくれない……?」
既に疲れ切った顔をするハルヒに、魔族のティーラは「無理だろ」と一言。
魔王2人のマイペースさに困り果てるハルヒ。アウラは魔王ギリムをじっと観察する。
(前から感じていた彼の魔力の感じ……。不思議に思っていたけど、創造主と同じものだったのなら納得。初めて会ったような気もしないし)
「先に言うが、余には心の中で思う事全てが分かる。あまり心の内を晒すのは止めておくんだな。奴にも筒抜けだ」
「だから、そう言うのは先に言ってくれない!?」
謎が解けて納得したアウラだったが、被せるように言われた内容にハルヒは注意を始める。
エルフのフィナントは既に何が来ても構わない心構えだったので、ハルヒを労わる様に肩を叩く。咲とナタール達は、あまりの情報量の多さに驚き――思考がいくらか停止した。
そして、事態は急に動いた。
アウラがハッとしたように、何かに気付いたかと思えばすぐに口に出した。
「い、今から、創造主様が来ますっ!!」
「は?」
全員が同じ反応をしている間、彼等の頭上に虹色の魔法陣が浮かび上がってくる。
気配を感じたギリムが密かに魔力を練り上げているのを感じ、ランセとキールはすぐに臨戦態勢に入る。
「やっとタイミングを掴め――ちょっ!?」
魔法陣から出て来る人物の姿を見る前に、ギリムが魔法を放つ。
続けざまに、ランセとキールが加わり追加攻撃を繰り出していく。仕方なしに武器を構えるティーラに、ブルトは「えっ!?」と驚きその行動を止めようとする。
「もう諦めろ。主が攻撃した時点で敵だ」
「いやいやいや!! いくら何でも切り替えが早いっス!?」
「そうそう。私に攻撃しても、無意味なのにねぇ~」
呑気な声に思わず全員が、発した方向へと釘付けになる。
魔法のぶつかり合いで、視界が遮られていたがそれが一気に無くなる。視界がクリアになると、ようやく出てきた人物を観察出来るようになる。
白い髪に虹の瞳の男性。纏う雰囲気から全員が察する事が出来た。
涼しそうな顔をしているこの男こそ――この世界を作った存在、創造主であるのだと。




