表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
311/434

第267話∶打ち破る


「はぁ、いきなりでビックリ」

「魔王だと言うのも驚きだな。ま、ランセ以外の魔王は知らないから皆自由なのかも知れん」

(いや、俺等はサスクールと敵対してただろうに……)



 

 すぐに食堂に来るように言われ、フリーゲとリーファーは慌てて向かっていた。

 伝言を頼まれた者から聞けば、魔王ギリムがこの国に用があるとの事。


 少しの間、薬師の自分達と話をしたい聞いたのだから更に驚いた。

 そう言われ、正装を着るべきか? と考え始めるフリーゲに、止めろと言ったのは父親だ。



 

「仕事場を覗きたいと言われたらどうする。匂いが服につく」

「け、けどよ……」

「普段通りにしろ」

「へーい」

「口が悪いのも止めろ」




 黙って頷き、足早になる。フリーゲは魔道隊の人物を捕まえいつものように聞いた。

 師団長のキールはどうしているかと聞けば、首を横に振り今も変わらないと言う。



 

「食事はされてると、思いますが……」

「分かった。あとで俺が様子を見に行く」

「すみません、お願いします」



 

 軽く会話を済ませ、リーファーに引っ張られた。フリーゲが気にしているキールの様子。

 今のヘルスと同じく、誰かを探し国中を駆けているのだ。

 誰かも分からない人を探す。馬鹿げているが、何故だがフリーゲは止められない。

 

 心のどこかで、それが正しいのだと思っている自分がいるからだろう。




「キールの事も気がかりだが、今は魔王だ。仕事を済ませて、早めに様子を見に行け」

「お、おう……」




 気遣われフリーゲは、ドキリとなった。だが、リーファーもこの状況はよくないとハッキリと言った。

 拭えない違和感に、自分達は誰かの事を忘れている。

 その誰かを探しているのが、今のヘルスとキールなのだとも分かる。今は仕事に集中しよう。そう思い、彼は頭を切り替えた。


 


(倒れたぶっ飛ばすからな、キール)




======


 


 一方でキールは、自分の魔力を極限まで高めている。

 レグネス家の所有する屋敷。その中には、魔力を部屋に溜め込める性質を持つ屋敷がある。ここ最近のキールは、ずっとここである事を繰り返し行っている。


 戦いが終わってからの違和感。

 自分は誰かを慕い、仕える行動を起こした。ヘルスに言われた自分を理解してくれる人。


 なのに、その人を思い出せない。この戦いは、その人を助けるものではなかったかと自問自答を繰り返す。




(この違和感……ヘルスの魔法と似ている)




 ヘルスは、光の魔法の使い手であり忘却と言う特性を併せ持つ。

 この属性は守りの力が強く、攻撃は魔族や魔物にしか向いていない。だが、ヘルスはそれを攻撃魔法へと変換出来る腕前を持ち、人間を相手にしても行える。

 恐らく彼だけが持っていると思われる忘却という力は、記憶に干渉が可能だ。


 一部の記憶を消し、別のものへと置き換える。


 ヘルスが消したいと思う事を、再び思い出すには術者であるヘルス自身に解かせるしかない。そうすれば、本来持っている筈の記憶も合わせて元に戻る。無理矢理に思い出そうとすれば、強烈な頭痛に襲われる。

 それを無視して行えば、廃人になる可能性すらある。

 だからこそキールには、分かった。この妨害はヘルスの魔法によるものではない、と。強い干渉能力、そして個々の記憶すらも改ざん出来る程のものを人間が扱える筈がない。




(考えたくはなかったが、答えがはっきりした。この不可思議な現状、私達に共通している違和感。相手は――創造主!!)




 キールが分かるのは、ヘルスの魔法の特性を知っているからこそ。

 そして、彼はこの国の人達にある人物の記憶をおぼろげにさせた事がある。


 朝霧 由佳里。

 朝霧家の当主にして、今この世界に来ている誠一の妻。2年程、この国に居た彼女はそのまま魔王サスクールとの戦いに参戦。組んでいた魔王を封印する偉業を果たし、そして次にキールが見たのは彼女が既に死んでいた事だった。


 異界送りをヘルスに頼まれ、彼女の願いを叶えたい一心で行動を起こした。

 詳しい事情は知らない。だが、彼はヘルスに頼まれれば行う。終わった後に話してくれると思っていたからだ。が、異界送りで魔力を使い果たし次に目が覚めた時にはラーグルング国に入れないでいた。


 魔王ランセも、それは同様だったようで彼も何故自分が弾き返されたのかが分からない。

 そこから、彼は強制的に外の世界に触れる。

 初めての事が多く、ランセに教わる事が多かった。冒険者として登録し、それで生活を支えている間にもキールはラーグルング国に戻れる方法はないかと模索した。


 それがなされたのは約8年後。

 彼は予感がした。今、確実に戻れるという確信がありその時に関わった何かがある。

 その関わった事がぼやけ、記憶を呼び覚まさないようにしている。頭が、体が思い出そうとする事を拒否する。




「人間を舐めるなよ。私は――諦めが悪いんだっ!!」




 魔法水晶が淡く光る。

 それは、キールの魔力を受け今まで溜めて来たもの。自身の力を極限まで溜め、一気に放出する。しかし、自分ので力だけでは突破出来ないのは今までやってきた結果から分かる。

 なら、自分以外の外部からの上乗せが必要だ。




「私1人の魔力がダメなら、増幅機能のある水晶と魔力を吸い上げて溜める性質の特別製の部屋。範囲をこの部屋全体に広げれば、一体どれだけの人数の魔法師が必要になるだろうね」




 これ程の大規模の魔法を行うのには、ラーグルング国の魔道隊に所属する人数を合わせても無理だ。


 キールの言う様に、この特殊の部屋と魔力を溜め続けた時間。何より、大賢者と言う数百年に1人という確率で生まれる人間。それが、今代はたまたま自分だった。


 この好機を逃す気はない。

 今、これを行わなければ、キールが追い求めている正体が分からない。

 決定的に忘れている何かを、自分達は今すぐにでも思い出さないといけない。そんな衝動に駆られ、キールは突破しようと試みる。


 例え今失敗しても、次に行う時にはもっと力を溜めて行う。

 自分の記憶を、全て思い出すまでは。




「ヘルス。君が抱えているもの、私にも背負わせて貰うよ。私達は親友なんだし」

 



 ふっ、と大事な作業中にも頬を緩める。

 しかし、それもすぐに切り替え魔力の制御に集中する。ヘルスの抱えているもの、自分達に話せないのは自分達との記憶の差異があるからだ。

 



 ======



「ふむ、あれか。大賢者が居る屋敷とは」

「はい。キールが魔法に関して没頭しているのはいつもの事ですが、今回は何かが違うとレーグが言っていましたから」




 その頃、ヘルスと魔王ギリムはキールの居る屋敷へ到着していた。

 2人の後を付いていくティーラは、欠伸をし眠そうにしている。きっかけは、フリーゲの様子を見て来て欲しいというお願いからだった。


 元々、仕事を早めに切り上げてキールの様子を見に行こうとしていた。

 魔王ギリムの対応をしながら、ヘルスが会っていないキールの事を心配していた。だからフリーゲは頼んだ。自分も後から行くが、様子を見て来て欲しいのだと。


 ヘルスは別に構わないでいた。が、思わずギリムへと視線を向けると彼はキールに会ってみたいと言った。

 だから、もののついでとばかりに付いてきている。

 



「なに。聞けば今代の大賢者のようだし、1度会ってみたいからな」




 ちょっとワクワクした様子でいるギリムに、ヘルスはもう何も言わないと決めた。

 最古の魔王である彼は、この国を懐かしむ様な感じで見て回っている節がある。何か、特別な思い出でもあるのだろうと思うが詳しくは聞かない。


 答えてくれるとは思わないし、今はランセの様子が気になる。

 創造主について何かを知っている感じがあるので、それを知る機会を逃す訳にはいかない。




(この協力関係も、いつ崩れるか分からない。今は、まだ簡単には踏み込まない方がいい……)




 そう考えていた時、ヘルスはギリムが付いて来ない事に気付いた。

 どうしたのだろうかと思い、振り向いてみると彼は屋敷のある1点を見つめ段々と険しくなっている。




「あの、どうかしましたか?」

「……マズいな、これは」

「え」




 理由を聞こうとしたのと、屋敷の2階部分が大爆発を起こしたのは同時。

 あまりの事にヘルスとティーラは放心。だが、ギリムがそれに構わずに屋敷の中へと入っていく。




「っ、キール……!!」

「な、なんだよ、一体」




 訳が分からないが、まずはキールの無事を確認しなければ。

 燃え上がる炎に視界を奪われるも、無視して入る。1階にも大きな瓦礫があり先にはそう簡単には進めない。


 そうしている間にも、キールの身に何が起きたのかと思い気持ちがばかりが焦る。




「ちっ、おい。無理に行くぞ。一部、破壊しても文句ねぇだろ!!」

「か、構いませんっ。キールの無事を確認したい……。ここで、キールまで失ったら」




 もしもの事を考え、ヘルスはゾッとする。

 ここに来て、麗奈とユリウスだけじゃない。キールの身に起きた事を考えれば、恐ろしくなる。


 彼の脳裏には、どうしても由佳里を助けられなかった事のトラウマが浮かんでしまう。

 



「くそっ、なんだよこれ。何でこんなに魔力が濃いんだ」




 ティーラは、思わず舌打ちをする。


 大賢者は他と違い魔力量が多い。だからこそ、魔力を辿って居場所を突き止めようとした。

 しかし、この屋敷の中には高濃度の魔力が感じられ上手く感知が働かない。元々、探知能力は低いと自覚しているティーラもブルトを連れて来れば良かったと後悔する。


 場所が分からず、燃え上がる炎をヘルスの魔法で消していく。


 魔力で起こした火事なら、ヘルスの光の魔法である程度は消せる。

 この緻密なコントロールは普通では難しく、キールが見習う点でもあった。ある程度の炎を消していき、あとはキールを探すだけ。そんな2人にギリムからの連絡がきた。




「魔力が濃い所に来れば、場所は自然と分かる。来てみれば原因が分かるぞ」




  ギリムの言う様に、感知能力を広げ自分達の魔力をギリギリまで抑える。その差を利用し、一番魔力が強く感じる所を把握。


 すぐに向かえば、ぐったりしたキールにギリムが治療をしている所だ。ヘルスが光の魔法で、治療しようとしたが、それをギリムにより止められる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ