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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第7章:神の試練
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第263話∶一筋の光

 

 あの大きな戦いから2週間が経った。  

 1人の異世界人を巡る戦いを終え、誰もが安心でいると思っていたがそうではない。


 ヘルス・アルクス。

 ユリウスの兄でラーグルング国の王族。弟と同じ黒い髪に紅い瞳。人当たりがよく、周りには威厳をと求められるも出来ていない。

 滲み出すふんわりとした雰囲気がどうしても出てしまうのだ。

 

 しかし、今の彼にはそんな面影もなかった。




「ヘルスっ、また行くのか!?」

「……今日の書類は終わった筈だけど?」

「そうじゃない!!!」




 身支度を終えた彼は、東の森に向かう。

 その前に止めに入ったのは宰相のイーナス。彼の制止も聞かず、ヘルスは執務室から出て行こうとする。


 それを腕を引っ張り、無理矢理に止める。




「痛んだけど」

「そうしなきゃ、また森に行くだろ。なら言ってみろ、何日寝てない」

「仮眠はした」

「そうじゃない。まともに寝てないだろ!!」

「……」




 抵抗を止めイーナスを再度見る。

 その目には心配そうに見つめられた。


 変わらない彼の様子。

 それが、今のヘルスにはどれだけ辛い事かを彼は知らない。




「夕方には戻る。夕食はいつもの通り、部屋の前に置いていて」

「っ。何でそんな事……この国の王族は君1人なんだぞ。無理なんて」

()()()()()()




 絞り出すように、否定の言葉を口にしたヘルスにイーナスはそれ以上、何も言えない。

 「ごめん」と謝ったヘルスは、掴まれた手を丁寧に外すとそのまま出て行った。


 ラーグルング国は魔法国家と呼ばれ、第2の精霊の国とも呼ばれている。

 しかし、今はその精霊の力を感じる事は出来ない。前には出来ていた事が、今は出来なくなっているのだ。

    



「また傷付けた……くそ」




 ソファーに乱暴に座り、自分の過ちを反省する。

 ヘルスの記憶と自分の記憶で違いがある。


 魔王サスクールに、乗っ取られたヘルスを取り戻す。その為の戦いではなかったのか。自問自答を繰り返すが、やはり答えは出ない。




「1人じゃない……。しっくりこない筈。なのに、何でこんなに胸が苦しい」




 自分の言った事は間違いではない。

 それなのに、妙に引っ掛かりを覚える。イーナスの右手には、麗奈から貰ったブレスレットがある。


 ディルバーレル国で、彼女が作った魔導具。イーナスにお世話になったと言う、彼女のプレゼントが変わらずにキラリと輝いていた。

  



======



「ランセの様子はどう?」

「変わらず、だな。水分はどうにか与えるが、熱が下がらないままだ」

「……ん。ありがとう」

「アンタもちゃんと寝てないだろ。倒れるぞ」




 熱にうなされているランセの世話をしながら、ティーラは念の為と注意をする。

 それに力なく頷きながらもヘルスは、無理だとポツリと言った。




「……眠れる訳ないよ。2人が居ないのに」

「それは、そうだが」




 言えば言う程、墓穴を掘る。

 負の連鎖が続く。だからこそ、ティーラもそれ以上は言えずにいた。そこに、コン、コンと扉をノックする音が聞えヘルスが対応。

 そのヘルスに、とブルトがおにぎりを持ってきたのだ。




「今日も行くんスよね? せめて、ご飯は食べないと」

「あ、そうだね。……今日、朝は食べたかな」




 おにぎりを食べつつヘルスがそう言えば、ブルトとティーラは同時に目を見合わせた。

 精神が疲弊し、心と体のバランスが悪くなる。誰が見ても、今のヘルスは普通ではないのが明らか。


 だが、2人は強く止める事が出来ない。

 その事情を知っているからこそ、言い出せないでいた。




「……っ」




 その様子を、ランセはぼんやりとだが見聞きしていた。

 うなされる熱が早く治るように、自分を調整するも上手くいかない。早く自分が起きなければ、ヘルスが壊れていくのが分かる。


 だからこそ、急がなければいない。




(くそ……。どうして、こう……上手く……)




 自分を叱るが、意識がまた重たくなってくる。

 今のヘルスを止めなければと思いつつも、ランセの瞼は再び閉じられた。




《やはり範囲が広がっている。いや、行かせないでいるようだ》

「……ホント、創造主ってムカつくね」




 ドラゴンと共に来た空は、2人を見失った場所。

 しかし、昨日よりも行ける範囲が少なくなった。ドラゴン達がどんなに前に進もうとも、必ず元の場所へと戻される。


 この繰り返しがあるからこそ、ヘルスは誰の仕業でそうなっているのかが見当がついていた。




《魔法も消えていない。しかし、大精霊達は未だに消息が不明。……その力の行方も分からないまま》

「麗奈ちゃんは召喚師だ。そうでなくても、彼女に力を貸している大精霊達が多い。その彼等も未だに戻らないなら……2人は生てるって事だよ」




 旋回し様子を見守るも空は変わらずの虹に染まっている。

 麗奈と共に戦ってきた大精霊達の姿はない。誰も戻って来てはいない事を考えれば、麗奈とユリウスの傍に居る可能性の方が高い。


 ユリウスが契約している大精霊は、天空の精霊であるブルーム。

 またブルームと原初の大精霊であるアシュプとは、同じ虹の魔法の使い手にしてこの世に魔法を生み出した存在。


 前にディルバーレル国で、その2つの精霊を消そうと試みた魔族のユウトが居た。

 狙われたのは、彼等が居なくなればこの世から魔法を消せるからだ。その思惑は、麗奈達によって阻止されている。


 今、この世界で魔法が健在なのは大精霊ブルームが生きている証拠。

 その契約者であるユリウスが無事であるという事にも繋がる。2人が生きていると信じながらも、その手掛かりが一切ないことに、胸が締め付けられる。




「……あの時に、もっと早く手を伸ばしていれば」




 最後に麗奈を見たのは、サスクールに空間へと連れていかれる所。

 フェンリルと共に連れていかれ、ヘルスが手を出すよりも早くにユリウスが追って行った。あの時に、もっと早く手を出していればと後悔が募る。





《ここで戻れば、また範囲は狭くなる。しかし、痕跡がないのでは……》

「居たっ!!!」



 ヘルスを乗せたドラゴンが、そう思案していると下から追って来る影が見えた。 

 白い大きな鳥は、1人の男性を乗せていた。

 鳥の見た目をしたそれは、陰陽師が作る式神。その背に乗っているのはハルヒだ。




「やっと見つけた。タイミングは合わないし、イーナスさんに聞いても答えてくれない……。何よりこの状況は何なんだっ!!!」




 ヘルスとは初めて会うが、今のハルヒには関係がない。

 そのままヘルスへと詰め寄り、彼の胸倉を掴んで睨み付ける。




「答えろっ。何でこの国の人達は、ゆきだけじゃない誠一さん達まで……。れいちゃんとアイツの事を忘れている」

「え」

「誰に聞いてもそんな人居たかみたいな反応して、覚えてないの一点張り。ふざけんなって思って、貴方を探せば夕方まで戻って来ないとか言うし!!!」




 あまり長くは居れないからと、イラつくハルヒは文句を言う。

 しかし、ヘルスは飲み込めない。自分と同じように、2人を覚えている人が居ることに――。




「事情を知ってるなら全部話して!!! このふざけた状況を――作った奴を知ってるなら教えて」




 絶対にぶっ飛ばす、と怒りに燃えるハルヒにヘルスはただ驚くばかり。

 同時にホッとしていた。


 あぁ、自分だけじゃないと気付いたからだ。

 ラーグルング国の人達は、麗奈とユリウスの事を忘れている。2人を覚えているのは、ドワーフ、魔族、エルフのフィナント達だけ。


 状況は絶望的だが、そこには確実に一筋の光が見えようとしていた。それを破れる可能性があるかも知れない。麗奈と同じ異世界人であり彼女の幼馴染である、土御門 ハルヒ。



 彼とアウラだけは、幸いにも2人を覚えていた。

 偶然か必然か。ここから巻き返さないといけない、とヘルスは強く思った。


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