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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第1章:陰陽師と異世界
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幕間:朝食の風景


「いただきます」

「いただきます!!!」




 修行を終え、制服に着替えた麗奈はゆきと共に朝食を食べていた。

 ご飯、みそ汁、白菜の浅漬け、鮭のみりん焼き、ほうれん草のお浸し、大豆と里芋の煮物と言う用意された朝食。




「……」

「麗奈ちゃん?」




 いつもなら黙って朝食を食べているのに、麗奈の箸は止まっていた。思わず声を掛ければ顔を逸らされる。




「いつもごめん」

「えっ」

「家事も全部、任せきりだし……家計簿もだし。申し訳なさが募る」

「え、え……麗奈、ちゃん?」




 瞬きを繰り返し麗奈の意図を読もうとする。


 ゆき自身、これは自分から申し出た事だ。家族として住んでいる以上に何か恩を返したいからと。

 陰陽師として幼い頃から働いている麗奈を、ゆきは幼い時からずっと見てきた。傷付き帰ってくる事もあるし、時には重体で救急車に運ばれるた時もある。


 怨霊は夜に活発的になり、生きている人間を襲う。

 時には人を誘拐しそのまま行方不明になる事もあるし、ゆきのように一家心中を図ろうとしたりと行動は様々だ。


 神隠し、集団自殺や自殺。

 ニュースを騒がせるもの中には、事件の首謀者が分からないものがある。それらの殆どは目に見えない存在である怨霊の仕業。




「麗奈ちゃんは、危険に飛び込んでるもの。私に出来る事なんてほんの少し」




 ゆきには霊感がない。


 霊感が強い人が、怨霊を見れる時もある。が、その時は殆ど操られる前兆である。陰陽師は、霊感が強くまた怨霊に対しての耐性が強い。

 麗奈は力をコントロールするのにも大変であり、それで傷付く所をずっと見てきた。


 これは自分なりの覚悟。

 麗奈達の生活を少しでも支えたいというゆきの思い。だからそんな事は言わないでほしい。そう目で訴えると、麗奈はすぐに気付き謝る代わりにお礼を言う。 




「いつもありがとう。……これからもよろしく」

「うん。さっ、遅くなるから食べよう」

「……うん」




 涙を堪える麗奈は黙って食事をし、ゆきはそれを見つつ自分も食事を開始した。すると、2人の頭上から『う、うぅ……』と泣く声が聞こえて来る。揃って上を見れば、そこにはポロポロと涙を流す巫女服の女。


 ただし、彼女の頭には白い狐の耳が生えており、九尾と同様に白い光に体が包まれている状態だ。




(きよ)……」

『ごめん、黙って見てしまって。麗奈ちゃん、そんなに料理が作りたいなら教えるぞ』

「聞いてたんだ」




 金の瞳に白い髪の美しい彼女は、九尾の子供である清。耳と同じ色の2本の尾を左右に揺らしている。




「おはよう、清さん。相変わらず美しいなぁ」

『そうか? ゆきちゃんも可愛いぞ♪』




 ポンッ、と少女の姿になった清はゆきの傍に降りる。下から見上げられれば、ついつい頭を撫でてしまう。


 食べ終えた2人は、台所に行きお皿を片付ける。ゆきはそのまま裕二と共に、別の和室へと向かい麗奈は清と過ごす。




『撫でて~』




 麗奈の膝の上に乗り慣れられるのを待つ。早くとばかりに尾が左右に揺れ、麗奈はいつものようにそのモフモフを堪能する。


 清は武彦の霊獣(れいじゅう)


 式神の上位の力を持った彼等は、その殆どが災害などを引き起こした強力な妖怪だ。それらを安倍晴明により、またその孫達によって行われた封印の術式で長い間眠りについていた。


 その妖怪達を、陰陽師の式神として新たな術式を編み出したのが土御門家。

 日本のあらゆる場所に封印された彼等は、その術式によりある選択をされた。


 このまま眠り続けるか、陰陽師の手足として働くかの2択。


 中には陰陽師に恨みを抱いている妖怪も多く、この機を逃すまいと手足として働くと言った妖怪達。当然、恨まれているのを承知で再封印されたのもいれば協力する妖怪達も現れた。


 九尾と清がその例になる。

 強い力である彼等は、扱える人間が限られており各家の当主が契約の権利を持っている。

 誠一には九尾。武彦には清といった感じに結び、こうして人と変わらない生活を送れる。彼女達の具現化は、契約者の霊力でまかなっている。


 霊感がないゆきが見れたり触れられたり出来るのも、そうした理由があるからだ。




======




「じゃあ、ゆきちゃん。いつものように横になって」




 一方で麗奈が待っている間、ゆきは裕二と別の和室である事を行っていた。

 見た事もない文字で書かれた布の上にゆきが仰向けになり、裕二は頭、手の平、足と膝に触診をする。




(次は……)




 目をつぶり作業が終わる裕二を待つ。

 最初は不安だった事も、次第に慣れてきたゆきは自然だ。


 裕二が調べているのは彼女に怨霊が憑いていないかという確認。

 彼女は一家心中の生き残りであり、その原因は霊感が強かった父親の影響だ。


 母親は怨霊の命令で、自ら自殺し父親に首を絞められた。なのに、倒れた筈の母親はゆきの頭を強く床へと叩きつけた。

 そこを助けたのは朝霧 由佳里(あさぎり ゆかり)と夫の誠一であり、その現場には裕二も同行していた。




「よし、大丈夫だよ」

「ありがとうございます」




 目を開けて、髪を整える為にと洗面台に向かう。


 これも彼等、浄化師(じょうかし)の仕事だ。

 陰陽師が退治の専門家なら、彼等はサポートと封印の専門家。ただし、術式をそれらに費やしている為に守られながらの戦い。

 中には浄化師を不要だという家もいるが、彼等で封印が出来ない場合の弱体化が出来るのは浄化師だけ。


 なので、陰陽師には浄化師を1人付けるのが戦闘スタイルであり協会からも推奨されている。


 裕二自身も霊感を持っていたが為に怨霊に襲われ、家族を失った過去がある。その後、施設で育った彼は誰にも相談できないまま苦しんでいた。




「……家に来るかい?」




 あの時、武彦に声を掛けられなければいずれ怨霊に身を落とされていただろう。恩を返すべく修行を続けるも、陰陽師としての才能は半々であり浄化師の方が遥かに強かった。

 仕方がないとばかりに仕事を続けている内、いつの間にか最年少での称号を取るまでになった。




(陰陽師として恩を返したかったんですが、ね)




 だが、現実は非情だ。彼よりも幼い麗奈の方が、力は強い。彼女に対して敬語になっていき、少しは改善しようと思うが上手くいかない。


 麗奈の方は変わらず、裕二の事を兄として接しているのに。




「じゃあ裕二さん、行ってきますね」

「あ……」




 ゆきに声を掛けられ、そんな時間かと思い、慌てて玄関へと向かう。

 麗奈が清の尻尾を撫で楽しんでいると、バチリと目が合う。




「またあとでね。裕二お兄ちゃん」

「……はい。また」




 どうに返事を返して2人を見送る。

 清は笑顔で裕二と同じ事をし、去ったと同時に膝を蹴る。




「いっ……!!」

『お前。何を考えている』




 流石に長生きをしていただけに、裕二の気持ちを察した様子。叶わないなと思い、素直に心の内を吐き出せば『バカか』と返される。




『アホだ。麗奈ちゃんが1度でもお前の事を、要らないとでも言ったか? 裕二。2人にとっては兄のような存在だ。そんなんで、年上として導けるのか?』

「……面目ないです」

『だからこそ。麗奈ちゃんを土御門家なんかに渡すか』




 2人は妾のだ!!! と、叫ぶ清に裕二は苦笑するしかない。




『主人が何度も、門前払いした結果がこれか!!!』




 バチン、と大きな音を立てて屋敷の庭に雷が降る。

 清は呆れたように息を吐き、裕二はその音に慌てて向かう。そこには、自分の体に雷を発生させながら怒鳴る九尾の姿があった。 




「九尾さんっ、ここで力を使うのは」

『うっさい!! 聞いてればなんだ。嬢ちゃんは子供を産む為の道具としか見てない言い草だな。イライラする!!!』




 敵意を剥き出しに、9本の尾が天を向く。その全てに電気が溜まっているのが見える。このままいけば怒りのまま、土御門家に襲撃すると思った時だ。




「止めろ九尾。麗奈とゆきちゃんの卒業式に遅れる」




 スーツに身を包んだ誠一が止める為にと声をかける。

 九尾は未だに興奮状態なのか、主であるにも関わらず声を荒げた。




『邪魔すんのか!!!』

「年に1度だけの行事だ。幼稚園、小学校、中学校と共に見て来ただろう」




 共に見てきた。

 その言葉にピタリと動きを止める。思い出すのは、赤ちゃんの時から世話をしてきた麗奈の事。

 言葉を話す前から九尾の姿を認知し、よく空へと手をかかげていた。恐れずに自身を呼ぶその声に、九尾は仕方ないと思って世話をする。


 いつの間にか、彼の中では大事な人と言う認識になっていった。

 お菓子を作り、その新作の味見によく付き合った。入学式も卒業式も、周りからは姿が見えなくても彼女にははっきりと見えている。


 密かに手を振る麗奈に、九尾も見ている事をアピールするのによく尾を振っていた。

 1度きりの行事だと言われれば、怒りで曇っていた思考は段々と晴れていく。




『悪い……』

「麗奈の代わりによく怒るお前だからこそ、助かっている」




 シュンとなる九尾に、褒めるように頭を撫でる。その表情は普段では見ないであろう優しいもの。




「祐二。卒業式が終わるまで麗奈とゆきちゃんを見張っておけ。俺の家もこれを機会に、麗奈に接触するはずだ」

「わ、分かりました……」




 さっきまで晴れ模様だったのに、少しずつ雲行きが怪しくなっていく。その変化に裕二は不安を覚えつつも、時期に晴れるだろうと思い急いで学校へと向かうのだった。

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