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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第250話:決めていた事


「なぁ、1つ聞いて良いか」

『……なんだ』




 まだ麗奈が力を封じられ、身動きが取れていない時。

 青龍は自身の力をギリギリまで削り、半透明な姿として麗奈の傍に居た。そしてザジは死神で死者だ。2人の会話を聞ける者は魔族はおろか魔物も居ない。


 話しかけて来たザジに青龍は、イラつきながらも一応の返事をする。




「あの魔族の名は何だ」

『言ってどうする』

「あ? そんなの倒すに決まってるだろ」

『止めろ。俺もそうしたいが、我慢してるんだ』

「何でだよ」

『騎士が決着をつけたがっている。彼に譲る為だ』

「……騎士? それって」




 思い浮かべるのはディルバーレル国での麗奈との出会い。

 サスティスと麗奈が会った時に、そう言えば別の人間が居たなと思い出す。青龍に確認すれば、その騎士がラークとの決着を付けるだろうから我慢しろと言ったのだ。




「なんでそんな事すんだよ」

『麗奈の騎士だからだ。彼は俺達が麗奈に仕える前から、あの魔族の事を倒したがっていた。以前に聞いたら恐怖を刻み付けられた魔族だから、許せないんだと』

「……」




 物凄く嫌そうな顔をしたザジに青龍は我慢しろと何度も伝えた。

 勝手に殺すなと言い、その理由も事細かに教えてくれた。


 麗奈がまだこの世界に来て1ヶ月頃の時。

 ラーグルング国に大量の魔物が襲いかかって来た。上級魔族であるラークは、麗奈を見つける為に黒髪の人物だけを捕らえていた。




「何でそんな事した」

『麗奈の力を観る為の試験をしていたと聞く。既に魔法が効かないキメラが襲い掛かってきた。その記録から、麗奈がラーグルング国に居るのを確認し、サスクールの所に連れて行く予定、あるいは寄生して言う事を聞かせるつもりだったらしい』




 キメラは麗奈が倒し、寄生しようとした魔族はキールが始末した。

 その事を聞き、ザジの脳裏にはデューオとのやり取りが思い出されていた。


 数年掛かろうとも必ず彼女は転移する。

 転移場所は、サスクールの居る城だろう、と。




(俺達と会う前から何度も狙われてたって事か。転移の場所がズレたのは、あの爺さんのお陰。ちっ、あの野郎。絶対に俺達を後回しにしやがったなってか、再会のタイミングを合わせてやったとか思ってるんだろうな)




 そう思えば思う分だけ、イライラが募る。

 全てがデューオの思惑通りであり、彼の描くシナリオ通りに進んでいる。これもその一環なのだとしたらと思うと暴れたくなってしまう。




「ちっ……」




 しかしザジは暴れない。

 彼等の近くでは麗奈が寝ている状態。1人で心細い上、会いたくもない魔族と再会したのだ。心労も重なる事だろう。

 その時、麗奈の頬に流れる涙を見た。

 彼女からしたら無意識だったかも知れない。ザジも恐怖に駆られる事はあるのだから、麗奈にだってあるのは当然。


 彼は――そんな彼女の涙を見たくないが為に死神になる決意をした。

 デューオの提案を受けていれたのは紛れもない自分の意思。




(泣くんじゃねぇよ。お前には、笑顔で居て欲しいんだ)

「ユリィ……」




 ピクリと麗奈を撫でる手を止める。

 麗奈が思うその名は、ザジがサスクールの魔力を除去する時に対面した青年。黒髪に紅い瞳の――兄と同じ目をした人物。




「くそっ、近くに居る俺等よりソイツの方が良いのかよ……」

『主にとっては良い影響を生んだ人物だ。恋人同士、と言う奴だろ』

「んだよ、(つがい)かよ……」

『お前は何でそう動物的な解釈になるんだ』

「そりゃあ……」




 言いかけて思わず黙る。

 ザジは青龍に告げるべきでないと思っている。前世は麗奈の飼い猫であり、サスクールに無残にも殺された。今は麗奈を守る為に死神になり、デューオによって体を渡された曖昧な存在。




「なんとなく、そう思っただけだ」

『お前、何を隠してる』

「そっちだって隠してるだろ。色々と」

『俺は麗奈に害がないか確認している。初めの時と違ってかなり好意的だが、裏があると思ってしまう。あの創造主と同じ力を感じるからな』

「はっ。異界の神様は何でもお見通しってか。目的は同じなんだから、今は共闘でもしようぜ?」

『麗奈がそう望むのなら構わない』




 ギスギスした空気だが、お互いに踏み込まない距離感なのが良いのだろう。

 麗奈を介せば2人は大人しくなり、聞き分けのいい子になる。そんな中、ザジは考えていた。


 騎士にラークとの決着を譲る。

 それは別にいいと思いながら、もし万一に倒せなかった場合はザジが代わりにそれをやる。


 生きていようと、死んでいようと構わない。

 麗奈を傷付けた。その事実が分かれば、ザジは躊躇なく死神の力を発揮する。彼の存在理由は麗奈を守る事。ただその1点のみに集中しているのだから。




======



「……」




 改めてラークを見る。

 青白い炎に包まれ、苦しみながら逝った。少しだけ満足したザジは一呼吸を入れ、周囲を見る。自分が手を下した事に驚く大精霊達も居る中で、やはりかと彼の行動を見抜いていた人物が居る。




『お前、最初からそのつもりだったな』

「さあな。何の事だよ」

『ふっ、確かに騎士に譲ったが2度目があるとは思わなかったな。今度こそ、死んだな?』

「誰に言ってんだよ。俺は死神だぞ? 魂を狩る運び屋の俺がそんなヘマするか」



 

 そう言いながらもお互いに黙って拳をぶつける。

 アイコンタクトにも似たそれは、本人達にしか分からない。現に精霊達はポカンとしており、状況をよく飲み込めていない。そんな中、麗奈は必死でアルベルトの名前を叫ぶ。




「アルベルトさん!! お願いです、反応を……返事をして下さいっ」

《麗奈、さん……》

「ノームさんっ」




 黒く染まったアルベルトは意識がないのか、今も反応はない。

 そしてラークに突き立てられた精剣からは、ノームの声が聞えアルベルトの元へと移動している。ただ、そのスピードはかなり遅くノロノロとしていた。


 アルベルトの状態が悪いのだから、契約しているノームにも影響が出ていて当然。しかし、麗奈も霊力が尽きたのを自覚している為に動けない。今も、エミナスの背に乗せてもらいインファルに連れられて行く形でどうにかノームが合流を果たす。




《すまない。アルベルトに当てられた恨みの力が、思ったよりも強い。さっきから時の魔法で進行を遅らせてはいるが――効果がない》

「っ」




 ノーム自身も分かっている。

 魔王バルディルと軽く戦闘を起こした上に麗奈に、掛けられた多重の呪いの解除にも尽力している。彼はそれ以外に魔物と魔族の探知。誠一達を逃がすのに何度も転移を繰り返し、その後は精霊の父であるアシュプを倒す手助けをしてきた。


 膨大な魔力を持つノームですら、ここまでに来るのにギリギリだった。

 自分の限界が近いのを覚悟した。




《アルベルトは助ける。あの光の大精霊と同じく、自分の命を使って解除をする》

「ダメ、です。そんなの……アルベルトさんが許さないっ」

《分かってる。でも、もうこれしか》

「これで良いか?」




 ザジはアルベルトに触れたその瞬間、黒く染まっていた体が元の肌色になっていく。

 ひょいとザジが麗奈に見せたのは黒い球体だ。




「ほらよ。コイツの中にある怨念が籠った気味の悪いのは、これで全部取り除いた。ほら、見てみろよ」

「あ……」

《嘘……。こんな事って》



 

 驚きに声を上げたのはノーム。

 インファルに支えながら来た彼は、さっきまで剣の姿で麗奈に話していた。だが、今は元の姿へと戻っている。信じられないのか、何度も瞬きを繰り返し自分の体を思い思いに動かす。




「アルベルトさんから寝息が聞こえる……」




 静かに耳を寄せ、アルベルトが気持ち良さそうに寝ているのが分かる。

 それが分かると生きているという実感が分かり、ポロポロと涙が零れていく。ノームもアルベルトを抱え、無事を確かめた事で安心したように顔が緩んだ。




「うぅ、ザジ……ザジ……」

「こんなの死神になら簡単に――ぐわあっ!?」




 説明を途中でタックルを喰らったような衝撃に襲われる。

 見れば麗奈が抱き嗚咽を漏らしていた。ぎこちないながらも、ザジは麗奈を抱きしめ返す。




「ありがとう、ありがとう……ザジ……。ザジのお陰だよ」

「気にすんな。俺はお前に笑っていて欲しいだけだ。だから力を使った――それだけ」

「でも、でもっ……それでも言いたい。ありがとう」




 感謝され笑顔を見せた麗奈に、ザジは愛おしく見つめる。

 乱暴に頭を撫でまわしながらも、今度は思いきり抱き締めた。ザジがいつも思うのは麗奈の笑顔であり、彼女の幸せだ。


 それを侵す者、乱す者。害意となるものは全て排除し彼女を守る。

 その行動理念は、ザジが麗奈に飼われてからずっと決めた事。だから死神になろうとも彼の行動は変わらない。



 ある意味、青龍と気が合うのだが本人達は揃って認めないだろう。






 

 

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