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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
301/433

第257話:虹の空


 ユリウスが握る双剣は、既にガロウの魔力と自身の魔力と合わせ黒く染め上がる。

 その上からブルームの魔力である虹の魔力が纏う。




《我も限界に近い。決めろ小僧!!》

「これで――!!」



 

 大きな力を制御し、ユリウスは双剣を振るう。

 そこに放たれるのは魔を断つ力。




《「アルクス・カタストロフィ!!」》




 ブルームのブレスとユリウスの剣技が合わさり光線となって放たれる。

 一方の麗奈も覚悟を決め、既に魔力の制御を行っている。傍で見ていたノームは、アルベルトの為に泣いている麗奈に感謝しつつも彼女の技量の高さに驚いていた。




《(少しきつい言い方をしたが、麗奈さんの心はブレる事なく力の制御がきちんと出来ている。いや、元からそれが出来るだけの技量があるのか)》




 麗奈の容姿は、先祖の優菜と同じでありその血が色濃く受け継がれている。

 先祖返りとも呼ばれているからか、幼い頃から霊力の強さに本能的に抑えていた。母親である由佳里よりも霊力が高いからこそ、彼女は麗奈に制御の訓練を優先に進めて来た。


 力を暴走させない為。

 それは、自分の為でもあるが周りに怪我を負わせない為でもある。怨霊退治は1人では行わない。怨念を宿し、生者に悪意を持って害を成す怨霊は浄化師の封印によって数を減らせる。陰陽師である彼女達は弱体化は出来ても、昔と違い単独で倒すだけの力はない。


 しかし、麗奈は高すぎる霊力を持った事で単独でも封印や浄化が出来る。

 いずれはその力を後世に残す為に、協会に目を付けられる事も由佳里は見抜いていた。だから早い段階から、夫である誠一と自分の父親である武彦に相談していた。


 大きすぎる力を制御する為の修行。

 どんな状況でも、どんな感情を抱いても暴走させない為の訓練を続けて来た。




《(本来なら創造主様――神様から力を少し分けて貰ったなんて、信じられない事をあっさりと言ったがその力の前に死神の力もあるんだ。暴走させない心得を持っていたとしても、こうも落ち着いていられるなんてね)》




 そう思っている間にも、麗奈は魔力の制御に集中する。

 彼女が最初に確立させたのは、この世界にある4大元素の大精霊達の魔法陣だ。




《流石ね。お父様は貴方の人柄に惹かれているのもあるのだろうけど、一気にこれだけの力を制御し確立させるなんて。私達が基盤を作るわよっ》

《おうっ!!》



 4大元素の魔法陣である青、赤、緑、茶色はそれぞれ水、炎、風、大地を示している。ノーム以外の4大精霊達は結晶体となった自身を魔法陣の中へと組み込む。




《その後の制御は任せて欲しい。麗奈さんは次をお願いするよ》

「分かりました!!」




 基盤を為にとノームは自分も含めた大きな魔力の制御へと移る。

 そして、麗奈はフェンリルを含めた大精霊達の魔力を感じ取りそれらを浮かび上がらせた魔法陣へと力を注ぐ。




《麗奈。無理しちゃダメだからねっ。約束よ》

「うん。ツヴァイ、もう平気だから」

《分かった。エミナス達も、これで決めるよ!!》

《うん、分かってるよ》

《終わらせて、キール達の元に帰るものね!!》




 ゆきが契約した大精霊達、ヤクルが契約したサラマンダー。ハルヒが援護にとお願いしたポセイドンも、魔力を注ぎ込み結晶体となって麗奈の中へと吸い込まれていく。

 作り出される魔方陣の色は、麗奈が契約している虹。そして、ノームの制御が完了し麗奈と共に解き放つ。




《行くよ、麗奈さん》

「はいっ!!」




 狙いはアルベルト。

 彼が抑え込んでいるサスクールへと力の終着点として狙う。ノームの持つ杖が精剣へと変化し、更に聖属性の魔力を纏い始めた。




《エレメント・ブラスト!!》




 ユリウスと同じ虹の光線が解き放たれ、サスクールを狙う。

 挟み撃ちだと気付くも、ドワーフのアルベルトは決して離さない。血だらけになろうとも、彼の意地がサスクールを離す事を拒絶する。




「ここまで来て……。くそがっ……!!!」




 悔しさを口にするも、強烈な光がサスクールを焼いていく。

 ボロボロに崩れている体、意識が途絶えていくのを感じ取る。だが、まだ()()()()()()



=====



「あれは……」




 その日、ドーネルは見た。

 自分が麗奈と会う前に見た光景が同じである事。前は虹の光が見えていたが、今見ているものは規模が違った。


 空一面が虹色に染まり激しく光り続けた。

 遥か上空ではユリウス達がまだサスクールと戦っている。様子を見る事は叶わず、彼等の帰りを待つ為にドーネルはラーグルング国に居る。


 宰相のギルティスには何度も帰れと言われているが、麗奈と会うまではと断り続け――そして、ギルティスは諦めてディルバーレル国へと戻った。


 ドーネルが戻ってきた時に、たんまりと書類を作り戦後の処理をさせる為だ。

 幼馴染みの行動が分かりつつもドーネルに後悔はない。




「いっ……!!」




 その時、ズキリと頭に痛みが走った。

 それは徐々に強くなり、立っていられなくなる程に強烈なもの。そして、同時に湧き上がる不安。




(なんだ、これ……。急に意識が)




 我慢をする間もなくドーネルは倒れた。

 そして、それは彼だけではない。この異常事態は、ラーグルング国だけでなく同盟を結んだディルバーレル国、ニチリ、ダリューセクをも巻き込むだけは済まなかった。

 

 この虹を見た者全てが対象かのように、人々は次々と意識を失っていく。

 何人かは踏み止まろうとしたが、強制的に眠らされるような感じに不安を覚える。



 幸運にもこれを逃れられたのは、体力の回復に強めようと眠るハルヒとアウラだけ。

 2人が次に目を覚ました時、信じられない事態が彼等を襲う事となる。




======



「ううっ……」

《麗奈》




 その異常事態にまだ気付かない麗奈は、我慢していた感情を吐き出していた。

 フェンリルが時おり声をかけながら、降りて来るガロウへと急ぐ。そのスピードはかなり遅い。彼も限界が近いが、ここで麗奈を落とす訳にはいかない。


 何より泣き崩れている麗奈を放る事は出来ないからだ。

 



「……アルベルトさんの事、犠牲にしちゃった……。私、バカだ。失って気付くなんて」




 その行動は、麗奈がサスクールと共に死ぬ為に起こそうとしていた事。

 元凶を倒せばそれでいい訳ではない。残された者達の事まで、麗奈は考えていなかった。青龍とザジが反対するのも、残された者達の嘆きを思えばこそ。


 それでも実行しようとした自分は大バカ者だと、やっとの事で思い知らされたのだ。




「麗奈っ」

「ユリィ……」




 ガロウがフェンリルと同じくヨタヨタした状態でも、彼女の元へと走る。

 その背に乗っていたユリウスは、麗奈を引き寄せ強く抱きしめた。




「責めるな。俺だって、同じ選択をしたんだ。……俺だって」




 アルベルトが抑えなければ、自分達が攻撃する準備を整える事が出来なかった。

 その時間を稼ぎ、尚且つギリギリまで抑えていたアルベルトの行動は正しい。しかし、理屈では分かっていてもユリウスも悔しい気持ちはある。


 泣き続ける麗奈を、彼はずっと優しく撫でその思いを一緒に受け止める。




《キュウ~》




 そんな時だった。

 あの子供のドラゴンが、ユリウス達に声を掛け続けている。しかも、呼びかける方向へと視線を合わせると何故だかフラフラとした飛行状態になっている。




《ウキュウ、キュウ!!》

「あれは……麗奈!! あのドラゴンを見ろっ。あれって!!!」

「え」




 弾む様な声に麗奈は顔を上げる。

 あの白いドラゴンの背には、見覚えのある人物がいた。驚きを隠せないまま、そのドラゴンが2人の元へと辿り着くと麗奈は慌てて両手で受け止めた。




「っ、アルベルトさん!!!」




 血だらけのアルベルトを運んできたドラゴンは、少し疲れたのかユリウスへと寄りかかる。

 だが反応がないアルベルトに、麗奈はさっと顔を青くする。




《フキュウ》




 もうひと踏ん張りと言った感じで、ドラゴンはアルベルトの上に乗る。

 覆う様にして魔力が送り込まれ、すぐに飛び立つと血だらけになっていたアルベルトの傷が無くなっていた。




「もしかして、傷を治した……?」

《キュウッ》




 ユリウスの言葉にドラゴンは笑顔で、そして元気よく鳴いた。

 体が上下に動いている事から呼吸が出来ているのも確認できる。ノームに改めて診て貰うと、眠っている上に傷も完全に治っていると伝えた。




「ありがとうっ。本当にありがとう……!!」

《フキュキュ~》




 麗奈にお礼を言われ、白いドラゴンは今度は彼女の元へと向かう。肩に乗り、嬉しそうに頬ずりをし嬉しさを表わしている。

 安堵する中、兄のヘルスとランセが2人の後を追って来た。


 サスクールの姿がないのを確認し、倒されたのが分かる。両腕を失くしながらも、再生を行うランセはそのスピードの遅さに苛立ちを覚えた。すると、アルベルトの治療をした時と同じく白いドラゴンはランセの腕を覆う。


 瞬く間に治療が完了される。驚く上に、あと数分もすれば動かせる事実に思わず瞬きを繰り返す。




「あ、ありがとう……」

《ウキュ♪ キュウキュウ》

「え」




 ずいっと頭を指し出す行動に、思わずランセは疑問を口にした。

 しかも、じっと我慢するように動かないでいる。思わずどういう行動だと麗奈とユリウスへと視線を向けた。


 2人が褒めて欲しいだろうから、頭を撫でれば良いと言えば恐る恐るドラゴンの頭に触れる。

 嬉しそうに目を細め、羽をパタパタと動かしており機嫌がいいのが分かる。




「甘えん坊なんです。何でか分からないけど……」




 不思議そうに呟くユリウスにヘルスは言った。幼いユリウスと行動が同じなのだと。

 幼いユリウスをそのまま映したような性格ではないかと言う兄に、ユリウスは恥ずかしい気持ちになり思わずそっぽを向いた。



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