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異世界に誘われた陰陽師  作者: 垢音
第6章:神と魔王と人間と
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第244話:嫌いな者同士


 陰陽師の秘術にして、禁術に認定され表に出て来なくなった術――神衣(かむい)

 その術の開発をしたのは当時の土御門家の当主である破軍であり、土御門 行彦(ゆきひこ)だ。


 当時、式神を作るのにも複雑な術式が必要。作り出す工程が多いのだ。

 それを少しでも簡略し、発動までの時間を短くする。しかも、ただ短くすればいいという訳ではない。


 短時間で作り出した式神を、具現化し持続させる時間を作りながら相手にしている怨霊が、大人しく待っていると思うのか。


 こうしている間にも、怨霊により生きている人間達に対し被害を被っている。

 死者が多ければそれだけ、生きている人間への憎悪、妬み、悔しさが募り――新たな怨霊を作り出す。


 まさに悪循環と言えるだろう。


 だからこそ、流れを変えなくてはならない。負の連鎖が続けば続くほど、怨霊の力は増していき被害は増大していく。

 だが、新たに術を開発するにも人手と時間が足りない。




「違う……。くそっ、これも失敗だ」




 寝る間も惜しみ、彼は怨霊に対抗できる新たな力を生み出そうと焦る。


 こうしている間にも、犠牲が生み続けられていく。誰かが終止符を打ち、完全に怨霊を消さなければならない。


 別にそれは土御門家の当主になろうとしているからではない。

 当主の候補として、同じ土御門家の本家である優斗のどちらかが優れているのか。その課題を言い渡された。


 怨霊により死者が増えていくこの現状で、何故そんな事をしなければならないのか。

 彼等、土御門家は安倍清明を祖とし他の家々に力を示してきた。


 だからこそなのだろう。自分達は優れていると、他の家々に示す必要がある。彼はそれが嫌で仕方ない。




「ふん。何がどちらかが優れているか、だ。……下らん」




 最後の「下らん」はボソリと言う。

 誰が聞き耳を立てているか分からない。自分の味方は自分だけ。優れているとされている土御門家は、強者でなければならない。


 そんな事、彼にとってはどうでもいいのだ。

 



「あっ、また怖い顔してる」

「している、な……。機嫌が悪いのか?」

「いやいや。あれは課題を出されて、下さねぇっていう時の顔だよ」




 こうして勝手に出入りする者達がいた。

 朝霧優菜、青龍、日菜の3人だ。一応、隠れているつもりなのだろうが声でバレバレだった。




「君等、前に怒られなかった?」




 呆れながら言うも、本人達は気にしていない。

 日菜が術の開発をしているのを見て、気分を変えないかと聞いてきた。そんな暇ない。その意思を表す様に無視をする。


 すると「えいっ」と日菜が札を投げ付けた。式神が作り上げられ、行彦の足を掴むも力負けしてズルズルと引きずられる。




「もう帰れ。また当主に怒鳴られるぞ」

「その時はお前も一緒に頼む」

「何で巻き込む前提で話を進めていく」

「逆に聞くがそんな状態で、課題がこなせるのかよ」

「……」




 核心を突いた言葉に、日菜を睨むが逆に睨み返される。

 やがてその睨み合いに根を上げたのは行彦だ。見守っていた優菜と青龍は何処に行こうかと話し始める。




「遠出はしないからな」

「そこまでバカじゃない。青龍、近くに川か滝とかある?」

「あっち」




 この時の青龍は、優菜により人間の世界へと降りた。自身の知らない事も含め色々と勉強中。


 彼はこの時から既に人と龍の姿を半々に持っている。

 鱗のような肌と人間の肌が半々であり、左手は人間の腕だが右腕は龍の腕。


 龍神の子供として彼はある場所の管理を任されていた。

 天候が荒れて作物が育たない。飢餓により人の死が増えていく。そういった事態になると、決まって青龍が管理している泉に生贄を用意した。


 年端もいかない少女を生贄として差し出し、天候を静める為に村人達は願う。その願いを聞き入れ、叶えて来た青龍だったが彼には同時に死んでいった彼女達の声を聞き続けた。



 死にたくない。

 嫌だけど、掟だから……。

 私1人で収まるのなら――。



 願いを聞き入れ、土地を管理するのは神の務め。そして、その管理を任された土地神として名もない龍神の子供はやがてその声に耐えられなくなる。


 純粋過ぎるが故になのか、彼が人の心に敏感なのかは分からない。

 死んでいく彼女達の魂の声を聞き過ぎたのが原因か。だが彼にはそこを守るという使命がある。ふと思う。その自分に使命があるが、彼女達の人生を奪っているのは紛れもない事実。



 放棄はしてはいけない。土地を去れば、荒れ果てやがて多くの人が死ぬ。

 遂に耐えられなくなった彼は、湖の底から這い出る。初めて見た太陽の光、そして自身の姿を受け入れ普通に接してきた優菜との出会い。



 巫女の一族である朝霧家。

 その当主として修業中だった彼女――朝霧優菜との邂逅が、その子供の人生を変える。後に青龍と新たに名を付けられ人間の事を学ぶなら一緒に学ぼうと誘う。

 幼馴染みの日菜も驚きつつ、優菜のする事だからとすぐに受け入れた。そんな2人に人間とは何かを学びつつ青龍は彼等の力にある工夫をした。



 それが、巫女の一族でありながら陰陽師としての力を持つ異端な家の始まり。

 急に現れた陰陽師家に、先祖から守って来た格式ある家達から非難があった。それを1つの戦力として使えると言ったのは土御門家。


 この時、既に怨霊の勢いは凄まじいものだった。異端であろうがなかろうが、今は戦力は1つでも欲しい所。意図が分かる為に、渋々納得するしかない。蹴落とそうと考える所もあったが、予想に反して朝霧家は成果を残していった。


 それが青龍という加護であり、神をも従わす一族。

 封印の術式に特化する家として、その名を残していく形になる。




「課題をしてる時のお前、めっちゃ不機嫌だな」

「分かってる。そっちはどうなんだ。術の調整は上手くいくのか?」

「平気だよ。青龍からの知識もだが、そっちが資料をいくつか提示してくれたから独自に開発は進んでる。優菜も何か出来ないかって、色々と試してる真っ最中」



 

 術としての組み合わせは、土御門家のものをベースとして青龍が学ぶ。その中で、別の術式を彼が構築し優菜達に教えていく。独自に組まれた上に、知識の吸収も早い青龍は瞬く間に怨霊に対する封印を完成させている。




「でも相手は優斗だろ? 俺としては負けて欲しくないんだけど、アイツ嫌な感じなんだよ」

「それは……。雰囲気か、それとも気か?」

「どっちもだな。憑かれてる訳じゃないが、嫌な雰囲気がプンプンする」

「日菜の言い方、なんか嫌」

「彼はあぁ言う言い方しか知らないのだろ?」

「ははっ」




 途端に優菜と青龍からの否定に、日菜は引きつった笑みを浮かべる。

 流れる様な否定に思わず幸彦は笑い続け、スッキリした気持ちで落ち着かせる事が出来た。否定的な言葉を浴びせた優菜と青龍を追い掛け回す日菜に、幸彦はのんびりと眺める。



   

「呑気だな」

「何の用だ」




 振り返りもせず、幸彦は鋭く言い放つ。余裕があるとは、期待されている人間は特別だなと優斗は言い、その言葉にやっと振り向く。さっきまでの穏やかな雰囲気は、完全になく既に睨んだ状態だ。




「嫌味なら帰れ」

「まるで分らん。神の声を聞くだが知らないが、そんな異端にさえ力を授けるお前にも本家にも。利用すれば良いだろうに」

「戦力があるに越したことはないだろう。それに、その異端の家に術を幾つか提供出来ているし周りだって習い始めた。互いに協力関係を築けていると言え」

「ふんっ……。神が人間の何を学ぼうと言うんだ」




 気に入らない目で見る先には、青龍がおり隣に居る優菜を忌々しそうに見ている。

 日菜は追いかけながらも、その視線に気付いており優斗を睨み返している。幸彦も立ち去る様に言おうとした瞬間――咄嗟に叫んだ。




「優菜、避けろ!!!」

「えっ」




 黒い閃光が彼女へと襲い掛かるも、すぐに青龍が結界で弾き返す。

 その目は親しい人間を傷付けた怒りが見え、走り出していた日菜はすぐに優斗へと殴りかかる。




「お前っ、どういうつもりだよ。そんなに俺達が気に入らないのかよっ!!」

「当たり前だろう。異端な一族が」

「優斗。帰れ」




 優菜を傷付けようとしたからか、幸彦の敵意は殺気に近い。

 その迫力に日菜はビクつき、優斗はその隙に殴られた頬を抑えながら日菜を突き飛ばす。青龍は未だに警戒を解かず、優菜の壁になる様にと前に立っている。




「お互い遊んでいる訳にはいかないだろ。安心しろ、ちょっと休憩しただけだ。お前が人に術を放つ思考の奴だとは思わなかった。……そんな奴を当主になんてさせられるかよ」

「甘いお前の考えに誰がついて行くと思う」

「貴方に信用されなくても、私達は幸彦の事を信じるもんっ」




 優菜の真っすぐな目が優斗を更にイラつかせる。気に入らないと吐き捨て、優斗は1人山奥へと入っていく。幸彦を憎むのは皆を平等に、手を取り合う様に進めていく事が気に入らないから。

 それで、異端な家を受け入れ即戦力として認める腹立たしさ。

 周りの反対もあったが、それを彼は朝霧家の上げて来た功績を元に次々と説き伏せる。その手腕も気に入らない。


 ――何もかも、気に入らない。

 

 その思いから作られた黒い札。霊力を奪うものへと変える為に、実験を行ってきた。それがきっかけで九尾が生み出され、憎しみの連鎖へと怨霊を活発化させた。


 被害が増大していく中、優斗はある事に気付く。気に入らない理由も、妙な事でイライラするのも全ては幸彦が嫌いだからだ。



 自身の強い憎しみや憎悪は、怨霊を膨れ上がらせ禁術を作り出す。

 だが、彼もまた予想外だったのだろう。幸彦が生み出した強力な術がきっかけで、当主へとなりその代償として優斗は処刑される。


 その処刑を実行したのが、よりにもよって自身が嫌う人間だった。

 それがより一層、優斗を苛立たせた。


 

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