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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第264話:覚えている者の違い


「武彦さんのようには、上手くないですけど……緑茶になります」




 ラーグルング国にあるフィナントの屋敷。

 その1室で、ハルヒはヘルスに緑茶を提供した。それを「ありがとう」と言い、心の中で懐かしさに浸る。




「やっと素直になりましたか、ヘルス」

「今まで素直じゃない言い方しないで」

「そうですか? 貴方もユリウスも頑固な所が、流石は兄弟って感じですけど」




 軽く睨みながら言ったのは4騎士の1人であるベール。

 彼も麗奈とユリウスの事を覚えており、ヘルスの行動を止めようと動いていたがかわされ続けて来た。

 だからこそ今の彼はハルヒに感謝している状態だ。




「改めてお礼を言います、ハルヒ君。このバカを止めてくれて助かります」

「おい」

「……仲が良いんですね」




 緑茶を飲みつつ、ハルヒはそう言った。

 イーナスとは違った気安さ。その光景に、セクトとベールのような親友関係にも見えたからだ。




「えぇ、結構仲良しですよ。この人、こんなになる前は人当たりも良いし優しいですからね。この国の騎士や国民達に慕われてるんです」

「ふーん。……あれ、年齢って」

「本来ならセクトと同じ27歳です。ですが、魔王に体を乗っ取られて8年位でしたか。19歳のままなので様子見です」

「あ、そうか。アリサちゃんも同じ感じでしたね」




 思い当たるのは、麗奈とユリウスが世話をすると言った少女。

 アリサも、魔族に体を乗っ取られて約6年は10歳のままでいた。助けてくれた麗奈とユリウスをママ、パパと慕っている。


 麗奈とゆきから話を聞いていたからこそ、ハルヒは今のヘルスの状態に納得した。

 そこでふと思った。2人を慕っているあの少女はどうしているのか、と。




「……彼女は、時々フラリと出掛けるんです。麗奈さんとユリウスの事を無意識に探しているんだと思います。今は父がアリサちゃんの事を見張っているので、暫くはここには来ません」

「そう、なんだね」

「この国に居る人達が全員、2人の事を忘れている訳ではないんです。その説明の前に……」

「えいっ!!」

「なっ……!?」




 突如、会話に割り込むようにして母親のエレスが飛び込んできた。

 不意をつかれたヘルスは、しまったと思った。防ぐよりも彼女の繰り出す魔法のスピードの方が速い。




「はーい。ちゃんと体を休めて、心をリラックスしようね」

「……母様、ヘルス様を眠らせた?」

「えぇ、バッチリよ」

(傍から見たら襲撃にしか見えない……)




 妹のフィルは静かに入り、ベールと2人でヘルスを何処かへと運んでいく。

 唖然とした様子で見守っていたハルヒだったが、エレスがヘルスは寝室に運ばせていると言った。




「彼、この状況になってからずっと虹の空を目指しているばかりでね。自分の体調を顧みないの。強引だけどこうでもしないと、絶対に倒れる」

「……僕、そんな人に怒鳴ったんだった」




 失敗したと反省するハルヒに、戻って来たベールは珍しそうに見ていた。

 その視線に気付き、何だろうかと見ていると「自覚があったんですね」と返した。




「ハルヒ君は、誰にでも突っかかる人だと思ってました」

「すみませんね」

「いえいえ。現にユリウスの時には殴りましたし。貴方は王族であろうと自分の目的を優先すると周りが見えない人、だというのがよく分かりました」

「……すみませんでした」




 ユリウスをあの時に殴ったのは、感情でやった事に過ぎない。

 麗奈とやっと再会出来ると思った時に、彼女はディルバーレル国付近へと転移された。引き起こしたのはユリウスが契約したブルームによるもの。


 今も感情で、動いているので成長していないと反省中。




「まぁ、そう言うハルヒ君の性格を利用した私が言うのもあれですが。ま、お互いに利用し合ったという事で」

「ムカつく言い方……」

「ふふ、嫌だなぁ。親しみを込めてるんですよ?」

「そんな風には見えない」




 そこでじっと見る。

 今のベールは金髪に深緑の瞳。人間と違い尖った耳を持つエルフだ。そして、ベールだけでなくエレスもフィルも金色の膜のようなものが見える。


 エルフには皆、そんな感じに見えるのだろうか。

 キョトンとするハルヒに、ベールが「一部のエルフだけみたいです」と答えた。




「詳しくは分からないです。が、何でも父はエルフの国の王族だったようで」

「えっ」

「追放された所を、ラーグルング国王の……ユリウスとヘルスに父親に拾われたんです。で、私達はそのままここに定住したという訳です」

「え、は……? って事は、アンタはエルフの王子なの?」

「追放されているので、私とフィルにそんな権利はありませんよ」




 まず、私達もエルフの国を知らないと言い緑茶を飲み干す。

 エレスもそれに続くように話していく。




「お兄さんと喧嘩して、そのままよ。フィナントもヘルス君と同じ位には、頑固だから」

「頑固で悪かったな」




 どこから聞いていたのか。

 不機嫌な顔をしたフィナントがそう返す。エレスは「あぁいう所よね」とハルヒに同意を求める。

 どう答えて良いのか分からず、ハルヒは曖昧に返事をした。




「アリサちゃんはどんな様子ですか」

「今は寝かせている。悪いが一部、記憶を封じた。2人を探す姿を見て、どうにも落ち着かんからな」




 ベールの質問にフィナントが答え、少しだけ沈黙が起きる。

 アリサが無意識に麗奈とユリウスの事を探している。事実を伝えても、彼女の方が覚えていないのであれば説明が難しい。


 ハルヒはベールから、2人を覚えている特徴として寿命が関係しているのでは、と推測を説明した。

 



「親族である誠一さん達が覚えていない事。親友のゆきさんは、麗奈さんと共に過ごした時間は長いです。なのに、彼等は全く覚えていない。逆に霊獣である九尾さん達が覚えている所を考え、父とそう結論しました」

「それに覚えている者達の共通としては、人間よりも寿命が長い事。実際に彼女と交流のあったドワーフ達に聞いても、ちゃんと覚えている。そして、ゆきという子も一緒に居たのも記憶しているのに、彼女の方はそこがぼんやりとしているんだ」

「……」




 ベールとフィナントの説明にハルヒは考え込む。

 寿命の違いというのなら、確かに当てはまる。なら、何でハルヒとアウラは覚えているのか。そんな彼に、フィナントが質問をする。




「逆に聞こう。君は何故覚えている」

「え、何故って……」

「今の状況になったのは、虹の空が覆っている状態になってからだ。私もそれを見ていたが、誠一達はその空を見た途端に倒れた」




 しかも1度だけではない。最初に虹の空になった時、空を見上げていた者達は全員が倒れた。突然の状況に、フィナント、エレナ、ベール、フィルの4名は立ち尽くした。

 気を失っているが、一斉に起きたのであれば異常としか思えない。




「そして、もう1度強い光と共に虹の空が作り上げた時はかなり時間が空いてからだ。その後、ヘルス様がドラゴンと共に戻ってきた。その時の彼等は、酷く疲れ切っていた」

(虹の空……。そう言えば、僕もアウラもその瞬間を見てない?)




 見付けられた共通点。

 ハルヒとアウラは、虹の空が出来上がったその瞬間を見ていない。逆に、その空が出来上がるのを見た者達からは2人の記憶が消えている。

 虹の空を見ているか否か。


 今、この世界に精霊はいる。が、麗奈に協力してきた大精霊達の行方が分からないまま。

 そして、ハルヒも麗奈に破軍を託しているがその彼も戻っていない。彼の扱う力も、麗奈の力もハルヒには分かる。


 その点から見ても、ハルヒがまだ麗奈の事を覚えている一因になっているのかも知れない。




「麗奈さんに託した破軍さんがまだ戻ってない、ですか」

「破軍も式神だから、通常なら術が切れた時点で術者に戻る。でも、その破軍が戻っていないって事はれいんちゃんの中に居る事に繋がる。今も、れいちゃんの気を感じるのは柱だけ。多分、それにも意味がある」

「今の柱を支えているのは、誠一達の霊獣だが、彼等から話を聞くのは後だ。ヘルス様が起きるのを待つしかないだろう。ランセも何故、今になって体調が悪くなったのか」




 そう言えば、とハルヒはランセの姿がない事にようやく気付いた。

 そして、ハルヒもアウラが今居ない理由を話す。彼女は、神子(みこ)と呼ばれ唯一神の声を聞ける存在。


 麗奈とユリウスの記憶と存在を消した理由を聞こうというのだ。




「……危険じゃないのか、それは」

「悪いけど、ずっと続けているよ。でも、何度も試しても向こうから返答は来ないって。普段は、一方的に無遠慮に来るのにって聞いている」




 詳しく話を聞こうにも、ヘルスは無理に寝かせているし状況を知っていると思われるランセも回復の兆しは見えない。悩むハルヒ達の元に別の声が割り込んできた。




「ふむ、ランセが来ないのも理由があると思っていたがそういう事か。今の空は、奴が作り出したとみて良いな」

「え」




 静かに告げられた事よりも、ハルヒ達は目を丸くした。

 そこには緑茶を飲んでいる1人の姿がある。薄いクリーム色の長髪に蒼い瞳の男性が居た。漆黒の服に身を包んだ彼は、緑茶を気に入ったのか自身でおかわりをしている。


 彼から発せられる魔力は、ランセと同じもの。だから、全員が認識出来た。魔王がここに居るのだと。




「な、何の用っ。サスクールを倒されたからって、報復に来たの!?」

「ふっ……余が報復だと?」




 戦闘態勢に入ったハルヒは、既に札に霊力を込め刀を作り出していた。フィナント達も、突然の訪問者に驚きつつも警戒を緩めない。ハルヒの質問にギリムは笑いが堪え切れないのか、体が震えている。




「ふふっ、安心してくれ。魔王同士での報復なんかする訳がない。そんな事をしてくる奴は、余が止めておくさ」

「な、何の用で来たの……?」




 警戒を緩めないハルヒ達と違い、ギリムはただ優雅の緑茶を飲んでいるだけ。

 ひとしきり楽しんだ後、彼はランセの様子を見るといった。微かにだが、呪いの力を感じと言う。




「余も状況は聞きたい。貴方方が探している2人とギリギリまで居たからな」




 魔王ギリムがラーグルング国に来た目的は、ランセを助ける為。

 そして、彼もこの混乱の打開を願うもの。この状況を作った相手を睨みつつ、ギリムはハルヒ達にランセが居る所まで案内を頼んだ。



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