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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第266話:まずは食事から


 綺麗な青空を見て、ティーラは思い切り叩きのめされたのだと実感する。

 倒れている自分の体を見れば、あちこちに擦り傷がある。だがそれだけだ。どうやら、魔王ギリムが上手い具合に怪我の調整をしたと見て良い。




(俺の渾身の一撃を、掠り傷に収めるとか……どんだけの化け物だ)

「余から言わせれば、あの一撃を食い止めた事を褒めて欲しいものだな。でなければ、この国の半分以上は蒸発している状態だぞ? それを分かっているのか」




 ギョッとしたのは、自分の思った事を声に出していたと思ったから。

 だが、ギリムの様子からそのような事は伺えない。彼は言った。これは自分の特性みたいなものだ、と。




「余は他とは違うからな」

「……流石、生きた伝説。最古の魔王な訳だ」

「ふふ。お前も、その余を相手に臆することなく向かった事。誇りに思って良いぞ?」

「これは俺の素だ。臆するとかそんなんじゃない」

「前のお前は、人間を弱いものだと決めつけていたな。ランセの下についてから価値観が変わったか?」




 それは確かに、と考えを巡らせるティーラ。

 彼の答えを待つ様に、ギリムは隣に座る。ほどなくして、ティーラは起き上がりニヤリと悪い笑みを浮かべていた。




「面白い奴がいるんでね。主が気にかける時点で、俺が気に入る理由はそれで充分」

「ほぅ……」

「いやーソイツ、マジで面白いんだ。魔族たらしだと思ったが、あれは違うね。種族たらしだ。天性の種族たらし。精霊達に好かれるだけじゃ、飽き足らないのかって位に人気」

「それ、止めてくんない?」

「あ?」




 棘のある言い方をする声に振り向く。

 そこには、不機嫌そうにしているハルヒがおり後ろからはベールは付いてきていた。ティーラの言葉に思う所があるのか、ベールは成程と納得したようで頷いている。




「魔族たらしだけなら我慢したけど、種族まで言われると幅がデカ過ぎ」

「いえいえ。あながち間違ってないでしょ? 麗奈さん、別れる度に違う人達と居ますし」

「そんな事、ない……と、思う」




 強く否定が出来ないのは、心当たりがあり過ぎるからだ。

 ハルヒは思い出していく。

 この世界で、麗奈と会った時の事を思い出す。


 ゆきのお願いにより、ユリウスの呪いを解く為に強引にこの国に来た事。名乗った時に、明らかに殺気を向けられた者達が居た事。その後も、ディルバーレル国で追いかけてみれば、今度はその国の王子と共に行動をしていた事。


 自分がディルバーレル国で、反省文を書かされて会わない間にドワーフと会っていた事。

 思い起こせば、麗奈はこの世界に来てから必ずと言って良い程に別の人物と居る事や既に交流している。


 そうなると、ティーラの言う様に種族たらしと言うのが妙にハマってしまう。




「合ってるだろ?」

「そうだね……。れいちゃんは、目を離すとすぐに何処か行くし。会ったら仲間や協力者が増えてる始末だし」




 ニヤニヤするティーラに、ハルヒは認めるしかないなと思う。

 ベールも同じ意見だが、それがなければ同盟まで持ち込めなかったのでは? と言われる。そんな彼等の会話を聞きながら来たのはヘルスだった。

 

 


「もう1つ付け加えると、今度はドラゴンとも交流を持ったから」

「……マジで種族たらしだな」

「え、ドラゴンってあの戦いで協力してくれたドラゴン? 待って待って。れいちゃん、ドラゴンとそんな親密になれる時間なんてあったの!?」




 ティーラの呟きにハルヒは驚く。ベールに関しては、麗奈が起こした事からだろうか笑っている。麗奈本人からではなく、ドラゴンが自ら動いたと説明すれば「うわー、流石」と嬉しそうに言うベール。

 ヘルスは、ギリムの事を見ると頭を下げた。




「ランセから聞いています。最古の魔王ギリムさん」

「好きに呼んで構わない。余はサスクールを殺す為に動いたに過ぎないからな」

「そう、なんですね」




 サスクールは、ランセの国を滅ぼした。だからこそ、本人は復讐を誓い今まで追って来た。

 他の魔王達と交流を持っていないヘルスから見て、サスクールは各方面に恨みを買っているのだと感じる。


 そう考えていると、いつの間にかギリムが目の前まで来ていた。どうしたのだろうかと思っていると、上を向かされたりジッと見られたりと落ち着かない。




「あ、あの……何か?」

「血色が悪いし目に隈がある。別れたあの時から、きちんと休めていない様子だな。食事はとっていても、心労の方が重症か」




 ぐうの音も出ないヘルスの首根っこを掴みつつ、ギリムはベールに食事をする場所はあるのかと聞く。

 食堂の事を話せば彼は頷いた後、ティーラも引っ張り出して早々に消えた。あまりの動きにハルヒとポカンと見送ってしまい――慌てて2人は後を追った。

 



「腹が減っては戦はできぬ、と言う。自分の体調管理も出来ないようなら、まだまだだ」




 出されているのは、ご飯やスープ、肉野菜炒め、お浸し。焼き魚や煮物の数々。腹が減っていたティーラは「変わらないな」と、言いつつも出された物から食べ始める。


 食堂には、早朝の見回りを終えた騎士や街の見回りの休憩にと人が集まっていた。


 彼等は最近のヘルスの様子を心配していた。

 自分達に言えない何かを抱え、1日1日を過ごす度に精神をすり減らしていく様を見てきた。


 本来なら、止めなければいけない。

 しかし、自分達の心は何かを訴えている。このままではいけない。大事なものを取り戻せと、その為の行動を起こせと。




「私は、今は……」

「まずは自分がどれだけの心配を掛けてきたのか。それをきちんと理解しろ。そして、理解した上でどうするべきか、じっくり考えろ」




 時間はある、とギリムにそう小声で言われる。

 周りを見れば様子を見る者達の視線に気付く。居心地の悪さではない。




「っ……」




 彼等の視線を受け、記憶の差異はあれど心配を掛けてきた事実を受け止める。

 出された食事を食べ、気付けばボロボロと涙が溢れる。美味しいのもあるが、自分の精神が限界寸前だったのだと思い知らされる。




「これ食って反撃すんぞ。しっかり食っとけ!!」

「うん……。分かった」




 ティーラに促され、食事を再開する。

 まずは元気にならなければ。そう思い、一心不乱にがっついていく。


 その様子から、少しは元気を取り戻したと感じ安堵する騎士達。中には涙ぐむ者や自分の事のように喜ぶ者もいる。




「失礼します。宰相のイーナス・フェルグと言います」

「勝手に邪魔をして済まないな。厨房も少しばかり借りたぞ」

「いえ、それに関しては何も言いません。こちらとしても、助かりましたから」



 チラリと見れば、ヘルスと目が合う。

 気まずくて目を逸らされる事はない。もう、大丈夫だと読み取れホッとした。




「食事を終え、1時間は休憩しておくのだ。それまで余は暇だな……。そうだ。すまないが、この国の薬師はいるか? 話を聞きたいのだが」

「薬師ですか?」

「そうだ。生存率を上げられるかは、その国の薬師に掛かっている。管理している薬や植物の類でもいい。他愛ない話も含めて、この機会に話しておきたい」




 少し考え込んだイーナスだったが、すぐにフリーゲと父親のリーファーを呼ぶように手配。その隙にヘルスに話しかけた。




「余はこれでも医者だ。治癒魔法の基礎を作ったのも含めて、色々とやらせて貰った。役に立っているようで良かった」

「むぐっ!?」

「爆弾発言は後にしてくれ」




 驚く発言に、むせ返るヘルス。

 彼の背中をさするティーラにそう言われ、ギリムはすぐに謝った。ティーラが小声でヘルスにある事を教える。




「悪いが、あの人の発言はあんなんじゃない。今からそれだと、身が持たないぞ」




 どうにかして頷きつつ、ギリムを見てみる。

 彼は大慌てで来たフリーゲ、父親のリーファーとどの部分を中心に見るのかなど話し合いをしていた。


 最古の魔王。

 底知れない実力を持ちつつも、とても気さくな人物。ヘルスの印象はそう受けたが、魔族であるティーラからすれば彼はあれでも恐ろしい人だとも言っていた。


 一体、どちらがギリムなのか。

 もしくはどちらも彼なのか。心の中で、凄い人が協力してくれたなと思い、自分の回復に務める事にした。



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