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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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第25話:魔法協会本部・ラーンデール

 早朝、武彦は馬である場所に到着していた。武彦の前にはベールが先に来ており変わらない風景にいつも自分の力の無さを痛感させられる。




(8年……長いようで短いですね)




 あの時、自分が行っても状況は変わらないかも知れない。しかし、いつも……もし、と違う結果があったのではと考えずにはいられない。




「すまないね、ベール君。早朝にこんな年寄りの言う事を聞いて貰って」

「いえ……。自分もたまに来ますから……ついでです」

 



 ラーグルング国にとって西側にあったウィンセ国。その国があった所は、全て紅い結晶体に覆われており人が住んでいる場所にはない。ここに向かう途中から紅い粒子が見えており、それが風に乗っていくも途中で消えてなくなっている。


 この紅い結晶体は、朝霧家の秘術である血染めの結界。

 自分の命を全て差し出し敵を封印する最高位の術。

 これを扱えるのは朝霧家の当主の中でも霊力が高くないといけない事、何より血染めの力と相性が良くてないと発動しない。




(自分の娘と孫は一番適性が高いのは………皮肉なものだな)




 朝霧の中でも上と下がある。陰陽師の祖の土御門家にも分家と本家があり血を絶やさないでいるが、そのまま家ごとなくなり普通の人として過ごす者、怨霊に家を潰されそのまま終わる者などが原因で現代での陰陽師の数はどんどん少なくなっている。

 その点で朝霧家はそれなりに生き延びている。元々は巫女の一族であり、神の声を聞き奇跡を起こしてきた者が竜の子供との契約に成功。


 竜の子供は奇跡の力をいかんなく発揮し、朝霧家に陰陽師としての力を残すまでになった。それまで何の力も持たなかったはずの朝霧家は土御門と連なる位の大きな家系にまで力を得たのだ。



 竜の子供は陰陽師の行う気を利用しそれを朝霧家に残してきた。

 その秘術に血染めと呼ばれる自身の血を利用し、敵を葬る術を残した。朝霧家の陰陽師が他と違いこの血を用いた術がある事で地位をなすと同時に、この術のリスク為に短命になる原因を作った。

 適性が低ければ術を扱った瞬間に、絶命し簡単に死ぬ。

 適性が高くとも連発をすればいずれは死期が早まる危険なものだが、それよりも陰陽師としての地位を保ち続ける事を選んだ朝霧家の者達は狂気とも言えるだろう。




(ハルヒ君が許嫁なら少しは良かったのだがな………)




 土御門家は嫌いだが彼は信用できる。

 何せ「倍返し。絶対に壊す」と幼い頃に約束したのだ。……6歳の子にそんな事を言わせるような教育をした土御門家。


 彼は分家の中で一番霊力が強い事もあったが、見た目がハーフだと言う理由で冷遇にも近い事をされ心が荒んでいた。あれから彼は何処で何をしているかは分からない。心配しようとも世界が違っては何も出来ないなとも諦め目の前の現状を見る。




「ベール君、この結晶は魔法で破壊出来たのかな」

「いえ……誰も試してはいません。封印が施されていると分かってからは危険な事は避けて来ましたから。由佳里さんが封印してくれたのに、ここでそれをやればまた8年前の事を繰り返してしまいます」

「………正直に言いたまえ、娘の事は少しは分かるんだろ?」

「……………」




 言葉につまり武彦の質問を考える。名前を聞いて分かったのは、黒髪の凛とした女性の事。恐らく彼女が由佳里なのだろうと思うも、顔にモザイクが掛かったように霧が掛かったように分からない。声も分からないのに、知っているような感覚にベールだけでなくセクト達も不思議に思っていた。




「すみません。由佳里さんの顔は……分かりませんが、これが彼女の行った事なのは分かります。感覚的な事で申し訳ありませんが………」

「いや、いい。キール君の見解が当たっているのだろう。君達は全員、8年前での戦いはうろ覚えでありこれは魔法の所為だ。無理に外そうとすれば心が壊れるだろうから出来ない、と言っていたから無理には言わない」

「はい………」

「これで満足だ。時々、様子を見に行くからあとでイーナス君の許可を貰うか」




 そう言って踵を返す武彦にベールも同じように引き返す。後ろ髪を引かれるようにベールは紅い結晶体を見た。国があったとされる場所には結晶体が囲うようにして現れ、それに続く道にも結晶体が突き刺さっており木に痛んだ様子はない。

 ただ刺さっている。周りを汚すでもなく、木々が枯れた様子もない。人は居ないが動物達がここを守るようにして立っている事から、風景が異様なだけで動物達には平気なのかもしれない。




======



「あの、キールさ……師団長は居ますか?」

「……………」

「あ、あの………」




 魔道隊の居る仕事場は城から少し離れた大きな四角い建物だ。

 魔法での通信や国内部の魔力管理などを行う為に、自然と離れた所に建てたのだ。師団長でもあり貴族でもあるキールが趣味で作ったこの建物が自然と仕事場になった。


 麗奈は北の柱から戻って来た兵士から頼まれごとをされ初めてこの魔道隊の仕事場へと向かった。

 なんでも師団長宛ての手紙であり、自分達が探すより主の麗奈が持って行く方が会う確率が高いと言う事でお願いをされたのだ。


 頼まれついでに魔道隊の働いている場所が見て見たいです、と言えば兵士は喜んで道を教えてくれた。迷うことなく辿り着き心の中でガッツポーズしたのは内緒だ、風魔にはやれやれと言われるのは間違いない。




「あ、の………魔道隊の仕事場、で合ってますよね?」




 魔道隊の人は全員ローブを深く被り顔も分からない状態だ。

 黒いローブは前線担当、白いローブは通信担当と分けられていると前に説明を受けていたが人見知りの方が多いが実力は確かだと言うのが騎士団達からの認識。



 だから気軽に声を掛けた。顔が分からないから自分の事も分からないのだから、キールの事を聞く位全然平気だと思ったのがいけなかった。聞かれた人物は麗奈に会ったと同時にビクリ、と震わせ誰かを探しているのかキョロキョロとしている。




(黒いてるてる坊主で………なんか可愛いかも)




 と、思ったのは内緒。暫くしていきなり手を引かれて無言で部屋に入れられた。思わず心の中で思ったのがバレたのかと思ったが「師団長ならフリーゲ薬師長の用で居ません、自分が渡しておきます」と聞きたい事が返って来た。




「分かりました。ありがとうございます!!あ、良かったらどうぞ♪ラウルさんと作ったクッキーです」

「……ラウル?」




 透明な袋には陛下達が気に入っていると言うお菓子があった。

 その中の1つであるクッキーであり、魔道隊の人達には渡してないなと思った麗奈が持ってきたのだ。ラウルと言う言葉に引っかかりを覚えたのか目の前の人物が、ずっとクッキーを不思議そうに見ており首を傾げている。




「ラウルさんと知り合いなんですか?」

「いや、知り合いでは」

「レーグ、良かった探してたんだ」

「「え………」」


 


 そこにラウルが目当ての人物が見つけたとばかりに肩を叩く。その勢いが強すぎるのか着ていたローブが落ち深く被っていたフードの部分がずり落ちる。茶色の髪に黒い瞳の落ち着いた雰囲気の男性。


 自分やゆきに近いような顔立ちにずっと見ていると、レーグは慌ててフードを被ろうとするもラウルがそれを抑え込む。




「っ、何で邪魔する!!」

「待て麗奈にまだ会ってないって聞いたが、本当だったのか。なら今、紹介するべきだろ」

「余計な事だ!!!」

「あ、あの……」

「麗奈。彼はレーグ・ディルルスと言って俺の友人だ。魔道隊の指揮をする隊長で宰相殿とこの国を支えた1人だ」

「友人なら察しろ!!」

「へ、平気ですよ。キールさんは大体、私の近くに居るから……嫌がらせされるのが嫌なんですよね?」




 ピクリ、と反応し麗奈の方をじっとみるレーグはコクリと頷きラウルに「返事しろ」と叩かれる。

 早めに用事をすまそうと思い彼に手紙を渡そうと手を伸ばした瞬間、水色の光が3人を包み込みそのままクッキーを入れた袋だけが残された。




「へぇ………キール(アイツ)じゃなくて女と男2人が釣れたのか………一体、どんな関係なんだい?」

「え、きゃあああああ!!!!」

「「なっ………!!」」




 思わずしゃがみ込む。それもそのはず麗奈だけが黄色のブラジャーとパンツと言う下着姿になっており、レーグとラウルは目をすぐに逸らした。

 

 自分達もかと思えば餌食になっているのは彼女だけのようであり、黒いローブを脱ぎ捨てたレーグはそのまま麗奈を包み込むようにして引き寄せた。




「………ううっ………!!!」

「あれ程、奇怪な真似は止めるようにと言ったのに……!!!」




 バシッと叩かれる音が響いた。ラウルは自分達が居る場所を見渡す。目の前に座っている葵い髪に同色の瞳の女性は胸元が大きく開いたドレスを身に纏い、その美貌に顔を少しだけ赤くなり慌てて視線を逸らす。


 その女性の隣に控えていた男性も同じく顔を赤くしており申し訳ないと謝りながらも、実行をした女性を叱りつける。




(ん………?)




 ふと、疑問に思いもう一度見る。叱っている方を見てあれと思った。

 眼鏡を掛け顔の赤さが引かないままだが、緑の上着には金の鳥の刺繍、黒いズボンに茶色の髪に黒の瞳。右胸のポケットには白と黒、金の鳥の紋章を見て「レグネス家の紋章!!!」と叫んだ。




「も、もしかして………イディール・レグネスさん!?」

「………ん?ラウル……ラウル君か!?あ、レーグ君!!!き、君達なんでここに!!」

「………そういう事か」




 頭を抱えたのはレーグ。今だに涙目で震える麗奈を落ち着かせるようにしてポンポンと頭を撫でれば『どういうつもり?』と怒りに震える風魔が現れ殺気を向けて来る。




「ま、待て風魔!!彼はキールさんの父親だ!!!攻撃するな、殺気を抑えるんだ!!!」

『主にこんな恥かかして………!!!』

「流石、師団長の母親……やる事が息子の師団長そっくり」

『「えっ!?」』

「魔法協会の理事を務めているのは師団長の母親であり、副理事長は師団長の父親です」



======



「イーナス!!」

「帰れ!!」




 何度目かの勢いに扉もついに壊れ完全に開放となってしまった宰相の執務室。見張りの兵士は宰相の声にビクリとなり入って来たキールには剣が投げ付けられた。

 精霊ウォームがプレゼントと言って麗奈に渡した首飾り。彼はそれだけでなく魔物に襲来し破壊された城下町、街、村が全て元に戻したのだ。


 お金や食料は流石に元に戻せないとなるが、この規格外に頭を抱えウォーム本人に確認をするも召喚士が必要なのを思い出しゆきが来るのを待っていた。違う人物が入って来た挙句にイライラいが更に募りつい本音が出たのだ。


 


「殴られるのは良いけど、主ちゃん見なかった!?」

「見てないよ」

「じゃあ、君達は見てない?」

「す、すみません……」

「ずっとここで見張ってました」

「あ、師団長殿。麗奈様に会えましたか?」




 と、そこで麗奈に手紙を届けるように言った兵士が言えばキールがすぐに「主ちゃんに何か渡した!?」と鬼のような形相で睨んだ。

 手紙を渡すようにと、頼みましたと涙目に答える。




「どんな手紙っ」

「えっと、青い鳥の絵の……」

「イーナスさん、お待たせし」

「ゆきちゃん来て‼」

「え」

「ちょっ、キール!!」

「ごめん、協会に行ってくる!!」




 ゆきをそのまま連れ去り一緒に来ていたリーグとリーナごと巻き込んでそのまま姿を消した。突然の事に兵士達はポカンと口を開けイーナスはフルフルと体を震わせる。




「………どういうつもりだ、キール!!」




 久々に聞いた大声に兵士達は慌てて背筋を伸ばすも青ざめた。ユリウスが魔道隊での仕事場に落ちていたクッキーについて聞こうとし、宰相が投げた書類の山に当たる。

 訳が分からない、とばかりに不機嫌になれば見張っていた兵士達は涙ながら状況を説明したとか。



======



「麗奈さん、妻ともども本当に申し訳ありません」

「い、いえ……」




 別室ではキールの父親のイディールから謝罪をされ平気と言う事5回目。主に麗奈の後ろで風魔がギロリと睨んでいるのが原因であり、麗奈もダメだと言うもふてくされている状態だ。


 彼女は協会から支給される女性用の黒いワンピースを着ている。その近くでは子供達が風魔を物珍しそうに見ておりそれに居心地が悪くなったのか、そのまま子供達の相手をしに外へと連れて行く。


 その入れ違いに入って来たセルティルは麗奈に腕輪を返した。慌てて受け取り大事そうにするのを見て、ほぅ……と物珍しそうに見ていた。




「これは確かにアイツの持ち物だね。………ふぅん。アンタが主、ね」

「こら、セルティル………」

「文句言うなら勝手に連れ出さないんでくれない!!」




 荒々しく扉を開けたのは2人が探していた息子のキール。その表情は怒っているのかリーナがずっとガクガクと震えている。




「……どういう事か説明出来る?」

「主の服をそのまま引ん剝いたんだよ」

「セルティル!!」

「燃やす!!」

「もう良いですから!!」




 キールを止めに入る麗奈に魔法を発動しようとした手を止め、リーナも同じく止めに入られ仕方なくイスに座る。その様子に母親であるセティルは目を細め、イディールは「あの、キールが……」と何処か感動している。




「暴れん坊のお前が大人しくなるとはね」

「もう30だからね。だからって主ちゃんのした事は許す気ないからね。……護り石の魔力で引っ張られて巻き込まれたのに」

「護り石の……魔力?」




 魔力の塊を凝縮し込めた人物と同じ色の宝石を護り石と呼び、誓いを立てお守りとして渡す物。騎士が仕える主に渡す物であるであったり、他国の同盟の証となるなど使い方は様々だ。

 それを作り出せるのは魔法師と魔力の扱いに長けた人物のみ。




「魔法師は元々、孤高の集まりだ。主なんて持ったら自由がなくなる」

「それも引っくるめて主ちゃんに仕えてるんだけど?」

「……趣味変わったな」

「燃やされるのと氷付けどっちが好みかな?」




 雰囲気が悪くなり熱さと冷たさが覆う空間に麗奈達はガクガクとなり「ここが魔法協会か!!!」と勢いよく来たのはユリウス。入って来た人物にイディールは慌てて「へ、へへっへ、陛下!!!」と土下座をしセティルは「おや、ここに来れるんかい?」と珍しそうに見ていた。




「呪いの事を言ってるならちょっとだけ解除して貰いました。お久しぶりです、イディールさん、セルティルさん」




 呪いと言う言葉を簡単に口にしたユリウスに驚くイディールとセルティル。彼はそれを気にした様子もなく2人に渡したのは1枚の紙。宰相、イーナスからの伝言らしいぞと言いその内容を見る。




「………分かったよ。彼の要求は飲むよ。まぁ、こっちが呼びだしたんだからしたかないよね、息子を呼ぶつもりが色んなの釣れたし」

「麗奈達の事言ってるんですか………」

「へぇ、アンタ麗奈って言うんだ。息子ともどもよろしくね」

「よ、よろしく、お願いします………」




 すぐにユリウスの後ろに隠れる麗奈に不思議そうに見るリーナ。ラウルとレーグはそれをコソコソとしたまま見ておりキールは両親を睨んで「んで、何の用?」と怒気を含んだ言い方で聞いてくる。




「魔法師を狙った魔物共の退治をお願いしたい。ギルドの冒険者共には頼む気はない。良いから受けろ」

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