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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第268話:連鎖反応


 大賢者キールの様子を見に来ていたヘルス達。

 魔王ギリムと魔族のティーラと共に来たのは、レグネス家の所有する離れの屋敷であり魔法の研究にと使っている場所。

 突如、その屋敷が大爆発を起こし中に居るであろうキールの捜索が始まった。

 キールは今もぐったりした様子であり、爆発の余波を受けたであろうが殆ど怪我がないように見えた。



 

「全く。君と言い彼と言い、この国の人間は無理をするのが好きなのか」

「そ、それよりもっ。何で治療を、私の魔法を使うなって」



 

 呆れながらも、ギリムはキールに包帯をしつつ様子を見ていく。

 ヘルスの光の魔法は治療が出来る。だというのに、今はその魔力が危険だと告げられたのだ。



 

「この部屋をよく見てみるんだ。水晶の欠片から感じ取れる魔力を考えれば、答えは分かる」

「水晶の……欠片?」

「お、これだな」




 ジャリ、とティーラが踏んでしまったものがある。

 その欠片を取るとティーラの魔力を吸収しているのか、淡く黒い魔力が帯びていくのが見える。




「……魔力の吸収。そうか、この部屋自体が大きな魔法陣としての役割をしているって事ですね」




 ギリムが無言で頷き、説明をした。

 この部屋自体、強大な魔法を行う為の装置。そしてその中心にいたのはキールであり彼を囲う様にして水晶が配置されたのだと予測できる。

 部屋自体にも、極限まで魔力を高める仕様にしている辺りここで起きた爆発は魔力同士の反発だと言える。




「彼は突破しようとしたのだろう。自分に残る違和感が創造主によるものであると仮定した時、それを思い出す為に起こした行動だ」





 今、この屋敷の中に充満している濃い魔力はその反発によるもの。

 ここで魔法を使う事は、キールと同じ状態を生みかねない。軽いものなら良いが、治療となると自然と魔力は高くなる。


 だからこそ、ギリムはこの中で光の魔法を使うなと告げた。

 治療と守りに特化した魔法である光の魔法は、自然と魔力を高める。ここでの治療は、更に自分達の危険を晒すと説明される。


 


「心配なのは分かるが、今は耐えてくれ」

「分かりました」




 捜索をしている時に感じた疑問をすぐに答えてくれるギリム。

 ティーラが、崩壊するのも時間の問題と言いすぐに転移で屋敷の外へと避難。ヘルスは、ギリムからの説明でキールが無茶をする理由を考える。


 大賢者である彼が、自身の魔力だけでは出来ないと判断した理由。




「まさか、自分の魔力だけじゃ無理だから外部から力を増幅して……更に、魔力を溜める性質の水晶を多用して、創造主の魔法を突破しようとしたのか」

「おいおい、マジかよ。相手は神だぜ? そんな奴の干渉を無理に突破しようとしてこんな無茶をしたって?」




 ティーラはキールの行動に驚き、ヘルスは逆に納得した。

 彼は、戦いが終わってからも2人を探している様子があった。誰とは告げていない。相談している様子もないし、イーナスに言っていないのは止められると分かっていたからこそ。


 記憶を消した事があるヘルスは思う。無理に突破しようとすれば、確実に怪我を負う。だが、このキールの行動は最初から――。




「怪我を負う覚悟で、ここまでの魔法陣を組み立てた。現に彼が受けているダメージは、魔力のぶつかり合いで起きた衝撃。あとは頭の方だな。記憶を無理に思い出そうとしたなら、そちらに変化なり影響が出て来る筈だ」




 その時、キールの瞼がピクリと反応を示す。

 ヘルスは彼の名を呼べば、ゆっくりと開かれどこかぼやけた様子で空を見ている。




「キール。私が分かるか?」

「ごめん……ヘルス」

「何に謝っているんだ」



 

 ギリムに支えられながら、キールは意識を切らさないようにと集中する。

 ヘルスに言わないといけない事がある。そうした彼の決意の目に、自然とヘルスは聞く姿勢でいる。




「ごめん。主ちゃんと、ユリウスの事を……忘れて……」

「っ!?」

「今まで、1人で戦ってきて……辛い思いをさせて、ごめん。でも、次は私も……」

「馬鹿野郎!? だからって、こんな無茶して良いと思ってるのか」




 創造主の干渉能力を突破する為の無茶。

 これだけの爆発は、本来なら屋敷を含めた数メートルすら巻き込むだけの威力がある。それを、屋敷と自身への反発する力すら最小にした。

 それらを可能にしたのは、この部屋の特殊性とキールが大賢者と言う事。魔法に関してのあくなき探求心もあっての事だろう。




「やっていい事と悪い事すら分からないのかっ!! 私に合わせようとするな」

「君の無茶に、比べられても……困るよ」

「私は……失いなくないだけだ。その為の無茶を、無茶とは思わないっ」

「言ってる事、矛盾してる……」

「言いたいことはそれ位に。今はゆっくりと休むんだ」

「すみ、ません……」



 

 ふっと力が抜けたのか、キールはそのまま目を閉じた。

 ギリムが他に異常がないかなど確認を行い、魔力の暴走の心配もないと判断。あとは清潔な部屋でゆっくりと休ませる方が良いと伝え、ヘルスは再び安堵したように息を吐いた。


 その時、フリーゲが慌てた様子でやって来た。

 彼だけではない。魔力の探知をしている魔道隊の何名かも、慌てた様子で来ていた。濃縮された魔力の爆発にただ事ではないと思ったのだろう。




「な、なんだこれ!? 今の爆発は」

「大丈夫だ。大賢者が無茶をした結果だ。逆にこれ位で済んだのだ。あとで褒めるんだな」

「す、済んだって……。いやいや、こんだけ屋敷が壊れてるのにこれ位の範囲でって」




 それよりもキールの方だ、とギリムはフリーゲに託す。

 治療はある程度した事。目が覚めたら、消化の良い食事を与えきちんとした休息をするように。そう説明を受け、怒りたい気持ちを抑える。


 まずはこのバカな親友を優先。起きたら覚えてろと呟くフリーゲに、魔道隊の人達は自分が怒られたかのような錯覚に陥る。念の為にとその周囲に結界を張り、ラウルの冷気とセクトの水の力で少しずつ火を沈静化。




「ランセがここの者達に振り回された様子が目に浮かぶ」




 その作業を見ながら、ギリムはくくっと笑いが込み上げて来た。

 無茶をする人達に囲まれたランセの苦労を思うと、自分の国を持っているよりも大変な目に合っているのだろうと想像がついた。




「あの人、辛抱強いけどな。ま、俺が言うのもなんだが……ぶっ飛んだ連中が多いよ。ここは」




 ランセが苦労する訳を知り、ギリムとティーラは互いに笑い合う。その後、イーナスも頭を抱え後処理をするのにと彼の両親を呼び出した。

 屋敷が壊れた事よりも、息子のキールの無事を聞き母親のセルティルは膝から崩れ落ちる。

 その後、夫のイディールは怒るセルティルを抑えつつキールが起きた後の事を考え大変だなぁと他人事のように思った。




「起きたら覚えてろ、あのバカ息子」




 怒りに燃えるセルティルに、イーナス達は「もっと怒って良いです」とお願いする事にした。


 そのキールが目を覚ますまで3日後の事。

 屋敷の部屋でないと気付き、香る薬品の匂いに何処に居るのか予想がついた。キョロキョロと視線を動かすと、ある気配を感じ取りピタリと動きを止める。




「おはよう。キール」

「……」




 途端に気まずくなり目を逸らす。そうしつつ、自分の腕に包帯が巻かれ頭にも巻かれている事に気付きながら怪我が意外に軽いのだな、と現実逃避をした。




「何故、こちらと目を合わせないでいる?」

「そっちが先に起きたか」

「ギリムのお陰で早かったよ。で? 何か言う事あるよな?」




 ギリムにより呪いを解かれたランセ。

 そして、彼はその間にキールが起こした事を聞き静かに怒りを抱いてた。ティーラが落ち着かない様子であり、チラチラとランセを見てはビビっていた。この時の事をブルトは忘れる事はない。


 今後も見れる可能性が低いであろうティーラのビビった様子。

 しっかりと目に焼き付けようとし、それを敏感に感じ取ってティーラは思い切りブルトを殴りつけた。




「脅さないでくれると助かります」

「言っておくけど、私よりも怒っている人が居るの分かる?」

「あー……大体は」

「ま、キールのお陰で今回は良かったのかもね。ヘルスにも言ったけど、君等の無茶は度が過ぎている」

「……すみません、でした」

「あとでギリムにお礼を言いなね。彼、怪我の状態と魔力の過剰放出を抑えて来たんだから」




 魔王ギリムの事を聞き、不思議そうにランセを見る。

 そして、思わず聞いた。この世界に魔王は何人居るんだと。




「私とサスティス、サスクールが抜けて、数が増えてなければ5人じゃない? ま、1人は確実に出てこないけど」




 心の中で多いなぁと思いつつ、その全てが敵対していない事にホッとした。

 そのついでとばかりに、キールの起こした行動でゆき達にいい影響を生む事が出来た事を聞かされる。

 キールの言ったヘルスの隣に立つと言う言葉は、実現されようとしている。それは魔王ギリムが介入したからなのか、自力で神に抗おうとした結果なのか。




「さて、次はどう行動を起こす気でいる。デューオ?」




 一方で、ラーグルング国の変化を見守りつつ創造主の行動を邪魔するギリム。

 彼がここまで邪魔する目的は、本当にランセの呪いを解くだけものなのか。彼の呟きを聞いた者は、右腕である人物だけ。


 この変化は、少しずつデューオのシナリオを変えていく。

 その証拠に同盟国であるディルバーレル国では、王であるドーネルが失踪。宰相のギルティスには、手紙でこう綴られていた。



 ――大事なものを取り戻すまで帰らない。探さないで



 すぐにラーグルング国へと連絡をし、ドーネルを見つけ次第連れ戻す様にと伝えた。


 そして異世界人であるハルヒとゆき、ダリューセクの咲。誠一達も含めて、2人が起こした奇跡をそれぞれ書き出していた。


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