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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第254話:虹と死神


 白虎は全速力で駆け上がる。

 麗奈が意識を取り戻し、まだ回復するのに時間がかかると思っていた。だが、予想よりも早く起き上がった事。


 そして、彼女が既に上へと向けていた事であらゆる疑問は置いておくと決めたのだ。


 何よりも優先するのは、主である麗奈の思い。

 それらを汲み取り、今は何をするべきなのか。その優先事項を思えば、急な回復スピードも関係ない。それに彼女なら必ず説明してくれると思っている。


 この世界で、まだ短い時間しか過ごせていないが白虎には分かる。

 今は少しでも早く、早く、ユリウス達との合流が先だという事に。




「白虎。あのね――」

『平気。今は急ぐ方が先だよね?』

「うん。ありがとう」




 簡潔に説明しようとした麗奈は、白虎に阻まれる。優先する方は説明よりも行動。

 更に白虎は、地を駆けるように空を行く。

 その後ろから付いていくのは、ノームとフェンリル。ツヴァイはウンディーネの結晶を持ち、他の結晶達もギリギリまで追っている。




《麗奈さん。その力は一体》

「えっと……創造主様から少し? 借りた感じ、ですかね」

《えっ⁉》

《ノーム、ツッコむな。麗奈に対してはそれが、普通だと受け取るしかない》

《……でも、えぇー》




 麗奈に纏った虹の魔力。そして、死神よりも純粋な魔力の正体に、ノームはまさかと思った。フェンリルとツヴァイは、麗奈だから諦めろと言い仕方なく納得させる。と言うよりは慣れたという方が正しい。


 ノームと同じく言葉を失っているのは、同じ4大精霊であるウンディーネ、イフリート、シルフ。

 



《まぁ……うん。絶句するのは分かるよ》

《でも仕方ないでしょ。この子、死神にまで気に入られてるのよ? もう何が絡んできてもおかしくないわよっ》

「え、ちょっ――痛い。痛いよ、エミナスさん」




 例え結晶化しても、大精霊達は自ら動く事は可能だ。

 それだけの強大な力を身に宿している彼等。そして、今は麗奈の回復に当てている為に姿を具現化していないだけ。


 なので、彼等は会話も可能な上に付いて行く事も出来た。

 そして、エミナスは麗奈の周りを飛んでいると思えばコツンと彼女の頭をグリグリと押し付けている。一角獣の姿でいたので、その延長戦で結晶になっても同じ事をしていた。




《前にも言ったけどね。痛くしてるのよ、ワザとね》

「うっ。前は無理をして怒られたけど、今は別に……」

《大問題よ。一体、回復させている間に創造主様と何を話したんだか……。私達だって会った事ないのにさ》

「結晶化しても、蹄でグリグリされてる感じ……。エミナスさん、意地悪だ」

《止めな。キールに怒られるぞ》




 インファルの言葉に、渋々といった感じでエミナスは行動を止めピタリと麗奈の傍に浮かぶ。

 疲れたのかも思い、エミナスとインファルだけでなくツヴァイを引き寄せる。


 暖かい力が満たされ目を閉じる。

 それは精霊の父親と呼ばれたアシュップの虹の力。この力に麗奈は何度も助けられ、そして奇跡を起こした。




「エミナスさん、前にも思いましたけど言葉と行動が逆ですよね。心配してくれるからこそ、行動がそうなるってだけで。ウォームさんの子供と言われても納得です」

《い、いきなり、何を言うの!?》

「い、いたっ。痛いんですけど、あの止めてっ」

《だから痛くしてるのよ。なんて事を言うの、この子は》




 褒めたのにエミナスが、慌てたように麗奈の周りをグルグルと回る。しかし照れ隠しなのか、麗奈の頭をコツンと叩く。それを見てノーム達は揃って精霊たらしと言われる理由に納得。


 フェンリルはもう何も言わない。

 ポセイドンはチラチラと、麗奈とノーム達を交互に見ている。


 偉大な父の契約者なのだから、当たり前では? と言いかけて心の中でそっとしまう事にした。

 そんな彼女の元に《キュウ~》と言いながら突撃してくる白い物体。麗奈の首元に上手く巻き付き、ゴロゴロと甘えて来る。


 突撃してきたが、衝撃はなくキラキラとした目で麗奈の事を見上げている。




(ほ、褒めて欲しいのかな……?)




 この態度には見覚えがあった。

 契約している風魔、白虎。そして、父親の誠一が契約している九尾に見られる傾向だ。武彦が契約している清は皆の前で言わないだけで、2人きりの時やゆきが居る時には同じように見上げている。


 多分、褒めて欲しいのだろう。

 そう思い麗奈は恐る恐るではあるが、白い子供のドラゴンの事を優しく撫でる。

 頭、首元を撫でれば次は飛ぶ時に使っている翼にも優しく丁寧に撫でる。




《ウキュ~。キュキュ》

「平気? 痛くない?」




 声を掛ければドラゴンは嬉しそうに麗奈に寄り添う。

 良かったと思っていると、左肩から「クポ」と弱々しい声が聞こえて来る。




「アルベルトさん。まだ起きるのは難しいと思うのですが」

「クポ……ポポ」

「えっ。この子の事……見えるんですか?」




 ザジに取り除いて貰った怨念から回復し、アルベルトはノロノロと起き上がる。

 ノームが連れて来てからは、そっと麗奈の左肩に乗せていた。そして、彼はそのドラゴンは何だと不機嫌に聞いてくる。


 思わず麗奈が見えるのかと問うた。

 それに、アルベルトはそんな事よりもとドラゴンの事を指さして――。




「クポポ、クポーー」

《キュウ?》




 麗奈の傍から離れろと言うアルベルト。それに対しドラゴンの方は何故? と疑問形。

 そこからアルベルトは高速で説明をした。


 褒めてくれる麗奈の傍に居て良いのは自分だけ。よそ者は出て行けと言う理不尽な言い方に、目を細めて呆れたのはノームだ。




《ただの嫉妬じゃん。君、どんだけ麗奈さんに褒められたいのさ。巨人になれるのだって秘密にしていた癖に》

「ク、ポポ……」

「え、巨人……?」

《戦士ドワーフは、その気になれば何倍にも体を大きく出来るの。でも、アルベルトは麗奈にそれを知られたくなくって今まで秘密にしてたの。多分、大きくなったら撫でて貰えないとか思ってるんでしょ》




 麗奈の疑問に答えたのは、契約しているツヴァイ。

 秘密にしていた理由も知られ、アルベルトはうな垂れる。しかし、麗奈はアルベルトをすくい「大きくなっても、アルベルトさんはアルベルトさんですよね?」と言いすぐに頷く。


 


「大丈夫ですよ。どんな姿のアルベルトさんだって、優しいのは知ってますし」

「ポゥ」

「秘密にしたって言うのなら、私だって秘密を作ってた訳で……。なので、あおいこって事で互いに気にしないという形で良いですか?」

「ポポポ」




 体力を削られているのに、アルベルトは高速で頷いた。


 彼の中では不安に思っていた事。それが解決したからこそ、もう隠さなくて良いという気持ちにもなったのだろう。


 ノームはそう読み取り《君って奴は……》と、呆れながらも麗奈にお礼を言った。

 大昔、ドワーフと人間は共に暮らしていた時代があったが、人間を守る為に巨人となって壁になり戦った。

 

 だが、待っていたのは人間からの拒絶。

 今まで仲良くしていた信頼も、あっさりと崩れ去る。それらが原因で、ドワーフ達は人間達の元から離れていった。一部の中ではいつかは、仲良く出来ると信じて来たが今ではその同胞の数も減っている。




《アルベルトも不安だったからさ。麗奈さんからそう言われるとやっぱり嬉しいんだよね》

「ポ~」

《……うん。アルベルトの魔力は残り少ない。私が具現化出来るのもあと少しのようだ》

「それならこれでっ」



 

 自分の残り僅かな魔力を少しだけ、アルベルトへと渡す。

 瞬く間にノームへと移り、具現化出来る時間が増えているのが分かる。驚きに目を見張るが、それでは麗奈の方が持たない。


 そう思ったら白虎の姿が急に消える。

 代わりにフェンリルが背に麗奈を乗せ上へと目指す。青龍の説明から白虎は麗奈の中に戻り、霊力と体力の回復に務めていると言った。




『先に言っておく。麗奈、俺は独自に契約し直したからいいがそれでも力を貸せるのは残り僅か。そして大精霊達は、結晶化しているがまだ魔力はある。――麗奈に残りを託す気だな』

「それって」




 無言を貫くが、それが彼等の答えであり手段。

 そして麗奈に託す形で彼等は結晶化した自らの体を、最後の回復として彼女の中に宿る。


 多くの大精霊達の魔力に本来なら暴走してもおかしくないが、それを上手くコントロール出来ているのは彼女は虹の契約者である事もある。幼い頃から、自分の高すぎる霊力を上手くいなしては力へと変える術を知っているからか、すぐに順応し高まる力の流れを汲み取る。




(皆さん……ありがとうございます。絶対に勝たないとっ!!)

《見えたっ。麗奈、突っ込むぞ!!》

「お願いします、フェンリルさん。アルベルトさん、私に捕まっててくださいねっ」

「ポポ!!」




 ユリウス達に迫る数多の怨念。

 それが黒いドクロとなって襲い掛かるのを、フェンリルの魔法と麗奈に宿った虹の魔法が消し去る。

 怨念が集まり生まれた強い力は、新たな体としてサスクールへと流れ込んでくる。



 麗奈を依り代にし、創造主を殺す為に動ていたサスクールの姿がはっきりと見える。今まで、ヘルスの体を乗っ取り多くの人間達に不幸を与えて来た。


 浅黒い肌が放つ禍々しい気配。

 そして、金の瞳と朱色の瞳を持つ男性の姿に麗奈達は驚きを隠せないでいた。

 朱色の瞳は死神の証。

 その事実に誰よりも驚いていたのは、同じ死神のザジと彼等の戦いを見ているサスティスだった。


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