表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
304/433

第260話:特別な素体


 麗奈を追って来たユリウス、ザジ、白いドラゴンの子供は呪いの空間での戦闘を続けていた。

 既に限界を超えているユリウスは休み休みだが、その間に子供のドラゴンは次々と泥人形達を浄化していく。




「はあっ、はあっ……。くぅ」




 片膝をつきながらも戦意は失っていない。

 だが顔色が悪い。背中をさすり自分の服の袖口をタオル代わりにして、ユリウスの額を拭く。再び立ち上がろうとするも、そこでフラリと倒れそうになった。




「ユリィ。もう休まないと……」

「でもっ」



 麗奈の制止も無視して動こうとする。だが、既に足はガクガクと震えており体は限界だと訴えている。負けじと立ち上がろうとするのを、麗奈は強く引き止める。

 無言でダメだと訴えられ、そこで彼は力を抜いた。


 ドサッとみっともなく尻もちをつく。

 今まで我慢してきた分の疲労が、一気に来た事で認めざるをえなかった。




(もう、限界って事か……)




 途中から分かっていた。

 自分も麗奈も既に限界状態。本当なら体を動かすのだって辛い。それでも、無理に動かしてきたのは守る為だ。


 自分の好きな人を、サスクールに奪われない為。

 今度は絶対に離す訳にはいかない。ユリウスに生きる勇気をくれ、希望をくれた麗奈に。




「……悪い」

「ううん。そんな事ないよ」

「情けないな」

「そんな事ないってば」




 そう言いつつ、彼女は自分の服を破る。

 呪いに侵されたフェンリルと対峙した時に、受けた傷口を結ぶ為だ。頬に受けたかすり傷から流れる血も拭きながら、奮闘を続けている子供のドラゴンとザジを見る。


 彼等は虹の光が作り出した柱に迫る影と戦っていた。

 泥人形のように動くそれ等は、無尽蔵に生み出され囲まれている。


 不安げに見る麗奈に、ユリウスはそっと手を握る。




「今は信じるしかない」

「そう、だね……」




 暗くならない方が無理だったがそう答える。

 もっと自分に力があればと思うも、既にその可能性を断ち切られていた。


 サスクールが麗奈を攫ったのは目的の為でもあるが、彼女の心を徹底的に潰す為でもある。

 戦意を失い思考を奪い、絶望を与える。

 本当ならば、もっと早い段階で麗奈の心を折られていた。


 それでも、今まで彼女が負けずにいたのは傍にいた青龍と死神ザジのお陰。そして、自分の世話係だと言ったブルト達のお陰でもある。

 再会したゆき、そしてアルベルトが探していた同胞達に会えた。だから、最後まで挫けずに来られたのだ。




「しつこい連中めっ!!」

「お前にだけは言われたくないな!!」




 金髪の男性であるサスクールと対峙するザジは力を振るう。この異空間だからか、サスクールは再び具現化を果たしていた。


 ザジは死神の象徴である朱色の瞳は炎のように灯り、青白い炎は冥界へと送る道筋の力として使う。白い子供のドラゴンが、泥人形を白く変え浄化をしていくように――彼もまた泥人形達を冥界へと送り続けていた。




「ちっ、貴様等……。そういう事か。デューオの作った特別製の素体か」

「何の話だっ」

「まさか気付いていなかったのか? おめでたい奴だな」




 距離を取りつつ、巨大な泥人形がザジに迫る。

 だか彼はそれを大鎌を振るう事で終わらせた。一撃で消し去り、斬られた所からは青白い炎が発生されて周りを灯していく。


 麗奈とユリウスが彼等の戦いを見られるのは、この炎のお陰といってもいい。




「今まで不思議に思わなかったのか? それだけの力を使っておきながら、力の枯渇を感じない事に。死者は疲れを感じない。だが、死神と言う特別な力は多少なりとも疲労感はあるぞ」

「……」

「そのドラゴンも同様だ。そんな小さな体で使って良い魔力をとっくに超えている」

《キュウ!!》




 サスクールの言葉にうるさいと思ったのだろう。

 ドラゴンは虹の矢を大量に作りそれらを発射。攻撃は当たる前に泥人形達によって守られる。悔しげに唸るも、その隙にザジが迫る。




「創造主たるデューオの力の恩恵を受けた死者。それが俺達――死神だろう? 役割は魂の循環。管理している冥府へと送る運び屋のような仕事だ」

「今更、何の話だ」

「本来なら感知出来るのは分け与えられたデューオの力だけだ。なのに、何でお前はそれ以外の力を感知出来た? 異界の神の存在が何故分かる」




 その体はザジの本来の体ではない。

 そう言われているのは分かっていた。ムカつく野郎だと思いつつ、サスクールに迫るも必ず邪魔が入る様に泥人形達が立ち塞がる。




「邪魔だっ!!」




 手のひらから青白い炎を生み出す。

 眼前に迫っても関係がない。瞬時に炎を生み出し、前へと放出すれば全てが燃える。


 黒から白へと変わり、一瞬だけ眩しい光にザジを思わず目を細めた。

 視力が軽く奪われるもすぐに切り替えるように周囲を見る。背後に迫っていたサスクールの腕に貫かれ、その痛みで意識が飛びそうになった。




「ザジっ!?」




 悲鳴めいた麗奈の声に、ザジはすぐに意識を覚醒しサスクールの腕を切り落とす。

 腕を落とされてもサスクールは泥人形達により再び戻る。背中から貫かれたザジも何事もなかったかのように戻っていく。




「おかしいだろ? 感覚はあるのに、疲労は感じない。本来ならその違いで人間なら狂うぞ。お前、人間じゃないな」

「だったら、なんだって言うんだ」

「元がなんだろうがどうでもいい。問題なのはお前に振られたデューオの力の多さだ」




 ザジを睨み、そして子供のドラゴンを睨んだ。

 その目は憎しみが読み取れる。思わず麗奈はユリウスの手を強く握る。咄嗟とはいえ、ユリウスの方も強く握り返した。


 2人も無意識に怖いと思った。

 それだけの憎しみを持ち続け、今まで彼はどれだけのものを犠牲にしてこれたのか。その執念深さに恐怖し、思わず飲み込まれそうになる。




《お前達、しっかり気を持て!!》

「「っ!!」」




 そんな2人を怒鳴るのはユリウスが契約した天空の大精霊ブルーム。

 黒い鱗を持ち、羽は虹色に輝くドラゴンの頂点。今までユリウスの呼びかけに答え、彼の中から力を送っていたブルームは具現化をしていた。


 ユリウスを運んできたドラゴンよりも大きい体。

 瞳は自分をコケにしてきたサスクールを睨み、2人に発破をかける。




《こんな所で負けるなよ。小僧、お前は我と契約出来た存在。それを誇りに思え!!!》

「う……」

《異界の女。お前は、すぐ弱気になるな。奴に付け入る隙を与えるだけで意味がない。アシュプが自ら契約を迫ったんだ。自信を持て!!!》

「は、はいっ……」

《キュ!!》

《お前もすぐに庇うんじゃないっ!!!》

《キュウ~……》




 ブルームに怒られたからなのか、麗奈とユリウスの元へと急ぐ白い子供のドラゴン。

 2人もまさか応援されるとは思わず、ブルームを2度見した。彼が具現化を果たしたからか、光の柱の範囲が広がっていく。


 同時に僅かながらも、魔力が体の隅々にまで行き渡るのを感じ取った。




《この光の維持は我が行う。あの泥人形は呪いの化身そのもの。触れれば気を狂わされ、強制的に戦意を削がれるぞ。大精霊達が体を保てなくて、すぐに結晶体になるのはその所為だ》

(だからガロウは姿が保てなかったのか)




 麗奈を追ってこの異空間へと足を踏み入れた時の事を思い出す。

 ザジが麗奈の後を追う様に急ぎ、ユリウスもガロウの背に乗りながらではあるが追っていた。だが、彼は急激に力を失った。


 悪いとだけ言い、すぐに結晶体へと変化してしまったのだ。

 原因が分からないでいたが、白い子供のドラゴンがユリウスの頭に乗りザジを追う様にと促す。その時に何が起きていたのか分からずにいたが、同時にこの異質な空間を自分は知っているような感覚にもなった。


 呪いの空間だとザジは言っていた。

 そして、それを作り出したのはサスクールだけではない。異界の神の力だとも。




《喰らえっ!!》




 サスクールの背後からピシっとヒビが入る音が聞え、割り込んできた影がある。

 精剣を手にした4大精霊ノーム。既に自身の魔力の光を精剣へと注いだ斬撃がサスクールを襲う。




「ちっ」

「ノームさん!!」




 彼は斬撃を繰り出した後、すぐに麗奈の元へと向かった。

 転移をしてきたのは、泥人形達に捕まらない為なのと麗奈に渡す物があったからだ。




《どうにか、間に合った……かな》




 だがノームは既に限界に達していた。

 泥人形に触れはしなかったが、この異空間に居た事で呪いの影響を多大に受けた。既に体の半分以上が、フェンリル同様に黒く染まっている。苦し気に息を吐く様子からも、彼が無理に入って来たのが分かる。




「ノ、ノームさん……。何でそんな無茶をっ!! アルベルトさんはどうしたんですっ」

《大丈夫、だよ。アルベルトはお兄さんに預けて来た。……精剣はね。共通して空間を切り壊す能力に長けている。君達を追えたのも、あの方のお陰だ》




 説明している間にも、体が黒く染まるスピードが早まっていく。

 精霊達は共通して呪いに弱い。それらを受け付けないのは、創造主に作られた最初の精霊であるアシュプとブルームだけ。


 次に力が強い4大精霊達も、呪いの前では無力。

 ブルームが光の柱を支え呪いの解除が出来ないかと魔力を送る。しかし、ノームは無言で首を振りそれらを止めるようにと訴えた。




《ここで、お父様の力を削ぐわけにはいかない。子供が足を引っ張る訳にはいかないからね》

「そんなっ……。ダメです、ノームさん」




 慌ててノームの手を握る。黒く染まっている手を麗奈は当たり前のように握り、どうにか浄化が出来ないかと試みる。




《麗奈さん。貴方に精剣を渡しておく。私はここまでだから》

「っ!?」

《大丈夫。私を導いたのは、あの人だ……。勝ってアルベルトと仲良くしてね?》




 精剣を託してノームは結晶体へと姿を変える。

 完全に呪いに侵される前に、彼は精剣へと入り力を注ぐ。そこから感じ取れる魔力と召喚士である麗奈が、触れたからか小さな蕾が2つ現れた。


 そこから温かな光が漏れてすぐに消える。

 だが、その魔力は確実に2人の回復へと繋がっている。一方で精剣の攻撃を受けた影響か、サスクールの様子がおかしい。




「忌々しい精霊共っ……。邪魔ばかり!!!」

「邪魔はお前だ。サスクール」




 そこに新たな乱入者が現れた。

 静かに言われた言葉だが、拒絶の意味が強い。心臓を握りつぶす様に急所をつかれ、何かが砕ける音が響く。




「っ、お前……。何でお前がここにっ!?」

「何でだと? 当たり前だろう。こちらの役割を知っていると思っていたが忘れたか?」




 泥人形達が苦しみだしたかと思えば、一気に泡となって消えた。

 

 サスクールが嫌いな創造主デューオ。その存在に作られた特別製の素体であり、この世界の守護者たる人物。彼がノームをこの場所へと導き、麗奈に精剣を託すようにと頼んだのだろう。



 彼は麗奈の事を見ると驚きに目を見開くも、それも一瞬だけだ。冷たい視線をサスクールへと注ぎ、ザジと同じ青白い炎をぶつけた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ