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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第251話:回復手段

 

「ザ、ジ……」

「おいっ⁉」




 アルベルトの無事とラークの消滅を確認したからだろう。麗奈の限界が来て、ズルリと滑り落ちる。咄嗟に手を伸ばしたザジは、青龍によりパシッと弾かれた。




『ただの気絶だ。無理を通してここまで来たんだ。疲れが来たんだろう』

「だからって弾く必要があるか?」

『なんとなくだ』

「そうかい」




 無言で睨み合う2人に割って入るのはウンディーネだ。

 すぐに麗奈を回収し彼女の治療に取り掛かる。だが彼女の表情は険しい。回復の見込みの前に、麗奈の体と心は既にボロボロの状態になっている事に気付く。


 術の行使も辛い筈なのに、連発を続けてきた。加えて死神サスティスの消滅により、麗奈には誰かが消えてしまうのではと言う焦りが生まれた。その重なりもあり消耗はかなり激しかった。




《ごめん。私、麗奈の友達なのに……》




 ツヴァイはウンディーネ達に話した。

 幼い頃、サスクールに狙われた事で家族を1人亡くした事。その前に自分の母親も、サスクールに狙われた事で麗奈を守るために亡くした事。


 ユリウスの兄であるヘルスが、幼い麗奈と過ごした時間。

 彼がユリウスと同じ虹の魔力で、サスクールを追い払ったが代わりに体を乗っ取られた事。


 それらを話し密かにザジを見る。

 余計な事を言うなと脅す様な視線にツヴァイは迷った。だが、彼女は覚悟を決め――大声で言った。




《さっき言った亡くした家族は、その死神――ザジの事なの!!!》

「おまっ――」

《麗奈が拾った子猫で、家族同然に育った。最後の最後まで、彼は麗奈の為に行動を起こしてたの――きゃうっ!?》

「余計な事、言うんじゃねぇよ。また消されたいのか」

《い、良いわよっ!! そんな事したら麗奈が悲しむけど良いんだねっ》

「ぐ、お前……」




 ツヴァイの事を鷲掴みにしたが、逆に反論され言葉に詰まるザジ。

 麗奈が悲しむような事を防ぎたい。

 だからこそザジは創造主のデューオと取引をした。魔王サスクールを倒すのに、絶対的な力が欲しくないのか、と。




《ツヴァイ。その事に気付いたのはいつだ》

《麗奈がサスクールに取り込まれてから。彼女の体が完全に乗っ取られる前に、死神とユリウスが麗奈の心の中に入って来たの。そこで見た幼い記憶から、ザジの事も分かったし麗奈も魔法で封じられてた記憶を取り戻したの》

《……そうか》




 フェンリルの頭も上で説明をするツヴァイに、他の精霊達は黙るしかなかった。

 死神が麗奈に構う理由を知り納得する。それらを引き起こしたのは紛れもなく魔王サスクールの行動の数々。


 今まで気味の悪い存在として知られていた死神が、今回は必ず味方なのだ。

 自分達の知り得る常識を覆した事で、精霊達にも動揺が広がる。




「くそっ。戻って来たら覚えてやがれよ」

《ふ、ふんっ。麗奈の事を思ってやっただけだもん》

「それが余計だって言うんだよっ!!」



 これ以上の攻防は無意味だろう。

 そう思ったザジは一旦、ツヴァイとの喧嘩を止め青龍にどれ位で回復出来るのかと問うた。




『……難しいな。今の麗奈は霊力も尽き、魔法を扱う魔力もない。ゼロからの回復は相当の時間がかかる』

「お前が中に入って回復、とか出来ないのか?」

『それなら既に玄武と朱雀が行っている。だがそのスピードはかなり遅い』

「これ……使えるか?」




 ザジが取り出したのは麗奈から貰った魔道具。

 黒猫があしらわれたブレスレット。その魔道具の核を見て、回復に使う事が出来ると言ったのはノームだ。




《魔道具の核を壊せば元には戻らない。だが、その核の魔力は元々麗奈さんのもの。回復を早める手立てにはなる》

「ん。ならこれ割って少しでも回復させといてくれ。俺はサスクールの野郎を足止めしてくる――コイツが回復するまでの時間は必ず稼ぐ」




 そう言ってすぐに離脱し、上空に居るユリウス達の援護に向かう。

 魔道具を受け取った青龍はすぐに壊した。核の魔力をノームが調整し、ウンディーネの治療と共に促す。

 同時に少しでも時間を早めようと、時の魔法を使って時間を進めた。




《今まで、誤解していたのかしら。私達》

《エミナス?》




 インファルはそう呟くエミナスへと視線を向ける。

 自分達は死神の事をちゃんと理解していなかった。彼等は死にゆく魂を狩る運び屋で、忌み嫌われている存在。

 彼等に対し種族は関係ない。

 人間も、ドワーフも、エルフも。そして精霊や魔王でさえ、彼等から見れば同じ魂の対象者だ。




《麗奈は……彼等と交流していく内に、それに気付いたのかもね》

《そうかもね。彼女も死者を見る目を持つし、キールも魔力を見る目を持っている。でも、皆が皆同じと言う訳でもないだろ》

《そう、ね》




 今まで誤解していた死神の事。

 フェンリルも麗奈に注意をしたが、そういう誤解を招くように細工された可能性もある。改めて彼等の事を見直す必要があるのかも知れない。


 


《呆けてないで回復を手伝う。彼女の魔力も回復させるんだもの。彼女の肩には、既に多くの人達の想いが乗っているの。ここで諦める訳にはいかないのよ》




 ウンディーネが残っている精霊達に指示を出す。

 麗奈を回復させる為、少しでも目覚めを早くする為に――今ある全ての魔力を注ぎ込む。




=====



 一方でユリウス達は、あと一歩の攻撃が通らないでいた。

 麗奈と離された上、どうなっているのかも分からない。しかし、こちらも油断は出来ない。




「ガロウっ」

《任せろ!!》




 ブルームの背に乗り、ユリウスは新たに精剣として生まれたガロウを振るう。

 闇の大精霊である彼は双剣の内、1本を自分の魔力で固め黒い刃と化す。本来、怨霊に対して攻撃は効かないがユリウスにはもう1つ別の力が付与されている。




《怨霊達を一掃する。遅れるなよ、小僧》

「分かってる。多分、俺とランセさんしか攻撃できないっ」




 ヘルスはまだ回復したばかりで、あまり多くの魔法を扱えない。

 彼を乗せているドラゴンもそれを分かっており、近付いてくる怨霊をブレスで払い自身の巨体を生かした戦い方で寄せ付けないでいた。


 そのヘルスに対し、リートは狙いを定めた。

 闇の魔法を打ち出すその瞬間。彼の目の前にランセが現れた。




「っ!?」

「ヘルスをやらせると思ったか?」




 呪いを仕掛けようとしたリートを、ランセは自身の力で呪いを解除した。

 弾かれた時、目を離したのがいけなかった。ランセが振るう大鎌により、怨霊とリートは消滅する。続けてランセが狙いを定めたのは魔族のユウト。


 彼と対峙する式神の破軍と黄龍を援護する形で魔法を放つ。




「ちっ」




 咄嗟に身を守ったのは今までの経験。

 どちらにしろ、ユウトはランセが居る限り呪いの力を発揮することは出来ない。ランセの魔王としての能力は呪いの解除。

 サスクールの呪いの付与とは逆の力。

 無闇に仕掛けても時間の無駄になる。だが、その式神の2人の姿が一瞬だけ消えかける。




『うっ……』

『主か』




 破軍は思わずうめき声をあげ、黄龍はその原因が麗奈にあると分かる。

 今の2人の具現化は、自前によりものではなく麗奈の霊力によって成り立っている。彼女の身に何かが起これば、その影響は2人にも出て来る。


 時間がないと分かり決着を付けるべく、結界でユウトを大きく囲む。




「くそ、ラークが消されたか」

『ユウト!!』




 即座に黄龍がユウトの両腕を切り落とす。

 再生するとはいえ、少しでも術を使わせない為の動き。逆に黄龍と破軍が、ダメージを貰う訳にはいかない。再生させるのに麗奈の霊力を借りる必要があるからだ。

 しかし、今の自分達の姿は消えかけている。

 それは彼女の霊力が尽きたのを意味し、具現化にそれ程の時間を割けられないと証明している。




「ふん、お互いに危険って事か」

『そうだな』




 突如、黄龍の体が歪む。

 消えると思ったその瞬間、破軍が高速で突進をしてきた。黄龍はユウトの隣に来ており、術で拘束し反撃を許さない。




『へ、白虎の蜃気楼。役に立ったな』

「お前っ」

『今度こそ終わりだ!!!』




 心臓に突き立て、破軍の魔除けと黄龍の破魔の力が内側から溢れ出してくる。

 2つの魔に対抗出来る力は、流れ出るも結界により弾き返されて再びユウトを襲う。彼が消えるまで何度も起きる力の奔流。


 それはユウトにだけ影響を与えはしない。

 術を行使している破軍と黄龍にも同様に、体の崩壊が始まる。




「道ずれに、するきかっ」

『そんな訳あるか、バカ』

『れいちゃんの霊力が危ないからね。お前を倒したら、彼女に変換しないといけないんだ。さっさと終われ』

「ちっ」



 

 崩壊が進むのならもっと早める。

 怨霊として倒される前に、魔族として呪いを2人に流す。だがそれは起きない。援護として来たザジがその力を吸収したのだ。




「くそ、死神が……」




 体が砕ける。

 ガラスのように、ヒビが割れていきユウトの意識はそこで完全に途絶えた。破軍と黄龍もギリギリの所でどうにか保つ。




「無事か?」

『た、助かったよ……』

『悪い。ホント、ありがとう……死神君』

「めんどくせぇ、ザジで良い」

『そうかい?』




 破軍にそう伝え、ザジは2人に麗奈の状況を話した。

 霊力も魔力も尽きた彼女に、少しでも回復の手助けをして欲しいと。それを聞いて頷かない2人ではない。

 2人の式神は後をザジに託し、粒子となって消える。その粒子は、下で回復をさせている麗奈へと届き少しずつだが確実に力へと変換していった。



 麗奈の周りでは、今居る大精霊達が魔力を送り込んでいる。

 そして結晶化した大精霊達も、残りの魔力を麗奈へと流し込む。彼女がふと目を覚ました時――目の前には大精霊アシュプが静かに立っていた。





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