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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第252話:謝りたい


 麗奈が意識を浮上し、自分の居る空間を把握しようと努める。




(頭、思う様に動かない……。ヤバい、何もかも考えがまとまらない)




 それでも目だけは動かした。

 そして懐かしい姿を見る。長い髭に優し気に見下ろすのは、麗奈が契約した大精霊アシュプだ。


 口を開こうとして、それも難しい。なんとか意思を伝えたい。そう思ったら彼は麗奈の額に、手を置いた。彼の声が頭の中に直接聞こえてくる。




《お嬢さん。今は回復に専念しなさい》

(でも)

《サスクールを討つには、お嬢さんの力が必要だ。全て終わったらお嬢さんは、元の世界へと帰る》

(言わない……。ウォームさんがそんな事、言わないです。誰ですか貴方は)

《一発か。ま、当たり前だね》




 姿がブレていく。姿を変えていたのは、創造主であるデューオ。しかし彼は自身の名を麗奈に明かしていない。

 麗奈の事を知っているのは、サスクールが麗奈達の世界に来た時に干渉したからだ。


 大精霊アシュップは、デューオの指示で追ってきた。

 しかし彼が駆け付けた時には全てが終わった後。怨霊に襲われたと言う嘘の記憶に、最初は戸惑ったが皆は変わらずに過ごせていた。


 麗奈を除いて。


 彼女は最後にヘルスと会った。その時の彼の悲しそうな顔と、過ごせて良かったと言う言葉。自分がヘルスを元の世界に帰そうと考えた結果、サスクールは麗奈に干渉し自分を使えば元の世界に帰せると嘘を伝えた。



 家族同然に育ったザジは麗奈を守る為に、サスクールに殺された。ゆきと裕二は重症を負い、武彦も衰弱していた。父親の誠一も傷付け、ヘルスは全てを背負う形でサスクールと共に元いた世界に帰った。



 麗奈の帰すという願い。その結果は違った。

 笑って送り出せると思っていた。母親を送り出したように、次も会えると信じていた――。




「君はそこまで責めなくて良い。結果として誰も失わずに済んだだろ?」

(ザジは……死にました)

「今は死神として麗奈ちゃんの傍に居るのにかい?」

(ザジの事を、私達は忘れてしまった)

「それは彼の魔法によるものと、私がザジにお願いされたからだね。たまたま2人で記憶を消すという作業をしたんだ。強く働いてしまったんだろう」




 ザジがデューオにお願いしたのは、自分と麗奈との記憶。

 その前にヘルスの魔法によって、彼女は記憶を失う様にと作用させられた。抵抗出来ていたのは、最初だけ。

 デューオがザジに言われたように、彼の記憶から麗奈との出会いから最後までの全ての思い出を消し去った。魔法は創造主が作り出した奇跡の力。

 その創造主が記憶を消す作業をした結果、魔法よりも強く働く。麗奈が完全にザジとの記憶を消してしまったのは彼の仕業。流石に神には勝てないという事だろう。




「怒るなら私に怒れば良い」

(……神様に怒るって、罰が当たります)

「その私が良いというんだ。君にはその権利があるし、罰は当たらないさ」




 デューオが麗奈に力を送る。

 さっきまで体が動かせなかったのが嘘のように緩和されていく。自分の意思で、目を覚ましたり体を動かしたり出来る。

 驚いたように彼を見れば、デューオは微笑むだけだ。




「自分が作った世界に干渉するのには色々と大変なんだよ。だから、自分の手足として死神を作る必要があった。ほら、彼等は私の力の一部を扱える訳だし」

「そう、なんですね」




 実感があまりない、と言うのが麗奈の感想だ。

 自分の世界では神様は目に見えないのが当然で、物に宿る付喪神や神社での神様はよくテレビなどで知っている。

 目の前に、この世界を作った神様が――創造主が居る。

 



「こうして会うのは2度目だ」

「……そうですね」




 そう答えながらも、麗奈はデューオから視線を逸らす。

 最初に会ったのは誰かの視線を感じた時。ザジが気付いたからこそ、麗奈はその異変に気付き――そしていきなり過去を見せられた。


 自分の母親の死。

 そして、風魔が柱に封印された場面を思い出し、ぐっと堪える。




(ユリィもあの場面を見ていた。と言う事は、彼がユリィの事を呼んだんだ)




 ユリウスも兄の魔法により、記憶を一部失っていた。

 麗奈の母親と過ごした日々と自分がサスクールに操られた所為で、彼女に致命傷を負わせた事。その場面を見せられユリウスは自分の事を責めた。

 最初にサスクールの声によって、自分を失った時には麗奈を傷付けた。

 だがその前にもっと大事な人を傷付けていたのだ。


 その衝撃に、ユリウスは自分を保つのが難しくなり自暴自棄になった。

 今なら分かる。麗奈があそこでユリウスを引き戻せなかったら、彼はそのまま風魔に殺されていただろう。


 そんな状況を作ったと思われるデューオに、どんな顔で向き合えば良いのかと悶々となる。

 だが、そんな彼女の心情は神である彼の前では無意味だ。




「ユリウスの事も含めて、私を咎めるかい? 君が彼を立ち直せなかったら、想像通りに風魔に殺されていただろうね。むしろ、彼は殺されても文句はないとさえ思っただろう」

「っ!?」

「ふふ、言ってなかったね。私達の前で嘘は通じないし、心の中を読む事が出来るからお見通しだよ」




 自分の考えを見抜かれて驚く麗奈とは違い、デューオは自身の力を語る。

 ザジとサスティスが、彼の事を嫌うのが少し分かった様な気もした。




「神様って意地悪なんですね」

「そこは試練を与えている、と言って欲しいよ」

「与える……。じゃあ、今のこの状況もその試練って事になるんですか」




 そんな事をして、本当に世界が滅んだら――もしそうなったら彼は良いのだろうか。

 麗奈の考えが分かるデューオはユリウスと同じく告げた。どんなに世界が壊れようとも、自分さえ無事であるなら再生は可能だ。




「っ。そんな簡単に作ったり壊したりして何が目的なんですか」

「私達は変化を見ているんだ。今までの事も、君達が起こした変化も全て見て来ている。歴史に残る偉業を残すんだろうなぁと思っているから――」




 パンッ、と麗奈はデューオの頬を叩く。

 別に驚いた様子もない彼は「満足?」と言われカッ怒りに任せそうになった。だが次の瞬間、青龍がデューオの事を蹴り飛ばし麗奈を守る様にして降り立つ。




『麗奈。何もされてないな』

「だ、大丈夫。その……怒りに任せて殴りはしたけど」

『そうか。良い判断だ』

「待って待って!!」




 ダメージを負った様子もないデューオは、割り込んできた青龍に対して抗議する。

 しかし青龍はここは麗奈の心の中だから関係ないと言い張り、逆に無断で入って来たデューオの事を非難した。




『貴様こそ勝手に人の心に踏み込むんじゃない』

「いや、それならそっちだって」

『麗奈の式神である俺は、彼女を守る義務がある。お前は部外者だろう』

「はぁ。彼を連れて来たというのに酷い言い方だね」

(彼……?)




 誰の事だと思い、青龍の背中越しから見た麗奈は走り出した。

 デューオが化けていたアシュプがおり、彼は小さな体を更に縮めていた。




「ウォームさん」

《すまん》

「いえ、私こそ助けられなくてごめんなさい。私、貴方の事を責めたりしないです。ウォームさんは考えがあって行動を起こした。例え私を殺す為だったとしても、今まで助けて来たのは打算があったからじゃないと思います」

《……》

「私、ウォームさんが何かを隠しているって気付いてました。でも、それを聞くのが怖くて……ウォームさんと居る時間が楽しくて、その関係が壊れるのが怖くて言い出せなかったんです」

《ワシもだ。ユウナとの約束でお嬢さんを同じ目に合わせたくないと動いた。結局、お嬢さんには辛い思いをさせているダメな精霊じゃ》




 青龍はデューオが邪魔をしてこないように羽交い絞めにし、2人の会話に割って入れないようにした。そうとは知らず2人は話を続けた。

 言いたいことを言い合い、誰の邪魔も入らずに――。

 そうしたら幾分かスッキリしたのだろう。ウォームはノロノロと麗奈の方へと視線を合わせた。一方の麗奈も、当然の事のように両手を出し彼に乗る様にと促す。




《……お嬢さんとこうして長く話したのも久しいな》

「私もです。お互いに捕まっていてそんな時間もなかったし」

《もっと話したいのに、お嬢さんの周りには常に人が多いからな。一番近くに居たのはアルベルトだったな。アイツ、お嬢さんの事が好き過ぎて離れる気が全くない》

「アルベルトさんは私の考えている事がお見通しだったようなんです。サスクールと一緒に自決する所まで見抜かれていて、驚きましたよ」




 その時の麗奈には、ザジに自分ごと斬って貰う方法しか思い浮かばなかった。

 だが、それが間違いで会ったのはもう分かる。ユリウス達が止める為に危険を冒して来た。その事が、麗奈にとってどれだけ救われたか。


 ウォームもその方法だけは止めておくように言った。

 それは、ユウナが行った方法だから。サスクールが自由に行動を移す前に、最後の気力を振り絞りアシュプに殺す様に告げた。




《確かにそれで一時的に倒せた。が、ワシは忘れた事はない。彼女を失ったのはワシの所為だ。お嬢さんにそんな目に合わせないようにしたいのに、過ちを繰り返してしまった》

「……サスクールを倒します。ウォームさんが嫌う死神と――家族のザジとユリィ達と合わせます」

《まだ頑張れるのかい?》

「頑張らないといけないんです。サスティスさんに応援されたからこそ。ユウナさんにも頑張ると言って来たんです」

《死神も味方に付ける異世界人なんて聞いた事ないんだがなぁ》

「ごめんなさい。その事、秘密にしていて……。ウォームさん、怒る様な気もしてたのと言うタイミングが悪くて」

《そのようだな》




 ひょい、と彼は麗奈の首元に下げている家宝を杖で叩く。

 それはユウナとアシュプが作った最初の魔道具。朝霧家の家宝として残してきた物が、魔道具だと知り驚く。だが彼は言った。魔道具だからこそ、その制作者である自分が触れれば壊れても元に戻るのだと。




《かなり微弱だが、ここにはサスクールの魔力も感じ取れる。奴がお嬢さんを補足出来たのもこれの所為。死んで分かるとは情けないな。これの所為で、ワシは正気を失ったのだ》




 これでは父親失格だな、と言う。

 彼は死んでからも麗奈の行動を見て来た。呪いに侵され正気を失っていたのは、家宝である魔道具が原因。

 本来なら、アシュプに呪いは通じない。


 だが、何故だが強く働いた。その作用を生んだ家宝を今まで壊せずにいた。ユウナとの思い出を壊すようで、今まで出来なかった。



 そこで麗奈はお願いをする。この家宝を壊して良いと。

 ザジがしたように、回復に当てる為でもあり自分達の楔を壊す為だと言った。



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