第255話:サスクールの正体
「くそっ。この姿にさせられるとは……忌々しい人間と死神に魔王。大精霊も4大精霊も揃いも揃って、その女の味方をするのか」
低く唸るような声。
聞いただけで背筋がゾワリと悪寒が走り、麗奈の事を睨み付けるサスクール。次にザジ、そして邪魔をしてくるユリウス達を順番に見ていく。
多くの怨霊が魔法で消され、また浄化がされていく。術を組んだユウトは、既に破軍と黄龍によって倒されている。本来なら、術者が倒れた時点で怨霊はもう引き寄せられないと思っていた。
だが、麗奈にはサスクールの元に集まる怨霊の声が聞こえて来る。
どれも恨みを口にしてはいる。時より助けてと求める声も聞こえるが、それが麗奈に対してなのか自身が殺される瞬間に出した声なのかは分からない。
「あんの野郎……。奴の正体の事、何も言ってなかったぞ。くそがっ」
舌打ちをするザジは睨む。
相手が同じ死神だった事には驚いたが、彼にとってはどうでもいい。家族を傷付けた分の恨みを晴らす。その行動はサスクールの正体を知っても変わらない。
彼等の戦いを見守るしかないサスティスは驚くしかなかった。
もう自分はあの戦いに参戦出来ない上に、守る力もない。全てを麗奈に託し、ザジに必ず成し遂げるようにとお願いした身だ。
最初は半透明だったサスクールは、今ははっきりと具現化として目の前に居る。
睨まれているだけなのに、麗奈達は動けない。それが死神の力によるものなのか、サスクールが纏う怨霊の所為なのか――。
そんな中で先に動いたのは魔王ランセ。
彼は即座に近付き、サスティスから貰った大鎌を振るう。が、見えない壁に阻まれるもすぐに壊し即座に闇の魔法で拘束をした。
しかし魔法が発動出来たのはそこまで。
ユリウスが貫かれた紫色の杭が、ランセの体を深々と刺さる。強烈な痛みと頭の中に響く、怨念の声に集中が切れそうになるのを踏み止まる。
「くっ、うぐぅ」
「我慢するな。本当はもっと痛いだろ?」
「ぐあああっ!!!」
一瞬の内に両腕を切られ、再生する前に痛みが体中を巡る様に走る。
落下するランセをヘルスを乗せたドラゴンが向かう。すると、サスクールは彼等へと手をかざず。
「ヤバい、逃げろっ!!!」
ザジが咄嗟に声を掛けるも、ランセを受け止めた瞬間に黒い球体がドラゴンを包む。
すぐに脱出しようと魔法を使うも、すぐに魔力は消え去り封じられる。そして彼等に襲い掛かるのはランセと同じ怨念の声。
生きている者への恨みと妬み。
自分が死ななければいけないのかと責められる声。ヘルスとドラゴンの頭の中に流れ込んでくるのは、自分達が死んだその瞬間。
多くの痛み、苦しみをまるで自分が体験しているような錯覚にどうにか意識を保つ。
ヘルスは元から体力も少ない状態で戦っている。頭の中で響く声に抗えるのも辛い上、それ等が段々と幻覚を生む。
「くっ、うあっ……」
ある1人の男性は囁く。
自分と同じ苦しみを与えろと。目に入る苦し気にしているランセに、思わず手が伸びる。
(ダ、ダメだ。ランセを殺したくはない……。声に抗えっ)
「倒せ。同じ苦しみを、ソイツにも分け与えろ」
「止めろっ、お前達の声に……負けるかっ」
だがドラゴンの方が限界だった。
いきなり暴れ回り振り回される。ランセを抱えた状態で、球体の中を暴れ回るドラゴンに2人は振り落とされる。
「兄様っ!!!」
「ヘルスお兄ちゃん、ランセさん!!!」
黒い球体をザジが破壊し、ユリウスがヘルスを抱え麗奈はランセを受け止める。暴れ回るドラゴンはザジが正気になるように施し、すぐにハッと状況が分かり人型へと変化する。
《っ。私としたことが……》
《気にするな。それより調子はどうなんだ。苦しいのか? 幻覚を見るのか?》
ブルームが問いそれにドラゴンは平気だと答える。
だが、彼はもうドラゴンへと姿を変える事はない。正気を失くした時の被害を考え、人間の姿でいる方を選んだ。
平気だと言いつつも、その顔色はとても悪い。
麗奈が彼に触れた瞬間、ドラゴンに纏わりついていた嫌な気はすぐに消える。彼女の中にある破軍の力である魔除け。
そして、巫女の一族として使っていた浄化能力。
ここにきて麗奈は、怨霊に対しての手段が増えた。ホッとしたのも束の間、ブルームが全員を守るようにして自身を盾にする。
《うが、ちっ……。奴め》
「ブルーム!? 今、一緒に――」
《小僧達は出るな。我はこれ位、耐えられる!!!》
ユリウスが魔法を使おうとするも、ブルームに止められる。
彼に守られている為に、何が起きているのか分からない。ただ、攻撃を代わりに受けているとしか読めない。
「ふん。始まりの魔法を使う天空の大精霊……やはり一撃では死なないか」
《はっ……。我は体が頑丈だからな》
「強がりを言えたものだな」
ブルームが再び翼を広げ、麗奈達を全員守り切った。
だが、彼の翼だけでなく体は血だらけになっている。すぐに麗奈が治療に取り掛かるも、ブルームからは力の無駄使いだと注意を受ける。
《良い。異界の女、我に力を使うな》
「で、でもっ」
《今は倒す事だけを考えろ》
「っ……」
告げられた言葉に息が詰まる。
麗奈の行った治療の代わりに青龍が務め、フェンリルに麗奈を託す。再びサスクールが天に向けて手をかざす。
次の瞬間、暗雲を呼び雷が襲い掛かる。それをフェンリルが避けながら進み、ザジが直撃をしそうな所を防ぐ。ユリウスはガロウに乗り、フェンリルと同様に空を駆けサスクールへと詰め寄る。
《キュウ!!》
バサリ、と麗奈の傍から離れたのは白いドラゴン。
同時に放たれる雷にアルベルトが、ノームを経由して守ろうとした時だった。虹の光が麗奈達を包み込み、体に纏う様にして広がる。
雷は当たったが、痺れも衝撃もない。
今、行われたのは付与魔法。白いドラゴンの持つ虹の力で、麗奈とユリウスだけでなく大精霊達にも纏った。
その力の大きさをすぐに理解したノームは、すぐにアルベルトに指示を出す。
《アルベルト、魔力を!!》
「クポポ」
《リジェネ・バースト》
ノームが杖を掲げ、全員に魔力防御の強化と一時的な魔力回復を重ね合わせる。
自分達を包んでいた虹の力が更に強まるのを感じ、麗奈も続けて全員に付与魔法を扱う。
《キュウ!!》
「はい、一緒にやります」
白いドラゴンと麗奈の魔力が再び強い力を発する。
その強い輝きに思わずサスクールは視界を遮る。その一瞬をユリウスとザジは詰め同時に攻撃。物理的に当たった気はしないが、何故だかダメージを与えられたと実感できる。
(そうか、見た目は具現化してるけど本当はそう見えるだけ。やっぱり体がない魂だけの存在なんだ)
それが出来るなら今までにだってやっていた。
サスクールの予想外とばかりに、それをせざる負えないのはそれだけ追い込まれている証拠。ザジは隙を与えずに間合いを詰めては、身に纏っている怨霊を排除する。
そしてユリウスの一撃を喰らったサスクールからは、大量の怨霊が溢れ出してくる。引き寄せられていた怨霊達は自由を得たのか次の獲物とばかりに、ユリウスとザジへと迫る。
『やらせんっ!!』
青龍の使う神気が込められた雷。その攻撃を受けた怨霊達は、飛散しながらも浄化されているのを感じる。麗奈はフェンリルに言い、怨霊を退治しながら自分達も急いで後を追う。
《親父殿の契約者、俺の魔法を使え》
「は、はいっ。行きますよ、シルフさん!!!」
《トルネード・フィオーレ!!》
彼女の周りを浮かんでいた結晶化した大精霊達。
その内1つ、シルフが結晶体から魔法を繰り出す。その結晶1つ1つに、麗奈が付与した虹の魔力を纏っている。
この状態なら、契約者を介さずに麗奈が魔力を込めれば自分達の力を扱える。
実際に行ったシルフからそう教わり、次にと候補に声を上げたのはイフリートだった。




